仲直りの時
大阪に到着したのは夕方になった篤史達は、署の戻ると言った町田警部と水野刑事と空港で別れて、自分達の家に向かう電車に乗り込んだ。
電車の中でも篤史は留理に謝るきっけを切り出せずにいた。
「篤史、早く仲直りしなよ」
里奈が小さな声で篤史の肘をつつきながら篤史に言った。
「わかってるって…。話しかけにくいね」
弱気になる篤史。
「そんなこと言ってると一生仲直り出来ひんで」
「わかってるよ」
篤史は決断したように立ち上がり、留理横に座った。
「あの…留理、ゴメン。オレが悪かった。もう少し留理の気持ちがわかってたら…」
篤史の脳裏には、真輔が言った夢のない奴は嫌いだという言葉が蘇ってきた。
「いいよ。私は気にしてないから…」
留理は前を向いたまま言う
「え…?」
突然の事に篤史は拍子抜けしてしまう。
「篤史が怒るのも無理ないもん。やっぱり夢に向かってほうがいいもんね」
ニッコリ笑顔を篤史に向ける留理。
「いや、今のオレらには絶対夢がないといけないってことはないんや。まぁ、あったほうが具体的な事は出来るけどな」
篤史は肩の荷が下りてホッとする。
「そうやんな。篤史は里奈と中学の時からケンカした事があった時、お互いの意見言えてるなってちょっと嫉妬してたりしたよ。私は篤史が好きだったからケンカなんてしたくないって思ってたからね。今回、篤史と口利かなくなってわかった。自分の言いたい事言わなくちゃわからないことがあるって…」
篤史の顔をまっすぐ見て自分の意見を言う留理。
少しずつ留理は変わっていってるなということを感じた篤史は、留理に対していた苦手意識がガラリと変わった。
「二人が羨ましかったねん。ずっと仲良かったし、勉強だってよく教えあってるし、私なんて二人の仲に入る隙がないって思ってた」
「要するにヤキモチ妬いてたってことか?」
ニヤリと笑う篤史。
「そういうことになるかな」
留理はテレ笑いになる。
「オレも留理に対する態度が変わったわ」
篤史がそう言った後、二人は笑い合う。
「お二人さん、仲良くなった?」
里奈は二人のほうを覗き込みながら様子を伺う。
「里奈…」
「仲良くなったで」
留理の代わりに篤史が答える。
「良かった」
里奈は安心しきったように笑顔になる。
またクスクスと笑い出す篤史と留理。
「何よー?」
里奈は怪訝な表情を二人に向ける。
「なんでもない。私ね、篤史を好きになって、勝手に諦めた事、後悔してないからね。だって、後悔なんかしたら篤史が好きやってこと無駄になってしまいそうなんやもん。それにやっぱり篤史の事まだ好きかもしれないねんな」
留理は何もなかったように言ってしまう。
「えーっ、なんでー?」
里奈は留理の気持ちがわからないってふうに声を出す。
「山田さん見てると篤史みたいんやもん。似てへん?」
「似てへんよー。どこが似てるのよ? もしかして、憧れの人がいるっていうのは山田さんの事やったの?」
里奈は驚きつつも似てないと断言する。
「うん。似てるところは髪型とか仕草とか…」
「そう? 留理、おかしくなったんやない?」
里奈は篤史と透を重ねてみるが、どこをどう見ても似ていないので有り得ないという心境だ。
「オレも似てると思ったわー」
透と似ていると言われた篤史は完全に調子に乗っている。
「聞いて呆れる。でも、内村さん達も早く家族になれたらいいね」
「そうやな。寺野さんが出てくるまで長くて辛いと思うけど、三人でやっていけると思うからいいんと違うか?」
映子がしっかりしているから大丈夫だというふうに篤史は言った。
「あの三人が頑張っていくことを見守るしか出来ひんけど、これでいいんやんな」
留理はそう言って二人を見ると、篤史は頷いた。
その時、三人が降りる駅に着いた。
「沖縄の事件、終了!」
電車を降りた瞬間、篤史は伸びをしてから言った。
「篤史と留理のケンカも終了!」
里奈も篤史の真似をする。
(今回は留理とケンカしながら事件解決したけど、意外な展開の事件やったな)
篤史は夏を感じながら事件の事を振り返る。
夏の照りつける太陽。
蝉の鳴く声。
駅を出ると、三人の側に小学生が走っていく。
そんな小学生を篤史は振り返って見ていた。
「篤史、何してんの? 行くで!」
里奈は少し歩いて振り返り篤史に声をかける。
「あぁ…今行く」
篤史は返事をすると、留理と里奈の下へと走っていく。
「ボーっとしちゃってどうしたん?」
「いや、別に…。考え事してただけや。また明日から部活や。頑張っていかんとな」
篤史は気合を入れるようにして言った。
「考え事なんて珍しい」
ボソッと呟く里奈。
「酷いな。オレだって考え事するのにな」
「ふーん…やっぱり珍しい。事件の事以外に考え事するなんて…」
里奈は留理に同意を求めるような目で見た。
そんな里奈を横目に、駆け出す篤史。
二人も篤史の後を追いかけるようにして走り出した。