11話「微睡み視た未来」
夢を視る。
微睡みの中での夢ではなく、苦しみの中で夢を視る。
頬を生温いものが伝う感覚がするが、それが何なのかを理解するために思考が回らない。
視界の先で誰かが何かを言っているのは分かるが、何を言っているのか、誰なのかは理解が出来ない。
ただただ、頭の中に流し込まれる映像を視続ける。
まるで夢を見るかのように。
微睡むかのように。
いつものように未来を視る。
いつもと違う、違えた未来を。
亡国となったオンロス帝国で出会ったエルマを仲間にしたリンは、五人での旅を始めた。
エルマは困った人で、何よりも愛していた夫と子どもを内戦で殺されたことで、帝国を滅ぼしてしまったらしい。
さすがに一人で滅ぼしたわけではなく他のパンテラの隊員だった人やモドキの人々と協力したそうだが、それにしても愛の為に国を滅ぼすだなんて恐ろしい。
本人も酷いことをした自覚はあるようだが、それでも彼女は笑って言うのだ。
「ガイアを殺すような国なんていらないだろ?このまま世界を滅ぼすのもやぶさかではないぞ!」
その言葉を廃墟の街と化した帝都で聞いたリン達四人は、エルマを一人にしたら確実にマズいことになる、と判断した。
そこからどうにか説得し、エルマを仲間にしたのだ。
エルマは強かった。
月の魔法を使い、最大まで身体能力を強化したリンがそれなりに苦戦するレベルだ。
そこらの魔物にはそうそう負けることも傷を負うこともなく、一方的に蹂躙する。
初めてエルマが戦ったのを見た時、その強さに四人は思わず感嘆の声を上げた。
鋭い爪が、牙が、しなやかな足が、伸ばされた腕が、魔物を切り裂き、喰い付き、蹴り飛ばし、頭を粉砕する。
洗練された戦いの獣。
それがエルマだった。
「一応、勇者として選んでいただいたのにエルマさんが強すぎて自信なくします...…」
「ん?なぜ自信をなくすんだ?私は生まれてからずっと闘争の為だけに生きていた。
ガイアに出会ってからはガイアを一番に生きてきたが、それでもずっと戦いと共に生きていた。
人生のほとんどを戦いに費やしてきた私と、戦いを知ったのは最近の君とが同じ実力なわけが無いだろう?」
何でそんな当たり前のことがわからないのだ?とでも言いたげな表情に、リンは一瞬呆けて、すぐに笑い出した。
たしかにそれもそうか、と思ったのだ。
自分は自分なりに努力していけばいいのだと自信を持ち直したのも束の間。
「それはそうとして、ガイアと愛しい我が子を生き返らせるために神を殺さなければいけないがな!」
そう言い始めたエルマに、早急に強くならなければいけないと考え直した。
「ですから!神を殺すなどと不敬な事を言わないでくださいと何度言えば分かるのですか?!」
「神が人を生き返らせられないのであれば、私が神を殺して神より上の存在になればいいだろう?」
「カミサマ殺したからってカミサマより上になれんのか?」
「どうだろうな……。というか、人の身で神を殺すなどと出来るわけがないだろう」
エルマの言葉にエルが怒り出す。
敬虔な信徒であるエルからすれば怒りを覚えるのも仕方がないだろう。
売り言葉に買い言葉。
エルへと返したエルマの言葉に、チカとシータが議論を重ねる。
シータの人の身であればできない、という言葉に、エルマは笑う。
「我らは魔族モドキであろう?ならば殺せるさ!人ではないのだから!」
「いや、まず殺さないでほしいんですけど...…」
ただでさえ国を滅ぼした大罪人だというのにまだ罪を重ねるのか。
法である国が滅んだから罪に問われていないだけのエルマが、更に罪を重ねようとしている言葉に、思わずリンは遠い目をしてしまった。
夢を視ていた。
いつもとは違う、違えた未来の夢を。
起き上がってみると、顔に乾いた血が張り付いている感覚を覚える。
倒れている間に吐いていたのだろうか、口の中を嫌な酸っぱさが支配していた。
ベットサイドに用意されていた水に濡れた布巾で顔を拭う。
そうして普段使っている手帳に視た未来を書こうとして、すぐにペンを置いた。
今日視た未来は、恐らく本来の流れではないもの。
いや、もしくはこの世界では違うだけのものなのかもしれない。
いつの間にか上っていた朝日を眺めながら、ぐぅーっと体を伸ばす。
今日は珍しく良い夢を視た。
だからこそ一つの決意が更に強くなる。
いつの日か生まれるリンという名の勇者が、仲間を集めて我々を救う日の為にそこまで向かう道を作り上げる。
それが我々の夢なのだ。
幕間「滅ぼす為にアイするのか、アイする為に滅ぼすのか」閉幕。
次話からは第三章に入ります。




