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第70話カレンドラ騒動編7

 「今すぐそこから離れろ!」


 ナルノリが焦った声色で俺に対して叫んでくる。

 そこから離れろ? 俺にはそのことがどういう意味なのか理解できなかった。離れるも何もまだ何も起きていないだろ。俺はそう思った。

 しかし、異変は次の瞬間に起こった。

 警戒を怠らないため、いや、いつでも反撃できるように俺は自分の体の前に刀型魔導器『イヴ』を構えていた。だから、『イヴ』の先端部分は俺の体のだいぶ前に位置していることになる。

 そしてその刀が凍り始めた。


 「な、何だこれは!?」


 俺は刀が凍り始めたことに驚いた。刀の先端から氷始めていたがそれはすぐに刀の柄まで侵食してきた。

 そこまでして、俺はようやくこれはまずいと理解することができたのだ。


 「ターク! 逃げろっ!」


 ナルノリが叫んでいる。

 そうか……ナルノリにはこれがわかっていたのか。

 俺はすぐさま後方へと回避を取ろうとする。しかし……体が動かない。


 「ナッ!?」


 足元をよく見ると凍っていた。すでに、タカユキのコールドモイスチャーによって俺自身も凍らされはじめていたのだ。どうにかして足を動かそうとする。しかし、氷が思ったよりうざい。地面とぴったり張り付いてはがれない。


 「おいっ! ターク!」


 ナルノリが依然叫んでいる。ただ、俺もその言葉に返事をしたいのだがすでに俺はタカユキの戦略の上で踊っているだけだ。

 どうやって足掻くか。それとも、もうすでに遅いのか。


 「……終わりか」


 完全に俺は諦めた。どうやらここまでのようだ。

 俺にはこれ以上抵抗する力が残っていないようだ。


 「ターク! ターク!」


 ナルノリが俺を呼んでいる。しかし、その声もさっきより小さくなっていた。俺は、ナルノリの声が別に小さくなったわけではないことは気が付いていた。ただ、俺の方が意識が消えていっているだけだ。右手は『イヴ』を持っているはずだが、力が入らない。もしかしたら、もう『イヴ』は落としているのかもしれない。触覚がない。嗅覚がない。視覚がない。聴覚がない。すでに俺の五感が無くなりつつあった。

 これが、死か。

 俺は死を悟った。


 汝はここで死ぬのか?


 誰かの声がした。

 誰だ。

 どこかで聞いたことがある声だ。懐かしい。ものすごい昔に聞いたことがある。でも、誰の声だったのかまでは思い出すことができない。


 「死にたくない」


 俺は誰だか分からないがその声に向かって返事をした。


 「死にたくない。俺にはまだやるべきことがあるんだ。ここで死んだらリョータ王子にもナオトさんにもそして、連合国の人々にも申し訳ない。今の俺は昔とは違う。誰かのために働いている存在だ。だから、こんな場所で死ぬわけにはいかないんだ」


 ……そうか。ならば汝に力を与えよう。かつてのようにお前ならその力を正しい方向に使ってくれるだろう。


 かつてのように。という言葉でやはり俺はその声の持ち主と知り合っていたことを確信した。俺は声の正体に対して誰だか聞こうとしたがそれを行うよりも前に俺の体に変化が起きた。


 「光っている!」


 俺の体は光を纏っていた。明るく何かが俺の中で燃えているような感覚だ。

 そして、燃えている光から俺に対して次々と情報が流れてきた。それは、俺にとって驚くべきものであった。

 だが、それに驚いている暇は今はない。後で考えることにしよう。今は戦いの最中だ。何としてでもタカユキに勝たなければならない。だから、今手に入れた新たな情報の中にあった技であいつを倒してやる。

 俺は覚悟を新たにし、現実の世界へと自分の意識が戻っていくことを理解する。


 次に気が付くと、凍りつきかけているところであった。このままだと俺は凍り付いて死んでしまう。だから、今こそ新しい技を発動するときだ。

 俺は回復した意識で右手に握っている魔導器『イヴ』の魔力を引き出すかのように集中する。刀といえば近接攻撃であるが俺は新たに学んだことがある。

 刀の新たな技、それは……


 「空間滅斬!」


 俺はタカユキに向けて『イヴ』を大きく横に切る。空間を二つに切るイメージでだ。俺とタカユキの距離なんか関係ない。


 「魔法陣ぐはっ!」


 タカユキは防御のためだろうか何か技を発動しようとしたみたいであったがそれは時すでに遅し、俺の空間滅斬によって体は真っ二つに分かれてしまった。

 タカユキは上半身と下半身の二つに分かれた。大量の赤い鮮血が流れ出た。

 俺としたことが、人を殺してしまった。あれだけナルノリに忠告されていたというのに怒りに狂った時と対してやっていることが変わっていない。


 「ターク」


 そこにナルノリが近づいてくる。

 人殺しの俺に対して何を言うのだろうか。やはり、非難するのであろうか。もしくは軍をやめろとも、牢屋へ行けともいうのであろうか。まあ、仕方ない。人殺しであるのだから俺はこの罪を受け入れなければならない。

 このようなことを考えているうちにナルノリが俺の目の前に立った。

 もう何を言われてもいい覚悟だけはできている。さあ、何でもぼろくそ言いやがれ。


 「お疲れ、ターク」


 だが、その言葉は俺の予想していたものとはまるっきり違うものであった。


 「お、お疲れ?」


 思わずその言葉を繰り返して声に出してしまう。

 何がお疲れなのだろうか。俺の今の頭では考えることができなかった。


 「ああ、お疲れ。タカユキはもう倒した。これでカレンドラの町の人も安心できるだろう。全てはタークのおかげだよ」


 「い、いや、ちょ、ちょっと待てよ。俺はタカユキを殺したんだぞ。人殺しにそんなことを言ってもいいのかよ」


 俺は逆切れみたいな感じにナルノリに怒鳴ってしまった。

 一方の怒鳴られた方のナルノリであるがなぜか苦笑いしていた。なぜ、ここで苦笑い。ますます俺の頭は混乱してしまう。


 「ターク。人殺しは確かに犯罪だ。それを反省することは確かに重要だ。だが、俺達は軍の一員だ。軍というのは国民の平和のためとか一応は言っているが実際は戦争のために存在している組織だ。仮にもお前はその第六部隊の部隊長だ。犯罪者を殺したところで罪にはならない。でも、だからと言ってむやみに人を殺すのはダメだぞ」


 「そうか。そうだったな、すまない。俺は軍の一団に長であった。そのことをしっかり自覚するように心がけるよ」


 「ああ、それもいいが、あまり自分を追い詰めるなよ」


 「ああ、分かっている」


 俺はナルノリからいいアドバイスをもらうことができた。

 俺達は、その後地下室の入り口を開けると、そこにいたとらわれていた人たちを無事に救いだし、そしてカレンドラの町に何事もなく無事に帰ることができたのであった。

 女の人達にものすごい感謝されたのは俺の心の中だけで納めておく。

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