第七話 ~昼寝の時には目覚ましも忘れるなよ!~
当初の予定より構成を変更しました。
第7話 ~昼寝の時には目覚ましも忘れるなよ!~
「…ったく、なんで女の私が同じオッサンをおぶって人生で二度もベットに運ばなきゃなんないのよ…
ワタシはアンタのかーちゃんじゃないってのに…」
完全に意識を失ってるというより、私の頭の後ろでグアアアーーーと大イビキをかいてる所から、
このオッサンは単に爆睡してるだけなんじゃないかという気分に苛まれつつ、
誰が聞いてる訳でもないが、自分の置かれてる今の状況に思わず愚痴が溢れてしまう。
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『ねうねう亭』で私に土下座をして城壁の修理をさせてくれと頼んできたこのオッサン、
熊方歳三は、壁の修理を始めた途端にマナの能力を発動した。
発動した能力に関してまだ詳細は不明だが、おそらく構造が違う物質だろうと
マナを媒介にして違う物質に再構成する能力なのだろう。
打ち付けようとした木板が能力発動と共に影も形もなくなり、
光が消えた時に残っていたのは、完全に修復というよりはまるで再生されたかのような城壁の石壁だった。
継ぎ目すら見えない完全に元に戻った石壁の石部分を見た他の職人は勿論驚いていた。
「なんだありゃ…。今、一体何が起こったんだ???」
「アンちゃん、職人じゃなくて魔法使いだったのかい???」
そう驚愕する職人達の言葉などまるで一切聞こえないかのように、
熊方は一心不乱に能力で壁の修復を続け、数時間もしないうちに私が連れていった壁の一面は完全に修復が終了していた。
マナについての知識がある私ですら呆然と立ちすくむ事しか出来なかった中、
壁の修復を終えた熊方はその場に膝から崩れ落ちて動かなくなった。
思わず駆け寄った職人達と私が、横になったまま動かない熊方の顔を見ると、
グゴオオオーと大イビキをかきながら、爆睡に入ったかのようにムニャムニャ口を動かしていた。
通常、初めてマナの能力を発動した際、能力が完全に制御できず体内のマナを消費し過ぎた結果、
意識を失う事例というのは無い訳ではないというのは私も文献と実体験から学んでいたのだが、
マナ使いすぎて爆睡という例に関してはこれが初めてかもしれない。
別に隠す理由もないのだが、私も熊方の能力の詳細について把握してるわけではなかったので、
「働き過ぎて寝ちゃったみたいなんです。お手数ですが家まで運ぶの手伝って貰えませんか?」
と、その場の職人の方々にお願いし、荷車に熊方を積んで私の屋敷の前まで運んで貰った。
「本当にありがとうございます。助かりました。」
わざわざ熊方を長い距離運んで貰った職人の方々に礼を言う私に対して、
「いいってことよ!こっちこそすげぇモン見せて貰ったぜ!
明日アンちゃんが起きたら伝えといてくれよ。今日の分の給金払うからまた来てくれってな!」
上機嫌で帰っていく職人の方々を姿が見えなくなるまで見送った後、
その場に一人残った私は熊方のオッサンをよいしょと背負い直し、
屋敷の扉を開けた。
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今の掛け声とか、オッサンすら軽く背負えるとか、どう考えても年頃の女子というよりは、
むしろメスゴリラね…。と
軽い自己嫌悪も混じってくるが、
別に私が特別体を鍛えてるからとか、他の女の子より異常に力があるという訳じゃない。
私や総司のように体全部がマナで構成されてる人間(私はマナリアンと呼んでる)
マナリアンは慣れてくると自分の体のマナの出力を調整して筋力の操作が出来るようになる。
私はこれでも筋力操作は下手な方で、頑張ってもせいぜいオッサンを背負える程度の出力しか出せないが、
総司は、
「ボク全然力ないよー><」とか言いつつ、その気になれば重装鎧を着た兵士を
片手で数メートルは放り投げたりできる。
力がないとは一体何の力がないのか定義自体が疑わしくなるくらいの、
反則地味た身体能力とマナが尽きない限り続く異常な回復力、
個人の資質や適性に応じたマナの能力と、マナリアンは普通の人間と比べると恵まれているかのように思えるが、
私は決してそうは思っていない部分もある。
例えば、私が召喚された時の召喚技術はまだ不完全だったせいか、
どうやら熊方と同じ国に居たらしい私の昔の記憶に関しては、所々歯抜けになっていて、
私は今でも親の顔どころか、自分に家族が居たのかすら思い出せない。
まったく知らない異世界に勝手な都合で呼び出された挙句、
超能力やるから世界を救えなんて、喚び出された方にしちゃ理不尽な事この上ない仕打ちでしかない。
当時、私の師匠に一国で消費する数ヶ月分のマナを使って喚び出されたという、
この国での初成功となる人体召喚に成功した私の境遇は悲惨だった。
何か能力を見せろとこの国の色々な人間に迫られたが、何をやらせても碌な結果は出せない。
最終的には実験資料として標本化される寸前にまで追い詰められた私は、
こっそり師匠の文献を読み解いて、見よう見まねで稚拙な召喚術を披露した時、
やっと私の能力が認められて師匠の弟子という居場所が出来たのだ。
だがそんな私にも、今はこの異世界に心を許せる家族が一人だけいる。
師匠の正式な弟子となり研究を重ね、必死に改良した召喚技術で喚んだ、初めての人間。
彼女は最初、私と違い自分の過去の一部どころか自分の名前すらも忘れ、
そもそも言葉すらまともに喋れない、まるで赤ん坊のような状態だった。
師匠には最初、完全に失敗作だからそいつは処分しておけと言われたけど、
私はこの世界に来て初めて師匠に逆らって、『私が責任持って面倒見る』と譲らなかった。
最初は赤ん坊同然だった彼女も、一緒に生活を始めてから、
半年程度で色々思い出したのか言葉を話せるようになり、
一年もすれば他の年頃の女の子と何一つ変わらない調子で生活できるようになった。
私にとっては妹であり、娘であり、私が名付け親になった「総司」。
この異世界で私にとって一番大切で唯一の存在。
「ちょっと前まで、総司もこうやっておぶってベットに運んでたな…。」
階段を昇りながらふと昔を思い出し、懐かしい気分になる。
昔といっても、実際は3年程度前の話なのだが、元気過ぎる程元気に育ち、
今では国の命運を一人で左右するほどの英雄的存在になった総司の今と比較すると、
全ては遠い過去の出来事に思えてくる。
私がそんな郷愁のような気分に浸る間も許さないかのように、
相変わらず頭の後ろから聞こえてくる、グアアアーと大きなイビキに軽い苛立ちを覚えた時に、
丁度ベットまで到着したので、
「ふんっ!」
っと背中から弾き飛ばすようにベッドに熊方のオッサンを放り投げた。
「…本当、人の気も知らないで気持ちよさそうに眠っちゃって…。」
私はベットの横の椅子に腰掛けながら、
ベットに放り投げた後も変わらぬ調子でイビキをかいて、
まったく起きる気配のない熊方に向かって自分の顔を近づける。
そういえば、熊方を初めて召喚した時、破門だって師匠に言われて涙目になってた見ず知らずの私を
間に入って庇ってくれようとしてた時のお礼、まだしてなかったっけ…。
私の勝手な都合というより、本来喚び出す予定とはまったく違う人間だった熊方の見せたマナ能力は、
考えようによっては本来喚び出したかった土方歳三よりも理想的な能力の持ち主だった。
仮に能力が壁だけの修復能力だとしても城壁を一瞬で修理できるというだけで安心度が随分違う。
街の中まで魔物に襲撃される心配が無ければ、総司も積極的に魔物の住処に討伐に行けるようになる。
ほんの僅か、まるで蜘蛛の糸のようなほんの僅かだがこの国の将来に希望が見えてきたのだ。
「起きたらちゃんと言おうかな…。この前と、今日のありがとうを。」
そう私が心に決めて、思わず熊方の額に唇を触れさせようとした時、
寝てるはずの熊方の手が急に私の胸に向かって伸びてきた。
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熊方の筋肉粒々の逞しい腕が、私の胸というより片乳を服の上からがっしり掴んでいる。
それはまるでスイカを鷲掴みにするような、荒々しい握り方だった。
「(はわわ・・・。一体、何が起きているの???)」
予想もしなかった思わぬ事態に、心臓の脈が早まり、自分の顔が紅潮し、
多分今の私は耳まで真っ赤になっているんだなと鏡も見ずに理解できた。
熊方の強い力で握りしめられた乳房は痛みすら感じるくらいの強い力だったが、
リズミカルに断続的に指先から絞られる乳房の痛みに体が拒否を示すより、
体に痛みが走る度に体の力が抜けていくような妙な感覚になっていく。
「(なんなの…。痛いのに…。痛いのに気持ちいい???)」
まるで私の体が自分のものじゃなくなっていくような喪失感すら覚える中、
自分の出す吐息が普段と違う「ハアッ・・・ハァッ…」と独特の湿り気のある甘い響きになっていくのに気づく。
熊方の握る力は一向に衰える気配がないどころかむしろ激しくなっていく。
仮にこのまま熊方が自分に覆いかぶさって来た場合、今の自分は抵抗一つ出来ず慰みものにされてしまうのだろう。
「(あぁ…、総司も始めてマナ能力発動して意識失って起きた時、
私に向かっていきなり接吻してきて、永い時間唾液交換してたわね…)」
あまりに有り得ない状況で、自分でも記憶の奥底に封印してきた記憶が蘇る。
総司の時は結局、まだ無意識の総司の喉が乾いてただけで、私の唾液に飽きたら普通に水飲んでたんだけど。
ただ、熊方を召喚したのは自分である以上、総司の時と同じように覚悟を決めないと。
この国を救って貰える可能性のある以上、
私がこの熊方に差し出して悦んで貰えるものがあるなら一つ残らず差し出さないといけない。
総司が命を賭けて戦ってるのに、私だけが我が身を護るなんて有り得ない。
押し寄せる胸からの痛みと味わった事のない快感に苛まれつつ、
私は覚悟を決める事にして、横になってる熊方の横にそのまま身を委ね、
甘い吐息を吐きながら、静かに瞳を閉じた―――。
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「あれれ?俺はさっきまで城壁の補修をしてたはずなんだが?」
俺が目を覚ますと、俺がこの前までいた現場の詰め所に居た。
ヤニで黄ばんだ水着のねーちゃんのポスターや、
監督に何回催促しても、いつまで経っても更新されない工程表。
ここは間違いなく俺が働いてた現場だわ。
時計を見ると昼の1時をとっくに回ってる上、
もう詰め所には誰も残っちゃいない。
普段1時過ぎてもタバコ吸ってる他職のジーサンすらいない状況とかかなりヤバイ。
ヤベェ、寝過ごしちまってんな。目覚ましセットし忘れたか。
と、いうか冷てぇなアイツら。
声くらい掛けてってくれてもいいのに。
イヤ、声掛けても起きないくらいに俺が爆睡してたのか…。と、
自分の不甲斐なさに情けなくなる中、詰め所の扉がガラっと開いた。
「やっと起きたんですか兄貴。もーう、寝坊助さんだなぁ♥」
そこにはコウタが立っていた。
何か口調が変な気がするが気にしないようにしよう。
「すまねえなコウタ。今すぐ行くからよ。みんなにも謝らねぇとな。」
そういいつつ、席を立とうとする俺をコウタが俺の肩を掴み静止する。
「焦らなくていいんですよ兄貴♥今、ここには俺と兄貴しかいないんですから♥」
肩を物凄い力で抑えつけられた俺は立ち上がる事すら出来ない。
「なんだよコウタ。ふざけるなら後にしろよ…。」
そう言いつつコウタの胸を突いて押しのけようとした俺は、
『ムニュ』っと妙な感覚に気付いた。
なんでこんな柔らかいんだと手の平を確認したら、そこにはスイカのように
たわわに実った豊満なおっぱいがコウタに生えていたのだ!
「兄貴好きでしょ?オッパイ♥ほら、好きなだけ揉んでいいんですよ♥」
最初はコウタの質の悪いいたずらかと思ってたが、
数多くのおっパブでオッパイを揉み続けてきた俺には理解る。
これはシリコンじゃない本物のおっぱいだ!!!!
「止めろコウタ!俺にはそういう趣味ないから!冗談でもマジで怒るぞ!」
コウタの胸から手を離そうとするが、まるで指が瞬間接着剤で食っつけられたかのように離れない。
自分の指が自分の意思とは関係なく一心不乱にコウタの胸を揉み続ける中、コウタの顔が間近に迫ってくる。
「知ってます?兄貴♥IPS細胞なら、男同士でも子作りできるんですよ♥」
いや知らねーし知りたくもねーよと心の底から叫びたくなる気分と共に、
「うあああああああああああ、来るなコウタ!!!来るんじゃねー―ーーーーーー!!!!!!!!」
俺はまるで生娘のような情けない悲鳴を挙げた。
一体、俺は前世でどんな罪を犯せばこんな仕打ちを受けるんだ…。
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「…コウタって、誰だよ!!!!!!!!!!」
「へぶゅうううううう!!!!!!」
寝てる俺の鼻っ柱、人体の急所の一つである人中(相手は死ぬ)に
ユーコの振り下ろした右ストレートが炸裂した。
情けない悲鳴を上げて転がりながら悶絶する俺を、
ユーコはまるで現場の便所でOBしちまったビックベンを見つめるような瞳で俺を見ていた。
これ、完全に汚物扱いですわ。
後数センチ急所に近ければ命を落としていたかもという一撃を食らった後、俺はさっきまでの自分の状況が夢だった事実に気づきユーコに言う。
「ありがとうユーコ。本当に助かった。」
何故か感謝の言葉を述べる俺に対してキョトンとしてるユーコだったが、
心なしというより明らかに顔が赤いように見えた。
風邪でも引いたのかな?
~続 く~
今の自分の中では、出来る限り精一杯媚びてみたんですが、
俺は生涯矢吹先生みたいな目にはなれないなと思いました。
次回以降もこんな感じでよければ媚びも入れてく予定ですが、
更新自体は未定です。週末にちゃんと更新する、したい、できたらいいなぁ。
感想を全部内容に反映できるかは微妙ですが出来る限り応えていきたいです。