第107話大戦黒幕編3
「ぐは」
先に進んでいた兵士達の悲鳴ややられる声が聞こえてきた。
俺は恐る恐る悲鳴のした方を向く。そこには数人のノルランド兵がいた。そして、兵士達は不思議な武器を持っていた。
「敵がいたぞ!」
兵士達が俺達の姿を見て叫んでくる。そして、俺達に向かって飛びかかってくるように攻撃を始める。攻撃は魔法ではなかった。不思議な武器で攻撃してきた。
「冷たき心、熱き心、すべてを凍らせすべてを熱し大地を氷と炎の2つで染め上げろ魔導器『フレイム・アイス』解放!」
「滅ぼせ、叩け、潰せ、この世のすべてのものは消えてなくなれ魔導器『ハンマー・ナイフ』切断!」
襲い掛かってきた兵士の中の数人が怪しげな呪文を唱えた後それぞれの手に持っていた武器の形が変化した。
「な、何だあの武器は!」
「おい、誰か!」
俺以外の兵士達が動揺して叫びだしている。中には逃げ出し始めたものもいた。
俺は、逃げ出そうとした兵士達の中の数人を斬りつけた。もうこれでは戦いなどに集中できない。無理やりでも仕方がない。恐怖でどうにか支配するしかない。無理やるでも戦わせるしかない。
「逃げるんじゃない!」
怒鳴りつける。
しかし、俺はもうこの時確信していた。戦いの流れは完全に変わっていた。もうこのまま俺達は負けるしかない。どこかいいところを見つけて撤退でもしなければならない。
「ぐは」
「ぎゃああああ」
俺がこうして撤退の機会を考えているうちに犠牲者はどんどんと増えて行っている。俺の周りの部下の数もだいぶ減ってきた。
……ここが潮時か。
俺はここであると考えた。
「皆の者! 撤退だ! とにかく逃げろ! そして、本拠地まで逃げ切るぞ!」
俺はそう言うと、踵を返す。ほかの兵士達も同様の行動をとる。そして、全員が一斉に動き始める。全力で走り始める。そこには何も考えるなんてことはない。恥なんかない。とにかく生きて帰りたいという思いだけがあった。
────
それから数刻の時間がたった。
俺はどうにか革命軍の本拠地まで命からがら逃げてくることができた。俺の周りにいる兵士の数はだいぶ減っていた。
「生きて帰れたのはこれだけか……」
正直自分の命のことでいっぱいであったことに今になって恥であると感じる。俺は革命軍の幹部だ。命が一番大事とかどこかの国の貴族と同じじゃないか。自分が上でえばっているだけじゃないか。
俺は自分を責めつつ建物の中に入った。
「帰りました」
「おかえりなさいませご主人様」
「お、おおメイルスか。相変わらず俺はご主人様じゃないって何度言えばいいんだ。俺はその言い方に慣れないからやめてもらいたいんだが……」
「それは無理です」
建物中に入ってすぐに俺に挨拶をしてきたのはメイルスという女性であった。彼女はロングヘアーの赤髪で巨乳、顔もとても美人であるわが革命軍の中でもアイドル的な存在であった。ちなみに彼女が俺をご主人様と言っているのは彼女は現在給仕係であるからだ。給仕係である彼女は誰に対しても特に幹部に向かってはご主人様ということになっている。
「即答か。まあ、いい。それよりボスはいるか?」
俺はメイルスに尋ねた。
「はい、ボス様なら建物最上階のスイートルームにて執務をしているはずです」
「わかった。ありがとな」
俺はメイルスに感謝の言葉を述べるとそのまま階段を上って最上階へと向かった。
最上階のボスの部屋の前には警備の兵が2人いたが俺は幹部として顔が知られわたっているので何にも言われることなくあっさりと通り過ぎることができた。もしも、これが敵の変装魔法によって偽物が紛れたとしたら安全上大丈夫なのかと疑ってしまうほどのゆるさであったがまあ、いいか。
それはともかく俺は部屋の中へと入っていった。
中には大きな机が1つ置いてあった。また、壁は赤で統一されておりマットも赤色。派手なシャンデリアが部屋の中心にあった。
そして、大きな机で黙々と作業をしている男が1人いた。
どうやら作業に夢中であるらしき俺が部屋の中に入ってきたということにいまだに気が付いていないらしい。もしもこれが敵であったらどうしたんだとつい怒りたくなってしまうほどの不用心であった。
「ボス。ファンです。ただいま帰りました」
俺は部屋の真ん中近くまで歩いて近寄るとボスにそう言う。ボスは俺の言葉でようやく俺が部屋の中に入ってきたということに気が付いたらしく顔を上げる。
「ファンか。よく帰ってきたな。何だ? お前がここに来たということは大事な話でもあるのだろう?」
ボスはにやにや顔で俺に声をかけてきた。
ボスの名前はファンボルク。金髪で身長が180を超え横幅もかなり広い大男。声も小さい子どもと話したら絶対に逃げてしまうほどの怖さを持つ低い声。顔はひげをぼーぼーとはやしたいい加減な男だ。まあ、一言で言うならば男前だろう。
そして、この男ファンボルクは俺の兄貴である。俺が、この革命軍に参加したのも兄貴に誘われたというのが理由の1つとしてあげることができる。
「ああ、大事な話がある」
俺は、兄貴と弟兄弟という関係があるはずであるがここではボスと幹部。主君と部下。この越えがたい立場というものに縛られている。本当ならばもっと積極的に兄貴とは会話をしたい。しかし、そんなわがままを言うことができない。何とももどかしいことか。
「じゃあ、語ってくれ」
俺は兄貴に言われるがまま先ほど起こった出来事を語り始めた。




