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トライアル  作者: 小林健司
リビング
14/19

時空奏者

第十四話:時空奏者

 自分が一番ダメだということは自分が一番分かっている。

 自分がしている事なのにどこか客観的に見えてしまい、その行動を否定している自分が居る。

 自分が行っている事を、何故か無条件で正しいと主観的になっている自分が居る。

 それがどうしようもないくらい歯痒く、気づけばイライラしていた。

なにもしたくなかった。

 そんな時だった、彼を目撃したのは。

 自分のしたい事をやり続け、自分が終わりたいように幕を降ろす。

 それこそが俺のなりたいものだった。

 だけれど、気づいた時にはもう遅かった。

 俺の心はいつの間にか遠く離れていってしまった。

 俺の体はいつの時からか重く沈んでいた。

 そんなときに俺は朝倉さんと所長に出会った。草薙さんと出会い、そして音里ちゃんと出会った。

 心は近くに戻ってきた。

 体は軽く浮いてきた。

 俺はダメな自分を受け入れると決めた。


***


 デートだ。

 二日連続というのは血気盛んな子供みたいだけれど構わない。

 今日は俺の運命を変えてしまうかも知れない日なのだから。

「あれ、早いね」

「もう九時半ですから、そうでもありませんよ」

「約束の三〇分前なら来ていないと思ったのに、甘かったか」

 というか、もうって事は大分前から待ってたのか。悪い事しちゃったな。

「でもおかげで三〇分も早く出雲さんにお会いできました」

「そうだね。じゃあ行こうか」

「はい、今日はどちらへ?」

「隠れ家」

 近くのビルの屋上に上がって『引き篭り(エリア)』で俺達二人の周囲を囲み、内装を和室の様に変えた。

「……こんな事も出来るんですね」

「うん、『引き篭り(エリア)』は空間を操る能力だからね」

 空間に関しては総て思うがままだ。

「完全に隔離しているから誰も外から干渉出来ないし、会話は絶対に漏れない。ここなら安心だからね」

 畳に触れたりして、聞いているのか分からないまま一応そう伝えておいた。

「分かりました。これで誰に邪魔される訳でもなく私を好き勝手にしようという魂胆ですね?」

「魂胆って」

 そこまで大それた事を考えているつもりはない。

「違うのですか?」

「……今は違う」

「今は、ですか」

 俺の希望的観測だと、今音里ちゃんは少し嬉しそうだった気がする。

「とにかく俺の能力についてだったね」

「はい」

「俺は空間を操る能力の『引き篭り(エリア)』の他にもう一つ能力を持っている」

これを知っているのは俺と、何でもわかる朝倉さんの二人だけだった。

「能力名は卒業写真集と書いてタイム。時間を操るという能力」

「…………」

「止めたり戻したり進めたり、昨日のファンシーショップを直したのもこれ」

「なるほど、そう……だったんですね」

「うん。で、昨日音里ちゃんは永遠の中学生と死ぬまで添い遂げる覚悟はあるかって聞いたよね」

「はい」

「悪いけど、これのおかげで俺も永遠にこのままさ。死ぬ訳ないし、添い遂げる覚悟は最初に会った時から決めてたよ」

 自分で言ってて若干気持ち悪い気がしたけれど、果たして大丈夫だろうか。

 そんな事考えてたら音里ちゃんは急に抱き着いて来た。

 え、何?

「すみません。感情の表現が苦手なので行動で示させていただきます」

「あ、ああ。分かった」

「私は気持ちとしては今泣きたいくらい嬉しいです」

 良かった、受け入れて貰えたようだ。

 そして、今度は彼女の話になった。

「私は人ではありません。作られた物です。寿命も成長もない、嘘を見抜くだけの物でした」

 改めて言われるとなんだか嫌な感じだ。

「こんな私は人を好きになることも、まして結婚することなんて出来ないと思っていました」

 音里ちゃんはいつも通り淡々と話をしているはずなのに、なぜだかとても悲しんでいるように聞こえた。

 感情を込めて話しているように。

「出雲さんは人間です。寿命もあります。死なないことを頼むなんて酷いですよね。分かっているのに、出雲さんがああ言ってくれて本当に嬉しいと思ってしまいました」

「そう」

 なんだか俺が思ったより考え込んじゃってたな。

「こんな私ですが、末永くよろしくお願いします」

 とりあえず頭を撫でてみた。

「それはそうと、なぜそんな能力を隠していたんですか?」

 切り替え早い。

 いや、無表情だから余計にそう感じるだけか。

「だって知ってるでしょ? 能力は闇無の演説を聞いていて死ぬほど叶えたいと思った願望がなるんだって、『引き篭り(エリア)』だけでもしょうもないのに、大人になりたくないって思って得た『卒業写真集タイム』なんて、どんだけダメ人間なんだって思われちゃうじゃん」

 朝倉さんはそんな俺を究極のニートと笑った。

「では私も秘密にしておいた方がよろしいですか」

「いや、報告しようと思ってるんだ」

「はあ……」

「結婚も、お義母さんに許してもらわないといけないからね」

 俺がそう言って笑うと、微かに彼女も微笑んだような気がした。


***


「で出雲さん。『卒業写真集タイム』なんて素敵な能力があるなら昨日のうちに話しても良かったのでは?」

 『引き篭り(エリア)』を解除し、再び町へ出たら音里ちゃんはそんなことを言い出した。

 割とぶっ飛んだ話をしたにも関わらず、色々考えが回る子だこと。

「それはほら、ちゃんとデートしたかったなって思ったから」

 最終的にキスまでしたとは言え、デートの途中で店が大破するアクシデントが起きたなんてありえないから。

「そうですか。今日はどちらへ行くのでしょうか」

「うん、今日はね……」

 と言うとすぐに俺の携帯が鳴った。

 電源を切っておくべきだった。

「どうぞ」

「ごめんね」

 気を遣われてしまったので、急いで電話に出た。

「もしもし」

「もしもし! 出雲くん今どこにいる?」

 電話の相手は所長ことお義母さんだった。しかもなんだか焦っているような感じだ。

「町。駅前です」

「良かった! 実はその近くの銀行に強盗が入ったから捕まえに行って」

 頼みじゃなくてもはや命令だ。上司だからあたりまえだけど。

「了解です。ところで休暇中なので手当ってつきますか?」

「急いでね」

 切れた。

「お母さんなんて言ってました?」

「仕事だってさ、ちょっと銀行によって良いかな」

「ええ、どうぞ」

 せっかくのデートで仕事を優先させると言うのに、嫌な顔一つせず許してくれてなんとなく罪悪感があるな。

 原因がお義母さんだとしても。

 ああそうだ、今日は犯人でストレス発散をしてしまおう。


***


 駅前某銀行。

 俺達が現場に到着すると既に民間の警備団体がいくつか来て、犯人と交渉していた。

 関係ない。

 俺達は銀行の裏側にある非常口から目立たぬように『引き篭り(エリア)』を使って銀行内に潜入した。

「出雲さん、よろしいのですか?」

「何が?」

 銀行の中なんて入ったことないからちょっと迷いそうだ。

「普通こういう事件が起こった場合は、他の民間企業と提携をとるのが定石だと思うのですが」

「良いの、ムカつくから」

 ちらっと見えた警備団体の中に、朝倉さんの知り合いの会社の制服が見えたので後でよろしく言っておこう。

 今日は犯人を殴りたい気分だから。

「あ、見えましたよ」

 ドアを少し開けると、窓口のちょうど後ろに来ていたことが分かった。

 犯人達は電話と人質と外の警備団体しか見ておらずまだバレていない。

 あんまり詳しくないから名前とかは分からないけれど、犯人は普通の拳銃で武装している。もちろん目だし帽で。

 人質は一般人一三人と銀行員五人くらい。

 しかし、どうして闇無さんはあれ程有名なのにああいう人質の中に能力者は居ないのだろうか。

 死ぬほど叶えたい願望なんて意外とないんだな。

 そんなことより、人質と犯人の距離が近くて少し面倒臭い。

 もっと離れててくれた方が、人質に対して『引き篭り(エリア)』を使って擬似バリアを作りやすいのにな。いや、別に作れない訳じゃないけど、一人一人作らなければならないので面倒臭いということだ。

「……よし、人質は諦めよう」

「何を言ってるんですか出雲さん」

「じゃあ危ないからちょっと此処にいてね」

 ドアを勢いよく開けて現場に乗り込んだ。

 そして音里ちゃんが来る前に後ろのドアを閉じる。

「お前……どこから入った!」

「うるさいです。面倒なんでさっさと捕まってくれませんか?」

 すると犯人達は一斉に銃口を向けてきた。

「おら、さっさと両腕挙げろ」

 まったく、少しは交渉しようという気はないのかよ……あー、その辺りはもう他がやっているか。

「てめえが来たって事は交渉決裂だな。人質は殺すぜ」

 これまた一斉に銃口を人質側に向けた。息がピッタリだこと。

「殺せば? 他の会社は知らないけど、俺は上司からは犯人を逮捕するようにと命令されただけなんで、人質の安否はどうでも良いです」

 あ、どうでも良いじゃなくてどっちでも良い、だ。いけないいけない、うっかり言い間違えてしまった。どんなにイライラしていても冷静にならないと。

「あれ、撃たないんですか? じゃあそんな物騒な物早くこちらに渡してください」

 その台詞を合図にするように、犯人の一人が人質を一人撃った。

 頭を撃たれているので即死だろう。

「馬鹿にすんなよ。分かったらさっさと車を持ってこい」

 求めていたのは逃走用の車だったか。

 そういえばこういう立て篭もり犯はよく車とかを要求するけれど、発信機が着いてるとかどうして考えないんだろう。

 どうでも良い。

「え? いやいや、こっちにはまだ一七人残ってますから。そうですね、お腹とか空いてません?」

 次は同時に七発。

「空いてねえよ」

「ですか。じゃあ自首とかは」

 八発。

「おうおう、どうすんだ? 大事な人質がもう二人だけになっちまったぜ?」

「……バーカ」

 二発。

 あらあら全員殺されてしまった。

「最低の交渉のせいで人質全員死んじまったなあ! どうすんだい?」

「どうもしません。というかそちらこそどうするんですか? 交渉の材料全員殺しちゃって、失う物は何もなくなった外の人達はいつでも突撃できるようになったんですよ? 交渉を受ける必要もなくなったし」

 事実を述べると後ろの犯人達はざわめきだした。

頭悪いな。

 立て篭もり犯が人質を全員殺した場合、次は自殺するのがよくあるパターンだが、どう出るのだろう。

「クソッ! こうなったらてめえを新たな人質として……」

「『引き篭り(エリア)』」

 なぜか銃を捨てて素手で俺にかかってきてくれたので『引き篭り(エリア)』を使って犯人の一人を捕まえる。

 すると、今まで居た他の犯人も動きを止めた。

「なるほど、これが貴方の能力か」

 動きの止まった犯人の目だし帽を一人ずつ剥がしていくと、驚く事に全員同じ顔をしている、つまり。

「自分のコピーを作る能力、ですね」

 『引き篭り(エリア)』の中にいる犯人には聞こえてないので独り言だ。

 おそらくコピーは自立型ではなく本人が操縦するタイプだったのだろう。

 ああ、だから動きがあんなに綺麗に揃ってたんだ。納得した。

 さて、血の海をそのままにしたら後々厄介になってくるので、何とかしないとな。

「『卒業写真集タイム』。人質の時間を犯人が立て篭もってすぐの時間に戻す」

 朝倉さんに倣って一人寂しく能力名と何がしたいかを言ってみた。

 恥ずかしいよな。

「あれ……貴方は?」

「UPの出雲と言います。皆さんを助けに参上致しました」

 その後、外にいた他の会社の奴にうるさく言われたが、『引き篭り(エリア)』で皆を守ったと説明して銃声をうやむやにした。

「よお出雲、来たぜ」

「草薙さん遅いですよ。使い物にならない能力ですね」

「はあ!? てめえの仕事やってたから遅くなったんだろうが!」

 まあどうやらノリは元に戻ったようだ。

「こっちは休暇の、デート中に呼び出されたんですよ?」

「あ、あー……お嬢と?」

「そんな呼び方していたんですね。まあ、はい。音里ちゃんとですが」

「なんか睨んでんぞ」

「あはは」

 軽く愛想笑いをしてみたが、二人は笑わない。

 適当に犯人を殴って外に放れば良かったモノを、銃を撃たせてしまったため俺自ら報告しなければならなくなり、つまり今日のデートも本当に中止になってしまったわけだ。

「音里ちゃん」

「大丈夫です。出雲さんはしっかり報告書を書いてください」

「……うん」

 ちょっとくらい文句を言ってくれた方が気持ちとしては楽なのに、とわがままにも思ってしまう。

「お前お嬢と居るときの口調キモいな」

「空気を読んでくださいよ草薙さん」

 だいたい貴方に話すような口調で他の人と話さないって。


***


「どうぞ」

「ん、ありがとう」

 事務所に戻っても音里ちゃんはいつもと変わる事なく事務仕事をこなしている。何事もなかったかのようだ。

 感情を出すのが苦手とかって自分で言っていたし、本当はすごく悲しんでいるのかも知れない。

 ……それは俺の方か。

 あまり自惚れると後で恥ずかしい結果になるからよしておこう。

「…………」

 黙々と仕事していてもつまらないので、少しだけ仕事の内容についてふれておこう。

 報告書には通常、事件が起こった日付、解決した日付、それから記載している日付の三つ程を書く必要がある。

 報告書には他に、記載者の名前や所属団体と、犯人の名前と能力、犯行内容について書く。この時の能力名は特に書き記す必要はないけれど、うちの所長の意向から朝倉さんが付けた名前を書いている。

 また、この作業が長くかかってしまう原因の一つに、能力への対応策を考察するというものがある。

 逮捕した方法ではなく、一般人が出来る方法を考えなければならない。

 『現実逃避エスケープ』も『意地っ張り(チキンレース)』も考えた。

 『現実逃避エスケープ』は、とにかく相手の視界を遮る。

 『っ《ン》レーり《ス》』は気合いで勝て。と、草薙さんが書いたらしい。

いやいや対策出来てないから。後で裁判所から突き返されるだろう。

 まあ、という感じに実践で出来るかはともかく、被害を受けないようにできる方法を書いている。

 さて今回のは、どうしよう。

 今回は最初から『引き篭り(エリア)』使ったから正確な対処方とか分からないんだよな。

 本体との繋がりが切れると動かなくなるのは分かったんだが……。

 メールだ。朝倉さんからか。

『やっほー朝倉さんだよ。突然だけど今回の能力の名前を、蜃気楼と書いて、ミラーズとしまーす』

 珍しく熟語をいじってないままの名前だ。

 ミラーズ、鏡達かな。あれ、まだ続きがある。

『P.S.それの対応策なんだけどさ、本体を気絶させたりすれば良いんだよ。だから早く仕事を終らせなさい』

 ……なるほど、だったら喋るのは本体だけなのでそこから本体を見つけ、気絶させると無力化出来る、で良いかな。

 何で直接見ていないのに俺の考えを読んだみたいな事言えるんだろう。

 とにかく、朝倉さんのアシストのおかげで面倒な項目が楽に終わった。

「所長、書類置いときますね」

「はーい、上がって良いわよ」

「音里ちゃん連れ出して良いですか?」

「え、良いけど門限の一〇時までには家に帰してね」

 特に説明もしないまま、音里ちゃんを連れて事務所を後にした。


***


 町の中央にあるちょっと高めのレストランで、俺達は食事をしている。

「いつ予約していたのですか?」

「昨日、ああ能力を使ったんじゃなくて本当の昨日だよ」

 元々夜になったらここで食べようと思って予約していた。

 日中の予定は色々キャンセルしてしまったが、時間さえ間に合えばここは大丈夫だったので何とか仕事を早く終らせた。まあ、朝倉さんのアシストがなければ微妙だったけど。

「デートの締めを高級レストランでのディナーだなんて、出雲さんはベタが好きですね」

「デートなんてしたことないから仕方ないでしょ」

 でも俺の持ってる本とかビデオだと、大概デートの締めはディナーだから間違いないと思ったんだけど、古かったかな。ビデオ。

「そんなに落ち込まないで下さい。私もベタは好きですよ」

「慰めないで」

「出雲さんの次に好きですよ」

「俺って何番目?」

「ぶっちぎりの一位です」

 顔が熱い。

 きっと俺の顔は茹でダコのように真っ赤だろう。

「……あれ、所長は?」

「お母さんは今日の件で三位にランクダウンです」

 今までは堂々の一位だったであろう所長が下がるのは、少し自惚れても良いのかもしれない。

「しかし、よくこんなお店にこれるお金がありましたね」

「ああ、朝倉さんに借りたんだよ。借りたっていうか、気付いたら振り込まれてたんだけど」

 なんでも分かる人だからもう気にしてないけど、なんで口座知ってんだろう。

「またあの人ですか」

「前から思ってたけど、音里ちゃんって朝倉さんの事嫌い?」

「いえ、何と言うか、私は相手の嘘を見抜けるので、考えが読めないあの人は苦手なんです」

 なるほど。確かに最初から読めるとああいう人は苦手かも知れない。

「なるべく関わり合いたくないし、好きな人にも関わってほしくありません」

「……うん、なるべく関わらないように気をつけるね」

 まあそんなことはこっちがその気でも不可能というか、少なくてもあの指輪の安全性を確かめるまでは絡みがないと困るので、しばらくは無理だ。

「そういえば、出雲さんの能力は物語のラスボスが持ってるみたいな能力ですよね」

「そうかもね」

「世界征服とか考えないのですか」

 思わず吹き出してしまった。

 いきなり何を言い出すんだろう。

「……世界征服してほしいの?」

「いえ、まったくそんな事ありません」

「ならしない」

 やってくれってもし言われたら出来る限りやる。けどあのチートが居る限り絶対に不可能だろうな。

「なんでですか」

「なんでって、怠いじゃん」

 あ、ちょっと呆れてる。

 いや、俺が分かるくらいだから、本当はかなり呆れてるのかも。

「ほら、世界なんてほっといたって勝手に誰かが支配してくれるから、俺みたいなダメ人間は与えられただけの世界で生きて行きたいんだよ」

 楽だから、と最後に付け足しても良かったけれど、俺の考えなんて読まれてしまうから言わないでおいた。

「……出雲さんは、自分で考えていらっしゃる程ダメ人間ではありませんよ。少なくとも私はそう思っています」

「ありがとう」

 私は、か。

 君にそう思ってもらってるなら、十分過ぎる。なんてさすがにクサイよね。


***


 数日後、しばらく仕事が来ず暇であったので、何かの事務処理をしている所長へ挨拶することにした。

「所長、お話があります。今良いですか」

「どうぞ、いったいどれかしら」

 ふっ、朝倉さんの真似をして鎌をかけてみたところで、貴女がそんなに鋭くないことはお見通しだ。慌てふためくわけない。

「娘との結婚? それとも今まで能力を隠してたこと? まさか人質を一度見殺しにしてから犯人を捕まえたことかしら」

 お見通しなのは所長の方だった。

 全部筒抜けじゃん。

「最後のは何をおっしゃっているのかまったく全然皆目わかりませんが、話は前の二つです」

 よし、ごまかした。

「ごまかせてないわよ。まあ、貴方の話を聞いた後にどうするか決めるわ」

「わかりました。まず俺の能力は空間を操るではなく、時空を操る能力です。時間も空間も思うがままです。慎んで訂正します」

 この辺りは知っているという感じか。

「そしてそれを使えるので永遠に音里ちゃんと生きていけます。なので結婚を許して下さい」

 そういえばいつの間にか結婚することを目指していた。別に今すぐではないのになんでだろう。

「良いわよ。でも、あの子は一応まだ一四歳の設定だから、もうちょっと先になるけど大丈夫?」

「ええ大丈夫です。ありがとうございます。お義母さん」

 一応とか、設定とか、あまり使って欲しい単語じゃないけど、一々気にしないようにしよう。

「じゃあまあ息子になるわけだから、今回の件は甘やかしておいてあげる。だけど次はないわよ」

「はい、次はちゃんと公私を分けて仕事します」

「じゃあ早速次の仕事なんだけど、良いかしら?」

 まあ月給が良いから文句は言わないでおくけど。

「……どうぞ」

「新人のスカウトに行ってきて」

 就職が決まって早二ヶ月、なんと婚約者まで出来た俺ですが、後輩が出来るそうです。

   第十四話 完

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