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天体の勇者~魔族《モドキ》は勇者足り得るか~  作者: 雨模様
幕間「滅ぼす為にアイするのか、アイする為に滅ぼすのか」
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7話「愛の為に・前編」

「やあ、皇帝を呼びつけるとは、随分と君達は偉くなったみたいだね」


「す、すみません...…」


悪どい笑みを浮かべたガイアが、玉座に座り、見下したような目線でリン達一行を見ていた。


ガイアの言葉に否定できないリンは、思わず謝罪の言葉を吐く。


シータとチカは、リンとエルの後ろに跪き、緊張で体を震わせている。


それを見抜いた上でガイアは皮肉の言葉を溢したのだろう。


若干、顔を青ざめさせて謝るリンに、ガイアは吹き出した。


「あはは、別にいいよ。そんなに気にしてないさ。ところで話ってなんだい?まさか、《生命の秘術》が見つかった、なんて訳ではないだろう?」


「はい。その件に関しては、まだ何も見つかっておりません」


ガイアの言葉に、すぐさまエルが返答する。


エルのガイアを見る目は、普段の優しげな瞳ではなく、とても厳しさを孕んでいる。


その視線に、ガイアは更に笑みを深める。


「ふーん。なら、なおさら何の話なのかな?昨日も我が妻にボッコボコにされたみたいだけど…」


「そのエルマさんの事について話に来たんです」


エルマの名前が出た途端、冷めた瞳でリン達を見つめ始めるガイア。


その瞳に、恐怖からか少し体が震えたが、勇気を振り絞り、震えを隠すように手のひらを強く握りしめてリンは話し出す。


「俺達が最初にエルマさんに倒された日、陛下は仰ってましたよね。妻を愛しているからではなく、旦那だから生き返らせたいのだと」


「言ったねぇ」


「でも、俺達が今日この日まで聞いてきた、生前の奥さんと貴方の関係は愛のあるものでした」


「それは一方的にあの子が僕のことを好きだっただけだよ?」


冷めた瞳で、苛立ちを隠すように無理やり微笑みながらガイアは、静かにリンの話を聞き続ける。


時に否定を、時に肯定を混ぜながら。


「そんなことありません!」


珍しく、リンが強い言葉で否定する。


ガイアの否定の言葉に、リンは鍛冶街で出会った職人の人々や、ロイバス、レムスとの会話を思い出していた。


この世には愛のない結婚など、星の数程ある。


愛のない結婚でも、旦那として、妻として、その役割を演じきることだって、上流社会であればあるだろう。


そして、その愛のないはずの結婚の中で、愛が生まれ、育まれていくことも。


周囲の人々から見たガイアとエルマは、仲睦まじいという言葉が似合う夫婦だった。


いや、聞いた限りはガイアとエルマは最初からラブラブだったらしいが。


「……貴方に自覚はないかもしれませんが、貴方はたしかに奥さんを愛していた。愛していなければ、悩んで奥さんの為に花を送ることも、奥さんの好きな食事を作ることもないはずです」


「...…」


面白くなさそうな顔で、ガイアは口を挟まずに大人しくリンを見つめる。


椅子の肘掛けを叩くガイアの指が、隠しきれない苛立ちを表す。


「なにより、貴方は、俺達が奥さんの話を出すたびに、名前を呼ぶたびに心底嫌そうな顔をしています。


いつも微笑んでいらっしゃいますけど、凄く視線が痛いので、よく分かるんです」


リンの言葉に、思わずシータやチカも首を何度も縦に振る。


本人は気づいていなかったようだが、四人はあの射殺すような瞳に怯え続けていたのだ。


呆れたように鼻で笑ったガイアは、リンの言葉を否定し始める。


なぜなら、ガイアにとっては、エルマに対しての愛はなかったはずなのだから。


「その理論で、僕が彼女を愛しているだなんて断定するのはおかしいよ、勇者君。


妻の好きな食事を作るのだって、妻に花を送るのだって、旦那としての甲斐性だろう?」


自信満々な様子でそう答える。


皇族だからだろうか、貴族などの金持ちはそういうものなのだろうか。


平民であるリンには判断できないが、甲斐性だと断言するガイアの言葉に噛みつく。


「…なにより、昨日奥さんに打ち倒されて消えていく意識の中で見た、奥さんを抱き上げる貴方のあの顔は、口付けていた貴方のあの瞳は、深い愛情を抱いていた」


だってあれは、街で見かける愛ある夫婦の、旦那と同じ顔をしていた。


それを思い出しながら言い張ったリンの言葉に、ガイアはリンの様子がいつもと違うことに気がつく。


リン自身自覚がある。自分が普段の自分ならば言わないようなことを言って、しないようなことをしているとは。


そして、その原因が何であるかも分かっている。


羨ましいのだ。


何よりも自分を愛してくれる人がいることが、愛せる人がいることが。


両親に捨てられ、寂しい子ども時代を過ごしたリンからすれば、深い愛情を持つ関係性というものが、羨ましくて妬ましい。


その事に自覚を抱いたのは最近のこと。


しかし、それ故にリンは、何よりもエルマのことを愛しているのに、その事を認めないガイアが嫌いだった。


リンが言い放った言葉に、ショックを受けたのかガイアは目を見開いている。


「ぼ、くは。僕は…あの子を、エルマを、愛し、て。いや、そんなはず。でも、?」


思わずといった様子で、顔を手で覆い隠したガイアが、ブツブツと上手く聞き取れない何かを話し続ける。


そうして数分か数秒か経った後、ガイアは顔を勢いよく上げ、恍惚(こうこつ)とした表情で虚空を見つめた。


「そっか、この気持ちが《愛している》ってことだったんだ!」


あ、なんか良くない気がする。


四人の思考はガイアの表情を見てすぐに一致した。


「ならやっぱり、エルマを殺したこんな国。すぐに壊したほうが良いよね。うん、そうだ、そうしよう」


うんうん、と頷きながらそう溢すガイアに、リンも急いで言葉を返す。


「あ、あの!その、息子さんのことはどうなんですか?!」


「え?…うーん、エルマ以外はどうでもいいかな」


「うっそだろ…!」


本気で言っている様子に、やっぱりこの人は人として倫理観というか、道徳観念というか、そういう大切なものが抜け落ちているのではないかと感じる。


そう思いながらも、ガイアが懐から何かを取り出したのを視認した瞬間、リンは駆け出した。


リン達に対し、明確に殺意を抱いたガイアが、今から何をするのか。


それを考えて、取り出されるであろう武器を弾き飛ばそうとしたのだ。


しかし、それは失敗に終わった。


「え…?」


「な、んだアレ?!」


「リン様!」


リンの頬に、熱いものが伝う。


思わず立ち止まり頬に伝う雫を拭い取ると、それは赤い血で、すぐに痛みがジクジクと主張し始める。


「なにかの、魔法ですか…?」


杖を握り締めたエルが、何か筒のような物を手にしているガイアへと問いかける。


「なんかイントネーション違うけど、たしかにこれは魔砲だよ。別のものを見たことあるのかな?


僕のこの魔砲は先生から譲り受けたものだから、これ以外の魔砲は知らないんだよね」


「イントネーションが違うのは国の違いかなぁ。国内でも北と南じゃ違ったりするもんね」


ケラケラと笑うガイアに思わず四人は小首をかしげた。


たしかにイントネーションがぜんぜん違う。


リン達の言う"まほう”は”ほう”の部分が上に上がるのだが、ガイアの言う"まほう”は"ほう”の部分が下に下がっている。


それとは別に、魔法とは譲り受けることが出来るものなのか?という疑問が一瞬、頭を過ぎる。


「ふふふ。まあいっか。ねえ勇者君、君を殺すのがこの国滅亡への最短ルートなんだよね。だからごめんけど、死んでね」


「いや、ちょっ、なんですかこの魔法!?」


「だから魔砲だってば!」


ガイアの持つ筒は一瞬発光したかと思うと、すぐに熱線がリンの体を貫く。


リンが避けた分は後ろの壁に貫通し、パラパラと壁の破片が地面に落ちていた。


間髪入れずに打ち出される熱線に、リンは苦戦しながらもガイアへと近づいていく。


コミュニケーションとしては大失敗してしまった所為で、この話をした後に城を出たいという話をする予定が一気にパーになっていく。


明確にリンの眉間をめがけて放たれていく熱線を、リンは魔法で強化した体で避けていく。


それでも少しは体に当たるが、エルがその怪我をすぐに癒やしてしまう。


(んー….…やっぱり聖女が居ると邪魔だなぁ。こっちが先かな)


魔砲を放ちつつも、エル達のことも観察しているガイアは、エルを始末しなければ戦闘が長期化すると判断した。


リン達は筒と言い表しているが、知るものが見れば銃だと判断するであろう魔砲の標準を、そっとエルへと向ける。


「ばーん…」


ガイアの口から囁くように零れた言葉。


その言葉が放たれたと同時に打ち出された魔砲の熱線は、無防備に治癒の為に祈るエルの体を貫いた、


かに思われた。


「ヘヘヘ!ザンネンでしたー!」


「聖女様の御体には、傷一つ付けさせん!」


「へぇ…さっきのは偽物かぁ。面白い技術だね」


声のした先には、シータに俵担ぎをされたエルとチカの姿。


しかし、空気に溶けて掻き消えたその姿に、思わずガイアも感嘆の声を漏らす。


そんなガイアは驚きつつ、何も無い空間へと銃口を向け、そして打ち出す。


「ぐぁッ…」


「なッ、んでわかンだよ...…?!」


「僕は耳が良いんだよね~。だから諦めてその聖女様を降ろしてくれない?」


何も無いはずであった場所には、少しずつ赤い血が零れ落ちて広がっていく。


チカの魔法で隠されているはずのシータの足を、ガイアが的確に撃ち抜いたことに、三人は驚きを隠せない。


クスクスと笑うガイアの目は、隠れているはずの三人を捉えており、三人がいる方向へとまた銃口を向ける。


すぐに移動しなければ、先程の熱線でまた傷を負わされる。


しかし、チカとエルを抱えて移動していたシータは、足に怪我を負い、動くのは厳しい。


移動しようにも動けないシータを引きずっていれば、居場所がすぐにバレてしまう。


それでも、エルを大人しく渡すという判断も、シータを置いていくという判断も、最初から無い。


どうする。どうすればいい?


そうチカが悩んでいる間にも、向けられた銃口は光り輝き、次の熱線を放とうとしている。


今までの攻撃よりもゆっくりとしたその熱線のチャージは、ガイアがチカ達を面白がって追い詰めている証拠に他ならなかった。


しかし、チャージがゆっくりなのであれば。


すぐさまあの熱線が来ないのであれば。


リンならば魔砲を弾き飛ばせる。


視線がチカ達に向っている隙に、ガイアの方へと駆け出していたリンが、ガイアの魔砲を弾き飛ばそうとした。


「あはっ。残念でしたー、ってね」


「ッ……!」


リンが魔砲を弾き飛ばそうとした瞬間、ガイアはリンの顎を蹴り上げ、そしてそのまま少し離れた場所まで移動する。


想定していたよりも身軽な動きに、リン達は唖然(あぜん)とした。


ふわりと舞う羽根が、(いや)に艷やかで一瞬、見惚(みと)れてしまう。


痛む顎を擦りながらも、リンはガイアの一挙手一投足を見逃さないよう睨みつけていた。


「一応こんなんでも皇族だからさ、一通りの戦闘訓練は受けてるんだよ?多少は戦えるの。


まあ、エルマの一撃を受けたことがある君からしたら、びっくりするくらい軽いものだったかもだけどね」


「そうですね…!」


ガイアは向ってくるリンに何度も熱線を浴びせ、間近まで迫ってくれば、魔砲自体をまるで武器かのように振るい、殴りつける。


ガイア自身、分かっている。


リンが本気を出せば負けるが、自身が皇帝という身分であるからリンが本気を出せず、膠着(こうちゃく)状態でいられているのだと。


それでも、リンの本気を出せない状態を存分に利用する気持ちで、ガイアは口を開いた。


「いやあ、それにしても、よくここまで避け続けてくれるね。君が死んでくれたら、世界中で幸せなパーティーが始まってくれるのに…」


「俺が死んで起こるのは、世界中の人々が死んでしまう戦争ですよね。エルさんに聞きました」


「いいや、幸せなものだよ。僕にとっても、勇者君にとっても」


「それは…どういう意味ですか...…?」


意味深な言葉に、リンは動きを止めてしまう。


それを見て、ガイアも攻撃の手を止めた。


「だって勇者君と、そこの……チカ?ちゃんだっけ。君達二人は人間のこと嫌いだろ?」


衝撃的なガイアの言葉に、リンは大きく目を見開いた。


驚いているリンを横目に見ながらも、ガイアは話を続ける。


「だって、帝国兵がエルマに殺されたって言った時、君達二人は驚いてはいたけど、そこまで気にしてなかったでしょ。


戦争が起これば人間が大量に死ぬ。君達に危害を加えた奴らも、見て見ぬふりをしていた奴らも、君達にではなくともモドキを迫害してきた奴らも。みーんな、死んじゃうんだよ?嬉しいことじゃない?」


「う、れしいわけ、ないだろ?!」


「えー?嬉しいくせに…」


広い部屋の中をガイアは身軽に駆け回り、リンの攻撃を避け続ける。


それを追いかけるリンは、ガイアのその言葉に思考がかき乱されていた。


嬉しいわけがないと頭を振る。


しかし、頭の中に今までされてきたことが思い浮かぶ。


孤児院で出会った人間は良かった。


院長の方針もあり、モドキであろうと普通の人間であろうと分け隔てなく接されていたから。


では、孤児院の外は?


外はそうもいかない。


子どもは、リンを見かければ足を引っ掛け、石を投げ、そうして酷い言葉を投げかけてきた。


大人は、ひそひそと話す者もいれば、面と向かって「消えろ」と言ってくる者もいる。


そんな目に合い続けて、いつの日か、孤児院の外に出ることが怖くなった。


エルがいなければ、きっと今もあの孤児院で何をするでもなく、いつもと同じ日々を過ごしていただろう。


初めてエルに会ったあの日から、リンは本当の意味で外に出る勇気が出たのだ。


でも、それでもされたことは、嫌な記憶は、消えることはないのだ。


リンの思考がどんどんぐちゃぐちゃになる。


気持ちの悪い焦燥感が息を荒くさせる。


そんな様子のリンに、ガイアは笑みを深める。


「君にとってはモドキが大切なんだよね。なのに魔——————。—————」


ガイアの声が途中で途切れる。


口をパクパクとさせてはいるが、何も話していないガイアに、隠れている三人は首を傾げた。


「何を言ってるんでしょう?」


「いよいよ頭オカシくなったのか?」


「失礼な発言だとは分かっているが、初めから正気とは思えないことしか言っていないと思うぞ」


いつの間にか姿を表していた三人が、ガイアへと攻撃を仕掛ける。


自身の言葉を理解していない様子の三人に、ガイアは小首を傾げ、すぐに何か理解したかのように舌打ちをした。


「そういうことか。...…はぁ、先生って過保護なんだね。知りたくなかったなあ」


「ホントッ何言ってンのか分かんねェよ!」


「分からなくても大丈夫だよ」


ふわりふわりと、羽根に風を受けながら、チカの攻撃を身軽にガイアは避けていく。


羽根を持つが飛ぶわけでもなく、浮くわけでもないガイア。


だが、その身軽さは”舞う”と言い表すのが似合う様だ。


舞うように動き続けているガイアが避けた先に、いつのまにか先回りをしていたシータは、戦斧(せんぷ)を振り下ろした。


殺す気は勿論なく、威嚇としてガイアの真横に叩き落とすつもりの一撃。


しかし、その戦斧の刃は、魔砲の一撃により打ち砕かれた。


「なっ!?」


「あらまあ、意外と脆いね」


そのままガイアは、チカの短剣を的確に打ち砕く。


正確無比なその一撃を放ったガイアは、そうして今度は、動きを止めてしまっているリンへと標的を変えた。

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