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真夏の現場では水分補給はこまめにやれよ!

   第一話

      ~真夏の工事現場~

 

 現場の朝は早い。

 朝日がまだ顔も出さない五時に俺は目を覚ました。簡易宿舎の備え付けの洗面台で顔を洗って歯を磨く。まだボケ共は寝てやがるな。

 

 「おーう!お前らー!そろそろ起きろー」

 「兄貴ぃ……まだ眠いっすよ……」

 「馬鹿野郎、コウタ、昨日あんなに呑むからだ。ほどほどにしとけって言っただろうが」

 「そんな事言ったってここ他にやる事なんて無いじゃないっすか……。あ~せめて女の子でもいないっすかね……」

 コウタの言い分も分かる。今俺たちがいる現場はかなり町から遠い上に道も悪い。下手に夜道を車で動こうものなら命が危ない。

 「しゃーねえだろうが。そういう現場なんだからよ。おら、ぐずぐず言ってないで他の奴らを起こして来い。さっさとしねえと日が昇っちまうぞ」

 「へいへい……ったく、人使い荒いんだからサ……」

 「るっせぇ!また拳骨喰らいてぇのか?」

 「ヘイ!行ってきます!」

 ったく、コウタの野郎は調子だけはいいな。

もうちょっと仕事の方もキッチリやるようになったらもっと色々任せても良いんだがな……。

 っといけねぇ。俺もそろそろ始めねぇと、あいつらが来る前には済ませとかねえとな。

 俺は宿舎から出て重機の点検に向かう。

 まあ、点検と言っても素人目に大きな破損が無いかとかをチェックするだけだが。だからと言って手を抜くわけにはいかない。重機は簡単に壊れる程やわじゃねえけど、それでもトラブルは起きるときには起きる。そして、重機の事故は起こったら大事になってしまう。

 だから、簡単にとは言っても手を抜くわけじゃない。見るべき項目は真剣にチェックしていく。こいつらは俺たちの命にかかわってくるのだ。おざなりには出来ない。

 「兄貴ぃ!おざあーす!」

 コウタ達が起きて来た。俺は最後の重機をチェックして皆の方を向く。

 「おう!お前ら全員起きてるな?今日は暑くなるらしいからな!今日は水分ちゃんととっとけよ!」

 今は夏真っ盛り、山の中でまだ日も明けていないこの時間帯はシャツだけだと肌寒い位だが、昼になると地獄の暑さになる。水分は取り過ぎて困るということは無い。

 「おーし、それじゃあまず準備体操から始めんぞー」

 全員が揃った所でラジオ体操」をかける。

 「ラジオ体操第一~。腕を大きく上に上げて~」

 ラジオ体操をかけると初めは寝惚けまなこのこいつらも、段々と体が暖まって来たのか、動きがのろのろとしたものからグングンと力の入ったものになっていく。

 この仕事を始めると一度はこのラジオ体操に嫌気がさすが、しばらくするとこれなしでは生きていけない体になる。ラジオ体操はすげえぜ。

 「よ~し!ラジオ体操終わり!じゃあ三十分で身支度済ませて飯食っとけ!今日はハードな掘削あるからな。しっかり体を動かせるようにしとけよ!」

 皆が顔を洗ったり朝飯を食ったりしているうちに、オレは飯そ食いながら工期を確認する。先週の雨のおかげで少し工期に遅れが出ている今日の内に発破までは済ませておきたい。ちょっと今日は巻いていかないといけないだろう。

 「兄貴ぃ、全員身支度完了しました!」

 サブが言う。サブはこの現場の副リーダーで頼りになる奴だ。朝が弱いのは玉に瑕だが。

 「よーし!全員準備は良いな!」

 俺は並んだ野郎どもを見渡して言う。

 「よぉし!それじゃあ今日もやっていくぞ!」

 俺は大きく声を張り上げる。

 朝の慣例行事だ・

 「安全第一!」

 「「安全第一!」」

 「周囲の確認!」

 「「周囲の確認!」」

 「丁寧な仕事!」

 「「丁寧な仕事!」」

 「笑顔を絶やさず!」

 「「笑顔を絶やさず!」」

 「ほうれん草で!」

 「「ほうれん草で!」」

 

 「よっしゃ!今日もヨロシクオネガイシマス!」

 

 野郎共が動き始める。

 「コウタ!一斑は今日は発破だ!気合い入れとけ!」

 「ウス!」

 「サブ!二班は今日は搬送の方を頼む!必要なもののリストはここに書いておいたからこれを補充しておいてくれ!皆も何か買ってきて欲しいものがあったらサブに頼んどけ!」

 「あ、おれ幸福天の今月号頼む!」

 「シャンプの先週号と今週号おねがいします!」

 「つーか俺も搬送に連れてって!」

 「オラ!お前ら無駄なもん頼むな!どうしても必要なもんだけ頼め!搬送車も何台もねーんだぞ!」

 ったくこいつらはこういう時だけ元気になりやがる。

 「次!ショウヘイの三班は支柱作りだ!確かショウヘイは溶接出来たな?三班の他の奴に教えながら支柱作りを進めていってくれ!」

「四班は今回は大変だが地獄のトンネル掘削だ!大変だと思うが持ち回りだし俺も一緒にやる。すまんが今週はガッツリ働いてもらうぞ!まぁ休憩は小まめにいれるからぶっ倒れないように頑張ってくれ!以上!皆仕事にとりかかってくれ

 じゃあケンタ達四班は俺の所に集まってくれ。今日のスケジュールを話し合うぞ」

 掘削と聞いてげんなりとした顔のケンタ率いる四班の面々が集まる。

 「掘削かぁ……これ特別手当付くんですかね兄貴」

 「今のご時世だからな……そんなに多くは無いが、少しは手当は付くぞ。お前らには申し訳ないがな。今日は俺も掘削メインでやる。

 お前らも大変だとは思うが気ぃ入れて頑張ってくれ」

 「今回はって兄貴はいつも一番大変なところ受け持ってくれてるじゃ無いすか。そんなに困った顔しなくても、兄貴が居てくれるだけで俺ら頑張れるっす。気にしないでください」

 「お前ら……」

 掘削は重労働で危険な仕事だ。正直こいつらだけは危険な目に合わせたくない。そう思っている俺の心を汲んでくれるだけで、オレは少し泣きそうになった。最近本当に涙もろくなってきた気がする。

 「よぉし!んじゃあ今日もがんばんぞ!」

 「「オッス!」」




 十二時、現場も昼休みになる。

 今日の暑さは格別だ。座ってるだけで汗が噴き出してきやがる。俺は作業着とシャツを脱いで溜まった汗を絞ってから昼飯を受け取った。

 この現場は地元の仕出し屋に頼んで弁当を届けてもらっている。

 「トシさん、今日は凄く暑いですね!」

 仕出し屋から毎日弁当を届けに来てくれるこの子は女に飢えたこの現場の一輪の花だ。

 「ふみちゃん、いつもありがとうな。今日の弁当はなんだい?」

 「今日は暑いんで皆さんに精を付けてもらおうと肉っ気を多くしてあります!もちろん全部ご飯は大盛りですよ!」

 「そいつはありがてぇねえ!大木屋の弁当を食えば今日も一日頑張れる元気が出らぁ」

 「ハイ!こちらこそいつもありがとうございます!トシさんもお仕事頑張って下さい!」

 ふみちゃんはこの暑い中ふもとから遠い現場まで弁当を毎日配達してきてくれる。全く若いのに頭が下がる。

 これで今日も一日頑張れるってもんだ。

 

 

 昼餉も終わって掘削を再開していると、ケンタが俺を呼びに来た。

 「兄貴!なんか変なもんが出たって野郎どもが騒いでるんすが」

 「変なものだぁ?金でも掘り当てたとか言うんじゃねえだろうな?」

 「いやそれが……祠が出てきたらしいんすよ」

 「祠ァ?祠ってあの地蔵とかがある祠か?」

 「ハイ、その祠っす。なんで土の中から出て来たのか分からないっすけどぶっ壊すわけにもいかないですし……」

 「しかしなぁ、ここの掘削は今日中に終わらせちまわねえと支柱入れるのがまた遅れちまうだろ……。よし、とりあえず俺も見に行ってみる。案内してくれ」

 「ヘイ!こっちです」

 

 

 案内されたその祠は掘削場の最前線に唐突に現れた。長年土の中に埋もれていただろうその祠はしかし不思議なほど綺麗だった。

 「これ木製だよな……。えらい綺麗だな……これほんとにここから出て来たんか?」

 「へい、確かにここから掘り当てたみたいですぜ。どうしますかね?取りあえず外に運び出しますかね?」

 「う~んそうだな。人呼んで調べたりしたら工期が遅れるどころじゃねえもんなぁ。

 しゃーねえ、とりあえず外に運び出すぞ!」

 「「ウッス!」」

 「ケンタそっち持ってくれ。ソウジはそこだ、よし、1、2であげるぞ……。

1、2の……3!」

 祠を持って俺たちは掘削場から外に出た。

 「よーし、じゃあみんな作業を再開してくれ。俺はちょっとこれを見てみるからよ」

 「ウッス!手ぇかけてすんません!」

 「なに、良いって事よ。報告、連絡、相談は大事だ。何かあったらまた呼んでくれ」

 そして俺はその祠に向き直った。

 外見は普通の祠だ。田舎に行けばそこらへんに建ってるような奴だ。しかし、出て来た場所がおかしい。なんであんなところにあったんだ?

 それに、土の中に埋もれてたにしては綺麗すぎる。たまに木が出てくる事はあるが、普通もっと腐敗してボロボロになってる筈だ。

 「一体どうしたもんかねえ……」

 とりあえず、中を開けて調べてみるか……。



 すると、どこからか声が聞こえて来た。



 (トシゾウ……………)



 トシゾウ……誰か俺を呼んでんのか?

 俺は辺りを見渡すが誰も俺を呼んでいる様子はない。土方達は皆忙しそうに働いている。

 


 (トシゾウ………………)



 また聞こえた。しかも女の声だ。なんだなんだ?まさか祠の神様が祟ってるとかじゃねえだろうな?俺はそういうの弱いんだ、勘弁してくれよ。



 (トシゾウ………………トシゾウ……………来い…………)



 今度はハッキリと聞こえた。確かにこの祠から声が聞こえてくる。俺は顔面から血の気が引くのを感じた。クソっ鬼の現場監督熊方歳三様がこんな事でビビっててどうする!野郎どもに示しがつかねえ。

 俺は祠の扉を開けた。

 中には何もないかと思ったら、小さな金属片が転がっていた。なんだこれは?

 ……刀の切っ先……か?

 俺はその刀の切っ先を上に掲げて、太陽の光で良く見ようとして見た。

 

 (…………ミツケタ!)


 突如、叫ぶような声が耳のそばで弾けた。

 それと同時に強烈な眩暈がしてくる。

 なんだ?どうしたってんだ?クソっ!

 目が廻る、なんで何も見えないんだ?

 体がおかしい、痛くないのに引き裂かれる感じで猛烈に気持ち悪い。

 何だってんだよ!クソ!ダメだ、意識が持っていかれる、ほんとになんなんだ!今俺が倒れたりしたら工期に遅れが……!




 そして、俺の意識は暗転した。





 


この小説は某掲示板某スレにおいて「土方歳三のかわりに土方の歳三が召喚されたらどうすんだ?」のようなコメントから着想を得たものです。

土方という言葉が差別的な意味合いを含むのかどうかという議論など色々と面倒なところもあるかもしれませんが、基本的に悪い所があったとしたら全て私が悪いと思います。勿論、この小説において土方という言葉は悪い意味で使われるものではないということも明記しておきます。

長くなりましたが、言いたいことは「もし何らかの問題があったとしたら、悪いのは全て私です」ということです。

宜しくお願いします。

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