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童話

お豆腐小屋の一件

作者: 黒猫優

朝も昼もないような時。

お豆腐を縦にしたようなそんな縦長の家がありまして、そこは一階と二階に分かれておりました。

一階にはシタさん、二階にはウエさんという人が住んでいて、その二人は兄弟でいらしました。

二人は兄弟で似ているものですから、二つの住む部屋の間取りはなにもかもが同じだったのです。

シタさんがテレビを置けば、二階に住むウエさんも全く同じ場所にテレビを置いて、ウエさんがソファーを置けば、一階のシタさんも全く同じ場所にソファーを置く。

そうして、二人の部屋は全く同じになって、一階と二階という風に上下に分かれてるのに、全く同じ部屋が一階と二階の二つあるようになりました。


ある時、シタさんが怒っておいででした。

「こりゃーいかん」

と鼻から蒸気を蒸かしてはかんかんに憤っていました。

何でも布団の向きが逆向きになっているということでした。枕は北を向き、北枕になっていました。

シタさんは北枕なんかの迷信めいたことにすごく敏感で、毎日神社にはいくし、魔除けのお守りは何十個とお持ちでした。

すぐさま枕の位置を戻して、シタさんは床につきました。


ある時、ウエさんが怒っておいででした。

「こりゃーいかん」

と鼻から蒸気を蒸かしてはかんかんに憤っていました。

何でも布団の向きが逆向きになっているということでした。枕は南を向き、南枕になっていました。

ウエさんは枕を南に向かせると、朝日が顔の位置に来ることが嫌で嫌で仕方なかったのです。しかし、布団は窓際に起きたくて、ですから枕を北に向かせて、顔に日が当たらないようにしていました。

すぐさま枕の位置を戻して、ウエさんは床につきました。



そのような日が三日は過ぎました。

シタさんが怒り、枕を南へ。

ウエさんが怒り、枕を北へ。

南へ、北へ、南へ、北へ。



ある日、シタさんは気づきました。

これは、もしやウエのやつがやっているのかもしれん。あいつはこういうすぴりちゅあるなことに興味のない罰当たりなやつだ。

そういえば、あいつの部屋と俺の部屋とは何もかもが一緒だった。

あいつが動かしてるから俺の枕も動くのかもしれん。


シタさんはウエさんに苦情を言いつけました。

「お前のせいで、俺の部屋はめちゃめちゃだ! お前が枕を動かすせいで、俺は北枕になっちまう。どうにかしてくれ」

そんなシタさんの苦情を聞いたウエさんはなぜ動くかの疑問がストンと解決したと同時に、ウエさんへ同じく苦情を言いつけました。

「うるさい! 俺ではない、お前のせいだ!お前が枕を南に向けるから俺はいつもいつも朝日に顔を照らされて、直ぐに起きちまう。どうにかしてくれ」

二人はお互いを罵倒しあい、そうして喧嘩は終わりました。



次の日、シタさんが部屋からでて郵便受けを開けると中には蛇が潜んでました。

ぎゃっ!と声あげスッコロんで、その衝撃で郵便受けから紙が一つポロリ。

『枕を南に向けるな』

心臓バクバクになったまま、ウエさんへなにをしてるんだと文句を言いましたが、ウエさんは、なんのことだ蛇が勝手に入ったのだろうと知らんぷり。


次の日、ウエさんが部屋からでて扉を開けると目の前から泥のようなものが顔へべちゃり。

ぐわっ!と唸った直ぐに顔が真っ赤に腫れ上がりました。どうにも何かの薬が入っていたようで、ウエさんは目を満足に開けられません。

そうして唸っていると靴の下に手紙が張り付いていて、

『枕を北に向けるな 蛇の分』

顔を真っ赤に腫らした状態で、シタさんに俺はここまでのことはやってないと文句を言いましたが、ウエさんはなんのことだ鳥の糞かなにかだろうと知らんぷり。


次の日、シタさんが部屋に帰ろうとノブを触るとザクリと掌に刺さるものを感じました。

なんとノブには画鋲が張られてあり、それを思いきり、握ってしまったのです。

うわぁ!と騒いで手を上げました。

すると、上から手紙がするり。

『枕を南に向けるな 泥の分』

右手を痛がりながらウエさんに俺は大きな怪我まではさせてないと文句を言いましたが、ウエさんはなんのことだノブから画鋲が生えてきたんだろうと知らんぷり。


次の日、ウエさんが部屋に向かうために階段を登っていると、嫌なことに足がつるんと滑りました。

ドンガラガッシャンと音をたてながら、頭から階段を転げ落ちました。階段には油が塗られてあったのです。

そうして落ちた後で、横をみると手紙がぽつん。

『枕を北に向けるな 右手の分』

頭がクラクラなりながら、シタさんに間違えれば死んでるぞと文句を言いましたが、シタさんはなんのことだ油が空から降ってきたんだろうと知らんぷり。



二人はそうしてお互いを傷つけあいましたが、どちらも譲らずもう我慢の限界でした。


最後の手段として、枕に細工をしようと考えました。

枕の中にラジカセを入れて、夜に大騒音を鳴らすのです。

ラジカセは大きさに反して大声を放てるもので、最大音量にすれば耳栓をしても脳に響くほどでした。


ぎゃー!!!!うるさーーーい!!


夜に二人の大絶叫が聞こえました。

当たり前です、二人は似た者同士なのですから、部屋は同じで同じようなものを置きたがるのですから。


お互いに耳がガンガンとなって、相手へ文句を言いにいっても自分の声は聞こえないし、相手の声も聞こえないしで、文句の言い合いにもなりませんでした。

あー!聞こえんよ!なんと言うた今!

聞き返すばかり。

そんな様子に二人は疲れて、お互いを許して、どうするかを話しました。

そうして、考えた結果、シタさんの家には枕を北にしても朝日が入らないことが分かりました。シタさんはウエさんに、

そんなに朝日が気になるなら、俺の部屋と交換しよう。どうせ同じ部屋だ、交換しても変わらんだろう。

ウエさんはその話を聞いて、それは良い、それじゃあ直ぐに変えようと言いまして、


二人は部屋をとりかえっこ。

そしたら、シタさんの部屋は朝日が来ないものですから、もう南枕でも朝日は来ません、ウエさんはしっかり寝れます。

シタさんはもう枕が北に向くことはないので、安心してゆったり寝れます。



そうしてとりかえっこしたある日、

シタさんがウエさんの部屋に来ました。

何事かとウエさんが応対すると、シタさんはこう言うのでした。


「ごめん。朝日が邪魔だから部屋変わって」


似た者同士の屁理屈二人。

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