第61話コロッセ編5
「それではトーナメント第3試合。驚異の新星ナヲユキ対これまた謎めいた新人。予選では目立ったことはしていないが予選を突破した女性ゴンミ。さあ、どっちが勝つのでしょうか!」
俺の試合が始まろうとしていた。
心の準備はできていた。ここで負けるわけにはいかない。相手が予選を突破した強者だということも分かっている。だからこそ、負けるわけにはいかない。この広い観客席のどこかで応援してくれている皇女様やユーイチのためにも。(予選の時と席を変えていたので見つけることができなかった)
「では、両者位置についてください」
そう司会者に言われると俺は前へと出た。もちろん、俺の戦いの相手のゴンミという女も前に出てくる。ゴンミは女だという説明があったが俺にはそうは見えなかった。まず、体つきが太っていた。体重も3ケタあるんじゃないだろうか。さらには顔は女性のかわいいや美しいといったような評価ができないようなものであった。うっ、何か自分で説明してきても吐き気がしてきた。とにかく醜い女であった。
この勝負さっさと終わらせたい。だが、予選を突破した以上強いに違いない。ここから先は魔導器の使用も許されている。と、なれば相手も使ってくるのが常識だろう。それだけは十分に気を付けなければならない。
「では、トーナメント第3試合スタート!」
司会者のその言葉と同時に俺は一気にゴンミに向かって駆け出す。その速さは誰にも目で追いつくことができない。それぐらいやらないと俺はゴンミに勝てないと考えたからだ。
まだゴンミは動いていない。
いける。俺はそう思った。だが、まだ油断はしてはいけない。ゴンミを殴って気絶させて初めて勝利なんだ。だから、俺は全力でゴンミを殴った。
「はあああああああああ」
右の拳を思いっきりゴンミのその不細工な顔に向かって決めた。そこには邪魔するものがなかった。ゴンミは何もしなかった。いな、何もできなかったのだ。
ゴンミはそのまま俺が殴ったことでバトルフィールドの周囲を囲んでいる壁まで吹っ飛んでいき壁にめり込んだ。壁にぶつかったときにはものすごい破壊音と煙が発生した。
煙が晴れると気絶しているゴンミがいた。つまりは俺が勝ったのだ。
だが、俺には途中で気付いていたことがあった。ゴンミは弱かったということだ。こいつがなぜ予選を生き残ったかは謎だがとりあえずは……
「勝者ナヲユキー!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
俺の勝利が確定して第1回戦はどうにか突破した。どうにかというよりも圧勝であったが。まあ、こっから先はそんなことを言ってられない。次はもっと強い相手が来るはずだ。心して頑張るぞ。俺は気持ちを新たにした。
ドッガーン
「……」
「勝者ナヲユキー!」
「おおおおおおおおおおおおおお」
第2回戦。俺は勝った。そう勝ったんだ。今回の相手は強かった。うん、強かった。そう、またしても一撃で倒せたぐらい強かった。いやあ、疲れたぜ。って、そんなわけあるか。何なんだよ。ヒデーキ意外に強い奴いないのかよ。でも、まだ2回戦だ。次こそはいるだろう。
俺は強い相手が来ることを願って3回戦に挑んだ。
ドッガーン
「ガハッ」
「……」
「勝者ナヲユキー!」
「おおおおおおおおおおおおおお」
もうやだ。何で3回戦でもこんなことが起こるのか。しかもこの3回戦は実を言うと準決勝に当たる。そして、決勝の相手はヒデーキだ。何とも楽にヒデーキの場所まで来てしまったのか。そして、ヒデーキと戦うことに対して1つ思っていたことがあった。
こいつらこんなに弱いならヒデーキも弱いのじゃないかと。
これはありうる話だ。まさしくヒデーキはお山の大将。強くないかもしれない。そうしたらここまで俺が来た理由が分からなくなってしまう。だが、俺は数少ない望み……ヒデーキが強いということを願って決勝戦へと挑むことにした。
─同じころ─
「ヒデーキよ。俺達の仲間になってくれないか」
「ああ? 何言ってんだ」
俺、ヒデーキはケントと名乗る男に仲間になってくれと言われた。そんな話断るに決まっているだろう。だから、きちんと断った。丁重ではなくやや面倒臭そうに断ってやった。
「嫌だな。お前らに何の魅力もない。第一に恩がない」
「ふっ、やはりそう言うと思っていたよ。まあ、君のことは諦めないからそれだけはよろしくな」
ケントと名乗る男はそう言うと俺の目の前から立ち去ろうとしていた。だが、途中で何かを思い出したかのように俺の方へと振り向いた。
「そうだ、お前を説得するのは俺には失敗したがもう1人仲間がいる。そいつなら君とはいい勝負をしてくれるんじゃないかな」
いい勝負? 何の話だ。こんな雑魚しかいないこの大会に俺をうならせるような奴がいるのか。いや、そんなわけない。ただの戯言だ。
俺にはそう思っていた。だが、それは違った。
俺は予選会の様子をVIP席から眺めていた。そこで俺は見つけてしまった。俺をうならせるほどの力を持った男を。
「……ナヲユキ」
ナヲユキ。そう呼ばれた男は誰から見ても他の予選会の奴らとの格は違った。こいつなら俺を楽しませてくれる。無意識だがそう思ってしまった。早く戦いたい。俺にはそんな気持ちが体の奥底からあふれ出していた。
「……俺は強い奴なら歓迎だ。楽しみしている」
ナヲユキと対面したときそんな言葉をつい言い残してしまった。俺には戦いたいという気持ちを抑えることができなかったんだ。 だから……
「決勝が楽しみだ」
俺はそう言いそして、バトルフィールドへと続く真っ暗な通路を歩いて行った。
1週間ぶりです。どうにか更新できました。次回はいよいよヒデーキ戦となっています。