第一話 出会い(1)
私は夢屋の主人だから。
小さくても主人になるのだから。
だからもう泣かないでおこう。
だからもう笑わないようにしよう。
ただ、人の願いをかなえ続けていこう。
そう、私はもう、夢屋の主人なのだから・・・。
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夢屋。
それは人々の夢をかなえる手伝いをしてくれる立派な職業である。
そして、夢屋は現代においてとても人気のある職業である。
けれど、実質、その職業に就いている人は少ない。
なぜなら夢屋になるためにはれっきとした難しい国家試験があるからだ。
その難しさは国家試験の中で、一番難しい。
そして、今もなお、問題が難しくなっている。
つまり、夢屋は今や、エリート中のエリートなのである。
☆★☆★
僕は今、幸せの絶頂にいた。
そして、その右手には、一枚のチラシが握られていた。
振り返ること十分前・・・・
長谷川透はまだ少し慣れていない高校から家への通学路歩いていた。透はつい先週あった入学式で高校に入ったばかりだ。透は髪は肩よりも少し上くらいの長さの薄い黒色で背は平均の少し高め。顔は黒目が大きく、いわゆる童顔、女子たちには隠れた人気者なのだが、本人は全く気付いていない。
そんな透が、下校途中の少しさびれた地域の掲示板にふと目をやるとそこにはまだ新しそうなバイト募集のチラシが一枚貼ってあった。そしてそこには、
『夢屋「ブルーローズ」バイト兼助手募集』
とあった。
しかも、『年齢制限なし。やる気のある方ならだれでも。詳細は電話で。』ということである。
透は、そのチラシを破りとり、高鳴る鼓動を抑えきれず、家へ向かって全速力で走って行った。
透は幼稚園の頃からずっと将来の夢は夢屋である。
そんな職業があったと知った時から人の夢をかなえるお手伝いをしたいとその夢をかなえるために頑張ってきた。
そして透は高校へ進学する際、車で三時間半かかるところを選び、今は一人、学校から徒歩二十分の1LDKのアパートに一人暮らしなのである。
なぜそんな高校を選んだのかというと、この町にあるということと、そして夢屋になるための教育も受けられるからだ。
ここ、ふじさき町は地名こそあまり知られていないが、ある別名で有名なのである。
――――別名、夢屋町――――
そう。ここは名の通り、夢屋の町なのである。
いろいろな夢屋が存在し、国内で約四割の夢屋はここにあるという。
ここに初めて夢屋というものが誕生したから、ここに夢屋が集中するようになったと言われている。
そうした影響か、その近辺の学校も、それにあやかり、夢屋を目指す学生を育成する学科やコースも作られていった。
そしてそこに透は通うために実家を飛び出し、この町に来たのであった。
透のアパートは二階建てで、その二階に住んでいる。透は階段を一段飛ばしに駆け上がり、部屋の前までダッシュで行き、その間鍵を取り出して部屋の前へ立つとすぐさま鍵を開けた。そして、ドアノブを回して中へ入り、バタンという音を立て、靴を脱ぎすて、リビングのほうへまたバタバタと音を立てながら走っていった。
そして、荒い息のまま、握りしめていたバイト募集のチラシに書いてある番号を押した。
そして、「プルプルプル・・・」と音が鳴る。
走ってきて、息が荒いせいなのか、それとも緊張しているのか、透の心臓はバクバクいっていた。
・・・・プチッ。
「はい、もしもし。こちら夢屋、ブルーローズです。」
無機質で綺麗な声が聞こえた。多分、女の人なのだろう。少し子供っぽいような気がするが。
僕は緊張しすぎてなにも答えられなかった。
「もしもし?」
相手は聞こえてなかったのかもしれないともう一度声が聞こえた。
ヤバい。返さないと。
「あ、あのえっと!バイトが募集で見て助手したいです。」
声が裏返ってしまった。しかも後半、何言ってんのか自分でもわからない。
「・・・バイト募集見て電話してくださった方ですか。」
「あ、はい!」
相手が冷静に対応してくれたので、なんとか返事をすることができた。
よかった。マジでよかった。
「それでは、面接を受けてもらうことになりますが・・・・・・」
「・・・・・・はい、はい、はい。よろしくお願いします。それでは、失礼します。」
プチッ。
そして、現在に至るわけである。
なんやかんやで話は進み、面接は明日の放課後ということになった。
とりあえず、ひと段落つこうと冷蔵庫からお茶を取り出し、お茶をコップに注ぎ、飲んだ。
それでも、この感情はおさまらない。
面接がまだ残っているが、それだけでもいい。なぜなら僕は夢屋自体、行ったことがないからだ。
僕の実家の近くには残念ながら夢屋はなかった。夢屋の存在を知ったのもテレビだったし。
明日、面接に行けると思うと、つい、顔がにやけてしまう。
ん、何か、大切なことを忘れているような・・・・。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
思わず声をあげてしまった。
僕は重要なことを忘れていた。
面接といえば、必要なものがあった。
そう、履歴書、である。
ポケットに入れっぱなしだった携帯を取り出し、携帯を開いて待ち受け画面に表示されている時間を見た。
六時半を過ぎていた。
ヤバい。今から間に合うだろうか。
今からむかうにして一番近そうなのは商店街の本屋である。
だが、商店街の店のほとんどは七時で店を閉めてしまう。
さっき脱ぎすてた靴をかかとを踏んで、服を着替えないままそのまま商店街へと走って行った。
「はあ、はあ、はあ、ま、間に合ったぁぁぁぁ!」
本屋を出た後、思わず声をあげてしまった。
それもそのはずである。今はもう七時を過ぎていたからだ。
数分前・・・・
もう間に合わないか、とあきらめかけていたその時、奇跡が起こった。(本当は奇跡でも何でもないが)
なんとその本屋は営業時間が九時までだった。
近くに会社帰りの大人がここを通ることが多いので、多分そのせいなのであろう。
とりあえず、よかった。本当によかった。
この後、走って損したと家に帰る途中で気づいたのであった。
まず、読んでいただきありがとうございました!
この作品は、私の初投稿作品なので不安なところが多々あり、とても不安です。
もしよろしければ、感想を書いてくださるとうれしいです。