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ある猫達の独白

作者: 三谷 二雅

飼い主Aの独白

 『人間ってのはよく分からん、別に理解しようと努力もしてないけど、それでも酷い。この間、日向で気持ちよく昼寝をしてたんだけど、何を思ったか知らないけど俺の腹に顔をうずめて来たのよ。いや正直困ったよ、別に敵意があるわけもないし俺が邪魔な様子でもないんだよ?何がしたいか分からないし、どうでもいいから昼寝を続けようとしたら、今度は腹にうずめた顔をすりよせるんだよ、いや本当に!信じてもらえないかも知れないんだけど、奇声を上げながら顔をこう…わしゃわしゃ~ってするのよ、何してるんだこいつって思って頭を押しのけると笑ってるし...何が不思議ってさ、この人間、いつも俺ん家に夜帰ってくるんだけど、いっつも疲れた顔してるんだよ。それがよ?俺の腹に顔うずめてなんか子供みたいに笑ってるの、ちょっと気味が悪いでしょ?まぁ別に無害だからいいんだけど。

 それ以外でも人間って色々やるんだよね、奇怪な行動。あれ、なんなんだろう、あの~変な光がパッってなるやつ、なんか俺が寝てるとさ、光るやつ持ってきて俺に向けて光らせるんだよね、でもあれ夜だけ光る事にこの間気が付いた。昼間はね、光らないのあれ。でもあの”カシャッ”って音してるから同じ事してるんだろうけど…なんなの?なんか気持ち悪いんだよね、あれする時もニヤニヤしてるしさ~しかもカシャッてした後にずっと光るやつ見てるし、昼寝の邪魔して欲しくないんだよね、実際。

 あ、でもたまに役立つ時もあるんだよ人間って、夜寝る時さ人間って決まって同じ場所に行くのね、よく理解出来ないけど、外で寝てる人間も結構見るから猫みたいにどこでも寝れるはずなんだけど、うちの人間はちょっと変わってるのかな?あ、でもね、あれ結構助かる、夜ってさ暖っかい所少ないでしょ?でもうちの人間が寝る時はいつも同じ布の下敷きになって寝るんだけど、あそこの間が中々のスポットなのよ、問題はあれだね、人間がたまに動くからちょっと面倒な時もある事。でもあれは自分の立場がよく分かってるみたいで俺を見ると布をめくって場所が確保されてる事をきちんと教えるんだよ、まぁ大体そういう時は無視するけどさ、だって嫌でしょ?なんかあたかも来て欲しいみたいな感じの所にそのまま行くのって、個人的な事だけどさ、お前俺の事構わずに寝ろよって言いたくなる。後で気が向いたらこっちから行くから。

 あ、そうそう、人間って言えば、狩りの下手さね、まぁうちの人間が下手なだけかも知れないけど、大体狩り行って帰って来ると十中八九あの訳の分からないカリカリした餌を取ってくるんだよ。たまになんかの肉狩ってくるけど、稀だね。あとさ、なんで狩った肉をあのキラキラした缶に入れて持ってくるのかね?狩った獲物をそのまま持って来いって何度か教えてるのに理解しないんだよね、人間って。こないだもさ、また狩ってきた肉を缶に入れて持ってきたからさ、それ食べた後に外行って鳥狩ってきたのよ、そしてそのまま人間にこうやれば無駄がないだろうって教えたのにすぐ忘れる、人間ってかなり頭悪いね。しかも折角狩ってきてやった鳥食べないしね、失礼だよね~、もう少し礼儀をわきまえて欲しい。

 うちの人間だけがこういう奇妙な行動とるかというと、違うんだよね。うちの人間だけじゃないからね、こういう奇妙な行動するの、外に出ても色々変な人間多いからね。第一に人間ってさ危険に疎いよね、自然界じゃさ、他種族イコール敵がとりあえず常識でしょ?その概念ないしねあいつら、俺が歩いてるとなんか寄ってきさ、触るのよ頭やら喉やらを。こっちは一応警戒してるんだけどさ~、完全に無防備なのよあいつら、しかもたまに自分の餌を分けてくる奴とかいるからね、いや俺も食うけどさ、その危機意識の低さって生物としてどうなの?まぁ人間を飼ってる俺もどうかと思うけどね、あれ結構役に立つんだよ、変な狩りの仕方だけどちゃんと餌とってくるし、他の人間が運んでくる何だか訳の分からないやつをいれてる変な箱は結構いい寝床になるし、あれなんなんだろうね?いっつも中に入ってるのは違うやつだし、大きさも毎回違うし妙に脆いから結構すぐ壊れるんだけど、あの四角い空間が結構快適で、うん、好きよあれ。

 あ、一番重要な事あった、寒くなってくるとさ、人間が持ってくるあの謎の赤いやつ!あれね、最高。外は寒いのにあの赤い奴がさ~どうやってるか知らないけどあの狭い空間だけ夏のポカポカ空間にするからね。あの赤い奴を持ってくるあいつは偉いと思う、うん、あれは素直に褒めてやれる。だってあの赤い奴本当にすっごいもん、でもあの赤い奴外じゃ生きていけない生き物なのかな?外であの赤い奴見た事ないからね。うちの人間狩り下手なくせにああいうすごい奴を捕まえてるのは感心する。

 まぁ色々変な事もするけど人間を飼うってのも結構面白いよ、躾にちょっと手間がかかるけどね。』


飼い猫Bの独白

 『私が人間に囚われたのはいつだったか...よく覚えてはいない、気が付けば私は数多くの猫達の中にいた、あの頃の私に我という概念は存在していなかった様に思える。たまに与えられる食事を他の猫達と競う様に喰らっていた様な覚えがある。そしてある日、いつも餌を持ってくる人間が私を持ち上げた、その場にいた他の猫達と私の何が違ったのか、それは未だに理解出来ない。ただ私はあの多種多様な動物達が囚われていた場所から抜け出す事が出来た、あれ以来一度としてあの場所に戻った事はないが、他の者達はどうなったのであろう...たまにその事を考えると少し息苦しくなる。

 しかし彼の場所から脱出した私が完全な自由を得た訳ではない、あの日私を持ち上げた人間とは別の人間が私の自由を再び奪い、この牢獄に私を幽閉したのだ。人間とはなんと残酷な生き物か、奴らはわざと外界が見えるこの牢獄を用意した、私に自由の素晴らしさと淡い希望を持たせ、そして自由という名の夢を見ながら監禁され嘆く私を嘲笑する為か?その証拠に奴らは私に生きる為に必要なだけの食事と水を用意し私に与える。何故奴らは私を生かすのか、奴らは私を支配しているつもりで優越感に浸っているのか、それも奴らが飽きれば食事も水も止められ、私は餓死せざるを得なくなるはずだ。なんとも残酷な狂気じみた趣味ではないか、他の生物を捕え、支配し、生きる事も死ぬ事も奴らが決める、神にでもなったつもりであろうか、腹立たしい...かと言え私に選択肢等ない。

 少し昔になるが私は病を患った、このまま死ねば自由になれると思い死を受諾していたにも関わらず、奴らは私を小さな箱に無理矢理押し入れ、あの虫唾の走る拷問場に連れて行った、あの場にいた全ての動物達の悲痛な叫びを聞きながら眩しい光の注ぐ台座に押し付けられたまま私の意識は段々遠ざかった。そして気が付けば再びこの牢獄に戻っていた。あの時私はどんな拷問を受けたのであろうか、自らの腹に残る痛々しい傷跡を見ればどれだけ残虐非道な事が行われていたかの想像はつく...しかしあの日以来、死が遠ざかってしまった、自然の理も曲げるとは...もしかしたら奴らは本当に神にでもなるつもりなのかも知れない。

 この牢獄には私以外に囚われている者がいる、残念ながら猫族ではない、愚かな犬族の者だ。この犬という生き物に知性はあるのだろうか、私は度々不思議に思う。我らを捕え幽閉する憎むべき人間達に対しこの犬という生物は愛想を振る舞っている様にさえ見える、人間達の前では尾を元気よく振りながら喜んでいるかの様に振る舞うのだ。しかし人間がいなくなり牢獄に私と二人っきりになると先ほどの活力が嘘の様に萎え、地面にふせ動かなくなる、一体何が目的で憎き敵に愛想を振りまくのだ、理解に苦しむ。

 そして私がこの下賎な犬という種族に我慢出来ない事はなによりも生き物としてのプライドが全くない事であろう、人間は餌を使い我々に命令してくる事が度々ある、餌に釣られ愚行を犯す様を笑いたいが為に決まっている。もちろん私は奴らの意図を理解しているので無視をする事は当然だ、しかしこの愚かしい犬は尻尾を阿呆の様に振りながら忠実に命令に従うのだ。奴らの自尊心はそこまで低いのか、もしくは奴らには自尊心を持つだけの知恵がないのかのどちらかであろう。どちらにしろそんな低俗な生命体にとってはこの様な泥水をすする生活にも幸福を見出すのか、無知は幸福である、この愚犬を見ている限りその言葉は真理なのかも知れない。猫族にとっての最大の不幸とは知能が他の生物よりも圧倒的に高い事かも知れない。

 しかしこの愚犬は人間に従順である事に対して奴が特権を得ている事も事実である。奴には一日に一度拘束具と監視の人間も付いてではいるが外に出る事を許されている。一体この愚か者が外の世界で何をしているかは知る由もないが、毎日同じ事を繰り返しているにも関わらず未だ脱走に成功していない所を見ると、脱走を阻む何らかの障害があるか、脱出計画を立てるだけの知恵がないか、はたまた脱走する事すらも考えられない程愚かであるかのいずれかだ。個人的な意見としては知恵足らずが当てはまっていると思うが、同じ生き物として三番目でない事を切に願うだけである。

 いつの日か私は自由に外を走り回れる日が訪れるのであろうか、その日が来る事を願いつつも私は神を気取る人間の与える環境下で泥水を啜りながら生きていくのだ、そして隙あらば奴らを討ち、自由をこの手に掴み取るのだ。その為にはやはり食事と睡眠をしっかりと取り、力を養う事が重要であろう。だからこそ!だからこそ私はこの日向で昼寝をするのである!』


野良猫Cの独白

 『私はこの界隈の猫達をまとめる者です。私の主催する集会に集まる猫達は大体二十匹前後という所で、野良猫もいれば人間に飼われてる猫も、人間を飼っている猫も分け隔てなく集まっては色々な情報交換をしています。情報が大量に入ってくるこの環境で私はある事に危機意識を抱いているのです。

 それは人間達が何かを企んでいるかも知れないという事です。事の初めはある野良猫が気が付いた些細な事がきっかけでした。彼はいつも通り自らの縄張りを散歩中に若いメスの人間達の集団に出くわしました、奴らは猫達を見かけると集まり撫でてくる、昔はそれを人間の奇怪な行動程度に捕えていたのですが、その野良猫はある事に気が付きました、その人間達はこぞって猫の形をした人形を身に着けていたそうなのです…私はハッとしました、もしかしたらば人間達が猫を触るのは実は我々の体毛を集めているのではないか、という事です。もしそれが目的だとしたならばなぜ我々に近づくのかの理由に合点がいきます。

 それでは何が目的で体毛を集めるのかですが、その目的も大方想像が付いているのです、目的については後で説明したいと思ういますが...その前にその他の奇妙な行動を聞いてもらいたいのです。これは人間を飼っている猫からの情報ですが、人間は事ある毎に猫達の興味をそそる様な物ばかり狩ってくるそうで、自然界に生えているネコジャラシ、あれを模した物をすでに十以上狩ってきたらしいのです。勿論人間を飼っている猫としてきちんとした躾を行わなければいけないので、その主人が遊びたい気分の時にのみ人間に使用許可を与え、無用な狩りをしてくる際には厳しく叱りつけているのです。しかしそれでも人間は懲りずにそれらを狩ってくるらしいのです、冷静に考えてみるとこれは猫達の興味を分析しているのではないのでしょうか、そう考えると人間とは中々狡猾なのかも知れません。

 それと他の人間を飼っている猫の情報によると、人間がよく時間を割いている光る箱、野良猫にはあまり馴染みが無いかも知れませんが人間はこの四角い小さな箱を猫に向けて光らせるのです。そしてある日その飼い主の猫がふと地面に置かれたその箱を見ると、なんと!彼とうり二つの猫が一定のポーズのまま光の箱の中に囚われていたらしいのです!彼は自分の飼い人が何かを企んでいるのかも知れないと思い、私に相談をしてくれました、彼の飼い人はよく光る箱に囚われている猫達を見ながら微笑んでいるそうです、この情報は私の理論が正しい事を示す大きな要因となりました。

 そして極め付けは...人間に飼われている猫達からの情報です、これはここで話すにはあまりにもおぞましい事かも知れませんが、人間達の企みをより多くの猫達に知ってもらう為にはやむを得ない事だと思うのです。ある雄猫が...人間に囚われてから数日後に小さな箱に入れられて奇妙な場所に連れていかれました...そこには猫族だけではなく犬族や果ては鳥族までが人間達に連れられて集まっていたそうで...しかも大多数の者達は奇妙な筒の様な物を頭に巻かれ自由を抑制されていたらしいのです。すでにおぞましい光景かとは思いますが、これより更に恐ろしい事が彼の口から伝えられました...しばらくその多種族の集う奇妙な場所で時間を費やした後に、彼は小さな個室に連れて行かれ箱から開放されたのですが...彼の目に入ってくる物は貴金属で出来た異様な物体や妙な格好をした人間ばかり...何か悪魔じみた意思を感じ取り彼は何とかその場から逃げ出そうとしたらしいですが...努力もむなしく意識を失ってしまったそうです...そして...心して聞いて下さい、これは実際に行った事実なのです...私も当初耳を疑いました...しかし、これからお聞かせする事は...事実なのです。よろしいでしょうか、心の準備は出来たでしょうか?それではお教えしましょう...彼が目を覚ますと、彼の雄である象徴が...消滅していたのです...これは紛う事無く黒魔術や呪術の儀式に使う為に決まっています。どこの生物が好んで雄の...雄の象徴を奪い去るのか...

 人間達の行動は病的に思えるかも知れませんが、ここまで集められた情報をまとめる限り人間の行っている事には一貫性があり、気が狂って行った蛮行ではない様に思えるのです。私の推測では、人間達は悪魔を呼び出す儀式を行っているのでしょう、目的は恐らく猫族との全面戦争です。人間だけでは猫族に敵わないと判断し、犬族を使うだけではなく黒魔術を頼り悪魔の力に頼ろうとしているのだと思います。オスの象徴は悪魔に捧げる為に使用され、呪術に必要な猫族の体毛を集め、それで完成した呪術品を身に着ける事でなんらかの効果を得ているのだ思います。猫族の気になる物を狩ってくる事も恐らく敵を知る為に行っている事なのです。これは由々しき事態であります、なぜなら猫を飼っている人間だけではなく、猫に飼われている従順な人間さえもこの邪悪な作戦に加担している可能性が高いからです。我々はどうすればいいか、我々に出来る事はサボタージュであります、人間が何かしようとしている所を見かけたら、すかさず近くに寄り甘い声を出すのです!私の経験上、人間は我々のこの行動を無視する事は決して出来ない!そして同時に人間達の情報を集め、然るべき時の為に向け準備を整えるべきなのです、全ては万能なる猫族の永遠の繁栄の為に!

 ...おっと、そろそろ人間の老婆がニボシを庭にまく時間だ、私はこれで失礼させて頂きます。』

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