第78話合流編6
「お、皇女?」
俺はナヲユキのその言葉に驚いた。ナヲユキが最後に紹介した仲間。最後に俺と顔合わせをした女がまさか、俺が探していた皇女であったとは予想もしていなかったからだ。皇女たち一行と会うのは大変だろう。ナルノリとそんな会話をしながら帝国に入った記憶が今も新しい。しかし、それは間違えであった。意外と早くすんなりと皇女たち一行と合流することができたからだ。そんなに簡単に物事が行くとは思ってもいなかった。
「タークだっけ? そんなに驚くことかな」
皇女が俺に対して優しく接してきた。ただ、今の俺には驚いたショックで返答する余裕すらなかった。不敬と言われて処罰されても言い訳の余地がなかった。でも、それぐらい、今の俺の心には余裕がなかったのだ。
「あ、ああああ」
何か話そうとするもあ意外に言葉が出てこない。
「皇女様、タークはどうやらあまりのショックに言葉が出ないようです。落ち着くまで待ってあげましょう」
◇◇◇
少し時間が経った。
俺はようやくショックから立ち直りつつあり落ち着きを取り戻し始めていた。周りを見てみると、ヒデーキとリューホはもう俺に興味をなくしたのかいなかった。その場にいたのはナヲユキ、ケントそして皇女であった。
「ターク。もう大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。しかし、驚いた。まさか皇女を探していたがそっちからくるとは想定外だった。合流するのが難しいというのが俺達の考えであったのだけどな」
「俺達?」
ナヲユキは俺の言葉に疑問を思ったみたいだ。そんな、俺達で疑問を思う必要はないだろう。俺達と言えば、俺とナルノリのことに決まって──
「ってあああああああ!」
俺は大事なことを忘れていた。つい、それで大声を上げてしまった。
「おい、どうしたんだ?」
ナヲユキからは突如発狂した俺のことを心配に思い優しい口調で声をかけてくる。まあ、その優しさはありがたい話だが今はそれより大事なことがある。
「やっべ、どうしよう。ナルノリのことすっかり忘れていた」
「ナルノリ?」
「ああ、俺と一緒に帝国に侵入した奴で、連合国軍第三部隊部隊長の男だ。あいつとはぐれていたらナヲユキや皇女と会えたのだが、あいつとも合流しないとこれはまずい話だ」
俺は慌てふためいた。完全にミスだ。そもそもナルノリに路地裏に入るなと言う警戒を無視したうえで皇女たちを見つけた。これはあとでばれたら完全に怒られる。いや、待てよ。あいつが俺に怒ること何てあるのか? あいつは意外と優しい。怒らないっていう可能性も無きにしも非ず──じゃなくて今はどうやって再合流をすべきか方法を考えなければ。
俺の頭の中はパニック状態であった。右往左往、何をすればよいのか分からなかった。
「くそーナルノリどこだよー」
皇女がいるということを忘れて俺は叫び続けていたのだが、それは次の瞬間に180度変わる。
「僕はここにいるが」
「へっ!?」
間抜けな声を出してしまった。声のした方を見るとそこには間違いなくナルノリが立っていた。その右隣りにはリューホがいて左隣にはヒデーキがいた。あの2人がナルノリを探してくれたのだろうか。だとしたら、感謝しないとな。
「おい、ターク。勝手に迷子になるわ。路地裏に入るなと言ったのに勝手に入るわ、どういうことなのかな?」
ナルノリは話し始めた。内容は完全に説教であった。だって、とか、仕方ないじゃんとか言い訳は全く思い浮かばなかった。
俺の頭の中に思い浮かんだ今、この場で対応すべき一番いい方法。それが何かと言うと、
「すみませんでした」
謝罪だった。しかもただの謝罪ではない。頭を冷たい床に思いっ切りつけた格好だ。ナルノリよりそうとう下から声を発している状態だ。つまりは、俺がどういう状態になっているかというと土下座状態ということだ。
これぐらいしないと許してもらえない。そう考えたのだ。俺の馬鹿な頭じゃこれが限界であった。
「……」
ナルノリからは返答がなかった。おそるおそる顔を上げてみると、そこには俺を見下しているナルノリがい───なかった。ナルノリはすでに俺の目の前にいなかったのだ。
「ナルノリ? どこだ」
俺は立ち上がり周りを見るとすでにナルノリはというと皇女の方へと近づいて何やら話しているようであった。その話している内容は俺とナルノリ達の間ではテーブル1個ぐらいの距離があったため聞こえないわけもないと思ったが、2人の会話の声が小さく俺の耳には届くことはなかった。一体何を話しているのだろうか。
そこにナヲユキが声をかけてきた。
「さてと、ターク」
「何だよ、ナヲユキ?」
「どうやらお前がここに来るのはどのみち決まっていたことのようだな」
「それって、どういう意味なんだ?」
「どうやら、あのナルノリという人はリューホとの知り合いらしくどちらにせよ、この隠れ家のことを聞いていたみたいなんだ。タークがここに来たのはものすごい偶然だが、何があっても合流できたらしいぞ」
その話は初耳だった。ナルノリとリューホが知り合いであり、情報のやり取りをしていたということにはまったく気が付かなかったし、知らなかった。
「じゃあ、今までの俺の努力は一体?」
何だか無駄に動いていたような気がする。こんなことになるぐらいであったならば、もう少し早くにナルノリからそのことを聞いていればよかった。あのスイレンの町の中で迷子になりながらどうすべきかと考えていた俺がものすごくバカらしく感じてしまう。
「まあ、そういうこともある。さて、話は変わるがタークは気が付いているか?」
ナヲユキは話を変えた。
気が付いている。
その言葉の意味を俺はすでに理解していた。
「ああ、分かっている。これがあれか、例の追っ手というやつか?」
「その通りだ。どうだ、いっちょ、暴れてみたくはないか?」
「ああ、いいぜ。少し、バカらしく考えていた気分を晴らしたいところだしな」
俺はナヲユキの提案に頷くと2人で家の外へと出て、目の前に現れた魔導器を所持しているいかにも戦おうという意思が見える5人の騎士団の追っ手と対峙することになった。




