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事実の裏側

四日が経ち、何の手掛かりもないまま明後日には帰る事になった篤史達。

この四日で全員の精神的ダメージが大きくなったということがひしひしと篤史に伝わってきた。

あれから圭子はだいぶやつれた様子になり、映子は更にイライラしている様子でなんとかしたいという篤史の気持ちを焦らせた。

晴天の午後、篤史達の部屋に町田警部と水野刑事がやってきた。

「警部、今回は無理かもしれへんで」

篤史は疲れた声で言うと、四人の行動がピタッと止まって篤史のほうを見た。

「どういう意味よ?」

里奈は嫌な予感を抱きながら、篤史に言葉に意味を聞く。

「そのままの意味や。今回は諦めろってことやな」

篤史は沖縄にいる間、事件が解決しない事を予感していた。

「諦めろって…事件の事?」

「そうや。犯人側からわからへんほうがみんなのためやと思うで」

篤史は読んでいる雑誌の一ページをめくりながら答える。

「そんなのアカンよ。絶対アカンって…」

里奈は篤史の諦めろという言葉に怒りを覚えた。

「仕方ないやろ? 犯人がわからへん以上はオレだって限界や」

「そこをなんとか出来ないのかな?」

水野刑事は篤史の気持ちを汲み取りながらもう少し頑張るように言う。

「無理やな。お願いされてもオレは動くつもりはない」

「そんな…」

篤史の頑なな言葉に、留理以外はどうすることも出来ないでいる。

「ズルイよ。自分が限界やからってやらないのってズルイ。そんなの篤史じゃない! 関西の有名な探偵の小川篤史はどこ行ったっていうの!? 事件が起こったら、何がなんでも解決する。それが篤史やん!!」

留理はまだ篤史に気持ちがあるのか、顔を赤くさせながら力いっぱいの大声で言った。

「留理…」

意外な留理の行動に、唖然としてしまう篤史。

「事件を解決しないとみんなが不安になる。そんなこと篤史だってわかってるはずやん!?」

留理は篤史が事件を解決するのが限界だと言った事が悔しくなってしまったのだ。

「留理ちゃんの言うとおりや」

町田警部も留理の気持ちと一緒のようだ。

「篤史、考え直してもう一度頑張ってみなよ。ねっ?」

里奈は優しい口調になる。

「…考えておく」

篤史は一言だけ言うと、部屋を出て行った。





篤史が向かった先は、誰もいない大広間だ。

さっき‘無理だ、限界だ’と言った言葉は、自分の本心ではないことは誰よりも篤史がよくわかっていた。

(事件を解決しないのはオレじゃない。そうなのかもしれへん。やりたいことの一つに、俺の中から探偵がなくなれば、オレはどうなってしまうんやろ…?)

篤史の脳裏には、留理と里奈の二人が浮かぶと、部屋で自分で発した言葉がどれほどのものだったか考えてしまった。

そして、徐々にヤル気を取り戻した篤史は、真輔の部屋へと向かった。

真輔の部屋に着いた篤史は、真輔と犯人の関係について考えてみた。

(監督と犯人の間に何かがあったんやな。他人には知られてはいけない何かが…。多分、犯人の過去か何かを知った監督は弱みを握ったというところやな。何かわからへんけど表には出てへんオレらには知らん何かが監督と犯人の間にはあったんやな)

そう確信した篤史は、真輔が使用していた台本に手を伸ばして中を見る。

何ページがめくると、一枚の写真と一枚の手紙が篤史の足元に落ちた。

篤史は拾い上げると、まずは写真に目をやった。

若い頃に撮られたと思われるその写真は、見たことのある人物の面影が残っていた。

(この二人って関係ないんじゃ…? もし、この写真がホンマやとすると犯人が監督を殺害した理由は、警部から教えてもらった動機以外のこの写真ってことか? じゃあ、この人物は、この写真をネタに監督からゆすられてたっていうことなのか…?)

篤史は立ち上がり、旅館を飛び出してさとうきび畑に向かった。







旅館から少し走った篤史は、一つのさとうきび畑の端っこに二つ穴が開いているのを見つけた。

(ここのさとうきびやな。監督の部屋にあった二本のさとうきびは…。ここから葉ごとさとうきびを引っこ抜き、監督の部屋に置いたんや。殺害方法が大体読めたで)

篤史は確信して、一人で頷いていた。

「オーイ! 小川君っ!!」

そこに篤史を見た川田刑事が走ってきた。

「何してるんだ?」

「いや、ちょっと…。川田刑事こそ何してるんですか? 事件の事で来たんですか?」

事件の事がわかったということをまだ知られたくない篤史は、言葉を濁しつつ川田刑事がいることを首を傾げる。

「草中さんが亡くなって、報道陣が草中さんが所属している事務所に押しかけて来ているんだ。多分、沖縄にほうにまで来る可能性が高いから旅館の人に何も言わないように、と言いに来たんだ」

川田刑事の答えに驚いてしまう篤史。

「報道陣に伝わってるんや? 監督が亡くなった事…」

「そうだ」

「へぇ…。報道陣はなんでも早いな」

篤史はあの中に犯人がいると報道陣に知られた時、犯人がどれだけ叩かれるか想像していた。

(出来るだけ内密にしておきたいやんな。監督を殺害したのは勿論悪い事やけど、報道陣のネタにされて傷つくのは犯人だけやない。犯人の周りの人間にも被害が及ぶ。それだけは避けたい。オレがそう言うたところで犯人がテレビ出演してへんかったら話題になるやろうし、なんとも言えへんな)

「小川君に一つだけ情報を教えてあげよう」

川田刑事は事件で何もわかっていないと思い込んでいる篤史に情報を与えようとした。

「そりゃあ、教えてくれたほうがありがたいですけど…」

篤史は何が聞けるのだろうと思っていた。

川田刑事は篤史にその情報を教えるとハンカチで汗を拭いた。

(さとうきびの液体を注入したのはそのためやったのか…)

篤史は川田刑事が教えてくれた情報に納得してくれた。

「それにしても、こんなに暑いとやってられないなぁ…」

川田刑事の言葉に、さとうきび畑に遠い目に向けた篤史。

(それは言えてるな。暑いとヤル気が起こらへんし、上手い事いかへんことが多いような気がする。留理とも早いこと仲直りしないとな)

篤史はぼんやりと思っていた。

「小川君、体調のほうが大丈夫か? 環境が違うから夏バテになる人が多いんだ。この季節の体調管理は大変だからな」

川田刑事は篤史の体調を気遣ってくれる。

「少し夏バテ気味や。オレ、暑いのが苦手やねん」

「僕もだ」

「それなのに沖縄にいるんですね」

篤史の何気ない一言に、

「僕は沖縄出身なんだ。どうしても住み慣れた場所を離れたくないっていうのがあってね」

再びハンカチで汗を拭きながら答えてくれた川田刑事。

「なるほど…」

(あー、なんかわかる気がする…)

「大阪ってどんなところなんだ?」

「行ったことないですか?」

「あぁ…。仕事で長崎と広島には行ったことあるんだ。旅行でも大阪には言ったことないんだよな」

「大阪はいいところやで。大阪城に通天閣、USJ…色々楽しめるで。食べ物はたこ焼きにお好み焼きに…」

一つひとつ説明していく篤史。

「大阪に行ってみたいなぁ…」

川田刑事は思いを馳せながら呟いた。

「来る時はオレを呼んでや。大阪を隅々まで案内するから!」

「その時は頼むよ。事件を解決しようとしている小川君にもう一つ情報を教えよう」

川田刑事の口から意外な言葉が出たのには驚いた様子の篤史。

「情報って…?」

「それは草中監督の部屋に行けばわかるよ」

川田刑事は詳しく話せば上司にバレてはいけないのか、遠回しに教えてくれた。

「それじゃあ、署に戻るよ」

川田刑事は頑張れよという表情を篤史に向けてさとうきび畑を後にした。

篤史に期待の思いを込めながら…。


















川田刑事から事件の情報を得た篤史は、旅館の戻ると渡り廊下に座り込み、真輔の部屋から持ち出した写真を眺めていた。

せっかく川田刑事が教えてくれた情報なのに、篤史はなんとなく真輔の部屋に舞い戻るのには、少し気が引けた。

自分が事件を解決する事によって、写真に写っている人物を追い込んでしまうのではなか、と思ってしまったのである。

しかし、犯人に罪を償ってもらいたいという気持ちもあるのは確かだ。

(川田刑事が教えてくれた情報は、オレが知り得てへん何かがあるはずや。上司にバレたら左遷や何か処分をされるかもしれへん、かなりの危険を冒してまで一般人にオレに情報を教えてくれた川田刑事。それやのに、なんでオレは監督の部屋に行かへん? もしかして、オレ、芸能人が絡んでるこの事件から逃げてる…?)

篤史は川田刑事の思いを知りながら、真輔の部屋に向かわないのは逃げているとしか思えないなと感じていた。

「小川君」

誰かが渡り廊下に座り込んでる篤史に声をかけてきた。

「あ、山田さん」

篤史は写真を隠し、透のほうを見た。

「こんなところに座って何してるの?」

「あ、いや、別に…」

「もしかして、事件の事?」

「まぁ、そんなところです」

「どうなの? やっぱ、オレらの中に犯人がいるの?」

透は篤史の隣に座りながら事件の事を聞いてくる。

探りを入れられてるな、と思った篤史は、

「それはなんとも…」

答えにくそうな表情をした。

「そっか、そっか」

透は納得すると、クスクスと笑い出した。

「山田さん…?」

「ホント、小川君って高校生だなって思ってさ」

透の言葉に、イマイチ理解が出来ていない篤史は首を傾げた。

「深い意味はないんだ。いくら小川君でも事件の事を全てわかるわけじゃないんだなーって思ってな。だけど、無理に解決しようって思ったらダメだ。ちゃんと事件の犯人を捜すために警察はいるんだからな。逆に犯人がわかってても逃げたらダメだ。犯人はいつまでも隠し通せるものじゃない。完全犯罪なんてないんだって教えてあげなくてはいけないんだからな」

透は篤史の心を読んだようにアドバイスをした。

透の真っ直ぐな深いアドバイスに、篤史の中で何かが弾けた。

「ありがとうございます、山田さん。オレ、なんか吹っ切れました」

篤史は笑顔で透に礼を言う。

沖縄に来て、初めて最高の笑顔になったような気がした。

「それならいいんだ。ここに座ってる時点で、何か悩んでる佇まいだったからね」

透はテレビで見ているいつもの表情に戻った。

(山田さんみたいな兄貴がいたら、どんなに良かったやろう…。悩み事があれば、今みたいにアドバイスもらえただろうな)

旅館の庭を窓越しに眺めながら、篤史はぼんやりと思っていた。

「それにしても、その荷物は…?」

透が持っていた紙袋が目に入った篤史は何か聞いた。

「メンバーと病気がちの母に土産さ」

「病気がちの母…?」

自分が聞き間違いをしたのかと思い聞き直す篤史。

「うん。オレ、母子家庭なんだ。物心ついた時には父がいなくてね。去年の暮れ、働きすぎて、母が大きな病気をしてしまって…」

透はなんでもないように答える。

「そうだったんですか…」

篤史はなんともいえない気持ちになってしまった。

「山田さんのお母さん、元気になるといいですね」

篤史が微笑んで言うと、透は小さく頷いた。








透と別れて、真輔の部屋に向かった篤史。

部屋に入る前に透の言葉を思い出してからドアを開けた。

(監督の部屋まで来たものの、川田刑事が教えてくれた二つ目の証拠がわからへん。まぁ、探せばわかるか…)

さっきとなんら変わりのない真輔の部屋から、どうやって手掛かりを探せばいいのかわからずにいた。

一通り部屋を見たが、何も発見出来ずにいる篤史は途方に暮れていた。

(せっかく山田さんのアドバイスで事件を解決しようって決意したところなのに、何もわからへんと決意も揺らいでしまう。なーんか、沖縄に来てからヤル気が起こらへん。やっぱり夏バテのせいかな)

篤史は深いため息をついた後、まだ見ていない押し入れを空けた。

すると、袋が一つ入っていた。

その袋に手を伸ばして中身を見ると、篤史には事件の全貌が見えてきた。

(もしかして、犯人はこれを使って監督を殺害したっていうことか? …ということは、大広間にいたオレらのアリバイは成り立たへんということか。犯人はあの人で決まりや)

篤史は川田刑事が教えてくれた情報と写真と共に、事件の確信に迫っていた。

写真に秘められたあまりにも切なくて悲しい過去が、この事件の引き金になっているとは知らずに…。







翌日の朝食後、篤史はみんなの前に立ち、事件の真相を話し出そうとしていた。

川田刑事の思いと透の言葉と共に何かを吹っ切るように…。

そんな篤史の姿を留理と里奈は見守るように見ていた。

(大丈夫や、篤史。やっぱり篤史はどんな事件も解決してしまう探偵や)

(どんなことでも逃げたらアカンで。篤史は篤史のやり方でいけばいいんやから…)

留理と里奈はそれぞれの思いを胸に、篤史の推理に耳を傾けていた。

そして、町田警部と水野刑事も篤史を応援していた。

そう、全ては篤史の中に答えはあるのだと教えているように…。

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