第三話 ~高齢者には適正配置を厳守しろよ!~
お待たせしました。今回は2話連続掲載です。
話進める為に新キャラ追加しましたスイマセン。
第三話
~高齢者には適正配置を厳守しろよ!~
職人の朝は早い。
朝日がまだ顔も出さない五時に俺は目を覚ました。
家の外の古びた井戸で顔を洗って木の枝で歯を磨く。
まだねーちゃんは寝てやがるな。
「おーう!ねーちゃん!そろそろ起きろー」
ねーちゃんがいる部屋に声を掛ける。
外から窓の中でモゾモゾ動いてる影が見えて、
不機嫌そうな顔のねーちゃんが顔を出した。低血圧なのか?
「アンタねぇ……毎朝毎朝、日の出よりも早く起きるってなんなの?
更年期障害なの?」
「馬鹿野郎、そりゃねーちゃんが、
『酒!飲まずにはいられないッ!』って叫びながら、
毎夜毎夜呑むからだ。ほどほどにしとけって言っただろうが」
「……一体誰のせいでそんな事になってると思ってるのよ……。
あ~、せめて新選組の他の隊士なら……」
このやり取りも、もう数日同じ事を繰り返してるいつもの光景だ。
ブツブツ言い出したねーちゃんを放っておいて、俺は朝飯の支度に取り掛かる。
今日の朝飯は昨日、市場で大荷物に困ってたばーさんを助けた礼に貰った、
卵の目玉焼きと湿り気の無いカリカリのパンだ。
卵自体は高タンパクの上、調理も早いから忙しい現場の朝飯には重宝する。
これでネギとワカメの入った味噌汁と、
鮭や梅の入った握り飯でもあれば文句は無いんだがな。
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話は数日前に戻る。
俺が次に目を覚ました時に隣の部屋から聞こえた声は、
ねーちゃんがどうやら自分の師匠?みたいなジーサンに
めちゃくちゃ怒鳴られてる所だった。
ジーサンはちなみに俺が適当に言ってる訳じゃない。
後からねーちゃんに聞いたらどうやら、
『ジーサン・ワーリト・タンキネー』というのがその師匠?の本名らしいのだ。
現場の事しか知らん俺には分からん部分も多いので、
その名前が日本語じゃ一つの意味になってる点とかについては、
深くは考えない事にした。
ねーちゃんが怒鳴られてる内容について、
正直全部を理解できた訳じゃないが、
ただ、俺を召喚?する為に、
国でも唯一無二と言われてる国宝級の宝を使ったらしく、
それが原因で破門だと言われてるのはさすがの俺にも理解できた。
取り敢えず自分が寝てたベッドから起きて、
チラリと隣の部屋を扉の隙間から見たら、
絶望的な現場の工程の中、昼夜問わず必死に働いてる時に、
自分のミスでこれまでの工程の作業全部の直しを指示された時みたいな、
全てに絶望した顔になってるねーちゃんと、
真夏の現場の坑内作業の真っ最中みたいに、
顔真っ赤にして怒り狂ってるジーサンの顔があった。
自分の置かれてる状況や、
今後についてもまったく見通しは立たねー状況だが、
流石に傍から見てジーサンに怒鳴られて、
涙目を通り越してる若いねーちゃんが不憫になったので、
俺は取り敢えず仲裁に入る事にした。
若いもんに対して尋常じゃないくらい怒ってる時、
怒り過ぎて上のオッチャンが我を失ってる時もあるから
こういう時には関係ない赤の他人が、
ちょいとお節介というか助け舟出してやるのも大事なんだぜ。
部屋のドアを開けて、ジーサンに向かって話す。
「ちょいといいかい、ジーサン。
俺が居た工事現場でもそうだが、やっちまったもんは仕方ねーんだ。
いきなり破門?じゃねーちゃんも可哀想だろ。
まずはタバコでも吸ってリラックスしてこいよ。
これからの事はそれから考えようぜ。」
俺の中での現場を上手く回すコツの一つである熊方流奥義、
『満面の笑顔』が炸裂した。
敢えて場の空気を無視して無理やり場の空気を変えるこの奥義は、
まだ他の職人との絡みに慣れてない
若いもんにはなかなか習得できない特技の一つだ。
この奥義が炸裂した時にはどんなに熱くなってる職人も思わず脱力を…
と、ふとジーサンを顔を見ると
紅潮してた顔から急に血の気が引いてみるみる白くなっていく。
あー、こりゃヤバイパターンだ持病持ち系だわ。
そのまま膝から崩れ落ちそうなジーサンを抱きかかえ、
何が起きてるのか状況を飲み込めてないねーちゃんに向かって叫ぶ。
「ねーちゃん!急いで医者だ!
後、何か冷やすもんどこだ!」
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この後、結局ジーサンはそのまま帰らぬ人になってしまった…。
という事は無かったが、今も絶対安静との事で自宅療養中だそうだ。
歳食うとちょっとした事でも大事に繋がるからな。
積み重ねた日頃の体調管理の大切さを実感できる出来事だった。
と、さっき自分で作った朝飯を食いながら、数日前の事を思い出す。
ねーちゃんはまだ、ぶつくさ文句を言ってるが、
俺が作った飯は一応食べている。
そもそも、何で俺がねーちゃんの飯まで世話してるかといえば、
見知らぬ土地で何の宛もない俺は、
なし崩し的にねーちゃんの家に厄介になっていた。
幸いというか、ねーちゃんの住んでる家はそこそこ部屋数もある、大きな洋風のレンガ造り家屋。
築40年以上は経ってそうな年季物だが地震が少ないような場所じゃ、
木造よりも長持ちする代物だ。
今の日本でも耐震性を満たせばレンガ造りの家は作れなくもないが、
それなりに手間や工賃も跳ね上がるので、
金持ちの道楽レベルって立派な家に居候させて貰ってる以上、
飯作りくらいなら文字通り朝飯前ってな。
若い時によくやった地方の現場じゃ、
場合によっちゃ連日野宿も当たり前だった。
というか今でもたまーにやってるが、
毎日野宿じゃ流石に体がギシギシいうもんで、
ベッドがあるってだけで有り難い。
ただ、ただなー、
このままずっとこの家に厄介になってる訳にもいかんのよな。
「んじゃ、そろそろ茶でも淹れてくるか。」
ねーちゃんがあらかた飯を平らげたタイミングを見計らい、
さりげなく席を立つ。
竈に置いてた薬缶に沸かした湯でコップに茶を注ぎつつ、
今日の俺はある決心をしていた。
ねーちゃんが自分の家で呑んだくれてる時、
街中をうろついたり市場を覗いたり、
ここいらに住んでるらしい地元の方に
話を聞いたりして俺なりに少し分かった事がある。
ここはどうやら、俺がいた現場とは相当離れた場所にあるらしい。
地元の方々の格好もなんだか前にTVで見たような西洋風の服装の上、
道路もコンクリートじゃなくて石畳か未整備の土の道。
街中の様子を見ると街灯もTVもない所か、
街中自体に電気もガスも通ってる様子がない。
水道に関しては一部の施設でそれらしきものは見かけたが
今の工事現場じゃ絶対見かけないような工法で施工されていた。
今時飲料水に鉄管とか、そんなの施工したら怒られちまうぞ・・・と、
どうも職人目線で物事を見ちまう癖が抜けないが。
結局、ここが日本のどこであろうと数日現場を空けてしまってる以上、
ねーちゃんの家に長居するのも限界が来てる。現場の工程的にも。
今やってる現場でここに来る前にコウタに任せてた仕事の範囲は数日分。
この数日だけなら仮に俺が居なくてもギリギリ何とか回せたろうが、
これ以上は流石にキツイ。
電車かバスか下手すると船か飛行機かどんな手段になるかは分からんが、
何とかして現場まで戻る。
その前に途中でもいいから携帯かなんかでコウタに連絡しておかねーとな。
で、その為にはこの毎日飲んだくれて何かぶつくさ言ってるねーちゃんに、
俺が現場まで帰る手段を確認する必要がある。
現場じゃ弁当屋のふみちゃん相手にもここまで気遣った事がない俺が、
数日前に見知ったばかりのねーちゃん相手に、
話を切り出すタイミングを図っているのも、ちゃんと理由がある。
その理由は・・・と、淹れた茶をテーブルまで運ぼうとしてた時
「おはよー!!いい朝だねユーコちゃん!一緒に御城まで行こーよ!」
家の外から元気の良い大きな声が響いてきた。
ねーちゃんより更に年若い女というより女の子のような声。
見知らぬ土地に来たばかりの俺でも知ってる声だ。
実は、今日の俺はこの声の主が来るのをさりげなく待っていた。
ねーちゃんに色々聞く為には、絶対に絶対に必要な人材なのだ。
俺はもう一杯分、茶の入ったコップを追加してテーブルに戻ろうとした時、
その声に対してわざわざ窓から顔を出して返答するねーちゃんの第一声も、
これまたいつも通りのものだった。
「行かないわよバカ総司!勝手に一人で行けばいいでしょ!」
こういうのを何ていうんだっけな?
確か漫画読んでたコウタが若い衆と話してたツンドラ?だったっけな?
~続 く~
で、この次の話なんですが要は説明回です。
次々に掲載予定の5話の前書きに前回のあらすじで内容まとめる予定なので
読むの面倒だって人は4話読み飛ばして貰っていいです。