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6話

「《月の魔法》とは、月の神に選ばれた勇者だけが扱う事のできる特別な魔法のことです。そうですね、時間もたっぷりありますし、まずは魔法について説明しましょう」


「魔法とは、基本的に人間が扱うことのできない術理のことを指します。例えば、先程のジャイアントベアが時々斬撃を放っていたでしょう?


あれも魔法の一種です。魔法を扱うのは神、天使、魔物、そして魔族、あとはモドキの方々にも扱える方がたまにいます」


その言葉にふと疑問が浮かぶ。


「聖女様がさっき使っていた《星の奇跡》は、魔法じゃないんですか?」


リンの疑問に良い質問です、とでも言いたげに微笑むエル。


「私達が扱う《星の奇跡》は、献身的(けんしんてき)に人に尽くしてきた者に、神がお与えになる奇跡の力。魔法とはまた少し違うものなのです。


私もそこまで詳しいわけではありませんが、基本的に魔法は《魔力》というエネルギーを使うそうです。ジャイアントベアが、あの斬撃をたまにしか使わなかったのも恐らくそれが理由でしょう。


《星の奇跡》は、私たち使用者の精神力や体力なんかを使って行使するもの、という違いがありますね」


あの斬撃は、爪を振るった方向にしか来なかったからまだなんとか避けられたが、あれが身体を動かすたびに放たれていたら、今頃リンはバラバラになっていただろう。


そしてエルの精神力や体力を使う、という言葉で《星の奇跡》を扱うことの出来ると聞く大神官たちは、式典なんかで見た際に実年齢よりも老けているように見えていたことをリンは思い出していた。


「そして本題の《月の魔法》ですが、魔を滅す役目を持つ勇者だけが扱うことが出来る魔法の一つ、だと伝承にはあります。


身体能力を向上させ、振るう武器の力を最大限引き出すことのできる魔法なのだと」


「たしかに、さっきの戦いのとき凄く体が軽くて、ジャイアントベアの動きも見てからでも避ける余裕がありました」


興奮で捲し立てるように話しているリンを、微笑ましそうに眺めながらエルは話を続けた。


「その身を夜空色に染め、己が獲物を月色に染めて戦う月の勇者。その今代がリンさん、貴方なんですよ」


その言葉にリンの今までの興奮は冷め、逆に青ざめた顔をエルへと向ける。


「い、いやいやいや。お、俺はモドキですよ?!きっと他に本物の月の勇者がいるんですよ。俺は紛い物で、きっと何かの間違いで、、」


「リンさんは、モドキだからと自分を卑下する傾向にありますね。それは、モドキが迫害されているからですか?」


「そ、れは。だって、そうでしょう。モドキであるだけで石は投げられるし、実際モドキの犯罪は多いじゃないですか。モドキは、魔族と同じような特徴を持ってて、だから神に忌み嫌われた存在で、、それで」


口が止まらない。今まで言われてきた言葉が、リンの頭を駆け巡る。リンは、教会直営の孤児院に拾われたから、モドキとしては幸せな生活を送ることができたのだと知っている。


モドキは生まれてしまえば嫌われ、そして、すぐに捨てられる。リンもその一人であった。


だからこそ 自分を卑下してしまうのは当然のことであり、悪癖でもあった。


選ばれる、という行為に対して恐怖を感じてしまうのだ。今までそれで非難されてきた記憶が、少なからずあるが故に。


そんなリンの様子に、エルは痛ましそうな顔をして震えるその手を取った。


「リンさん、私にも秘密があります。、、これです」


そう言い、空いている片手でそっと履いている服の裾を太股部分まで捲り上げていく。


その様子にリンは目を白黒させて、動揺しつつ手で顔を覆った。その際にエルの手を振り払ってしまったが、気にしている余裕はない。


「!?!?!?!?!せ、聖女様何をしてらっしゃるんですか!?」


「む、リンさんちゃんと見てください!ほらほら!」


エルがリンの顔を覆う手を無理やり剥がそうとするが、リンもそれに抵抗する。


「う、だからそういうの良くないですって、、て、え?」


「見えましたか?これ」


驚きにより思わず力が抜け、顔から手を退かされてしまう。開けたリンの視線は、エルの白い太ももに釘付けであった。


正確に言うと、その太ももにある光り輝く鱗に、であるが。


「私も(くく)りで言えばモドキなのです。人に簡単に見られるような場所にではありませんが、魔族のように人()らざる特徴を持ち合わせています」


「そんな、、だって、、、」


「関係ないんですよ。人だとかモドキだとか、聖女だとか一般人だとか。先程リンさんは襲われているアランくんを見て、すぐに助けに行ったでしょう?


自らを(かえり)みることもせずに走り出した。それが、貴方が勇者としての心構えを持っているという証明なのですよ」


なぜだか分からないが、ぼたぼたと涙が溢れ出て止まらなくなってしまった。止まらないそれを、そっと柔らかいハンカチで吸われる。


「ねぇリンさん。モドキだとか人間だとか、聖女だとか一般人だとか、勇者だとか。そういうのを一切考えずに私と、旅に出てくださいませんか?」


「う”ぐ、グズッ。は"い"、、お"れ"なん"かでッよ"け"れば、ズビッ」


全然涙が止まらずに酷い顔をしているリンに思わずエルは笑いだしてしまった。


「もう、俺なんかなんて言わないでください。リンさんだから、なんですから!」


「うぁ、は"い"ぃ、、」


「あらあらまぁ、泣かないでくださいよ~」


キャビンの中にリンの押し殺した泣き声とエルの笑い声が響く。


その二人の話を人知れず聞いていた御者(ぎょしゃ)も、涙を堪えながら街へと馬を走らせた。

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