第127話エピソード・ユーイチ3
更新遅れました。
次の日。
俺はまた学校に行く。
ナヲユキ兄に大丈夫かと聞かれたが、俺は大丈夫とだけ答えてそのまま学校に向かった。
あんなのに俺は屈したりしない。
俺は絶対に屈したりしないんだ。
学校まで行くととても騒がしかった。
学校の正門のあたりに大勢の生徒が集まっていた。
なんだなんだ? 俺は不思議に思ってその集団の元へと歩み寄る。
「どうしたんだ?」
俺はその集団の中から友人であるオンキを見つける。
オンキは背が高い男であったので簡単に見つかったのだ。
「ああ、ユーイチか。それが今朝学校に来たらあんな状態になっていて……」
オンキはそう言うと、正門の目の前にある桜の木のあたりを指さす。
俺はその指が指している方向を見る。
そこにあった光景というのは、
「えっ!?」
木の下には数人の倒れている男がいた。年齢の方は俺と同じくらいだ。しかも、ただ倒れているだけではない。気の周りには赤い液体が大量に流れていた。赤というよりは赤茶色。いわゆる血というやつだ。つまりは、数人の死体があったのだ。
しかも、その男たちにはどこか見覚えがあった。
そう、俺をいじめていた連中だったのだ。
「ど、どういうこと?」
「朝来たらこんな状況になっていた。状況から考えて昨日の夜に襲われたんだろうな」
昨日の夜。つまりは、俺を襲ったあとに誰かに襲われたということになる。
しかし、貴族の息子どもが夜に学校にわざわざ来るだろうか。俺みたいな貴族の三男ともなると専属の者が学校まで迎えに行くということもあったりなかったりするが、あいつらは貴族の長男次男なので専属の者が学校までついていく。さらには、出かける際にも絶対にガード代わりについていく。だから、どうやって奴らが学校に来たのだろうか。
不自然に思える点は何個かある。
「ユーイチ君。ちょっといいかな」
「ん? アイーナどうした?」
俺に声をかけてきた女子がいた。背は俺より少し低いぐらい。年は同じ。胸は意外とある。服装も大貴族の霊場ということもあり結構派手なものを着こなしている。
彼女の名前はアイーナという。
「ユーイチ君ってあいつらにいじめられていたよね。何か今回の事件の関係者と言ってもいいよね? おそらく先生たちや近衛からも事情聴取されるだろうから覚悟しておいた方がいいよ」
「……忠告ありがと」
確かにこの事件において真っ先に疑われるのは俺だろう。ずっといじめを受けてきていた。つまり、あいつらに対してかなりの恨みを持っている。周りの人もそのことを知っている。ただ、周りの人たちは、俺がいじめられているのを見て見ぬふりをしてきたからそこまで強くは言えるはずはないが。
それでも、正義感の強い奴(俺のことを事前に報告していない時点でそれを正義感と呼ぶかは怪しいが)は、俺のことを先生あたりに告げ口でもするのだろう。
そして、校舎内に入るとさっそく先生に呼び止められた。
「ユーイチ君。少し話があるんだがいいかね?」
初老の先生だ。この人はクダ先生。この道60年のベテランの男の先生だ。専門は魔導史学である。ちなみに口がものすごく臭い。加齢臭ではない臭さだ。一体何の臭さなのだろうか。あまり関わりたくはないので聞いたりはしていない。
そんなことはどうでもいい。
俺は、クダ先生に呼ばれた。
一体、何を聞かれるのだろうか。それはおそらく想像通りのことだろうと思うが。
クダ先生に連れてこられたのは、教師室であった。教師室教師が常駐する部屋のことである。
教師室には数人の先生がいた。
その数人の先生が1つの椅子を囲むように立っていた。
俺はクダ先生にその1つの椅子に座るように言われた。
「そこに座ってくれないか」
「……はい」
拒否権などない。
俺は素直にその席に座った。
「で、呼ばれた理由はわかっているよな」
「ええ、あの校門の近くの死体についての話ですよね。確かに彼らは俺をいじめていた奴らですが、俺は殺していません。疑うようでしたら、俺の昨日の行動を知っているうちのメイドにでも聞いてください」
「いや、そのことはわかっている。すでにその話は彼女に通して否定してくれていた。私達が聞きたいのは君が犯人ではないということを直接君の口から聞きたかっただけだ」
「そうですか……では、もう開放してくれてもいいですよね?」
「いや、まだ聞きたいことがある」
「と、言いますと?」
「ユーイチ君以外にあいつらを憎んでいる奴はいないだろうか?」
「知ってることを言ってくれればいいんだ」
俺を囲んでいる先生方の目がギラリと光る。
最初からこっちの質問が本命であったのか。俺は、ようやく自分が呼ばれた真の理由が分かった。
「俺以外に恨みを持っている奴ですか……たぶんたくさんいると思いますよ。あいつらいろいろな人を相手に脅迫したり、暴行していたりしていましたから。俺よりも殺意を持っていた奴なんて数え斬ることができない気がしますよ」
「そうか。情報教えてくれてありがとな」
「いえいえ」
そのような会話をして俺は解放された。
ちなみに俺が言った話は自分の保身のための嘘ではない。実際にあいつらの行動は目に余るものであった。それほどひどいものであった。俺ぐらいなら我慢できるが、ほかの人であったら思わず殺してしまうほどつらいものであった。
俺は、教師室を出て教室へと戻る。
そのあとは普通に授業を受けた。アイーナにかなり心配されていたが迷惑をかけたくなかったので何事もなかったと適当に言っておいた。あまりに俺があっさりしていたことからそれ以上追及することはなかった。
学校の授業が終わると、アイーナからさらなる追及を受ける可能性があったので俺はさっさと帰ったのであった。




