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プロローグ

 

 『えー、続きまして校長先生から新入生の皆さんにお祝いのお言葉を…』



 校長先生らしき人物が壇上にあがって何かを話してるけど、どうせ内容はよくある「おめでとうございます、勉強頑張ってください」に、何かいい話を付け足しただけなんだろうな。ほんと、つまんない。入学式ってけっこう退屈だ。ただ体育館に入って、立って歌っておじぎして座っての繰り返しだ。せめて何かいいものはないのかなぁ…なんて斜め左前に顔を向けると、私は一人の男の子に目を奪われた。


 寝癖のついた黒い髪に、長い前髪、黒い眼鏡。着ている制服以外は全身真っ黒だ。その男の子は無機物を見るような目をしていて、まるで―――――カラスのようだった。


(何だろうあの子、確か隣のクラスの人だよね)


 校長先生の話が終わり、今度は新入生全員の名前を呼ぶようだ。最初の組から最後の組まで、それぞれの担任の先生が生徒の名前を次々と呼んでいく。ここの返事を失敗したら、大恥かくんだろうな。それだけは絶対に嫌。


『シキコクカズマさん』

「……はい」

「――――…」


 シキコクカズマは小さな声で返事をした。遠くからだと、よく耳をすまさないと聞こえないくらいの大きさだった。こいつ、なんでこの学校を受験したんだろう?見るからにして不良っぽい雰囲気だな。…いや、それはさすがに彼に失礼かもしれない。人は見かけで判断してはいけないって親によく言われてるし。………けれども………


『――――さん』


 この人は一体どこの中学から来たんだろう?この高校はけっこう偏差値が高くてよっぽどの成績を持っていないと受験して合格するのには厳しすぎる。私は必死に勉強してギリギリ合格したけれども、この人はどうなんだろう、後で話しかけちゃまずいかな……?










『日向葵さん、いるなら返事をしてください』








 その先生の言葉で、私の思考は一気に現実へと引き戻された。周りはざわめいて、先生が「静かにしないか!」と注意していて、私の座っている席の近くでは周りの人たちがこちらを見ていた。


(やばいっっ、先生の話を聞いていなかったぁああああああああああああっ!!!)

 

 何てことだ、今日は入学式で親も来てるのに、しかもここは名門校だっていうのに!!!

頭の思考の中で「マズイ」が連呼され、「私はここにいます」言うためにとすぐ椅子から立ち上がり



「ひゃいっ!!……アッ…」




噛んだ。しかも盛大に。



 恐れていたものが現実になってしまった。周りからはクスクスと笑い声が聞こえてくる。私は大馬鹿者だ、こんなことになるんだったら、逆に私がなんでこの学校を受験したのか問い詰めたい気分になった。



『日向葵さん、いたなら返事をしてください。人の話を聞いていましたか?』


 少し年くってる口紅をつけた派手な服のオバサン先生が私に向かって、目くじらを立てていた。私が、「す、すみません…」と謝るとまた周りはどっと笑い出した。また先生が「笑うんじゃない」と注意しているのにも関わらず、笑いは止まってくれない。


(ああ…、さよなら私の『期待していた学校生活初日』…)


それでもしっかりしなきゃな、と考えた私の近くで何やらプッと笑う声が聞こえた。笑い声は斜め左前。


「っ―――――!!」


笑い声の主は、シキコクカズマだった。


                     *


 入学式が終わり、休み時間になって廊下は騒がしくなっていた。男子は取っ組み合いをしたり、女子はコミュニケーションアプリのアカウントの交換をしたり、色々だ。その中で、私が所属しているクラス――――一年F組で、私は愚痴を零していた。


「さいっあく!!普通あんなに笑う!?」

「笑う笑う、だってあんなに大きな声を出しといて盛大に噛むとかありえないっしょ?あーあ、録音しとけばよかったなあ~」

「何よそれ、絶対したら絶好するよ桜」

「冗談だって!そんなに怒らないでよ、ひまわり。」

「……なら、いいけど」


―――――ひまわり。それは、私の小さいころから決まっているあだ名だ。

 私の名前はヒナタアオイ。それを漢字にすると日向葵になるが、その三文字を組み替えるとあの定番の黄色い夏の花、向日葵ひまわりになるのだ。死んだお父さんが、それに気づいて「葵」と私に名付けたのだと、お母さんは私に教えてくれた。それ以来、向日葵が好きになったし、このあだ名も結講気に入ってる。


 学校が終わって私は桜と下校をしていた。桜の花が咲いている川沿いの道を歩く。なんだかトンネルみたいだ。川には水草が生えていて、近くではカモの親子がスイスイと泳ぎ始めている。


「ねえ、桜」

「んー?」

「シキコクカズマって知ってる?」

「シキコクカズマ?」

「うんそう、寝癖ひどくて前髪長くて眼鏡かけてて、声ちっさくて…私のこと笑った、な奴」

「ああ、E組の人か、――――好きなの?」

「はあ!?」


何でそうなるんだろ、私はシキコクカズマの名前を言っただけだ。…というか絶対好きにならない。あいつは私を笑ったのだから。


「意味わかんない、何でそうなる訳?」

「珍しいじゃない、ひまわりが男子の話をするなんてさ」

「うっさい!!で、知ってるの知らないの?」

「せっかちだねえ、知らないよ」

「あっそう!!とにかく私はシキコクカズマには絶対好きになんないから!!絶対ありえないから!!」

「…何、熱くなってんだか」



「そうそう、絶対にありえな~い」


「!?」


突然、声がした。後ろを振り向くと、そこには―――――


「あっ、あんたっ……!!」

「噂をすればってやつだね、こりゃ」


 シキコクカズマがニヤニヤしながら手すりに寄りかかって、立っていた。えらそうに手を組みながら。


「改めてどーもよろしく、ひまわりちゃん?」

「あんたはシキコクカズマ!!何でここに居るのよ!!」


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