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ヘパイストス  作者: 津嶋朋靖


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ミケのアトリエ

 私を先導してアトリエの中を歩いていたミケは、一枚の絵の前で立ち止まった。


「これが今回の新作だよ」


 彼はその絵を指差して、説明を始める。 


「昔読んだSF小説に機械だけの町というのが出てきた。住民はいないのに機械だけが動き続け、存在しない住民にサービスを続けているという町だ。この絵はそんな世界を想像して描いたものだよ」


 そう言われてみると、確かにそうだった。

 その『マシンシティ』というタイトルの絵の中では、多くのロボット達が働いている。


 だけど、人間は一人も描かれていない。


 人間はどこへ行ってしまったのだろう?


「住民がいなくなる前のこの世界は、ロボットが全ての仕事をやってくれていた。人間はただロボットの奉仕を受けていればいい。楽園のような町だ。だが、住民はそんな町がイヤになって出て行くのだよ」


 なんで?


「生き甲斐が見いだせないというのさ」


 でも、そんな事で出て行っちゃうかな?


「そうだね。いくらイヤになったと言っても、ロボットに奉仕されることに慣れて働かなくなってしまった人間が、はたしてこの町を出て暮らして行けるだろうか?」


 野たれ死にするだけだと思うな。


「僕もそう思う。でも、もうすぐその答えが分かるのじゃないかな」


 どうして?


「現実がSFに追いついてきたからさ」


 確かに……数十年前、日本でもベーシックインカムが導入された。つまり、今の日本では働かなくても最低限の生活は送れるようになったわけだ。つまり、この絵に描かれている世界はほぼ実現している。


 それが可能になったのはAI (人工知能)が発達したおかげ。


 AIが働いてくれるおかげで、私達は食べるために働く必要がなくなった。


「しかし、日本より半世紀前にベーシックインカムを導入した国は財政が破綻した。なぜだか分かるかい?」


 さあ?


「AIの発達が不十分だったからさ。現在ではAIが当たり前のようにやっている仕事は、ほとんど人間の手で行われていた。例えば、君がレストランで食事をするとしよう。君はまず席についてメニューから食べたい物を選ぶ。すると店の奥にある三次元プリンターが料理を数秒で複写。別のプリンターが食器を複写して、ロボットがその上に料理を載せて君のテーブルに持ってくる。こんなの当たり前と思っているだろうね。でも、半世紀前までそれはすべて人の手で行われていた。ところが今じゃあ、人間のやる仕事はあまり残っていない」


 確かに。ただ、私はそのあまり残っていない仕事がある数少ない人間。私と同年齢で、職業のある人は一割もいない。


 今、私と仮想空間(バーチャルスペース)で会話しているミケも職業はない。


 ミケは絵を描いているが、それは職業ではなくあくまでも趣味。ミケの描いた絵はネット上で無料公開されていて誰でも観ることができた。


 だが、それは収入には結びつかない。


 収入に結びつかないから仕事ではない。だが、彼の描く絵は多くの人を魅了していた。私もそんな一人。


 こんな素敵な絵を描く人はどんな人か?


 興味を覚えた私は、仮想空間(バーチャルスペース)での面会を求めた。


 ミケに会いたい人は大勢いるから無理かなと思っていたが、意外な事に会ってくれた。


 もちろん仮想空間(バーチャルスペース)なので私の目の前に現れたのはアバター。それも実画像ではなく三毛猫の姿だ。


 そういう私も実画像ではなく、小鳥のアバターを使っている。


 仮想空間(バーチャルスペース)でミケと会うのはこれで三回目だが、いつもこの姿。三毛猫がよほど気に入っているのだろうか?


 あら? そろそろ面会終了の時間。


「ねえ。ミケさん」


 ちなみにミケというのは彼のペンネーム。三毛猫から取ったのか、ミケランジェロに因んだのかは分からない。 


「次はいつ会えますか?」

「そうですね。ルイさんとは、当分の間会えないと思います」

「え?」


 なぜ? もう私と会いたくないの?


「僕は会いたいのだけど、たぶんルイさんは仕事が忙しくなって会えなくなるかも……」


 その瞬間、面会時間終了を告げるアラームが鳴る。


 アラームと同時に、ミケは何かを言っていたがよく聞き取れなかった。ただ、『ゴメン』と言っていたような……でも、なぜ私に謝るのだろう?


 それを聞く間もなく私は闇に包まれる。


 仮想空間(バーチャルスペース)と私の脳をつないでいたBMI (ブレイン・マシン・インターフェイス)の接続が断たれた事により、一時的に私の五感が無くなったためだ。


 程なくして私の五感が戻ってくる。


 目を開くと、私は自分の部屋にあるリクライニングチェアの上にいた。


「お帰りなさいませ。マスター」


 私を出迎えたのは部屋の管理をしているAI端末である女性型ロボット(ガイノイド)のPちゃん。


 ちなみにPちゃんは『お帰りなさい』と言ったが、私はこの部屋にいながらにして仮想空間(バーチャルスペース)に接続していたのだから、この部屋から出ていたわけではない。


 そもそも私は月に数回しかこの部屋から出ない。


 昔の人はこういう暮らしを『引きこもり』と言って社会からの落伍者と見なしていたが、今では普通の生活様式だ。令和時代初頭に起きたパンデミック以来、次第に人同士の接触を避けるようになった事がきっかけらしい。


 もっとも、昔はパンデミックがあったからと言って引きこもっていたら生活が成り立たないが、現代ではAIの進歩によって人は部屋から出ることなく生活する事が容易になっていた。

 

「マスター。留守中に情報省から出頭命令が来ています」

「出頭? 何かあったの?」

「分かりません。ただ、出頭する前にニュースをチェックするようにと」

「ニュース? ニュースと言われても、どの……」

「ヘパイストスで検索するようにと」


 ヘパイストス!? 

ミール「なんで、Pちゃんだけ出演しているのです。ずるいじゃないですか」

Pちゃん「これは私ではありません。量産型Pちゃんです」

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