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第49話ナヲユキの過去編6

 遅くなりました。

 翌日。

 俺は目が覚めた。重い体を無理やり起こして立ち上がりカーテンを開ける。天気は曇りだ。まるで俺の心を映しているのかというほどどんよりとした雲で空は暗くなっていた。


 「はぁ~」


 俺はため息をつく。幸せが逃げると言われているらしいが何にせよ俺の幸せとはもうとっくに逃げているから関係ないことだ。

 俺はそんなことを考えながら着替える。


 「あっ」


 俺が着替えようとしていた服は下等騎士団の正装であった。


 「そういえば今休養だったんだ」


 俺は昨日ミサ筆頭から直接休養を命じられたのであった。それはミサ筆頭の俺に対する優しさであることがこんな俺でも理解することができた。俺は着替えるのをやめると再び布団にもぐりこみ横になった。そして、昨日のことを考えた。

 ダララを助けられなかった。俺の頭の中に思い浮かんだのはダララが死んだときのことだ。忘れたくても忘れられない。俺は親友を失ってしまったんだ。全ては俺の力不足だ。あの時、魔導器を使っていたら変わったかもしれない。そう思い、俺は机の横に置かれている刀を見る。俺の魔導器である刀。名前は『フロストヘイル』という。昨日全てを知り力が使えるようになった。なのに、使わなかった。それは完全に俺の判断ミスだ。


 「外へ行くか」


 俺はこれ以上考えても仕方ないと思い町へと出かけるために私服に着替えて部屋を跡にした。


 「いらっしゃーい」


 「どうですかそこのお兄ちゃん!」


 俺が歩いて向かった先とは帝都ヴァリオンで一番賑やかと言われているレン市場であった。周りには老若男女多くの人が買い物にやってきている。歩いて移動するたびに右から左から店員に呼び止められる。その声はとても元気なものであった。今の俺とは対極的に位置している。ただ、俺はそんな店員の呼び止めは聞かないでそのまま歩き去っていきすぐに市場から出てしまった。意外と市場が狭いということがわかった。普段は広く感じていたが何にも感じずに無視し続けて通り過ぎるとこんなにも早く通り過ぎてしまうか。俺は1つ学んだ。……どうでもいいか。


 「はあ、どこ行くか」


 俺はふらふらさまよい続けることができる場所を探して再び歩き出した。はたから見ればそれはまるで自殺をする場所を探す人のように───。

 ふらふら帝都ヴァリオンをさまよい続けていた俺であったがその間の記憶は全くなかった。まるで何者かに傀儡のように操られているように勝手に歩かされていた。そして、歩かされていた俺の進んだ先とは……


 「俺の家か」


 自分の家。つまりは実家に来ていた。前に話したような気がするが現在俺は弟とは仲が悪い。それは全て俺のせいである。だから、俺は弟と顔を見せる自信がない。もしあったとしたら確実に罵倒されるだろう。そして、最悪殺されるかもしれない。はは、弟に殺されるのも悪くはないか。

 今の俺はそれほど世界がどうでもよく思われていた。

 さっさとここから立ち去るか。弟に見つかったら困る。

 俺は玄関から立ち下がろうと玄関の扉に背を向けて去っていこうとした。しかし、そこにドアが開く音がした。


 ガチャン


 「「あっ」」


 間が悪い。俺はつい後ろを振り返ってしまいそのドアから出た人と目が合ってしまった。ドアから出てきたのは誰であったのかというとここで一番会いたくはなかった人物だった。


 「……ユーイチ」


 俺はドアから出てきた仲が悪い、いや、もう絶縁してしまった弟の名前を呼ぶ。俺の弟─ユーイチは俺の顔を見ると一瞬顔がゆがんだ。そりゃそうだろ。ユーイチは俺を憎んでいるのだからその顔の表情、反応は当たり前だ。何も今更驚くようなことではない。

 ユーイチのためにもこの場を去った方が良いな。俺はそう考えてこの場を去るため町の方へ向かって歩き始める。もうこの家に来ることはないと思い振り向かないように足を一歩また一歩と踏み出した。


 「ナヲユキ!」


 背後からユーイチの大きな声が聞こえた。そのあまりにでかい声には俺もびくりと驚いてしまいついもう振り向かないと決意していたのに振り返ってしまった。


 「……ユ、ユーイチ」


 俺は言葉が出なかった。ユーイチの表情を見たことで何も言うことができず立ち去ることもできなくなっていた。

 ユーイチは泣いていた。潤んでいたその瞳には俺を憎んでいるという感情はなかった。むしろ、俺を理解できなくてすまないという反省に近いような感情を感じた。この表情に俺は戸惑った。何でユーイチは俺を許しているのかが理解できなかった。


 「何で! 何でだ!」


 俺は訳が分からなくなって声を荒げていた。後から考えてもその時の俺は精神的に相当追い詰められていたものだ。


 「何で! 何で俺を許す! ユーイチ! 俺はお前の俺らの兄貴を殺した男だぞ! それなのに何で俺を許すような目をしているんだ! お前は俺を憎んでいるのではないのか!」


 「ナヲユキ。いや、ナヲユキ兄」


 ナヲユキ兄。小さいころから俺が兄貴を殺した時までユーイチが俺に対して呼んでいた呼び名だ。ユーイチは興奮している俺とは対照的に落ち着いて語り始めた。


 「俺はもう憎んでない。あの時のことはお袋から詳しいことを聞いた。あれは全部兄貴─タカタク兄貴が悪いということを知ったんだ。今まで憎んでいてそして、ナヲユキ兄の居場所をなくしてすまなかった」


 ユーイチは泣きながら謝った。土下座ではないが頭を下げていた。

 俺はどうすればいいのだ。一度、この家を捨てたも同然の男だ。俺にユーイチと仲直りをする権利はあるのか。ここで仲直りをしていいのか。俺にはこの事態を単純に呑み込めるほど落ち着いていなかった。ダララを殺した。兄貴を殺した。俺の人生において何人も人を殺した血塗られた俺はここで弟の関係を修復していいのかわからなかった。


 「お、俺は……」


 口を開いてみたがそれ以上は言えなかった。許してくれとは言わないがすまなかったと言おうとしたはずだった。


 「ナヲユキ兄は考えすぎだよ。兄貴の件は完全に兄貴が悪かった。それだけだ。1人で背負う必要はもうないんだよ」


 ユーイチは諭してくれた。俺は1人で背負いすぎていたのか。その言葉を聞いて少し楽に感じることができた。俺はもう一度言いたかった言葉を口に出す。


 「許してくれとは言わないがすまなかった」


 「許してくれも何ももう憎んでないから許してるも同然なのにまったく、でもこれからはちゃんとした兄弟だからわかったか」


 「ああ」


 俺は頷いた。こうしてここに俺とユーイチの絶縁していた関係は修復され兄弟関係は復活した。

 テスト勉強の影響で更新できませんでした。すいません。そして、久々すぎてなぜかスランプに。分量が少なくなりました。次は増やします。すいません。

 ちなみに連載開始1年を迎えます。

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