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第一話 ひまわり 0-1

 私は彼に指をさして怒鳴りつけた。なんでコイツがここにいるんだ。私は桜と帰っていたというのに、こいつ―――シキコクカズマが現れたせいで、最悪な放課後の帰りになってしまった。…これはどうしてもシキコクカズマが悪い。絶対絶対絶対絶対ぜーーーーっったいコイツに土下座をさせなければ!!


「人に指で指しちゃぁ、いけないんじゃないのひまわりちゃん?」

「ひまわりって呼ぶな!!私の名前は日向葵っていうちゃんとした名前があるんだら!!」

「えー、可愛いのになあ、ひまわりってあだ名。あれだよね、君の姓と名前を入れ替えたら花の向日葵になるからだよね?」

「だから何よ。…ってなんであんたがそれを知っているの?」

「さて、なんででしょうね」

「はあ!?」


  シキコクカズマはそういうと、こちらを振り向かず手を振ってその場を去って行った。意味がわからない、あいつは何を考えているんだろう。そして、なんで私のあだ名のことを知っているんだろう?


 「嫌なやつ…!」

 「ひまわり~、もしかしてこれあれなんじゃない?」

 「何よ?」


 「脈アリってやつ」

 「はああぁ!?な、何であいつと私が脈アリなのよ!?」

 「いやだってさ」


 すると桜はまるで考え込むかのように顎に手を添えた。


 「おかしくない?ウチらがこれから通う学校は私立の花園丘はなぞのおか高等学校で偏差値も高いし、有名人も通ったって言う名門校。前居た中学のなかで受験したのは、知っている限り、あたしとひまわりだけ」

 「え、それって…」

 「ひまわり、あんた昔にシキコクカズマさんと会った事、あるんじゃないの?」

 「え、な、無いよ!?」

 「そう?でもあんたのあだ名、どこで聞いたんだろうね?知っているのはひまわりのお母さんとあたしとアンタだけ。中学も、女子校だったから男子がそれを知るなんて、ありえなくない?」

 「言われてみれば…」


 言われてみれば、そうなのかもしれない。もしかして、実は昔に会ったことがあって、私が覚えていないだけであいつは覚えているのかもしれない。でも、あんな失礼な奴に申し訳ないだなんて思いたくないし、誤りたくも無い。


 でも、聞いてみる価値は、あるのだろうか。


      

 「ただいま~!」

 「あら、ひまわり。おかえりなさい」

 「ただいま、お母さん」

 「あら、ひまわりちゃん、おかえりなさい」

 「ただいま、安藤のおばあちゃん!今日はどうしたの?」

 「今日はね、あの人の遺品をまた拝みにきたのよ」


 私の家は骨董品屋さんをしている。祖父がまだ生きていた頃に始めたらしく、長いこと営業を続けているのだそうだ。貰い手がなくなったものや捨てられたもの、また預かっているものがたくさんここに置いてある。その骨董品たちは、どんな持ち主の人生を見届けてきたのだろうと、お母さんに骨董品の持ち主についてよく聞いていたことがあって、お母さんは「そんなに知っているわけじゃないわよ」っていつも苦笑いしていたっけ。

 その骨董品屋・ツナグの常連さんである安藤さんは、この近所にすんでいる70歳のおばあちゃんだ。安藤さんの夫さんが、遺した蓄音機を住んでいる家には置けず、ここに預けてたまに見に来るのだそうだ。

 

 「あの人は、『物を大事にしな』って私や子供や孫によく言っていたんですよ。だから、捨てることができなくってねえ」

 「そっか、じゃあこの蓄音機は旦那さんとおばあちゃんの大事なものなのね」

 「そうねえ、ひまわりちゃん 『付喪神』って知っているかい?」

 「つくもがみ?ううん、知らない。なぁに?つくもがみって」

 「付喪神はねぇ、古いものや大事なものに魂が宿ったものなんだよ。例えば、ひまわりちゃんがずっと小さい頃から大事にしているお人形さんとかねえ。少し昔にそれがいたみたいだけど今じゃどうだろうねえ…」

 「…きっと居るよ、おばあちゃんが信じてるなら」

 「そうねぇ、ありがとうね。ひまわりちゃん」


 安藤のおばあちゃんが帰って、店じまいをして私は母と食卓を囲んでいた。


 「…何かあったの、葵」

 「な、何かって?何も無いよ、お母さん」

 「嘘おっしゃい。食べるペースが早いし、まるでヤケ食いしているみたいよ。いつもよく噛んで食べなさいって言っているでしょ?」

 「う…」


 (やっぱりお母さんには隠せないな)


 「学校で何かあったの?さては、入学式の返事、笑われたんじゃないの」

 「うっ…、お母さんってエスパーなの?何でも当てちゃうんだもの」

 「そりゃ私の自慢の娘ですから」

 「…実はね、その返事のことで隣のクラスの男子に笑われて」

 「それで?」


 お母さんは私から目をそらさず、頬杖をついた。


 「そいつ、シキコクカズマっていって。会った事もないのに、何故か私の『ひまわり』っていうあだ名を知っているの。おかしくない?」

 「あら、そうなの?あなたのあだ名、知り合いが教えたんじゃなくって?」

 「教えてないし、そいつの知り合いなんてわかんないし…」

 「その子に聞いてみたら?『なんで私のあだ名知ってるんですか』って」

 「えええええぇぇぇ!?」

 

 私はだらん、と脱力するかのように椅子に背中を押し付け、肩をがっくりと落とした。それを見たお母さんが、「こら、行儀悪いからやめなさい」と私に注意をした後、手元にある麦茶を一口飲んだ。


 「やだよー、シキコクカズマのいるクラスなんて」

 「何で嫌なのよ、知るにはそれが一番じゃない。それとも理由も知らないで呼ばれ続けるほうがいいの?」

 「ううううう…」



 ―――やっぱり、聞かないとわかんないのかなあ。



 翌日、私は休み時間に隣のE組に行ってみた。そいつの名前を言うのがちょっと嫌で仕方なく、ドアの近くにいた女の子に声をかけた。


 「あ、あの~」

 「どうしたの?誰か、呼ぼうか」

 「え、えっと…、あの、し、シキコクさんっていますか?」

 

 そいつの名前を出した瞬間、その女の子は苦い顔をした。そして辺りを見回し、小声で耳元で話しだした。


 「シキコクさんに会うのはやめておいたほうがいいよ」

 「えっ。どうしてですか」

 「…彼、入学してからずっと他のクラスメートと関わろうとしないの。最初は皆、彼に話しかけては居たんだけど…、今じゃこのクラスでは浮いてる」

 「え、あんなムカつく態度持ってるやつなのにですか?信じられな―――」

 「!? あなた、彼と話したことあるの!?すごいわね」

 「え、ええ!?」

 「早めに彼から離れたほうがいいよ、彼に関わると、




  『魂を抜かれる』って噂がたってるんだから」


 

 それを聞いた私は、しばらくその場から動けなくなってしまった。「魂を抜かれる」?あいつから?まるでそいつが死神みたい。確かに、あいつは前髪が長くて顔が見えないし、黒い眼鏡してるし。確かに死神みたいかもしれない。



 (だからって何よ、人を化け物みたいな呼ばわりして)


 私は先ほどの女の子からそいつがいつも何処に居るのかを教えてもらった。どうやらそいつは、休み時間になると屋上に上がるのだそうだ。たまにチャイムが鳴っても、帰ってこないことがあるらしいが、まさか入学早々、不良にでもなっているのだろうか。


(もし、そうなら先生にチクってやろう。折角の入学式を台無しにしたんだ、その報いを受ければいいんだ)


 ふふ、と笑みがこぼれる。私の中で悪魔と天使が、「天使、あなたも悪ね」「いいや、悪魔のあんたほどじゃないわ」と、やり取りをしている。私は笑みを浮かべながら、屋上の入り口のドアを開けた。








 ――――目の前の光景を見た瞬間、私の中の「チクリ計画」は頭の中から崩れ去った。



 




 「―――っっっ!!何してるのよあんたっっ!!!!!」

 「っ…!?」


 私の悲鳴にも似た叫びに、そいつ―――シキコクカズマも驚く。そいつは、屋上のフェンスを登っている途中だったのだ。シキコクカズマは自分に対して叫んだ人物が、私だとわかったのかにやりと笑い、昨日のような態度を取った。


 「なぁんだ!ひまわりちゃんじゃないか」

 「ひまわりって、よ!ぶ!!な!!!」

 「いいじゃ~ん、急に大声で叫ばれてびっくりしたよ」

 「あんたに呼ばれるとムカつく!一体何してるわけ!?」

 「べっつに~?フェンス登ったら意外と高いんじゃないかって思っただけだよ」

 「………」


 そいつはヘラヘラと笑い、私を誤魔化す。嘘だ。そんなことしたって無駄だ。だって、さっきの身体が前のりになってた。飛び降りようとしていたじゃない。


 「ひまわりちゃん?」

 「―――死神はどっちよ…」

 「!?」

 「あんたは死神なんかじゃない、むしろ、あんたのクラスメートが死神なんだっ」

 「ひ、ひまわりちゃん?ちょっと何言ってるかわからないんだけど」

 「…んで…なんで、飛び降りようとしたのよ!!死んだらもうおしまいなんだよ!?」


 私は顔を手で覆い、その場にしゃがみこんでしまった。それを見たシキコクカズマが、私の前でしゃがんで頭に手をのせ、ぽんぽんと叩く。何よ、こいつ。全身真っ黒で、不気味で、ムカつく態度を取るくせに、手は大きくて温かいなんてさらにムカつく。



 「ひまわりちゃん…、ごめん、そんなに動揺させるとは思わなかった、ごめんって。もうしないから」

 「なんで飛び降りようとしたの」

 「ひまわりちゃん」

 「なんで飛び降りようとしたのか聞いてるの、わからないの?答えてよ」

 「……言うまで、顔をみせないつもり?」


 私が答えず、俯きながら頷くとシキコクカズマは「はぁ…」とため息をついた。


 「小学生のころから変わってないよね、ひまわりちゃんは」

 「――――え?」


 無意識に顔をあげる。



 (今、こいつ何て言った?『小学生のころから変わってない』って…?)


 「その頑固なところも、すごく本番に弱いのも、優しいのも変わってないよね」

 「あんた、何言って―――」

 「どうやら、覚えてないみたいだね。ま、人の記憶ってそんなものだよ。印象深い思い出がない限り、昔の記憶なんて忘れちゃうよね。…でも、俺は覚えてるよ、ひまわりちゃんのこと、ずっとずっと覚えてたよ。ひまわりちゃんは?」

 

 やっぱり私は以前シキコクカズマに、会った事があるようだ。私はどうやら忘れてしまっているようだが、一体私は何処で彼と出会ったのだろうか。


 「覚えてるわけないでしょ」

 「そっか、まあそうだよね。俺が急に、ひまわりちゃんの前から姿を消して、そのまま会わなくなったからなぁ…」

 「…私はあんたに用があって来たの。隣のクラスまでいって、そのクラスの女子に居場所を聞いたんだからね。ここまで来たんだから、私の質問にはぜっっっったいに答えてもらうから」


 ゆっくりと深呼吸をして、その口を開いた。


 「どうして私のことを『向日葵』って呼ぶの?それと、なんで飛び降りようとしたの」

 「そうだね、何から答えようかなぁ…。んー、じゃああだ名の質問からね。理由は、俺とひまわりちゃんが小学生の時になるかな…」


 私は何故か、そのシキコクカズマの顔から目が離せなくなっていた――――…


 

 

 





 

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