第71話帝国突入編
前回書き忘れましたが、約8か月ぶりに更新でした。今までお気に入りに登録をしてくださり待っていた人たちには大変迷惑をかけました。これからは、完結に向かって頑張りたいと思います。
さて、カレンドラの町に帰ってきた俺達であったが、そろそろ帝国に入って皇女リーザを見つけなければならない時期になっていた。
カレンドラの町についてからずっと考えていたことであったがナルノリもいるのになかなかいい案が思い浮かばない。となると、俺が冗談で言っていたあの作戦が一番有効だということになってしまう。
その一番有効な作戦というのは……
強行突破
これしかない。
……これしか本当にないよな? ここに来てこんな作戦を繰り出すぐらいであったらもっと考えて行動しろよと自分でも今までのことを考えて反省してしまうものであった。
「なあ、ナルノリ」
俺は隣りにいるナルノリに声をかける。
「何だ?」
「本当にやるのか?」
「ああ、それが一番の手段だ」
これが一番の手段というならやるしかない。と、言いたいところなんだが、俺はナルノリに聞いたのは確かに強行突破の件である。しかし、俺が聞いたのは作戦の内容だ。
強行突破といってもただ強行突破をするのではないみたいだ。帝国と連合国の間には魔術大戦に際二度と戦争をしたくないという思い(主に連合国)の下ものすごく長い、そして高い壁が国境線に作られた。大陸中に横断するかのようにだ。おかげで帝国に行くには国境線上に何か所か存在するゲートを通り抜けないといけないのだがそれは結構審査があったりと面倒臭い。というか、警備がすごい厳重だ。
さて、話がだいぶそれてしまったが俺達は一応軍の人間であって他国に入るにはお偉いさんという立場であるみたいだ。しかし、リョータ王子からの勅命ともあって身分を明かして通り抜けることはできない。
だから、俺達はどうしたかというと……
「……何で女装しているんだ」
俺はため息をつく。
国境を無理やり突破するために俺達がいや、ナルノリが考えたアイデアをいうのが女装であった。
こいつ正気かと思ったのは俺の心の中だけにしておきたい。
「顔が割れないためだよ」
いや、顔が割れないためとはいえ流石に女装は……
女装はひく。
しかも、女装が以上に本格的になっている。スカートと長い髪のかつらをかぶるだけでなく、化粧までもした。あと、何の必要があるのか分からないが上も下も女性用下着を穿かされた。
おかしいだろ。
下なんか着たところで何になるんだ。実際に見られることなど万一もないだろう。それいしても女性用下着の履き心地って……いかんいかん。考えるな。俺は変態ではない。そうだ、ナルノリは変態だ。変態だからこんなことを強要させているんだ。
「おいっ、まるで僕が変態みたいなことを考えているようだな」
「……」
その通りでございます。あなたさまは変態でございますよ。
俺は自分のキャラが崩壊して、ナルノリに向かって笑顔で答えてあげそうになった。というか、自覚なし! 少しは自覚しろよ!
「まあ、女装をするにしてもここまではする必要はなかったな」
認めた。今、完全に認めた。
俺は、そうとわかったらさっさと下着を脱ごうとする。上の方だ。今、野外で下を脱ぐほどの勇気や趣味は俺には持ち合わせていない。
俺は服の上から脱ぐために手を伸ばすと、そこにナルノリの手が邪魔をしてきた。
「何しようとしているんだ?」
何をって決まっているだろう。
「脱ぐんだよ」
「ダメだ!」
何でこんなに強く否定をするんだ。
「どうしてだよ」
「そりゃあ、せっかく女装をしたのが無駄になるだろ……あと、タークの女装が半端じゃない」
「はあ?」
どういう意味だ。俺の女装が半端じゃないというのは。
その疑問にナルノリは笑って答えた。
「いやさー。 僕もさ、昔はひ弱でさー、かわいいとか女子っぽいとか言われていたんだけど、何か今のタークを見ていると完全に負けたなって思えてきちゃってさ。それだけ、タークの女装が素晴らしいんだよ」
ナルノリがものすごい軽口で語る。
俺は今すぐに鏡が欲しかった。ナルノリが俺の女装を半端じゃないと言った理由は分かった。だが、その俺の姿は俺から見ることはできない。それほどのものだったら自分でも見てみたい。……いや、見たら後悔するかもしれないからやめよう。
「分かったよ」
俺は諦めて服の上に置いていた手をどかす。
ナルノリは俺のそんな姿を見て満足そうだった。やっぱり、脱いでおくべきだったと今さら後悔をし始めたが、もう時すでに遅し、意味がなかった。
「じゃあ、さっそくだが、とりあえずあ国境の検問所に行くぞ」
ナルノリはそう言うとさっさと歩き始めてしまった。俺はその様子を見て唖然としていたが、少しして慌ててナルノリの後を追いかけた。
それから少しの時間が経ち、いよいよ連合国と帝国の国境である検問所が目の前に見えてきた。
連合国と帝国の国境検問所のはずなのにそこを守っている兵士は服装からすべて帝国所属の兵士であると判断できた。どうして、連合国側ですら帝国軍が管理をしているのであろうか。
「ナルノリ。どうして帝国の兵士が守っているんだ?」
ナルノリは俺が疑問を質問するとすぐに何か感じることがあったらしく丁寧に答えてくれた。
「ああ、それはだな。帝国軍が無理矢理仕事を奪ったんだよ。本来なら僕らの仕事なんだが、あいつら僕らをまったく信用していないらしく外交上圧力をかけて無理矢理国境の警備権を認めさせたんだ」
それって結構な外交問題ではないのか? こんな俺でも思ってしまうことだった。だが、今はそんなことはどうでもいい。どうやらこれが俺達が帝国に移動するのを妨害する最大の要素だったみたいだ。
「なるほど。で、どのタイミングで突入するんだ?」
今、俺達がいる位置は帝国との国境検問所とおよそ木10個分ぐらい離れている。向こう側の兵士から見つからないように木と草の陰に隠れて座り込んでいる状態だ。国境検問所の様子はうっすらと確認できているのでタイミングを計ればいつでも強行することもできる。
俺はナルノリにタイミングを尋ねる。
ナルノリは俺の質問に対して即答はせず少し考えてから立ち上がった。そして、そのまま無言で検問所の方へと向かって歩き始めた。
「お、おいっ」
俺は慌ててナルノリに声をかける。俺が声をかけた理由は別に無言で歩き始めたことに対するものではない。俺がどうして慌てて声をかけたのだというと、ナルノリはなぜか堂々と国境検問所への道のど真ん中を歩いているからだ。
どうして、そんな目立つことをやるんだよ! 本当に怒鳴りたかった。ていいうか怒鳴った。だが、ナルノリはそんな俺の心配というか怒りをまったく見向きもせず一歩また一歩と国境検問所へと近づいていく。
俺の心臓はバクバクだった。今までの戦いでもここまで心臓が激しく鼓動したことはなかった。しかも、国境検問所に近づくにつれて心臓の音はますます大きくなっていく。バクバクという心臓の音が知らないうちにドクンドクンともっと上位の音へと変化していた。
気付いて時には国境検問所と俺達の距離は木10個分から3個分まで縮まっていた。というよりも、普通に国境検問所の入り口に立っていた。
(完全に終わったあああああああああ)
思わず叫びたかった。
帝国軍の兵士がこちらの様子に気づいて怪しいものじゃないか確認しに歩いてきた。
基本、今の世の中帝国と連合国の仲が悪いため国境を渡り歩くなんて人は商人ぐらいである。そのため国境検問所を通る人は珍しい。だから、人が列を作って国境のゲートを通り過ぎるなんてことはない。1人1人兵士が直接通行人を定める。
そのことに気が付いたのはついさっきのことであった。女装なんかしていたら余計に怪しまれるだけだろ。俺はますますナルノリが何を考えているのか分からなかった。
俺はこんなに不安にしているのにナルノリはどうどうと構えていた。どうしてそんなに堂々と構えているんだ。訳が分からない。
「おい、お前ら!」
兵士が俺達に声をかける。若い男だ。まだ、軍に入ってあまり日が経っていない初々しさを感じた。これなら、誤魔化せるかもと俺は少し期待してしまった。
「まず、そこのお前、お前は男か女か?」
最初の兵士はナルノリに質問した。性別から聞くなんて絶対に疑われている。やべぇよ。一回おさまっていたはずの心臓の音は再びバクバクとなり始めた。
「男です」
ナルノリは答えた。そうだよな、男だよな。俺達は女装をしているとはいえもともとは男なんだか、ら? は? 男? 何で馬鹿正直に男って答えているんだ。何のために女装をしたんだ。女装をした意味がなくなるだろ。
「なるほど、ということはレンリンで行われる女装大会に参加するんだな」
「はい、その通りです。もうよろしいですか? 他に何か聞くことはないのですか? 身分証明とかは?」
「いや、一般人ならそこまで厳しく調査はしないことになっている。分かったならさっさと行け!」
「ありがとうございます」
ナルノリはそう言うと歩き始めた。俺はその様子をぼーっと後ろから眺めていた。
「おいっ! お前もだ。早く行け!」
俺も? そう言おうとしたが兵士はすでに興味を失せたみたいで自分の持ち場へと戻ってしまった。俺はナルノリの後を追いかけたのであった。
「ところで、ナルノリ?」
俺は国境検問所が見えなくなるぐらいの距離まで進むとナルノリに先ほどのことを聞く。
「ああ、何だ?」
「女装大会ってなんだ? どうして簡単に通り抜けることができたんだ? あの兵士はあまり緊張がなかったけどどういうことだ?」
「ちょっと、待った。質問を同時にするんじゃない。1個ずつ質問しろ」
俺が何個かの質問を同時にしたためナルノリが慌てて1個ずつ質問しろと言ってくる。俺は、一番気になっていることから質問するためにもう一度言いなおした。
「じゃあ、女装大会ってなんだ?」
「ああ、女装大会はこの先の町レンリンで行われるイベントのことだ。毎年、この時期になると行われるからその恰好でもすれば怪しまれないと踏んだわけだ」
「じゃあ、簡単に通り抜けることができたのは?」
「ああ、それは女装大会の参加者だというのを恰好から予想することができたから怪しまれることがなかったんだ。それに、国境の警備は商人と軍人だけに厳しいから一般庶民の恰好でもしておけばすぐに通り抜けることができるのさ」
「最後に、兵士が緊張がなかったのは?」
「それは、国境検問所の兵士というのは帝国軍内の出世街道とかまったく関係ない左遷組や新人が配属される場所であるからやる気というものがほとんどないんだ」
「なるほど」
ナルノリは予想以上に考えていたみたいだ。俺は反省をした。さっきまでナルノリが何も考えずにただ女装をしていただけだと思っていたがこのあたりの情勢をすべて練りこんだうえで行動していたとは、俺じゃあまったく考え着くことができない。
「ターク、言っとくがなこれでも僕は連合国軍の前参謀だぞ。作戦を考えるのは得意なんだ」
「ああ、嫌というほどわかったよ。お前がすごいというのはな」
俺はナルノリのその軽口に思いっきり納得してしまう。
「じゃあ、ターク。急いで皇女達と合流するぞ」
「おう!」
俺達はこのあたりに来るであろう帝国の皇女達一行と合流するためいよいよ行動を開始しようとしたのであった。
次回は3月26日7時更新です。




