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第六話  ~残業する時は職長に申請しとけよ!~

今までで一番頑張りました。

第六話  ~残業する時は職長に申請しとけよ!~


「へぇー。で、脳味噌まで筋肉オジサンは、結局街中を無意味に走り回った挙句、

総司にただ迷惑掛けただけだったんだねー。

これじゃ、オーク以下の知性なんじゃない?」


俺と向かい合い目の前に座ってるユーコは、店でもオススメだという、

茶色のドーナッツのような菓子を齧りながら、

心なしというか、明らかに小馬鹿にしたような口調で話しかけてくる。


「…本当にスマンかった。」


俺は素直に頭を下げる。

自分が一方的に悪いと思ったら、ゴチャゴチャ言い訳はせず、

それが例え、何だかいけ好かない感じの女だとしても態度は変えない。

男、熊方歳三(38)は街を一望できるテラスが自慢だという店の特等席で、

ひたすらユーコに対して頭を下げていた。



---------------------------------------------------------------






オークの襲撃を片付けた総司と一緒にユーコのいる屋敷まで戻った

俺と総司は、総司が安全だと言ってた地下室ではなく、

何故か屋敷の目の前で待ってるユーコに出迎えられた。


只、俺達を待ってたユーコの顔は普段の何考えてるか分からん顔と違い、

何だか瞼の辺りが若干赤くなってる気がすんなと思ってたら、


「この馬鹿!!!!!!!!一体どこ行ってたのよ!!!!!!!!」


俺の姿を確認した第一声、

ユーコが俺に向かって今まで見た事もない剣幕で怒鳴りつけてきた。


現場では若い頃から親方や他職の連中から怒声を浴びせられてたんで、

怒られる事については嫌な意味で慣れたつもりではあったが、

いきなり、若い娘から本気で怒鳴られた経験なんて

殆ど無い熊方歳三(38)の思考はその場で停止した。


「…おう、ただいま。」


自分に対して激昂してるような若い娘に対して、

どういう返事が望ましいかなんて場面を、

今まで経験した事がない俺は、思わず間抜けな返事を返してしまった。

確かにユーコの言うことを聞かず、

勝手に飛び出した俺が一方的に悪いのは当然なのだが、

まさかここまで怒ってるとは、まったく想像もしてなかった。


思考停止状態の俺に向かい、

ユーコがそのまま突進してくるのを遮る形で総司が俺の目の前に立った。


「ただいまーユーコちゃん。

今日の襲撃はオークの群れだけど、全然大した事無かったよー。

楽勝過ぎて拍子抜けするくらいー。」


普段の調子で笑顔を浮かべながらユーコに語りかける総司は、

そのままユーコに甘えるように抱きつく。

俺に向かって突進してたユーコは、

総司に不意に抱きつかれた事で歩みを止めた。

それを見た俺は心の中で総司に深く感謝した。ありがとうな総司。


抱きついて来た総司の頭を撫でたユーコは、

それでも何か言いたげに俺の方を見たが、

それを遮るように総司が続ける。


「ボクねー、運動したからお腹減っちゃったんだー。

熊ちゃんもお腹減ってるだろうし、『ねうねう亭』でご飯食べたいな―。」


それを聞いたユーコは総司に対して分かったと呟いたようで、

総司も抱きついてたユーコから手を離し、

そのまま二人は屋敷の門の方向へ向かっていく。


「熊ちゃん、いくよ~。」


ユーコと並んで歩き出した総司が俺に声を掛ける。

俺は「おう。」と短く答えて、

そのまま二人に後ろから付いていく形になった。



---------------------------------------------------------------



道中でユーコと総司の二人が何を話していたのかは、

少し距離も開いてた為、上手く聞き取れなかったが、

がーるずとーく?とやらを盗み聞きする趣味もないので、

黙って付いていく事にする。


その間、歩きながらも俺は街の様子を眺めていたのだが、

家が燃えるような被害が出てたのは、

さっき俺がオークとやらに遭遇した場所だけだったようで、

総司が攻めてきた連中を全滅させた事により、

避難してた地元の人が徐々に、

自分の家や仕事場に戻ってきているようだった。


ユーコの屋敷から数分歩いた所で総司が言ってた、

『ねうねう亭』の看板が見えてくる。

どうやら総司やユーコにとっても馴染みの店らしく、

最初に店に入った総司が店主らしきおばちゃんに挨拶をしてる。


「おばちゃんー、大丈夫だったー?

オークの連中は全部やっつけたからもう安全だからねー。」


普段の明るい調子で話しかける総司に対して、店主らしきおばちゃんは


「本当にありがとうね総ちゃん、

毎回総ちゃんばっかりに頼りっきりで申し訳ないよ。まったく他の騎士団の男連中は…。」


と、総司以外の連中に対して愚痴をこぼしているようだった。

俺も確かにさっきのオークの襲撃の時、

総司のように鎧を装備してる総司以外の人間を、

見かけた覚えが無かった事を思い出し、考える。

まさか、毎回魔物の襲撃を総司一人だけで対応してるのか?

16歳の娘一人に全部任せっきり????

俺の中で純粋な疑問と、

自分もさっきオークに対して逃げまわってた事実が同時に頭に浮かび、

複雑な気分に苛まれている中、総司がおばちゃんに答えた。


「それがボクのお仕事なんで全然平気だよー。んでねー、おばちゃん。

悪いんだけど、すぐ食べられるもの用意出来るかなー、

ボクお腹減っちゃってー。」


大げさに腹ペコのジェスチャーをする総司に対して、

おばちゃんが豪快に笑いながら答える。


「あはは、運動した後だからお腹減るよね若いんだし。

サンドイッチでよければすぐ用意できるよ。

あっ、今日はいつものお礼に特等席でいいからね!」


「本当?ありがとうおばちゃんー!

やったねユーコちゃん特等席だよ特等席!」


「普段なら予約で一杯なんだけどね。

今日はこんな調子で予約もキャンセルだから、総ちゃんにはお世話になってるから特別だよ。

お代もいらないから、総ちゃんもお連れの方も腹一杯食べていきな!」


嬉しそうにユーコに話しかける総司にユーコも笑顔で返す。

俺は特等席?内装を見た感じそんなに大層な店には見えないんだが、

特別な部屋でもあるのかと考えてたら、

店の奥にある階段に向かって、

総司とユ―コが歩き出すのが見えたのでそのまま付いていく。


「熊ちゃんー、ここの店の特等席はねー。

この街が一望できる絶景スポットなんだー。

昼も夜もカップルの予約が一杯で、なかなか入れない場所なんだよー。」


階段を登りながら総司が俺の方に向いて解説してくれる。

なるほど、そういう意味での特等席だったのか。

いや待てよ。デートスポットとやらは、

確か服装がどうのこうのって規定が無かったか?

今の俺の格好はユーコに用意してもらった、

シャツのような服に作業着のようなズボンなんだが、

屋上に控えてるであろう、

黒服のニーチャンにそのままつまみ出されたりしないのだろうか?


と、俺がくだらない事を考えてる時間もほぼないまま、

屋上に到着した。

現場基準でいうならマンションの4階相当ってくらいの高さか。

周りにそこまで高い建築物が見当たらないこの街なら、

確かに全体を一望できる絶景の場所だった。

抜けるような青空が一層周囲の景色を際立てる絶好のロケーション。

まさしく現場日和って奴だな。

一面城壁?に囲まれた街並みの真ん中に周りより大きな建物が見える。

あれが総司が朝に言ってた『御城』なのだろうか?


心配していた黒服のニーチャンもいない狭めの屋上に、

1席だけ用意されたテーブル席に3人が座る。


ユーコの隣に総司が座り、

俺はユーコと向かいあって座る形になる。


席に座ってしばらくすると、

おばちゃんが皿一杯に盛られた色とりどりのサンドイッチと、

小さめの鉄瓶に入った新鮮なミルクを持ってきてくれた。

どうやら、ミルクに関してはこの店常連の総司のお気に入りらしく、

よく見ると「そうじ」と大きく名前の入ったカップが用意されていた、

マイカップなのか?


「それじゃー、いただきまーす!」


ユーコと総司が両手を合わせるのに俺も合わせる。

異世界だろうと飯を食う前には食材に感謝をしないとな。


と、総司がもの凄い勢いでサンドイッチに食らいつく。

いくつか一気に口に放り込んで、

豪快にマイカップに注いだミルクを流し込んでいく様は、

行儀の悪さよりむしろ一種の清々しさすら感じさせる光景だった。


あぁ、俺も工期ギリギリの時は飯もこんな感じで済ませて、

現場に戻ってたっけなー。

と今は懐かしき現場の事を思い出していると、

口の中に入れたサンドイッチを胃の中へ流し込み終えた総司が言った。


「ふぅー、ごちそうさまー。

じゃあボク、ちょっと御城に行ってくるから二人はゆっくりしててねー。」


と、席を立ちそのまま出かける準備をする。


「なんだ行っちまうのか、世話しねぇなぁ。」


総司に対して声を掛ける俺に総司が答える。


「うん。今回の襲撃に関して御城で報告しないとねー。

後回しにすると色々うるさいんだよー><。」


と、やれやれのジェスチャーをしながら総司が屈伸運動を始める。


「じゃあ行ってくるねー、ユーコちゃん。

熊ちゃんと仲良くするんだよー。」


とユーコに対して、

笑顔で言う総司の言葉にユーコが少しむせたようでゴホゴホ咳をする。

ユーコが何か言いかけたのは聞かず、

総司はそのまま4階くらいの高さから飛び降りたと思ったら、

隣の建物の壁を垂直に駆け上がり、

そのまま屋根伝いに御城のある方向へ物凄い速さで駆けて行き、

あっという間に見えなくなっていった。


何度見てもまるで重力などないかのように縦横無尽に駆け回るその姿は、

明らかに忍者というより下手をすると忍者以上の何かに感じた。


「一体、何をどうすりゃあんな速度で走れるんだ…」


と呆けた顔で総司を見送ってた俺はふと自分に注がれた視線に気づく。

そこにはこれまた普段の通り、

俺には何を考えてるか分からない顔をしたユーコの姿があった。


「それじゃ、1から全部説明して貰いましょうか。

今朝の事について、じっくりね。」


普段通り、いや普段はそこまで感じさせない

『凄み』のような重みのあるユーコの言葉を受けて、

俺は一種の覚悟を決めた。





よし、とにかく謝ろう。





----------------------------------------------------------------







で、話は最初に戻る訳だ。

オークと始めて出くわしてまず逃げ出した事。

袋小路に追い詰められた時に総司に助けて貰った事。

俺は包み隠さずユーコに話して謝罪した。


「ハァー、

アンタもさっき見た通り、総司の強さって並の魔物じゃ何匹いようが相手にならないのよ。

逆にあの子がどうこうなる相手だった場合、この国の連中じゃどうしようもないでしょうね。」


さっき店主のおばちゃんが言ってた他の騎士連中の事なのかは分からんが、

他の連中に不満があるような口調で溜息混じりにユーコが続ける。


「だからこそ、仮にアンタや私が人質に取られた場合、

まぁアンタは普通に見捨てられるかもしれないけど、

そこで総司が一瞬躊躇して、並の魔物相手に万が一が起こった場合、

そのままこの国の滅亡に繋がるのよ。」


いつになく真剣な口調で話すユーコに対して俺が疑問を口に出す。

さっきの店主のおばちゃんの話や今のユーコの話から湧いた当然の疑問だ。


「でも、この国には総司以外にも騎士って連中が居るんだろ?

そいつらは一体何をやってんだ?

さっき街が襲撃された時にも全然見かけなかったぞ。」


俺の疑問に対してユーコが苦々しそうに答える。


「騎士の連中は魔物の襲撃を聞いた途端、城の城門を閉めて全員城内の警備してるわよ。

街の事なんてお構い無しにね。それでも最初の頃襲撃された時には、

騎士の連中も魔物の迎撃に出てたんだけど、何回目かの襲撃の時、

貴族のお偉いさんの跡取り息子か何かが怪我したって以来、

ずっと城に引きこもるようになっちゃってね。

街の城壁の警備にあたってるのは普通の一般人の有志から出してる民兵よ。


高価な装備と毎日訓練に明け暮れてる騎士様達と違って装備も貧弱だし、

練度も足りないから毎回少しずつだけど犠牲も出てる。


総司も最初は城の警備を命じられてたんだけど、

半年くらい前に民兵に志願してたこの『ねうねう亭』の息子さんが

魔物の襲撃で亡くなってから、

騎士団の命令を無視して、一人だけ真っ先に魔物の所に行くようになったわ。

勿論、命令を聞かない総司に、騎士連中のお偉いさんはいつもカンカンだけどね。


結果として、街の被害が最小限になるから、黙認せざるを得ない状況なのよ。」


「・・・・・・・・。」


俺は黙ってユーコの話を聞いていた。

まさかそんな事情があったとはつゆ知らず、

俺は手前勝手の判断で総司含めユーコにも

でっかい迷惑をかけちまった訳だ。

しかも俺の行動次第で下手すりゃ、国の存亡すら怪しいとか取り返しのつかない大問題だ。

俺は自分のやらかしてしまった事の大きさを噛み締めてる中、ユーコが続ける。


「さっき攻めてきたオークの攻め方も今までとは変わってきてる。

今までは正面から挑んできて、

そこそこ被害出たら魔物も引いてたのに、

今度の襲撃は、城壁の補修が済んでない所から、

一気に攻めてくるようになった。

この一年の襲撃で、城壁もあちこちボロボロで補修も間に合ってない。

もしも魔物の連中が、

もっと多くの数で城壁の弱い各所から一気に攻めてきた場合、

あの子一人じゃ対応しきれないでしょうね。

楽勝だとか言ってたけど総司にも限界はあるのよ。」


そこまで黙ってユーコの話を聞いてた俺は、

ふとユーコの手元が震えてるのに気づく。

震えてる手元からユーコの顔に視線を移すと、

ユーコは瞳に涙を溜めていた。

必死に涙を堪えているようだが、

堪えれば堪えるほど声も震えてくるような状態になっている。


「だからこそ…私が、私が総司を助けてあげなきゃいけないのに…。

ワ、ワタシに出来るのはマナを使った簡単なち、治癒と召喚術だけだから…

何とかして、そ、総司を助けてあげたかったのに…。」


ユーコの言葉はもう言葉にならなかった。

今までずっとずっと我慢していた感情が一気に溢れだしたのかもしれない。

俺に対する怒りだけじゃなくて、

城しか守らない騎士団の連中に対する憤り、

総司に対して何も出来ない自分に対しての苛立ちもあったのかもしれない。


今までずっと黙って話を聞いていた俺は、

スっと立ち上がり椅子に座りながら泣きじゃくるユーコの足元で膝を付き、地面に向かいおもいっきりゴン!と額を打ち付ける。

つまり、土下座だ。


「すまなかった!!!!!!!!!!!!!」


泣きじゃくるユーコが一瞬ビクン!となるのが、

ユーコの足の辺りの動きで分かった。

地面に額を擦り付けてる俺にはユーコの顔色は窺えない。

俺は微動だにせずユーコに頭を下げ続ける。


「何やってるのよ…そんな事したって無意味じゃない…」


少しだけ声の調子が戻ったユーコが俺に話しかける。

俺は頭を下げたまま続ける。


「ユーコ、お願いがあるんだ!!!!!

俺をその壊れてる城壁のところまで連れてってくれ!!!!!!!!」






----------------------------------------------------------------


俺は時計を持ってた訳じゃないが、

ユーコがウンと頷くまでは長い時間、絶対に頭を上げずに頼み続けた。


「何する気なの?」と聞かれても頼むとだけ言い続け、

ついに俺に根負けしたユーコが、

呆れた調子で分かったと言った時やっと額を上げた。

どれくらい額を地面に押し付けてたのは分からんが、

どうやら微妙に割れて額から出血してたようだった。

ただ、額の傷は既に塞がり血は完全に止まっていたのだが。


『ねうねう亭』のおばちゃん店主に感謝を告げ、

俺がユーコに連れられて来たのは、

俺が今朝オークが攻めてきたという場所とは、

反対側の位置にある城壁だった。

損傷度で言えば今朝オークに襲撃された地点が一番酷いようだが、

オークが攻めてきた城壁は、事があらかた済んだ後に到着した、

騎士団の連中が襲撃箇所の視察をしてる時間帯だという事らしい。

ユーコが騎士団の連中に会いたくない、

という気持ちも分からんでもないというか、

俺も、今騎士団とやらの連中を見かけたら、

そのまま殴りかかりそうな気分だったので素直にユーコに従う事にした。


「この城壁、こりゃ大分やられてんな…。」


現場での俺の専門ジャンルとは違うが率直な感想を漏らす。

元々堅牢な石造りであったろう城壁は穴だらけで、

空いてる穴を木板で補修してるような状況だ。

しかもそれが数十箇所もあるような状態で、

城壁の専門家じゃない俺から見ても、

もう魔物とやらの襲撃に対抗する場所としては、

あまりにも頼り無さすぎる状態だった。


しかも穴の空いてる箇所はまだ無数にあり、

地元の職人であろう何人かが、

他の空いてる穴を木板で補修してる真っ最中だった。


「これでもまだマシな方だけどね。

貧民街の方なんかは補修すら殆どされてない、

破損箇所が多すぎて手が回ってないのよ。」


そう呟くユーコは大分落ち着いたのか声はいつもの調子に戻っていた。

俺はそんなユーコの言葉にそうか。と短く返事をして、

補修作業に従事してる職人に声を掛けた。


「よう、城壁の補修大変だな。俺にも手伝わせてくれよ。

昔壁の補修もやった事あるから得意なんだ。」






----------------------------------------------------------------




最初は訝しがってた職人だが、俺たち職人同士には一種の同族というか、

同じ仕事に従事してるもんのオーラを感じ取る能力がある。

(若干大げさだが)

俺の体から溢れる職人オーラを感じっとってくれたのか、


「おう!助かるわ!給金出ねーけどいいのかい?」


と直球の返事をぶつけてくる。

職人同士に腹の探りあいはいらない。俺たちはいつでもまっすぐぶつかっていくだけだ。


「応よ!金より街の平和が大事だぜ!」


威勢よく返す俺に職人も勢い良く言った。


「よく言ったぜ!にーちゃん!

じゃあ、そこの道具使っていいから向こうの穴の補修頼むわ!」


職人が作業しながら差す手の先には、

穴の開いた箇所に木板にノコギリに金槌に鉄釘と、

基本的な補修道具が用意されていた。

若い時にはバイトで家壁の補修なんかもやってたし、

ノコギリと金槌は職人の基本工具だ。


「よっしゃ!任せとけ!!」


職人から指示された方に向かう俺にユーコが話しかける。


「ちょっと、アンタ。補修するって…」


「俺も職人だからよ。今は自分の出来る事をやりてーんだ。

自分が役に立つかは分からんが、何もしないのは嫌なもんでよ」


これも俺の自分勝手なワガママだ。迷惑掛けちまうかもしれない。

でも嫌なんだ。女の涙を見て何にもしないなんて、

現場に残してきたあいつらに顔向けできない俺になっちまう。


そう思い、まずは板でも打ち付けるかと金槌を握りしめた瞬間、


俺は何だか不思議な感覚に囚われた。

まるで金槌が自分の手の一部になったような、今まで経験した事のないような感覚。

そのまま木板に触れようとした時、俺の頭に妙なイメージが流れ込んできた。


自分の中の感覚が広がっていって、

周り全部を知覚できるかのような妙な全能感。

今まで生きてきた中で一度も経験した事のないような感じだが、

不思議と嫌な気分で無かった俺はその感覚に身を委ねる事にした。


まるで世界の全てを理解できるかのような気分にすらなった時、




     俺の周囲が、まばゆい光に包まれた――――









~続 く ~


ジャンプです。実にジャンプです。

やはり凡人というものは自分の持ってる引き出しからしか出せないのか…。

でもいいんだ。俺は好きなんだジャンプが。今でも大好きだ。


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