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トライアル  作者: 小林健司
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星河朱莉≠残酷

第二話:星河朱莉≠残酷

翌日、まだ太陽が上りきっていない時刻から闇無は動き始めていた。

財布とナイフとリストをポケットに入れ、部屋の鍵を閉じる。

 行き先は決めていない、かといって完全に風任せというわけでもない。リストにある犯罪者を目安に移動するつもりでいる。

電車を乗り継いで移動を繰り返し、最初の町からかなり離れた県へとたどり着いた。

すぐに駅近くのビジネスホテルにチェックインしてから町を視察し始める。

ここにはある金貸しの戸田とだ武典たけのりが住んでいるという事で、闇無はこの町ではそいつをターゲットに滞在する予定だ。

視察といっても直接家を見に行くわけではなく、あくまで身辺を調査するだけのつもりで歩きまわる。

特別古いわけでも、新しいわけでもない商店街を歩いていると、見覚えのある後ろ姿があったので話しかけるべきか迷った。しかし後で見付かったときのことを考えて話しかけた。

「星河さん?」

「え、ああ、えっと……やみなしさん」

「くらなしです」

「うっ……す、すみませんでした」

「いえいえ、今日は非番ですか?」

すると星河は顔を困惑したように頬を引き攣らせて、

「ええ、まあ」

 と答えた。

ここまで明らかにごまかされると、逆にごまかしていないのではないかと思ってしまう闇無だが、とりあえずは保留ということにしておく。

「貴方は?」

まさか金貸しを懲らしめに来たとは言えない。本気にするか、はぐらかしていると思うかの二択だとしても、本気にされたときの面倒臭さは無視できない。なので、

「友達の家に遊びに来ました」

と、小学生みたいなことを言った。先程の二択のどちらを選ばれても問題はないはず、と。

「それより、高橋与助のことで何か分かりましたか?」

「守秘します」

「ありましたか、仕事が早いですねえ」

「なんで分かったの!?」

「かま掛けました」

「うわあ」

新情報があることは当事者としては微妙だが、その反面嬉しくもあった。闇無の思い描く未来へと前進しているような気がしたからだ。

「何が分かったんですか?」

「それはダメ」

「一応言っておきますが、新情報があるという情報を一市民にばらしたのは重大な問題ですからね。意外と」

「うっ」

「俺、結構頭いいので捜査に役立つかもしれませんし、いかがですか?」

「……ちょっとだけだよ」

口軽いな。と思いつつ、立ち話はなんだからと闇無は星河と近くのファミリーレストランに入店した。

「実は被害者の高橋与助って、親戚に警察関係者がいるらしいの」

いかにも重大な事実のようにそれを語る星河を見て闇無は少し呆れた。それから前科があることをこの警察官は知らないだろうと見越して、

「そういえば高橋与助って、昔ニュースで出ていましたよね」

と、情報を闇無から提示することにした。

案の定星河は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をする。

「詳しく教えてくれる?」

「……数年前、都内の男性が、顔面をナイフでめった刺しにされて死亡した事件がありました。その容疑者が高橋与助です」

星河はメモをとりながら聞いている。

「でも、高橋に前科は無かったわ」

「でしょうね。高橋与助の親戚が警察官僚でその人によって証拠は揉み消され、高橋与助も逮捕されませんでした」

闇無は興奮しすぎないように、すっとコップに入った水を一気に飲み干し、それから星河に聞こえない様に小さくため息をついた。「そんなことがあったなんて知らなかった……」

「……というわけで、怨恨の線で調べてはいかがですか?」

「うん、そうね。ありがとう。絶対犯人を捕まえるから」

力強くそう言い放つ星河に、闇無は一つ質問をぶつけた。

「星河さんは、なんで犯人を捕まえたいんですか?」

「なんでって、そりゃあもちろん……」


***


星河と別れたあと、闇無はすぐに戸田の家に向かう事にした。

戸田は言ってしまえはどこにでも居る闇金融業者だが、この辺りでは有名な奴なのだ。例え死んでも、他が大きく威張りだすようになるまである程度の間平和なはずだと闇無は戸田を目標にした。闇無はまだ準備が完了していないのだが、当初の予定を変更して例外的に雑な殺人をする必要があるかもしれないと考えていた。

「でさー、また稼いじゃったんだよねー」

狭い路地から若い女の声が聞こえてきて、ふっと顔を覗かせた。すると黒髪ロングに膝上十センチメートルくらいの、ぱっと見ただけでは真面目な印象を受ける女子高校生が、スマートフォン片手に歩いていた。

「えー、大丈夫っしょ、死んだのってこの前のオッサン一人だけだし」

そこで、闇無は動きだした。

「君、ちょっと良いかい」

「あ、ごめーん。なんか変な人に声掛けられてんだけど、ちょっと切るわ」

えらく素直に電話を切って身体の正面を向けた事に、闇無は少し感心した。

「オッサン、なんか用?」

「……一応まだ一八なんだがな。まあいい、君がさっき話してた事なんだが、詳しく聞かせてくれないか?」

「盗み聞きとかマジきしょいんだけど」

「あんだけでかい声で話してたら表の道を通った人皆に聞こえてるさ。さあ」

そうすると女子高校生は怠そうに頭を掻きながら話し始めた。

「ここだけの話し、アタシらん中で流行ってるんだよね、電車で後ろに乗ってきたオッサンに痴漢すんなってのが、すっと金くれっしさ、みんなびくびくしてて簡単? みたいな感じ」

「死んだ、ってのは?」

「ああ、それ? なんかあ俺はしてないっつって金くんなかったオッサンが、自殺したっぽくて、ケーサツとかしつこく話し聞いてきてうざいんだよね」

大分イライラして来たが、今はまだ感情を抑えて、堪えている。

「そいつは痴漢をしたのかい?」

「はあ? そんなんありえないし、きったねえオッサンに触られたらマジ死ぬ」

「つまり、それも冤罪。だよね」

「だから?」

それを聞いて、闇無は核心をもってポケットのナイフを握りしめた。

「悪かったとは思わないかい?」

「あはははは、なんでアタシが?」

ナイフを握った手は隠したままゆっくり近づく。

「君は一人の男を追い詰め、死へと追いやったんだ」

「勝手にオッサンが死んだだけでしょ? つーか死なれて被害受けてんのアタシなんですけど」

間合いを十分詰めた所で、闇無はすっと女の喉を切り付けた。

「あっ!?」

その拍子に女子高校生は仰向けに倒れこんでしまい闇無は馬乗りになってナイフを突き付ける。

「俺は何者でもないよ。ただし、君に心当たりがあるのなら……ソレだ」

女子高校生は声の出なくなった口をパクパクさせて泣きながらごめんなさいと言っているようだが、それはもう誰にも届かない。

「何が言いたいか分かるよ。俺は読唇術を心得ているからね」

その瞬間女子高校生の目が少しだけ輝きを取り戻したが、闇無は続けて、

「でも君は許されない」

 と言ったのですぐに絶望したような瞳に変わった。

それでも諦めないのか、微かな希望を持っているのか、女子高校生は口を動かすのを止めようとしなかった。

「君の声は届かない。彼らと同じ様に」

闇無は女の心臓を一突きして、女子高校生を殺害した。殺して、鞄から財布を抜いてその場から退散する。


***


一旦ホテルに戻り、鍵をしっかり閉じて財布の中身を確認した。

所持金は五万弱、高校生でアルバイトをしていると考えればけして不自然な額ではないだろうが、闇無はそう考えなかった。

財布と一緒に持ってきてしまった、生徒手帳の名前を見て気づいたからだ。

彼女の名前は柳葉やなぎば信子のぶこ。闇無のリストに載っていた人物で、闇無は忘れていたが彼女の自白した通り痴漢冤罪を繰り返し起こして金をせびっていたようだ。そして立ち向かってくる人とは裁判で闘って勝訴し、世のサラリーマンを苦しめていた。そして、そのせいで一人の男が自殺した。

 時間があれば殺す予定だったので結果オーライだが、その結果この場所に更に居づらくなってしまった。

(どうするかな……)


***


 結局、闇無はチェックインしたその日に帰るのは不自然だということで、当初の予定通りの日にちにチェックアウトした。

その間、町を適当にぶらぶらしていたが星河に出くわさなかったことを心の底から幸運に思った。

 しかし、次の県へ移動する前に一休みしようと寄ったカフェで、星河と再会してしまう。

「えと、……闇無さん」

「正解です」

感情を込めずに淡々と言いながら、星河の隣へゆっくりと腰を落とした。

「驚いたな、てっきりもう帰っちゃったのかと思ったよ」

「ええ、久しぶりだったのでだらだらと居座ってしまいまして。星河さんこそこんなに長く居るなんて、異動ですか?」

「違うよ。ほら、三日前にこの辺りで遺体が見付かったでしょう。それについて調べててね」

 そう言うと、星河はまだ湯気のたっている熱いコーヒーを一口だけ口に運び、自分を落ち着かせるように飲んだ。

「許せないよね。まだ未来のある女子高校生を殺すなんて」

星河は怒気に満ちた表情でそう呟いた。

ここで闇無も水を口に運んだ。

「私の見立てではね、犯人は男だと思うの」

 再び水を口に運ぶ。

「ちらっと遺体見たんだけどその娘可愛かったかし」

水を運ぶ。

「きっと振られたとか、逆恨みによる犯行じゃないかなって」

闇無は力強くカウンターを叩き、席についたときと同じ様にゆっくり立ち上がった。

「……失礼しました」

「どう、したの?」

「あなたはもっとちゃんと事件を調査するべきだ。もし……あの時の言葉が、ただの聞こえの良い台詞ではないのなら」

 闇無はそう言って星河を眺め、簡素に会計をすませて出て行ってしまう。

 残ったのは、唖然とした様子で少し心苦しくなっている星河と闇無の綺麗に空っぽになったコップだけ。

 平静さを取り戻して星河は闇無に言われたことを思い出していた。

 もっとちゃんと調査するべきだ。確かに星河自身ももう少し資料を読んだり、聞き込みもしたいと思っていた。

 でも、そこを指摘された訳ではないと分かっている。あの時言ったことも、嘘偽りない真意だ。

 しばらくして、星河は気づいて静かに涙を流してる。

(そっか、私が嫌だと思ったのはそういう所じゃなかったんだ。去り際に闇無さんが見せたあの目だ。冷たくて、軽蔑しきった目で、それなのにまっすぐ私を見ていたことが、すごく苦しくて嫌なんだ)

 星河は今以上に泣いてしまう前に、カフェから出て近くに停めていた車へと戻った。

「……っ、……っ」


***


 闇無は、一度自宅へと帰っていた。というのも先の場所で星河と出会ってしまったから着替えるためだ。もしこの服のままでいたら、次に出会ったときに不信感を持たれてしまう恐れがあると考えて、戻ってくる事を決意した。

 星河はまだ新米とは言え、警察官、油断してはいけない。

 そして闇無は知っていた、まるで吸い寄せられる様に事件に引き付けられる人間が居ることを。そして、星河はまさにそれだと思っていた。故に、疑われるかは別にしてまた会うと確信していた。

「こんなもんか」

 身支度を整えるとはリストを取り出した。

 思わぬ所で殺した柳葉と、殺しづらくなった戸田。それから柳葉を殺したから殺す必要が薄くなった者。それらをおおよそ復元出来ない所まで破り、ごみ箱へと入れる。

 その後、残った内から次の目標を決め、善は急げ、と自嘲気味に思いながら再び部屋から出た。


***


 泣き止んだ星河は、早速柳葉について同じ高校の生徒や、付近の交番などに聞いて回っていた。

 すると、星河にも彼女が冤罪を故意に起こしていたり、サラリーマンから金を巻き上げていた事が伝わった。そこでようやく闇無があれ程までに激昂した理由が分かった気がして、星河は、自分はどうしようもなく浅はかだ。とカフェでの発言を後悔した。

(最初からしっかり調べとくんだった。まさかあんなに真面目そうな娘がこんなことしていたなんて夢にも思わなかった……。そっか彼女はそうやって、周囲の大人の信頼を得て自分に都合の良い嘘で男の人を陥れていったのね。そうでなくても痴漢は疑われて警察に連れて行かれただけでも世間からは冷たい目で見られるのに……。私も警察も世間も、そういった男女差を見て見ぬ振りをしているんだ。だから、あの娘を作ってしまった。いや何もあの娘だけじゃない。表面化しないだけでそれは確実にどこにでも居る。それなのに……それなのに……私は……)

 聞き込みを終えて星河は再び落ち込んだ。


***


そう言えば、近所のスーパーに行けていなかった事を思い出した闇無は、スーパーへと向かう。

高橋の家はもう立入禁止のテープが剥がされて、ただの家に戻っていた。

前回とは違い、今日は特に問題もなく店に入る。

そしてお目当てのデザートのコーナーまで来た。

闇無はこのスーパーで限定販売されているプリンが大好物で、昔は週に何個も食べていたほどだ。

闇無が、味を思い出しながらワクワクして手を伸ばすと突然横から手首を捕まれた。

(っ! 警察か!?)

急いで腕を払って体制を立て直し、相手に向かい直す。

「……朝倉」

「やあ、久しぶり」

そこには闇無と知り合いであった朝倉あさくら夜明よあけが両手を振って立っていた。

そのそぶりは一見すると性別を分からなくするが、しっかり顔を見ればまごうことなく男であると分かる。

「偶然、じゃないよな」

「まあね、今日は居るって確認してから来たんだ」

朝倉は悪戯が成功した子供の様にくすっと笑う。

「相変わらず、お前は気持ち悪いな」

「そんなこと言わないでよ。僕らは同じなんだから」

 笑みを崩さず、射ぬくように見る。

 闇無はこの朝倉と言う男を好きではない。

 同族嫌悪。

「……いつからお前の一人称は僕になったんだっけ?」

「中学の時からたまにだよ。それより……そんなこといい加減止めなよ。今ならまだ僕がなんとか出来るから……戻ってきてよ」

 中学の時、それに闇無は反応し、顔をしかめた。

「無理だな。お前になんとかしてもらうのは、俺の主義に反している」

「闇無……でも」

心配しているのは本心、というか本性で言っていると理解出来たが、それでもなお、

「悪いな」

 と、誘いを断る。

 そしてプリンを一つ丁寧に取り出し、闇無は朝倉から離れ会計を済ませると、一先ず家に帰った。

 闇無、それでも俺は諦めない。と、朝倉は密かに決意する。


***


 一方その頃星河は、

「てめえ勝手にどこ捜査してんだ!」

「すみませんっ」

「すみませんじゃねえんだよ! 何回言わすんだ」

 有給休暇を使って別の管轄の地域を勝手に捜査していた事がばれて、またしても叱られていた。


   第二話 完

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