第115話大戦黒幕編11
それから本部に帰った俺は新しいボスとして認められた。
俺は自分がボスになったということがプレッシャーとなった半面責任感に駆られていた。兄貴のあとを継いだ以上成果を残さなければ。
俺自身がもっと強くならなければ。
そんな思いで俺はずっと戦い続けた。そして、ついに1年近くにわたった戦いに決着がついた。
俺達の勝ちでだ。
魔導器の大量生産を可能にした俺達は見事にシルバ帝国に勝った。
シルバ帝国の皇帝一家を皆殺しにすることができた。
あの時、俺と戦ったハオウは俺自身の成長によって圧勝だった。あれだけ苦労した相手であったのに、いともたやすく勝つことができたのは正直言って驚いた。でも、これで分かったことがある。兄貴の言っていたことはすべて正しかったということだ。俺の成長もすべてわかっていたみたいだ。
「ボス。そろそろ時間です」
「わかった。今いく」
俺は部下から連絡を受けたので部屋を出る。
今の俺の格好は金色の立派な服に、金色の王冠、杖と豪華な装飾品を自分の体に身に着けていた。これらはすべて俺達がシルバ帝国に勝った際にシルバ帝国の宝物この中にあったものを拝借した形だ。
この格好が意味するところ……それは今日俺がシルバ帝国を倒したうえで新しい国家を建設することを大々的に発表する日である。
新しい国の名前は既に決まっている。当初は共和制で行こうと俺は言った。しかし、周りの連中は俺が善政をするのであれば帝政でも王政でもいいと言った。というよりも、王政や訂正を積極的に進めてきた。仕方ないので俺は周りの意見を尊重する形で帝政を採用した。
俺は、城内の廊下を歩く。元シルバ帝国の皇帝の居城だったこの城は今や俺の城となった。俺は城の中にあるラウンジへと向かう。そこには城の中に作られた広場を見渡すことができる場所となっている。そこで今から俺は演説をすることになっている。その内容は先ほど言ったように建国についての話だ。
「ファン。お疲れ様」
俺がラウンジへと通じる部屋の中に入るとそこに声をかけてきたやつがいた。
「お前が言葉をかけてくるなんてとても珍しいなアリス」
俺に声をかけてきたのはアリスだった。
ちなみにこの部屋にはアリス以外いない。
この部屋のさらに奥にもう1つ部屋があり、おそらくそこに俺とアリス以外の幹部は集結しているのだろう。ずっと昔に総攻撃を決めたときにいた幹部は俺とアリスとサクラとメリアダ以外全員戦死してしまった。実際に戦死した場には立ち会っていない。しかし、戦死した時の様子は嫌と言うほど部下から伝えられた。どの幹部も最後の言葉を最後の行動をきちんとボスである俺に伝えたいと言いわざわざ部下を戦場から生きて離脱させたぐらいだ。
それだけに話の内容はとても生々しかった。特にサキュアの場合が一番俺の心に来た。
サキュアの最後については今この場で語りたくはない。しかし、その時の俺は本当に発狂しそうになった。いや、半ば発狂した状態であった。あれほどの悲劇を俺はもう二度と経験をしたくない、そう思わせるようなつらいつらい経験であった。
あの手紙はサキュアが最後に俺に送った手紙の内容はそれだけ俺の心に来たのだ。
「そんなこともないでしょ。ファンボルクが亡くなった後にファンがボスになってからずっと気にしていたじゃない」
ああ、確かにそうだ。
俺が革命軍の新たなボスになった後、アリスとサクラの2人、特にアリスには大変世話になった。兄貴を失ったことの悲しみや兄貴の後任という重圧、そのすべてが俺をダメにしようとしていた。俺は一時期引きこもっていた。誰の前にも出たくはなかった。特に部下の前には。部下たちは俺をキラキラした目で見てくる。まるで希望を見るかのような目で見てくる。
やめてくれ。
俺はそう叫びたかった。
俺にはそんな力がない。勝利に導ける自信がなかった。そんな能力があるとは思っていなかった。
「ねえ、ファン」
アリスが俺に声をかけ続ける。
「何だ。アリス。もうそろそろ時間なんだ。話ならさっさと終わらせてくれ」
俺はこの後の演説で緊張していたためぶっきらぼうにアリスに言う。アリスに対して多少というかかなり失礼かつ嫌にさせるような言葉づかいであったがそんなことを気にしているだけの余裕というものっがなかった。仕方なかったと自己肯定していた。
「ねえ、ファンはこの帝国の皇帝になるんだよね」
「ああ、何を言っているんだ。そんなの決まっているだろ。俺自身が皇帝になることをこの間幹部で決めたじゃないか。アリスもそれに賛成していたじゃないか」
何をいまさら。
俺はそう思った。
「そうね。賛成したわよ。私は幹部としての意志で。ただ、そこには私個人としての意見入れていなかったし、それに……あなたのファンの意志がない。あなたは実際にどうしたいの?」
「お、俺は皇帝になると決めたんだ。それが俺の意志なんだ」
「それはほんとうにあなたの意志なの?」
「な、何を言っているんだ。今更決まったことに文句をつけるのか! 俺が皇帝になる。それがこの革命の決定事項だったんだ。だから、俺が皇帝になることは俺の意志だ! 最初からその覚悟でずっとやってきたのだから……」
俺は声を荒げた。最初の方は感情に任せて怒鳴った。しかし、最後の方は声が小さくなっていた。
「違うのでしょう。あなたも本当は気づいている。しかし、ファンは私達の前では決して弱みを見せようとしなかった。自分がボスとして部下を導かなければならない。ただそれだけのために。ずっとプレッシャーに潰されていたのでしょう。だから、今だけは弱音を吐いていいのよ」
アリスのその言葉によって俺の今までずっと本心をふさいでいたものが壊れた。
「そうだよ! 俺は本当ならば皇帝になんかなりたくない! ただ人々がいい生活を送ることさえ遅れればいいんだ! それなら俺じゃなくても誰かがやってくれる! 俺は……俺は皇帝になんかになる器じゃないんだ!」
溢れてくる。ずっとずっと隠していた本性が。
ずっとずっと誰にも言うことができなかった想いが。
「ファン」
アリスが優しい声で俺に話しかける。
その言葉を聞いて俺は落ち着く。
「ア、アリス?」
俺は、アリスを見る。
「ファン。私はあなたのことが好き。もしもあなたが皇帝になりたくないのならば私がなってあげる。だからファンは笑って」
その言葉は俺に来た。
アリスから告白をされた。アリスの顔は真っ赤であった。目は俺をまっすぐ見ている。俺だけを見ている。嘘ではない。俺を励ますためだけに言った言葉では明らかになかった。
「……俺なんかでいいのか?」
「ええ、あなたじゃないといけないの」
アリスは俺を肯定してくれた。
その言葉を聞いて俺の目からは自然と涙が出てきていた。
ああ、俺はなんて恵まれているのだろうか。アリスという存在がいてくれてよかった。俺を支えてくれる人がいてくれて。
「アリス。俺は皇帝になる。アリスが皇帝になっても何も変わらない。俺はもう何も迷わない。今、ここに俺はファン帝国初代皇帝ファンとして即位することを誓う。だから、アリス。ずっと俺を支えてくれるか?」
俺の告白とも言える言葉にアリスは、
「ええ、あなたが地獄に行くのならば私は地獄へ行く。あなたが天国へ行くのならば私は天国へ行く。最後まで一緒よ」
俺はアリスの唇にキスをした。
長い長いキスであった。
どれぐらい時間がたったのかわからないがその後、俺は時間になったとサクラに言われて(なぜかサクラは怒っていた)バルコニーに出る。
そして、宣言をする。
「全民衆よ。今ここに俺は、我は宣言する。ファン帝国の建国を! そして、我がファン帝国初代皇帝ファンとして即位することを!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」
地響きのような巨大な歓声が広場から上がる。
そして、この瞬間にファン帝国が建国されたのであった。




