14:野々口のNはノーマルのN
「なぁ、相澤」
「なんだよ、倉上」
「S、と言われたら普通は喜ぶだろう?」
「……今更だけど、お前の普通ってなんだよ」
「Sは最大級の褒め言葉だ」
倉上がまた懲りずにそんなことを言った。
「倉上、頼むから連呼しないでくれ」
「何故だ。理解に苦しむ。Sと言われたら相澤だって嬉しいだろう?」
「一般的に嬉しくねーよ!」
嬉しい奴いるの? ねぇ、いるの?
健全な男子高校生なら嬉しくないだろ!
別に倉上を暗に健全でないと言ったわけではない。
倉上はもとから規格外の範囲外。
「一般を代表して言わせてもらうけどな、そんな、いかがわしい……」
「なんだ、Sランクは褒め言葉だろう?」
「…………ぐ」
「おい、相澤どうした。顔が赤いぞ? 何故しゃがむ? 何故呻く? なんだ突発的腹痛か?」
心配しているのか、馬鹿にしているのかは知らないが、とりあえず穴があったら、いま現在、高速で埋まりたい。
この勘違いは恥ずかしすぎる。
これは日頃の行い(倉上に対する扱い)が悪いせいか。
「……悪かった、倉上。前言撤回するわ。Sランクは褒め言葉だ」
「そうだろうな」
「でも、Sって言われたなら意味は色々と考えるだろ……?」
「なんだ、そう言うなら例をあげろ」
眉を顰められ、ぐったりしまま適当に口を開く。
いまなら体力値の底が見える気がする。
「例えばスモールのSとか」
「相澤、俺と五十歩百歩のお前にだけは言われたくない」
「お前に言ってねーし。てか、1センチの壁はでけーよ、167センチ」
「認識が甘いな、相澤。正しくは167.5センチだ」
「お前が小さいのは心だ、心!」
1センチの差(正確には0.5センチ差)で偉ぶる俺の心のほうが狭いとかいう反論は今は聞かないでおこう。
それを聞いたらもう屍になるしか道がない。
対して倉上は気にした様子もなく話を戻した。
「なら俺も相澤もMという解釈でいいか」
「いや、それはなんか嫌だ」
「まさかLだと主張するのか。それは少しばかり強欲だぞ」
「Mって指差されるくらいなら、俺は強欲でいい……」
「今日の相澤は様子が劣悪だな。大丈夫か」
劣悪って心配する台詞じゃないだろ、と力無く内心でつっこむ。
いったい今日の大量消費はなんなんだろうか。
非常に疲れた。
もうそろそろ会話をお開きにしようと倉上に最後の質問を投げる。
「そういえばSランクってなんのランクだったんだ?」
倉上はきょとんと目を丸くした。
それから、至極当然と言う。
「野々口から言われた俺の性悪度だが?」
……悪い、倉上。
もうつっこみ所、多すぎて俺、無理だわ。