特別版リューホ参戦の日
全面改稿しました。2014年7月2日。
この物語はまだリューホが何でも屋に着く前の話である。
帝都ヴァリオン最上層に位置するマドー城の伝言室。
「リューホ殿。応答してください」
「はあ~」
リューホは伝言室の中央に置いてある椅子の背もたれに寄りかかっていた状態で寝ていたが、突然騎士団員から連絡がきたことで睡眠を妨害されてしまった。リューホは気持ちよく寝ていたというのに妨害されてしまい気分はもう最悪だ。
「ったく、何だよぉ。人が寝ている最中だというのにもう少し思いやれよぉ」
リューホはどうせこの手の連絡はどうでもいいものだと日頃思い知らされている。だからこそ、返事はしたがもう一度睡眠をしようとしたところで騎士の次の言葉で眠気が全てはれてしまった。
「そんなこと言っている場合じゃありませんよ。皇女様が、皇女リーザ様が逃走しました。行方はいまだわかっていません」
騎士はとても慌てていて声色が興奮したままだった。その言葉を聞いてさすがのリューホも戸惑いを隠すことはできなかった。
「何だそんなことかよ、と言いたいところだがこれは驚いた。で、僕には何をしろと」
リューホこと僕はこんなほぼ引退の身である自分にも連絡がきたということは何か特別なことをしろか、それこそ問題がデカくて対処が難しいときだと判断した。いや、判断せざる得なかった。
「これは正直驚きましたよ。あなたが自分から率先して動くなんて」
「………コーキ」
そこに新たな声が発せられた。
僕はその言葉を放った騎士の名前を呼んだ。コーキは騎士団の中でもトップクラスの騎士である。僕は、もう現役を引退しているので実際の強さはコーキの戦いぶりを見ただけでわからないと言いたいところだがその実力は遠くから目を細めて見ただけでもわかる。だが、実力は認めているがこいつは好きではない。
「コーキ。さっきまで僕は一般騎士と会話していたのだが、君が直接話をするということは断られること前提でいたということかな」
コーキは僕の言葉で全てを見透かされていたらしく「えぇ」と肯定したうえで話し始めた。
「あなたのことですから、皇女がたとえ逃走したところでまったく関係ないと言うと思っていました」
「そんなことはないけどなぁ。僕だってちゃんとやるときはやるぞ」
実際はいつもサボっていたけどな。どうして、面倒なことをしなければならないのだ。それを理由にサボった。だからこそ、鳥の世話は楽でいい。
「リューホ。あなたの考えていることはダダ漏れですよ。まったく、あなたには前科が一つや二つどころではないぐらいあるのですよ」
僕は、コーキが嫌いだ。その理由の一つがこいつの魔導器『テレバスター』の能力にある。相手の思考を読み取るものだ。今、僕が考えているこのこともコーキには伝わっているだろう。相手の思考を読み取るとかもう最悪といっても良い能力だろう。
「まぁ、いいです。あなたは帝都の中どこでも好きなところで皇女を探してください。では、私は失礼します」
そう言うとコーキは伝言室から出て行った。
しかし、皇女様が逃走したのか。僕は、元兵士であるが先の魔術大戦の功績から帝国の勲章や爵位などをもらっており、皇女様と話したりする機会が幾度もあったためそれなりにあの方の性格や考えを理解することができる。おそらくは、この帝国に嫌気がしたのだろう。確かにこの帝国の異常性は今に始まったことではない。だが、ナオト皇子の逃走からだいぶ経過した今なら皇女様の精神が追い詰められて行動に移しても仕方ないだろう。
「さてと、下町にでも行くかな」
僕の感が下町に皇女様がいると指した。実際、下町には皇女様が来ないと思っている騎士は探していないだろう。そう考え、僕は下町へ向かった。
僕の予感は当たった。下町に来たら騎士は誰1人としていなかった。ただ、その代わりにどういうわけか町の人たちが皇女様を死に物狂いで探していたのだ。おそらくは、上層部の町から誰かが聞いて広めたのだろう。こういう話になると人間はものすごく興味を持つ。噂の広がり方は尋常ではない。そして、こういう時に噂がうわさを作り出す。町の人たちが死に物狂いで皇女様を探しているのはおそらくというか確実に皇女様を見つけ出したものには多額のお礼金か何か官職をくれるといった褒美があるという話が出てきたからだろう。
「まったく、噂は信用できないねえ~」
のんきに僕はそんなことを思う。僕はこれでも昔は貧しかった。だから、騎士になって豊かになろうと考えたものだ。だが、こういう風な探して見つけたところで手に入れた褒美のどこがうれしいのだろうか。そんなことは僕に分からない。だが、昔の貧しかったころの僕ですらそれで手に入れた褒美潔く手に入れるほどの勇気というか気持ちはなかっただろう。
帝都も落ちぶれたものだ。
そう考えるのが一番か。
僕はそれ以上は考えることは止めて下町を歩き続ける。実際、僕が下町に来ることはこれが初めてだ。騎士団のケント副団長の出身が下町だとは聞いたことはあるが、下町について聞いたことはないのでもう少し聞いておけばよかったと今になって激しく後悔する。
「ここはどこかな」
そして、迷子になる。当たり前だ。地図も持たずに来たこともない場所を歩いているのだから。だから、迷子になって当然だ。もう少し考えて行動するべきだったか。しかし、僕の性格上これは……
「どうにかなる!」
無駄なポジティブ精神だけは持っていた。諦めずにまた歩きはじめる。そこで、僕はあることに気が付いた。今、目も前を騎士が走って行ったのだ。しかも、コーキもいた。
ただ事ではない。
僕はそう感じた。
ばれないようにこっそりと騎士たちの後を追いかける。追尾に関しては誰にもばれる自信はない。
追いかけた先には何でも屋というお店があった。そこに騎士たちは入って行った。すぐに悲鳴が聞こえた。女性の悲鳴だ。しかも、聞いたことがある悲鳴だ。この悲鳴は皇女様?
僕は何でも屋の窓から中の様子を見る。僕の予想は当たっていた。中には皇女様がいた。そのお店の店長だと思われる男と一緒にだ。
コーキがその男に手をかけようとする。僕は危機感を感じお店の中へと入る。
「ハアーイ。何か面白いことやっているね。僕をちょっと交ぜてよ」
この後、僕はケントや、皇女様、ナヲユキ、ユーイチと一緒に旅に出ることになるとはこの時は全く知る由のなかった。