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第55話ナヲユキの過去編12

 気づかないうちに俺の理性はなくなっていた。そして、次に気づいた時にはすでに───


 「はぁはぁはぁ」


 俺は今まで何をしていたんだ。俺は先ほどまでのことを振り返る。ミサ筆頭に告白したこと、キスしたこと、そして謎の襲撃者が現れて襲われたこと最後にミサ筆頭の首元に短刀を突き付けられたこと……

 そうだ、ミサ筆頭はどこにいる。俺は周りを急いで確認すると恐るべきものに気付いた。


 「や、奴が死んでいる!?」


 先ほど、俺達を襲って散々苦しめた奴は上半身と下半身が真っ二つとなり大量の赤い血を周辺にばらまけた状態で寝そべっていた。すでに息はない。しかも、先ほどまで姿をよく見ることができなかったが奴は女でありしかも、


 「この紋章、帝国の暗殺部隊のものじゃないか」


 奴改め彼女の服装に付いていたワッペンはこの帝国においても知る人は限られる超秘密部隊である暗殺部隊の紋章であったのだ。つまりは、彼女は帝国の上層部からの命令で俺達を暗殺しようとしたことになる。


 「一体どういうことなんだ?」


 俺には訳が分からなかった。別段悪いことをしたわけはない。戦争については反対したかったが表だって主張したわけでもない。犯罪もしたわけではない。じゃあ、なんで俺達が狙われたんだ。ん? 待てよ。俺達・・? 俺達ということは最初から彼女の狙いは帝国の上層部の狙いは俺じゃなかったかもしれない。となると、真の狙いは……ミサ筆頭となる。

 俺はミサ筆頭を探し始める。


 「ミサ筆頭ー!」


 返事はしない。俺の周りは先ほどあった公園の風景ではなく木々が茂っている場所であった。

 ……知らない間に動いたのか?

 俺は一瞬意識を失ったのでその間のことを思い出そうとすると頭が急に痛くなる。その間に俺が何かをしたとなると奴を彼女を殺したのは少なからず俺となる。

 俺は木々がようやくなくなる場所へと出た。一気に視界が晴れるとその場所には月光の明かりが照らしておりかつ、見覚えのある場所であった。そう、さっきまで俺がいた場所である。


 「ミサ筆頭ー!」


 俺は愛しいその人の名前を呼ぶ。だが、返事はしなかった。


 「う、ん」


 いや、かすかだが返事は聞こえた。どこからだ。俺はそのかすかな声の発生源を必死になって探す。


 「ミサ筆頭ー!」


 再び名前を呼ぶ。かすかな返事がまたする。俺はよく耳を澄ませて聞く。そして、少しずつその音が大きくなっていく場所を見つけて近づいていく。


 「ミサ筆頭っ!」


 ようやく俺が見つけるとその姿は変わり果てたものと今にもなりかけている姿であった。息は虫の息も同然であり、首元には先ほどやられたと思われる短刀による傷があった。その傷からは今にも赤い血が止まることを知らないかのように流れ出てくる。


 「今にも助けますからね」


 俺はさっそく近くによって応急手当てをしようとした。俺が覚えている治療用の魔導器を発動しようとしたところでミサ筆頭に止められる。


 「や、やめろ。わ、私のい、命は、もう、な、長く、は、ない、はぁはぁ」


 「しゃべらないでください。すぐに応急手当ですが回復させて見せます」


 俺はそう言ってミサ筆頭の制止を聞かずに応急手当てを続けようとする。そこに、俺の手をミサ筆頭が急につかんできた。


 「ミ、ミサ筆頭?」


 俺にはどういうわけなのか分からない。ミサ筆頭は何がしたいのかが本当に分からない。


 「ナヲ、ユキの、手、温かい、な。はぁはぁ、もう、少し、ナヲユキと、恋人、でいたかった、な、はぁはぁはぁ」


 「いいからもうしゃべらないでください」


 俺は手をきつくつかむ。ミサ筆頭は俺が手をきつくつかんだことでホッとしたのだろうかしばらくはおとなしくしてくれた。その間に俺は応急手当てを続ける。

 何としてもこの人を助けるんだ。俺はもうダララの時のような悲劇を繰り返したくはない。だからだから……

 しかし、応急手当では間に合わないのかみるみるミサ筆頭の顔色は悪くなっていく。

 ……まだだ! 諦めるなよ。まだいける。

 俺は諦めることなく応急手当てを必死に続ける。治療用魔導器『ヒールポイント』は緑色の淡い光を発しながらミサ筆頭の首の部分を必死に直そうと稼働している。だが、その回復力にも限界があり追いついていない。


 「も、もう、いいよ」


 ミサ筆頭から諦めとも取れる言葉が発せられる。俺はそれを必死に否定する。


 「何がもういいよだっ! 何も良くないだろっ!」


 あはは。ミサ筆頭は俺の激怒に対して力のない笑いをしただけだ。


 「もう、私は、長くない、だから、最後に、お願いが、あるの、何個か、はぁはぁはぁ」


 お願い? 俺はその言葉にきょとんとしてしまった。


 「お願い、ですか?」


 俺は先ほどまで激怒していたのに拍子抜けてしまいその言葉を繰り返す。


 「ええ、お願いよ。ま、まず1つ目は、私のことは、ミサ、って呼んで」


 「それぐらいしますよ、ミサ」


 俺がミサと名前を呼ぶとミサは笑顔になった。


 「そ、そして、最後の、お願いは、キスしよう、はぁはぁはぁ」


 そんなにお願いじゃない。俺は知らないうちに泣いていた。頭の中では考えたくはなかったが本能的に察していたのだろう。これをすればミサはもう……


 「ええ、いいですよ」


 俺はミサの唇に俺の唇を近づけるとくっつけた。長いキスであった。もう、離したくはない。俺はずっとこの時間が続いてほしいとも終わった。しかし、時間は無限ではない、有限だ。そんな夢のような時間はすぐに終わってしまう。

 唇を放す。

 俺はもう一度キスをしようとする。しかし、ミサにはもうそんな力が残っていない。


 「ありがとう。ナヲユキ」


 ミサは笑っていた。そして、最後に彼女が言った言葉は今でも忘れるようなことはない。


 「大好き。いつまでも、愛しているよ」


 「ううおうおうおうおうおうおうおうおうおおおおおおおおおお」


 その後、ミサの遺体は帝国の上層部が回収した。

 俺はその時以来、帝国という国に不信感を抱き始めていた。こんな国のためには働きたくはない。そう思い戦争が始まると同時に俺は騎士団をやめて去った。

 戦争が実質帝国の敗北で終わると俺は帝都の下町で何でも屋というお店を弟のユーイチと始めた。誰かを助けたい。そんな気持ちで始めたのだった。ただこの気持ちはある意味俺の懺悔という自分勝手な思いなのかもしれない。だって、


 それが、俺の今でも癒すことができない昔の記憶なのだから──────

 これで、ナヲユキの過去編は終了とさせていただきます。

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