13:迷探偵、出没注意
「なぁ、相澤」
「なんだよ、倉上」
「つくづく俺はヒーローに相応しくないか」
「……どこの世界にお前みたいなヒーローが必要なんだよ」
「推理小説なら、俺はきっと名探偵役だろうな」
倉上がまた懲りずにそんなことを言った。
「お前のその意味もない自信、いったいどこから湧くんだ、俺は謎すぎる」
「根拠はあるぞ?」
「ほぅ? 聞かせて貰おうじゃねぇか」
「得てして、相澤、お前のような奴は探偵の助手タイプだ」
「だから、お前は探偵タイプなわけか」
「もちろんだ」
そこで胸を張るな。
というかそこで自慢げにするな。
お前がすごいんじゃねぇよ。
すごいのはホームズとかだよ。
呆れつつも先を促す。
「で、助手タイプって具体的には?」
「推理小説ではたいていの場合、助手とは語り手だ。彼らは読者が感情移入しやすい凡人キャラなことが多い」
「……なんか地味に嫌なこと言ってるな」
「いや、これは大切な箇所だ。語り手がホームズだったらどうだ? 謎解きなんてしないで頭の中で終了だ。あと天才の心理を描写するのは大変な苦労であるし、よって感情移入も難しいだろう」
「確かに尤もな気もしないではなくない」
「探偵タイプとはつまり、天才であり奇人であり、主人公、語り手ではないが憧れの象徴であるヒーローのようなものだ」
なんか納得したくないものがある。
つまり、倉上が探偵タイプなら憧れの象徴でヒーローなのか。
うん。なんか素直に認めたくない。
「あと語り手は振り回され役も多いな」
「振り回され役……」
「そうだ。常識的な語り手が、非常識だが特殊能力などを持つヒーローなどによって問題に巻き込まれたりするあれだ」
「……なんか親近感湧く」
誰かさん、実は自覚あるんじゃね?
客観的な見解あるんじゃね?
確かにこうしてみると俺は助手タイプだ。
そして、倉上はまごうことない探偵タイプだ。
別に特殊能力とかないけど。
「確かにお前は探偵タイプだな」
「そうだろう。だから探偵がしたい」
「犯人役とかいないだろ。諦めろ」
「そこで諦めてどうする、相澤。犯人なんて作ればいいだろうが」
……前言撤回。
倉上は探偵にも、ヒーローにも向いていないと思う。
むしろ、敵役が似合うと思う。
ラスボスの側近とかで嫌な戦い方する感じの要員として。