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トライアル  作者: 小林健司
リビング
19/19

永劫時空

最終話:永劫時空

 ようやく手に入れた指輪を中指にはめ、祈りを込めて囁いた。

「どうか私の願いを聞いて下さい」

 頭の中に直接響いているような声がする。

(願いはなんだ)

 心の中に彼の笑顔を思い浮かべる。

「私の願いは………」

(よかろう。ただし、代償を頂く)

「ええ、もちろんそのつもりです」

 これで……やっと。


***


「俺の勝ちみたいですね。ちゃんと奢ってくださいよサム」

「おいおい、そりゃないぜシーグレイ。またカミさんにどやされちまうよ」

「誘ってきたのはそっちでしょう」

 なんとも緊迫感のない会話で信じて貰えないかもしれないけれど、ただ今戦争真っ只中だ。

 俺は、サムと、サミュエル・グリード・ゴードマンという傭兵仲間と、今晩の酒代を賭けて勝負している。

 実に不謹慎だが、敵兵を倒した数を競っていた。

「チキショー! 見てやがれ、こっから挽回してやる!」

「ふっ、無駄ですね」

 サムが無駄弾打ってる隙に、落ち着いて更に二、三人仕留めた。

「ふふっ、いくら撃ってもゴーストは数に入れませんからね」

「分かってるよんなこたあよ!」

 下手な鉄砲なんとやら。それでも追加で一人は仕留められた様だ。

 だが俺の勝利は揺るがない。もうこの辺に兵士は居ないはず。

「ん? なんだ」

「どうかしましたか?」

「女がこっち来る」

「はい?」

 またそんな事を言い出した。

 前にも彼は適当な事を言って話をうやむやにした事があった。

「もうその手は食いませんよ」

「いやマジだって」

 あまりにも真剣に言うので、俺も壁から顔を少し出して外の様子を見る。

 こんな所に女なんて居る訳が……。

「あっ……」

「撃っとくか?」

「撃ったら殺します」

「なんだよいきなり」

 言葉に過剰に反応してしまった。

 いけない、いけない。

 しかし。

「英語が出来たなんて意外ですね」

「……覚えたんだよ。必死にね」

 まさかこんな所で再会するなんて。

「知り合い、か?」

「ええ、まあ……」

「私は時雨さんの嫁です」


***


 基地に戻ってからすぐ指揮官に事情を説明して、音里ちゃんを中に入れた。

 戦争といっても、市街地で行ってる内戦のようなものなので、ビルの一室にある。

「酒は良いから離れててくれよサム」

「おいおい、ブラザーのワイフに挨拶も無しに飲めるかよ」

 俺の奢りだ。と言っているが、それは俺が賭けで勝ち得た物だ。

「時雨さんは自身とは対極の方と仲良くなりますよね」

「無意識だよ」

 もう一人はきっと草薙さんの事を言っているのだろう、確かにサムと草薙さんは似てるかも。

「……立派になりましたね。傭兵ですか」

「さすがに三十路だしね。高校卒業してない俺が生きてくにはこれが一番手っ取り早いから」

 『卒業写真集タイム』を無くして、順当に歳をとったからガキ扱いはされなくなった。

 音里ちゃんも大人っぽくなって、もう少し時間が経ってたら気づかなかっただろう。

「お前三十代だったのか!? てっきり年下だと思ってたぜ」

「サム、黙ってて」

「へへっ、分かったぜアニキ」

 おどけるように肩をすくみ、サムは手に持った酒を一気に飲んだ。

 嫌いじゃないんだがな、もう少し控えて欲しい。

「で、どうしたんだい? こんな所まで」

「貴方に会いに来たに決まってるじゃありませんか。探すの大変でしたよ」

 大変か、朝倉さんに聞いたわけじゃないんだ。

「会いにね、今更?」

「はい、ようやく手に入れたので」

 音里ちゃんが指に着けていたのは、悪魔の指輪だった。

「……願いは叶った?」

「恐らく」

「何を願ったのか教えてもらっていいかな」

「それはもちろん良いですとも、なぜなら、私が願ったのは時雨さんの能力の復活ですから」

 復活。

 一〇年前に闇無さんの命と引き換えに失った能力。

 そんな物をわざわざ祈ってくれたのか、この子は。

「成功、してる?」

「知らないんですか?」

 知らない。

 確かに無くしてから最初の四、五年は使えるように戻ってないか確かめたが、結局無理だと分かったので諦めた。

 だけど、

「……『引き篭り(エリア)』。手の平の上のサイコロ大の空間を凝固する」

 すると、綺麗にサイコロのようになった空間が手の平の上に落ちた。

 確かにこれはあの頃と同じ物だ。

「『卒業写真集タイム』。俺の身体の傷を、付く前の時間に戻す」

 身体の傷が、まるで消しゴムで消したように消えていった。

 戻ってる。

「…………」

「では時雨さん、左手を出して下さい」

「はい」

 上機嫌のまま俺は言われるがまま左手を差し出し、流れるように薬指にすっぽりと指輪がはめられた。

「え、なに?」

「指輪は能力を失いましたが、これで時雨さんは逃げられませんよ」

「ごめん、何を言ってるのか分からない」

「代償です。お父さんを生き返らせるために時雨さんは真人間になりました。しかし、時雨さんの能力を取り戻すために私は人間性を捨てました」

 真人間……。

 じゃなくて、人間性を捨てた?

 つまりまた不老不死に逆戻りしたってことか。

「時雨さん、こんな私のこと嫌いになりましたか?」

 気のせいではなく、感情の起伏が乏しくなった音里ちゃんは、昔の様に淡々と聞いてきた。

 俺の為に人間生活を捨ててくれたのなら、奔走してくれたと言うのなら。

「大好きに決まってるじゃないか」

「知ってました」

「うん。そうだよね」

 何が起ころうと、二人でならきっと生きて行ける。もう絶対に君を一人にはしない。


***


「ところで、三四歳にしても若くありませんか」

「あ、うん。身体は二四歳だから」

「つまりあの頃は一四歳だったと?」

「身体だけだよ」

「そうですか」

 納得するように俺の成長振りを見ている。

「なんと言いますか、その……格好よく成長しましたね」

「そう? 確かに背は伸びたけど」

「カッコイイです。流石は私の旦那様」

 その褒められ方は素直によろこんで良いのかな。

「ではさっそく子供作っちゃいますか?」

「……そのうちね」


***


「よおシーグレイ! 次はヨーロッパらしいぜ」

「了解です」

 ヨーロッパか、楽しいと良いんだけどな。

「あの、そのシーグレイってなんですか?」

「え? ああ、これはね、こっちで自己紹介したときに聞き間違えられたんだよ。時雨をシーグレイって」

「……また中二病なのかと思いましたよ」

「ははっ……」

 俺の印象そんななのか……。まあ、永い時間の中で変えていってもらえばいい。いくらだった時間はあるのだから。

   「トライアル」 完

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