第141話エピソード・ターク1
いよいよ最後の話となります。ターク篇はあと何話になるのかわかりませんが最後までどうかお付き合いお願いします。
「……そうか。そうか私の正体は……」
私は、白い竜─オーディーンを見た瞬間にすべてを思い出した。
アダム5世。これが私の本当の名前。今からはるか昔ノルランド公国というちっぽけな国の公爵だった男。それが私だ。
「オ、オーディーン」
私は彼の名前を呼ぶ。
「アダムすまないな。今まで迷惑をかけてしまって。ヘルに突然裏切られたときはとっさに時間を飛ばして悪かった。そのせいで記憶まで失わせてしまわせて」
「いいだ、私は生きている。それだけで満足なんだ」
オーディーンは、私のこの言葉ですべてが救われたのか嬉しそうにしていた。私もうれしい。こんな長くなってしまったが、時を超えて再会できたことが本当にうれしい。今にももっと話したいという欲に駆られてしまう。でも、そんなわけにはいかない。
「アダム。再開の話はその程度でどうだ」
「くくく、ようやく現れたか。オーディーン。300年前の決着を今つけようじゃないか」
ファン、そしてヘルは殺気を思いっきり私達に向けている。
今にも私達を殺せるんだぞとも言っているほどの気迫だ。
「こ、こいつら」
「焦るな、アダム。今のお前ならば自身の力も使えこなせるはずだ」
「じ、自身の力?」
私はオーディーンが言った言葉の意味をよく理解することができなかった。
私自身に力があるとはどういう意味であるのか。
「いいか、アダム。今のお前は過去のアダムとしての記憶と、記憶を失いタークとして過ごした記憶の2つがあるはずだ。その関係でとっさに思い浮かべるのはつらいのかもしれない。だから、わかりやすく説明する。この世界において魔術を発動する際において必要なものそれは、もちろんわかると思うが魔導器だ。この魔導器がないと人間は魔術を発動することができない。だが、お前は違うはずだ。最初に魔術を使うことができる人間。それがお前だアダム。私によって魔術……いや、人間自身の手で発動できるものは魔法と言っておくべきか。それを使えるはずだ。今からでもお前は魔法を使うことができる。
「わ、私が魔法を!?」
驚いた。そんなことができるはずがない。今までできたことがないというのにそんなことが……
私は動揺していた。しかし、次の瞬間その動揺をしている暇などなくなる。
「何をごちゃごちゃしている。戦いの最中だ。戦う気がないということは死にたいことだな」
ファンが私に向かって攻撃を仕掛けてきた。
そして、ヘルの方もオーディーンに対して攻撃を仕掛けている。
どうやら何かを考えている余裕など今はないようだ。オーディーンの話を信じることしか今はできない。
私は目を一回瞑って思い描く。魔法を発動する姿を。炎を頭の中でとっさに思い浮かんだ。炎はそこまで大きくはないが、安易に作り出すことができ敵に当たるまで補足することができる代物。そんな魔法を思い浮かべた。そして、次の瞬間私の右手には炎が出現していた。
「こ、これが魔法か」
私は驚いた。
「魔導器なしで魔術を発動するとは、やはりあの話は本当だったのか」
私が魔導器なしで魔術を発動したことに対してファンが言う。
「だから言っただろう。最初期の人間は魔法を使えるのだと」
ヘルがファンに入った話を信じてもらえなかったとばかりの不満を言う。ただ、それはお前が信じないのが悪いとでも言っているような言いぐさであった。あの2人? の関係は不気味だ。おそらくは契約的に関わっているだけだろう。ファンの狙いは私。ヘルの狙いはオーディーン。それだけの話なのだろう。
さて、魔法を使えることはわかった。そして、魔法を発動した瞬間に私は感じた。私がどんな魔法を使えるのかを一瞬にして頭の中にスッと入りこんできた。今の私にはファンと戦える。そう感じられた。
では、いい加減にこの長き戦いを終わらせよう。
過去の人間はさっさと元の世界にでも戻るべきだ。私も、ファンも、ヘルもそしてオーディーンも。
だから、ここでもうこれ以上この時代の人たちに迷惑をかけてはならない。
そう、それが私の使命なのだから。
「行くぞ」
「ふん、ようやくやる気になったのか。いいだろう、かかってこい」
ファンは今も傲慢な態度を崩さない。
私など余裕ということか。
その態度に対して別に腹を立たせたりはしない。ただ、私が弱く見えている。それだけの話だろう。だったらそんなあいつの視点でしか見れない世界を変えてやる。私は弱くない。お前を倒す逸材だというところを見せつけてやる。
私は、魔法を発動する。
「ヘル・フレイム」
高熱の炎を出現させ、ファンに向かって放つ。
ファンは、魔導器を解放する。
「我こそが世界の王我こそが世界の神我こそが世界そのもの創造せよ破壊せよ魔導器『THEWORLD』顕現っ!」
ファンが持っていた剣型の魔導器を解号によって魔導器としての力を解放することによって金色を基調とした大きなサイズのランサーに変えた。
ランサーはとても大きく力がかなりあるように見えた。ファンの身長と同じかそれ以上の長さがある。あの攻撃を受ければかなりの重傷となることが見るだけで分かる。だが、あの大きさの魔導器をうまく扱うことなど本当にできるのだろうか。怪しい。
私のヘル・フレイムの攻撃速度に対応することは少なくとも不可能だろう。あんな大きさのランサーを振り回すなんて無理だ。
私はそう思い、食らえと思っていると、ファンの方はランサーをまるで紙を持っているのかというほどの手軽さで動かす。
「はああああああああ」
そう気合を入れて叫ぶとそのままヘル・フレイムをランサーで振り落す。
バンバン
ヘル・フレイムがランサーによって打ち落とされた音だけが響き渡った。
あの、あのランサーは重くないのか。そう思ってしまうほどの動作であった。あいつの力は一体どうなっているんだ。疑いの目をする。気持ち悪い。
何なんだ。
私には理解することが不可能だった。
「ば、ばかな」
「何か信じられないものでも見たのか」
ファンは余裕そうな表情をして私を見てくる。
どうやら私の相手は簡単には勝たせてくれはしないようだ。
私の戦いは相当つらいものになるのかもしれない。
これからが本番だ。
私はもう一度魔法を発動したのであった。
「ヘル・ブレス・ファイアー」
ヘル・フレイムよりもさらに大きな火の玉を発生させる。私の目の前に出現した火の玉は次の瞬間にひかる。すると、火の玉から火炎放射が起きる。
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオ
炎が勢いよく一直線上に光線のようにファンめがけて飛んでいく。
ファンはランサーを両手に持ち、そして自ら火炎放射に向かって飛んでくる。これは、勝負を投げたのか。私はそう思った。しかし、実際は違った。
ランサーの先端部分に火炎放射の先端部分が当たることによって火炎放射が上と下に分かれていた。つまりはランサーによって火炎放射を真っ二つにして攻撃を防いでいたのだ。
「ま、まずい」
突進してきているのでいつまでもこの状況でいるわけにはいかない。回避行動に出なければ。
私はヘル・ブレス・ファイアーを放つのをやめて回避しようとする。
「エア・ヲーク」
空へと回避しようとして飛ぼうとする。しかし、ファンは、私が上空へと飛んで回避しようとするのを見て攻撃方法を変えてきた。自ら持っていたランサーを空めがけて一気に投げる。まるで槍を投げる動作のようにだ。その結果、ランサーが私めがけて飛んでくるのであった──




