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天体の勇者~魔族《モドキ》は勇者足り得るか~  作者: 雨模様
幕間「滅ぼす為にアイするのか、アイする為に滅ぼすのか」
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8話「愛の為に・後編」

第2章・ 8話「太陽の英雄・独白」にログスの容姿に関する文を追加、 11話「真っ向勝負・中編」にバルドの容姿に関する文を追加しました。

世界が嫌いだった。


寂しさと、人間への憎しみを抱いて生きてきた。


家族は自分を愛さない。


周りの人間は自分を醜いものとして否定した。


だから、自分にとっての光に出会うまでの人生は、正しく灰色であった。


優しくしてくれる存在もいたが、その優しさがどこか苦しく感じた。


愛ではなく、哀れみのようなものを瞳に滲ませていたから。


でも、自分にとっての光に出会えて、少しずつ世界を愛せるようになっていた。


リンはエルと出会い、チカ、シータと旅をする今が何より好きだった。


ガイアはエルマと出会い、子どもと共に幸せに暮らせていた前が好きだった。


しかし、ガイアはエルマを、子どもを失った。


元から持っていた世界への憎しみが、更に増したのは仕方のないものだっただろう。


運命が違えば、リンもガイアの様になっていたかもしれない。


ある種、この二人がお互いを嫌い合うのは同族嫌悪に近いものだ。


しかし、リンは自身の持つ、世界への憎しみを自覚せずに生きていた。


だからこそ、ガイアの言葉に思わず足を止めてしまっていた。


エルに選んでもらった勇者として、人間を憎しむことは正しいものではないという考えで、頭がぐちゃぐちゃになる。


そんな様子のリンを知ってか知らずか、チカとシータはガイアへと叫んだ。


「そーだよ!アタシはタニンなんか大っ嫌いだ!ダレもアタシ達モドキのことなんて守ってくれないし、生きてることをヒテーされるときだってある!


近寄んなって、死んじまえって言われたことも何回もある!」


ガイアに打ち砕かれた短剣を投げ捨て、別の短剣を構え直すチカ。


その目には大粒の涙を堪えており、喘ぐように叫んでいる。


「でも!それでも、ダレかにケガさせたことはないし、リンもダレかを傷付けるようなヤツじゃねー!


なら、それで良いだろ?!別にニンゲンのことキライでも!」


そう叫んだチカに続き、シータもガイアへと言葉を向ける。


「自分を傷付ける存在を嫌いとして、何が悪いのです。嫌悪感を抱いていても人々を救うために戦うリン様は、素晴らしい方だ。


貴方の言葉は全て、自分の思いを勝手にリン様に重ねているだけ。あの人は、貴方みたいに世界中の人々が苦しむ事を望まない!」


普段の敬語がどんどんと剥がれ落ちながらシータも叫ぶ。


共に過ごした時間は長いとも言えないが、短いとも言い難い。


同じモドキとして、仲間としての言葉が、ガイアを苛立たせる。


それに追い打ちをかけるように、祈りを続けていたエルも立ち上がった。


「リンさんは魔王を打ち倒すのです。世界の人々を救うのです。もし、彼が世界を憎んで貴方と同じ結論に至っても、決してそんな風にはさせません」


ある意味、三人の言葉は重いものだった。


三人の叫びは、良くも分からぬ勇者という存在に選ばれたリンに、勇者としてのその立場を強制する言葉なのだ。


苛立ちを隠しきれぬガイアが、リンへと視線を向ける。


「この三人重くないかい?僕は他人のために命を賭けることを強制されたくないんだけど、君はそれでいいの?」


いつの間にか動き出していたリンは、少し気まずそうに笑う。


「…まあ、そうですね。でも、それくらい重い方が、俺は良いみたいです」


「ふーん、そっか。君も大概(たいがい)、変な子なんだね」


そうして二人は睨み合う。


お互い、睨み合ったまま動けぬ時間が続く。


分かっているのだ。今の状態でどちらかが攻撃を仕掛ければ、確実にどちらかが死んでしまうと。


嫌な緊張感にリンは冷や汗をかいてしまうが、ガイアは涼し気な顔だ。


そんな中、ふと、ガイアが扉の方へと顔を向けた。


その視線に釣られるようにリンも扉の方へと気を取られてしまう。


そうして部屋の中にいる全ての視線が扉に向けられた瞬間、凄まじい轟音と共に扉が開かれた。


「おい、勇者の兄ちゃん!これを使え!」


ロイバスと共に部屋に飛び入って来たライガが、抱えていた剣をリンへと投げつける。


リンが受け取った剣は、レイピアに近い見た目だが、よくあるものよりも刃が細く、どちらかというと突きよりも斬ることに特化していそうだった。


「勝手に部屋に入ってくるのは良くないことだよ」


そう言いながらライガの方へと向けられた魔砲を、リンが剣で無理やり受け流し、熱線をライガの方からどうにかといった様子で逸らす。


「させません!」


「新しい剣で気分がいいのかい?動き、早くなったね」


「良い剣なんでっ!」


リンとガイアが攻防を続ける。


先程よりも上がった戦闘のスピードは目を見張る物で、思わずライガ達も驚きに目を見開く。


ガイアの魔砲から打ち出される熱線をリンは避け、リンの剣から繰り出される攻撃をガイアも舞うように避ける。


大きい羽根を持ち、皇帝としての威厳のある重そうな服を着ているのだから避けづらいとは思うのだが、そんな事を微塵(みじん)も感じさせずにガイアは避け続ける。


そしてリンは、そんなガイアを苛烈に追い続ける。


「アタシ達、行かなくていいのかな…?」


「あの戦いに入り込めると思うか?」


「...…うーん、ムリだな」


「だろう?」


リン達の戦いを、チカ達は祈り、見守ることしかできない。


それでも、その視線がリンを奮い立たせていた。


傷付けることも、殺すこともしたくない。


それでも自分が死ぬこともできない。


そんな思いを抱えながら、リンは新しい剣を振るう。


いつもの剣よりも軽く、細くて折れそうな刃。


しかし、リンの月の魔法があれば、刃が折れることはそうそうない。


絶対に勝たなければいけない。


そんな折れることのない気持ちを胸に、リンはガイアへと急接近した。


「う、わぁ…」


「俺の...…勝ちです!」


ガイアをケガをしない程度の力で床に叩きつけ、首元へと剣を添える。


首を斬る、という気持ちはないが、それでも何をするのかわからないので動いてほしくはない。


そんな気持ちで、ガイアの手に握られていた魔砲も、遠くへと蹴り飛ばした。


リンによって床に押し付けられたガイアが、そっとリンの左目の包帯に触れる。


「……なんですか?」


「いや、ね?」


「ちょっ!何するんですか?!返してください!」


床に叩きつけられたというのに酷く楽しそうに笑うガイアは、そのままリンの包帯を剥ぎ取った。


そうして露わになるリンの左目の、(にぶ)い光を放つその瞳孔を見て、ガイアは先程よりも、もっと楽しそうに笑い転げる。


「なんとなく分かっていたけど、君も”モドキ”だったんだね。他の三人もそうだよね。...…ふふふ、魔王を倒すモドキの勇者一行って、面白すぎるね」


「やっぱり俺、貴方のこと嫌いです」


「僕も君のこときらーい」


ガイアは両手を上げ、降伏の意表しながら起き上がる。


立ち上がろうとするガイアの動きを見逃さないようにしながらも、リンは起き上がるのに手を貸した。


「というより、元々こんな話をするためにお呼びしたわけじゃないんですよ……」


「……そういえばそうでしたね」


エルも忘れていた様子で、思わずリンも唖然(あぜん)とする。


その様子に吹き出しながらもガイアは要件を聞き直した。


「で?何の用だったんだい?」


その言葉に、リンは詰まりつつも話し始める。


「え、とですね。北の大地との国境線にいる竜の討伐の許可を貰いたいっていうのと…」


「と?」


「実はこの国から出ようと、旅に戻ろうと、思って…いまして......。なので、挨拶をしに...…」


「へー、ほー、ふーん」


ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべているガイアに、悪寒が背中を駆け巡る。


怯えながらガイアの顔色を伺うリンを横目に、ガイアは竜について思い出していた。


◇◆◇


よく見る一軒家ほどの巨体を持ち、鋭い爪と牙に白い鱗を持つ怪物。


先代皇帝である兄に命じられ、作戦の指揮官としてパンテラの部隊を率いて向ったあの日、ガイア達は神話の化け物を見た。


圧倒的な身体能力を持つパンテラ達でも手も足も出ず、軍略家として圧倒的な才を持つガイアの頭も持ってしても、ただ一つの純粋な武には勝てなかった。


ほとんど傷も付けられず、まるでおもちゃのように殺されていくパンテラの隊員達に、すぐさま撤退命令を出したのを覚えている。


言い訳ならばいくらでも出来る。


情報が足りなかった。有効な攻撃手段がなかった。準備が足りなかった。


しかし、明言できる事実はただ一つ。


アレに手を出してはいけない。


◇◆◇


「まあ、竜の討伐に関しては許可は出来ないね」


そういう経緯もあり、ガイアは竜の討伐を許可しなかった。


リンは一瞬、引き()った顔をしてしまうが、すぐに普段の顔に戻す。


「国を出るのは好きにしたら良いよ。聞きたいことは聞けたし......。あ、あとライガ」


「なんです、陛下」


「そこの三人の武器の代金。僕にツケといて」


「「え”?」」


あまりの衝撃に、リン、チカ、シータの声が揃う。


三人とも心底嫌そうな顔でガイアを見つめた。


そんな顔で見つめられているガイアは、嫌がらせが成功したと言わんばかりに嬉しそうな顔をしている。


「色々迷惑かけたし、僕に払わせてね。お願い」


「アタシ知ってるぞ。エライ人の言う”お願い”って、命令なんだよな」


「ふふふ」


「ははは。...…おい、勇者の兄ちゃん。諦めたほうがいいぞ」


そっとライガに耳打ちされて、リンは気が遠くなる感覚を覚えた。


そういえば、とガイアは現実逃避をしているリンを横目にチカへと話しかける。


「君の先程のあの技術。あれ、どうやっているんだい?」


「ン?アレは魔法だぞ?」


「魔砲なの?」


「ン?」


「え?」


そこでついに、ガイアは何かがおかしいことに気づく。


少し悩んだようにして、眉をひそめながら口を開いた。


「もしかして、”魔砲”とは別に”まほう”って技術があるのかな……」


ガイアはそう言いながらリンに弾き飛ばされていた魔砲を拾い、シータに投げ渡す。


「っおと、と。……思っていたよりも、重いですね」


「この機巧のことを魔砲って呼ぶんだ。大昔の遺物だそうで、仕組みはあんまりわかってないんだよね。


で、君達の”まほう”はどんな物なのかな?」


チカの周囲をぐるぐると見回るガイアに、チカは嫌そうな顔をしながら魔法を使う。


そうして空気に溶けて消えたチカに、ガイアは目を見開いた。


「これがアタシの魔法。こうやって、隠れられるってワケ」


「へー、ここに居るのに姿は見えない、か。面白いね」


「ンギャー!触んなー!!」


「あはは、ごめんね」


未だに隠れているはずのチカをぺたぺたと触るガイアは、口では謝ってはいるが本気で思っているわけではないのが丸わかりである


少しして、思考を纏めたガイアがわざとらしく両手を広げて話し始める。


「つまり、君達の魔法とは体内にある、このエネルギーを使って何かしらの現象を起こすもの。


そして僕の魔砲とは体内にある、このエネルギーを砲弾として打ち出す、という現象を起こすモノってわけだ」


一通りチカ、シータ、リンの魔法を見終わったガイアはそう結論づけた。


「ねえ、その魔法って僕でも使えると思うかい?」


「どうでしょう……エルさんは使えないし、俺が使うのはなんか別みたいだし……?」


悩んでいるリンを見て、チカが自分に任せろ、とでも言わんばかりに胸を叩く。


「ヘーカ、こうな、エネルギー?をグーっと集めて、バーって広げるんだよ!そんで、ズドーンってしたら使えるぜ!」


擬音だらけのチカの説明に、思わずシータはツッコんでしまう。


それも仕方ないだろう。はっきり言って、リンも理解ができないものだったし、シータも理解できないものだったからだ。


「お前、説明が下手すぎないか?」


「でも、オマエ、アタシより魔法使うの下手じゃん」


「それは…否定できないがそれにしても下手すぎるだろう….」


「じゃあオマエはどー説明するンだよ」


「それはだな……」


どう上手く説明しようかとシータが悩んでいる間に、シータの手にあった魔砲がふわふわと手から離れ、宙に浮き始める。


「な、にが……?」


「うわぁ!スッゲェ!」


チカの視線の先には魔砲とともに宙に浮かんでいるガイアの姿があった。


サッとガイアが手を動かすと、その方向に魔砲も動き、手を元の位置に戻すと、魔砲も元の場所に戻る。


「これが魔法かあ。面白いね。これ、兄上が生きてる時に使えていたら本当に殺されてたかもね」


殺されていたかもしれない、という言葉に困惑を隠せないリン達。


ロイバスは何か思い浮かぶことがあるのか、顔をしかめていた。


困惑しているリン達に、ガイアは苦笑しながら説明する。


「兄上はさ、空を自由に飛ぶのが夢だったんだ。だから飛行船を作ったし、竜を自分の物にしようとパンテラを遣わした。


それなのに、僕が自由に空を飛んでしまったら、ねえ?...…ていうか、竜に関しては失敗したし?なんだったら、失敗したからこの内戦引き起こしたみたいなところあるしなあ」


「そ…れは内戦、え?先代皇帝が引き起こした?」


「そうだよ?詳しい話、聞きたい?」


「いや、遠慮します」


確実に聞いてしまったらマズいことになりそうだと思い、全力でリンは拒否する。


分かりやすすぎるリンに、ガイアはまたも笑いながら話を進めていった。


そのまま最初に帝国に来た時と同じ様に飛行船に乗せてもらえることになり、帰りの準備をしたリン達は、またも中庭へと集まる。


「ライガのおっちゃーん!コレありがとなー!大事にするぜー!」


「また必ず会いに行きますー!」


先に飛行船に乗り込んでいたチカとシータが、ライガへと叫ぶ。


その二人の言葉に、ライガは嬉しそうに手を振る。


リンもライガに感謝を伝えながら、飛行船へと続く階段を登っていく。


階段を半ば登った所でリンは振り返り、見送りに来ていたガイアへと声を投げかける。


「貴方も一緒に来ますか?」


リンの言葉に、ガイアは目を見開く。


「僕のこと嫌いだって言ったくせに、僕を仲間に勧誘するのかい?」


「貴方を一人にするほうが怖いので」


ご尤もな言葉に、ガイアは肩を竦めた。


「そっかそっか。まあ...…一緒には行かないけどね!」


「…まあ、なんとなくそんな気はしてたんですけどね!」


今日一日、ガイアのテンションに乗せられ続けたせいか、リンのテンションも変に上がってしまっている。


ついてこられても困るが、監視できる所に居ないのも不安だ、という思いからのリンの言葉であったが、そんなことはガイアにはお見通しであったようだ。


ふわりと魔法の力を使い、リンのところまで浮き上がり、移動するガイア。


「僕はこのままこの国で皇帝しとくよ。いい感じに国を強くして、世界中を巻き込む戦いが起きたときに、もっと世界を混乱に陥らせられるようにしなきゃ」


「その考えを改めるって考えは...…?」


リンの言葉に、ガイアは嫌な笑みを浮かべる。


「あるわけないだろう?」


「ですよね~」


これ以上、話すことはないだろうと、リンは逃げるように階段を上がっていく。


その背中に、ガイアは言葉を投げかける。


「君達の武器の代金分、エルマが起きた時に戦ってあげてねー!」


「死にたくないですー!」


「死なないよ、多分。だから頑張って《生命の秘術》も探してね」


「…」


リンは一瞬、見つけなければエルマと戦わずに済むのではと考えた。


しかしその考えを見透かしたように、ガイアは不敵な笑みを浮かべ口を開く。


「もし二年以内に何の情報も見つけられなかったら、今までの発言とか、その他諸々で皇族に対する不敬罪で捕まえるね?」


「権力の悪用じゃないですか?!」


これ以上ガイアの話を聞いていてはもっと不利な目に合いそうだ、と急いでリンは飛行船内に駆け込む。


その姿にガイアは笑いながら、ふわりと地面へと降り立った。


そうして、空に飛び立っていく飛行船を眺める。


「彼らが次にこの国に来たときが楽しみだね」


誰へ告げたのかも分からぬガイアの言葉が、静かに空に溶けて消えた。

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