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魔剣使われに告ぐ   作者: 杉下 徹
1.微睡みの日々
11/41

1-10

「シモン、少しいいかな?」

 用事も全て終わり、解散してその場を去ろうとしていた俺を呼び止めたのは、あろう事かナナロだった。

「イヤだ」

「わかった、聞き方が悪かった。話があるんだ」

 嫌でも聞いていけ、と言わんばかりの展開から、それなりに重要な話なのだろうとは察せる。こんな山中で立ち話など御免被りたいが、そういうわけにもいかないらしい。

「クーリア、ちょっと先に帰っててくれ。ナナロと金の話をしてくから」

「お金? 剣の事なら、私がなんとか……」

「それはタダで貰っとこう。そうじゃなくて、ラタの依頼の仲介料の方」

「そう、なの?」

「もちろん。今日は贅沢できるぞ」

 半信半疑、といった様子のクーリアを笑顔で見送り、ナナロへと向き直る。咄嗟に金というワードを選択したのは失敗だったかもしれない。

「そう言えば、ラタさんの仕事の仲介料の話もあったね。流石に五割はアレだけど、うちの規定の割合だと――」

「『アンデラ』だ」

 ナナロの言葉を遮り、一方的に要求を押し付ける。

「あれの値段は知らんが、それ以下にまけるつもりはない。俺はお前に仕事を、お前は俺に『アンデラの施し』を。取引はそれで終わりだ」

「あれは僕がクーリアさんに送ったものだよ。君に代金を請求するつもりはないし、もちろん彼女にも同様だ」

「そんなもん信じられるか」

 大真面目な表情で言い切るナナロを、鼻で笑い飛ばす。

 聖剣『アンデラの施し』は国でも有数の剣だ。能力も、そしておそらく取引価格も。入手経路がどうであろうと、知人に無償で譲り渡せるような代物ではない。

 だが、ナナロはそれを本気で何の算段もなくやってのけるような男でもあった。

「あれは俺が仲介料と引き換えにお前から受け取った。それを、俺からクーリアに渡したんだ。そうじゃないと嫌だ」

 だからこそ、俺はその好意に甘えるのが嫌だった。俺への好意ならまだしも、クーリアへの贈り物をそのまま受け取り、何の負い目も感じずにいられるほど、図太い神経はしていない。

「なるほど、ね。そういう事なら、そういう事にしておこうか」

 したり顔で頷くナナロは気に入らないが、あえて返すべき言葉もない。

「それで、そっちの話ってのは?」

「ああ、そうだったね。元はその為に呼び止めたんだった」

 物思いに耽り始めていたナナロの意識は、俺の問いで本題に戻ってくれる。

「ラタさんの依頼の件で、現地に向かう事になってね。三日後に、ここを発つ」

「はぁ、そうか」

 本題は、正直言って拍子抜けだった。

 予想より早くはあったが、ラタの依頼は直接出向かずに片付くような問題でもないのは明らかで。ナナロとクロナが現地に向かう事など、わざわざ報告されるまでもない。

「それで、留守番でもしろって? それなら、良い人選だな。俺は食材から金目の物に至るまで、腐らせない事に関しては天才と言っていい」

「はいはい、全部使ってしまうんだろう」

 なんだか非常にノリが悪い。普段のナナロはなんだかんだで付き合いは悪くないのだが。

「奇しくも、また金の話になるんだけどね。どうかな、僕達と一緒に来ないかい? 助手として、なんて言わない。取り分は折半でいい」

「断る」

 イヤだ、ではない、完全な拒絶の言葉。

「俺の本職は『なんでも切る屋』であって、それ以外は引き受けない。報酬にもらった宝箱が開かない、なんて事にでもなったら、その時は考えてやる」

「わかったよ。引き止めて悪かったね」

 早口に言い切った俺に、ナナロの反応は淡白なものだった。

 その事への違和感に気付いたのは、もう少し後になってからだったが。



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