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第144話エピソード・ターク4

 おれはみんなと共に戦う。

 みんなは強い。

 だから負ける気はしなかった。1人ではなくみんなで。昔の自分であったら考えられもしないことだが、不思議と納得がいっていた。昔の自分が何でもかんでも自分で背負いすぎていたのかもしれない。そのことに今更ながら気づかせてもらう機会をくれたみんなには感謝をしなくてはいけない。

 私は大剣を再び力強く握る。

 目標はただ1ひき。ヘルだ。

 

 「ていやああああああああ」


 最初にヘルに攻撃を仕掛けたのはナヲユキだった。

 ナヲユキは近くにあった高台から飛び降りヘルの体にしがみつこうとした。

 ヘルの近くにあった高台からジャンプするなんてと私は思った。なんて、豪快な奴。

 でも、それこそがナヲユキじゃないか。会ってからそれほどの日は経っていないがそんな奴のような気がしていた。

 ヘルはそんなナヲユキに対して一切目をくれない。ナヲユキを敵として認識をしていないということか。それは余裕の表れなのか。

 その行為についてナヲユキもどうやら察したようだ。

 ナヲユキはむしろそんな態度を取られて怒ったのではなく笑った。

 

 「な、何であいつ笑ったんだ?」


 私はその笑みの理由が分からなくて困惑した。

 ナヲユキは剣を──確かあれはナヲユキの魔導器『フロストヘイル』を手に持ち一気に魔導器に魔力を集中させていた。でも、私はそこで1つ気づいたことがあった。そもそもヘルは氷の魔法をこの世に伝えた竜だ。果たしてそんな竜相手に氷属性の魔導器は戦うことができるのだろうか。

 ナヲユキはそれを覚悟なのか一気に剣をふるっていた。


 「アイシクル・レイク!」


 ナヲユキが剣を振るうと同時に空気が一瞬で凍った。そして、空気が氷また氷次々と凍っていく。これでナヲユキはヘルを直接攻撃をするのかと思った。しかし、実際は違った。ナヲユキは凍った部分を足場として走り始めた。

 そういうことか!

 私はナヲユキの目的にようやく気付いた。

 ナヲユキはヘルに届かないことに気づいていたからこそ氷で地面を作って直接攻撃でヘルを叩こうとしているのか。

 でも、直接攻撃と言ってもヘルに氷は効かないはずだ。ナヲユキは魔術攻撃なしで戦うつもりなのか。

 そこで私は別の魔力の気配を感じる。

 ナヲユキが経っていた高台。そこにはもう1人別の男がいた。その男というのはユーイチだった。ユーイチは弓を持っていた。あれがユーイチの魔導器。ユーイチの魔導器については何も知らなかったが、見た感じ弓の魔導器ということは間違いないだろう。

 そして、うっすらとだがユーイチの声がここまでも聞こえてくる。


 「医の力それは恩恵の緑、武の力それは破壊の赤、見方を救うは緑、相手を倒すが赤、見方を救うは赤、相手を油断させるは緑、2色2力この両方を使いこなしすべてを手助けせよ魔導器『ネオ・ヒール・アーチャー』発射!」


 それは魔導器の解号であった。そして、そのまま技をユーイチは発動した。


 「フレイムアロー!」


 弓の先に炎をまとった矢が出現した。

 ユーイチはその弓をひいて矢を放つ。

 矢はまっすぎヘルに向かって飛んで行った。

 ヘルの属性は氷。すなわち炎属性は弱点である。

 ユーイチの魔導器が炎属性でよかった。これならばヘルを倒せる。

 私はそう確信した。

 しかし、ヘルは炎の矢が自身に向かっているというのにまったく振り向きもしない。ずっと私の方を向いている。


 「そこまで私を狙いたいというのならばいいだろう」


 私は、炎の矢のおとりとなることを決める。


 「ノルランド流剣術5の型ムカイハシリ!」


 私は、大剣──魔導器『イヴ』を握り技を発動する。すると、私自身の体の奥底から不思議と魔力が溢れてきたような気がした。魔法を使うことができるということは私自身の体の中に魔力があるということだ。魔導器によって内在されている魔力と私の魔力の2つが組み合わされる。いや、魔導器というのは正確に言うと魔力が内在されているのではない。人間の奥底に眠っている魔力を発動することができるようにする媒体の様なものだ。

 だから、魔法を使っているときよりも魔力が増えたように感じた。

 私は体に魔力を纏う様な感覚を得た。そして、そのまま突進をする。突進する先はもちろんヘルだ。ヘルは私の方をずっと向いている。だから、攻撃は防がれるだろう。でも、それでいい。攻撃しているのは私だけじゃない。ナヲユキもユーイチも攻撃している。そして、ほかにもまだいる。


 「ウイング・ナイフ!」


 ナルノリが靴型の魔導器でキックをしようとする。靴はナイフのように尖っておりさらに鋭く風を纏っていた。


 「「大いなる力よ、我に眠りし力よ、我が力は何のためにある、誰を守るためにある、力とは今ここで使わなくてはいけないとき、すなわち開放すべき我がすべての勇気よ魔導器『バレーノ・バストン』雷鳴!」


 リョータ王子が杖型の魔導器の解号を唱える。

 そして、杖からそのまま魔術を発動する。


 「クレイジーサンダー!」


 そう言うと、天気が急に晴れから雲が出てきて雷がゴロゴロとなり始めた。風も強くなってきて徐々に雨も降り始めた。天気は嵐のような状態へと変わった。

 そして、ヘルめがけて一気に雷が落ちた。


 ゴロゴロピッシャアアアアアアアアアアアアアアン


 落雷による大きな音が起きた。

 そして、そのあとユーイチによる炎の矢がぶつかって爆発音が発生する。


 ドドオオオオオオオオン


 さらに、ナルノリとナヲユキが直接攻撃を加える。よくよく見るといつの間にかにケントとリューホも攻撃に加わっていた。

 4人が4方向から攻撃をする。


 「「「「食らえええええええええええええええ!」」」」


 「ウイング・ナイフ!」


 「アイシクル・レイク!」


 「アクア・アタック!」


 「ソード@バスター!」


 4人の技がヘルにぶつかる。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン


 さらに爆発音が起きる。

 爆発によって煙が発生する。

 これでヘルを倒せたかと言われると倒せたとは言えない。みんなそれはわかっているはずだ。

 ナオトさんが、ユーが、ヒデーキがさらに攻撃を加える。ナヲユキ達も続けて攻撃をする。私も攻撃をする。

 


 「はああああああ」


 全員が攻撃を続ける。

 ヘルは集中砲火を受けていた。

 しかし、一向に動こうとしなかった。防御姿勢も見せていない。これぐらい痛くもかゆくもないというのか。いや、よく見てみると竜の皮膚は固いはずだがところどころから血が出ている。確実にヘルにダメージを与えることに成功している。

 ヘルは動こうとしているが動けないだけなのだ。


 「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 しかし、ここに来てヘルは咆哮をあげる。


 「くう」


 その迫力に私達は押される。

 咆哮は強烈な風のようなものでみんなが飛ばされ地面にたたき落とされたり、壁に激突させられたりする。

 ナヲユキもユーイチもナルノリもケントもリューホもユーもヒデーキもリョータ王子もナオトさんもみんなが飛ばされる。


 「ダメなのか……」


 私はあきらめてしまいそうになる。

 あんな奴に勝てるわけないよ。


 「諦めるのか、アダムよ」


 オーディーンが私に声をかける。

 

 「我はまだあきらめない。覚悟は決めた。アダムよ、お前には覚悟があるのか?」


 「か、覚悟……」


 オーディーンの言う覚悟とは何なのか。それはみんなには聞かれてはいけないことであったみたいで年話によって私の脳に直接語りかけられた。

 その内容を一回聞いて迷った。しかし、覚悟は決めた。オーディーンがそこまでしようとしたのならば私もそうするしかない。

 これで終わらせる。


 「『ヒール・リング』!」


 先ほどヘルの咆哮によって飛ばされたみんなに対してリーザ姫が自身の魔導器によって傷を治していた。皇女の魔導器は回復系だということをここで初めて知った。回復系であるのならばみんなも大丈夫だろう。

 もう、みんなを傷つけたりさせはしない。

 覚悟はできているんだから。

 私は、オーディーンに言われた詠唱を唱える。


 「世界を始めし2人の賢者、1人は力の男アダム、もう1人は知恵の女イヴ2人がいなければ世界はなかった2人がいなければこの世はなかった今セカイに混沌が訪れようとしているその未来を混沌を破滅から救い出してくれたまえ救世の魔導器『アダム』自らより捧げよう!」


 私が詠唱を唱えると私の体は光った。そして、無数の鎖を出現させ一気にヘルに対して放つ。ヘルは鎖を叩き落とそうとするもまったく叩き落とすことができていなかった。むしろ、聖なる光によって鎖が神秘的な力を得てヘルにダメージを傷を与えているぐらいであった。

 ヘルはそのためすぐさま鎖によって捕まってしまった。


 「くぅ、貴様何をした!」


 ヘルは叫ぶ。

 オーディーンが今だと言う。そして、もう一言いう。


 「さよならだ、アダムよ」


 「ああ、さよなら。ありがとな」


 その言葉のあとにオーディーンは光って消える。そして、光は私の体の中に入っていく。


 「オ、オーディーン! 貴様! 自ら魔力になろうというのかああああああああああああああああああ!」


 ヘルが叫ぶ。

 しかし、もう遅い。オーディーンはすでにヘルが言ったように魔力と化してしまった。もうこの世にオーディーンは存在しない。あるのはオーディーンの魔力だけだ。

 私は、オーディーンに言われたことを思い出す。


 我が魔力となる。お前の最後の技には魔力が足りないはずだ。足りない分をすべて支える。だから、使うのだ。お前自身は封印の魔導器としての能力を持っている。だから、使え。ヘルに対して。


 魔導器『アダム』。それは封印の魔導器だ。

 封印する場所はここではない別の世界、空間だ。もうこの世界で悪さをさせはしない。

 私はヘルに対して使う。


 「閉ざせヘヴン・ゲート!」


 そう言うと、扉が出現する。扉が開くと中から大量の鎖が出てくる。その鎖はヘルに向かって放たれヘルをぐるぐる巻きのように縛り付けるとそのまま扉の中に押し込もうと戻っていく。

 ヘルはあがく。あがいてあがこうとするも鎖の方が強くあがいても無駄だった。


 「くそがああああああああああああああああああああああああ」


 ヘルがそう叫ぶとそのまま扉に押し込められ扉は締まりそして消えた。

 ヘルは封印された。


 「勝ったのか?」


 ナヲユキが言う。


 「ああ、終わった」


 私はナヲユキに言う。

 そう、言うとみんなが喜ぶ。


 「よしゃああああああああ」


 「全部が終わったあああああ」


 「これで戦争も終わったも同然だ」

 

 「見ろ、帝国軍が引いていくぞ!」


 ユーイチの言葉でみんなはこの戦争に勝ったことを確信する。実際に私も見てみると帝国軍は敗残兵のように撤退していた。

 そうか、これで全部終わったんだな。もう、私の役目はこの世界にはない。

 私は満足して笑みを漏らす。

 私の笑みに反応してかみんなも笑う。

 しかし、そんな幸せな時間は長くは続かない。だって、私はもう……


 「お、おいターク。お前その姿……」


 ナヲユキが指摘をする。

 私の体は光を纏っていた。光が空へとどんどん飛んで行っている。

 私は答える。


 「もう時間だ。みんなも知っての通り、私はいや、俺はこの時代の人間ではない。過去の人間だ。そんな人間がこの世にいていいわけないだろう。でも、みんなといられた時間は本当に楽しかった」


 「お、おいそんなこと言うなよ、ターク。お前はまだ死ぬべきじゃない。ここが第二のふるさと。第二の世界だっていいだろう」


 ナヲユキが言う。

 しかし、俺はナヲユキの言葉に対して首を横に振る。


 「いや、やはり俺はこの時代にいてはいけないんだ。だから、すまんな」


 「ターク。認めないぞ。私はそんなことを認めない」


 「……ナオトさん……」


 ナオトさんが泣きながら俺の言葉を否定する。

 それに続いてみんなも認めないという。

 だが、もう遅いんだ。

 俺はもう存在を消そうとしていた。存在が消えるとはこれほど恐ろしいこと何だな。


 「本当にごめん。でも、みんなによって俺は救われたような気がする。みんなに会えて本当に良かったよ。本当にありがとう」


 俺はそう言うと、消えた。

 消えた。

 消えたということが分かった。

 

 ああ、本当にみんなに会えてよかった。


 ◇◇◇

 ─ナヲユキ視点─


 「タ、ターク……」


 タークはありがとうと言ってそのまま消えてしまった。タークが何も消えるなんて。確かにこの時代の人ではない。でも、今は俺達の仲間だ。仲間なんだ。過去も今も未来も関係ない。俺はまた人を救うことができなかった。

 ミサを失った時と同じ感触を覚えた。

 結局、俺はいつまで経っても俺のままだったんだ。俺は弱かった。それだけは俺の悔いとなってしまった。戦争に勝ったかもしれないが何かに負けた気がした。


 「ナヲユキ」

 

 「何だ、ケント」


 「タークが消えたのはお前のせいじゃねえよ」


 ケントが俺に気を使ってなのか言葉をかけてくる。


 「いや、俺のせいだ。俺が弱かったばかりに」


 「それは違う。お前が弱かったんじゃない。俺達・・が弱かったんだ。だから、タークにこの役を押し付けてしまった。だから、お前一人が悔やむんじゃない」


 「そうだ、ケントの言うとおりだ。僕達が弱かった。あいつに押し付けてしまって本当に悪かった。謝ることすらできないとはな。伝説の司令官とか本当に嫌な肩書となってしまった」


 リューホも言う。

 周りを見ると、ナルノリもユーイチもヒデーキもユーもリーザ姫もリョータ王子もみんな顔を下に向けていた。

 みんなが後悔しているんだ。

 俺達が弱かったばかりに……

 今日は戦勝したはずなのにみんなの表情は暗かった──

 

 次回は最終回です。更新は明日7時をを予定しています。

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