第90話ナヲユキとケントの過去編4
俺とマリリンは仮説本部へと逃げ込んだ。
俺は雑兵を倒している最中に敵陣地の奥深くまで知らないうちに入り込んでいたみたいであり、ワープする前の場所から仮説本部までの場所は十分な距離があった。だから、あの男はここまで来ることはないだろう。
「すまない、マリリン」
「ええ、誰か医療班はいないかっ!」
マリリンは仮説本部に入ると大きな声で叫ぶ。すると、仮説本部の奥から数人の騎士たちが出てきた。
「マリリン上等団員筆頭どうしましたか?」
「ナヲユキ中等団員筆頭が少々負傷した。誰か傷口の手当てをしてやってくれないか」
「わかりました」
女の騎士はマリリンの言葉に頷くと俺を奥へと連れて行った。俺は、そこで手当てをされることとなった。マリリンは少々負傷したと言ったように、俺の傷は意外と深くはなく少し休めばどうにかなるものであった。
はやく回復させて俺はケントの援軍に行かなければならない。
でも、今は休むときか。
俺はベッドの上で静かに目を閉じたのであった。
(ケント視点)
「はぁはぁはぁ」
俺は全力で走っていた。あたりはもうすでに敵の陣地内。味方は1人としていない。もし、この状況で敵に見つかったとしたら俺はすぐさま敵に集中攻撃をされることとなるだろう。しかし、俺はそんな危険を顧みずに一人で走り続ける。すべてはショウに今回のことをすべて聞くためだ。やはり、俺は走っているときにこの作戦を決行する際に決めた覚悟は揺らいでいた。あいつを殺す覚悟はできていたはずだ。なのに、なのに今となってやはり友を殺すことなどできない。心は大きく揺らいでいる。あいつがそんなことをするとは皇帝に帝国に反逆するとは信じられない。
では、どうするか?
簡単な話だ。ショウにすべて聞いて解決させる。そのためには誰にも見つかることなくショウの場所へとたどり着かなければいけない。ショウのいる場所は先遣隊より聞いている。俺達が仮説本部を設置した場所よりも北に位置している。ショウ伯爵家に本部を作っているという話だ。もしものことがあったら、屋敷であり城壁によって守られているその家に立てこもるのかもしれない。籠城戦となる可能性も否定できない。
でも、俺は認めない。籠城戦なんて絶対にやらせないぞ。俺はそう誓いを新たに走り続ける。
◇◇◇
そして、どうにか敵に見つかることなくショウの家まで来ることができた。しかし、先ほど説明したように籠城ができるように家が作られているため入ることが困難だ。
まず、家の周りには堀がある。堀には水が流れており泳いで近づくことはできるだろう。しかし、その先に待ち受けているものは高さがファン帝国最大の建物であるマドー城には到底及ぶことはないだろうが人間20人分ぐらいの高さがある巨大な壁が立ち塞がっている。となると、堀からの侵入は無理だ。次に考えることができるのは城の正規ルートだ。堀に1つだけ橋が架けられている。ただ、正規ルートということもあり見張りがしっかりといる。俺が向かったらすぐに敵の大将だとばれてしまう。と、なるとこのルートも無理だ。じゃあ、残るルートはどうなるか。
俺は考える。しかし、いかにしてショウの屋敷に乗り込むべきなのか最善の策が思い浮かばなかった。こういうことになるんだったら、ショウと昔遊んだ際にこっそり穴でも掘っておけばよかったなと思った。ん? 穴? トンネル? そういえば、俺は掘っていないがショウはこの屋敷の緊急用の穴倉があるようなことを言っていたような気がする。それを探し当てることができれば侵入することができる。
俺は見張りの者に気が付かれないようにこっそりと屋敷の周りを偵察する。
確かシュウが言っていた穴は掘りが一番遠くなっている方角の草むらにあるようなことを自慢していたような? まあ、とにかくそこに行ってみよう。俺は動いた。そして、その穴は簡易式魔導器によるものか幻術を作り出し周りの風景と一体化した場所にあった。一般の兵士であったならば簡易式程度の低魔力に気づくことはない。しかし、騎士団副団長の俺としては魔力の発生源を見抜くことぐらいは赤子をひねるよりも簡単のことだ。
「さてと、突入といきますか」
俺は穴の中に1人飛び込んだ。穴の大きさは大人が1人どうにかしゃがんで進めるぐらいの大きさであった。大きいものではないが緊急時のものとしての機能を十分果たしているといえる。
「待ってろよ、シュウ」
俺はシュウを何としても説得してやるという気迫を持って穴を進んでいった。そして、穴のシュウ着地点には梯子が架けられていた。
……これを登ればもうシュウの屋敷か。俺としては戦いたくはないがもしものことも考えておかなければならない。シュウと戦うこと、シュウの部下と戦うこと。この2つのことを頭の片隅に入れておかなければならない。
はぁあ、俺はこんな戦闘狂じゃないはずなのにな。もうすでにシュウと戦うつもりでいるなんて最悪だ、もっと親友を信じておかなければならないというのにな。
「いやいや、俺は弱気になってはいけない。何としてもシュウからすべてのことを聞き出してやる」
俺は自分のほほを2回パンパンと叩いて気合を入れなおすと梯子を上ってシュウの屋敷の中に侵入する。そして、
「いやあ、ご苦労さん。わざわざ俺達の本拠地に敵の大将さんが1人で乗り込んでくるとは思わなかったよ。なあ、ケント?」
俺が出た先にいたのは、俺達帝国と対立しているショウ伯爵領の領主であり俺の親友でもある男ショウであった。




