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天体の勇者~魔族《モドキ》は勇者足り得るか~  作者: 雨模様
幕間「滅ぼす為にアイするのか、アイする為に滅ぼすのか」
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4話「腹が減っては戦は出来ぬ」

リン、チカ、シータの怪我をエルが治し終わった頃。


気づくと昼前になっており、四人は昼食を食べに外に出ることにした。


提案したのは珍しくエルだ。


「コッチの方はケッコー賑わってんだな」


「本当だね。あれとかチカ好きそうじゃない?」


鍛冶街とは真逆に、それなりに賑わっている繁華街を四人は進む。


「あのパン専門店はどうだ、チカ?」


「うーん、ガツンと食いたいから、なんか違うかも…?」


「ガツンと…あそこのお店、すごく美味しそうなお肉の香りしますよ」


「これは、すごく食欲そそられますね…!」


基本的に、四人が食事をするときの店選びは、チカに一任されている。


それはチカが選ぶ店に間違えはないからだ。


というのも、エルはそこまで食に興味はなく、リンはそこまで酷い味でなければ問題ないという考え方の持ち主であるし、シータは美味しければ何でもいいという考えなので、必然的に一番美味しいものに敏感なのがチカになってしまうのだ。


美味しい肉の匂いにつられて、四人はとある一軒の店に足を踏み入れた。


「いらっしゃいませー!お好きなお席へどうぞー」


元気の良い店員の声を聞きながら、四人は適当な席へと座る。


店内では、外にも漂っていた肉の暴力的な香りが鼻腔(びくう)をくすぐり、思わず唾を飲み込んでしまう。


なんだったら腹が鳴ってしまいそうだ。


メニュー表を開くと、そこには様々な肉料理が乗っていた。


「うわ、全部美味しそうだな」


「メニュー見てるだけでヨダレ止まんねー。どれにしようかな」


「キャベツの酢漬けおかわりし放題とは珍しいですね」


「私、あまりキャベツの酢漬けって食べたことないんですよね」


わいわいと言いながらメニューを見て、『これ美味しそう』『これもいいですね』なんて話す。


そうして何を注文するか決めると、丁度良いタイミングで先程の店員が注文を聞きに来てくれた。


「皆様、ご注文お決まりですかー?」


「決まったぜ!アタシ、このデラックス肉盛りステーキ定食!」


「俺はハンバーガーセットで」


「私はハンバーグセットをお願いします」


「オレはデミステーキ定食を」


「かしこまりましたー」


注文をし終わり、食事が来るのを待っていると先程の店員が戻って来た。


何かあったのだろうかと思ったリンが聞くより先に、店員が口を開く。


「この店、二階で宿もしてますのでー、もしよかったら"ごゆっくり”していってくださいねー」


「あ、俺達、別で宿があるんです。すみません」


無駄に強調された”ごゆっくり”、という言葉にリン達の頭には一瞬疑問が浮かんだが、余り気にもとめずにリンが言葉を返す。

エルだけは一瞬、間を開けて、『ああ、そういった意味ですか』と心当たりのありそうな言葉を呟いている。


「あらまー。失礼いたしましッいったぁーい!ナニするんですか女将!」


「あんたがお客さんにセクハラするからだろうっ!?もう、ごめんねお客さん」


「い、いえいえ…?」


ニコニコと笑いながら話しかけてきた店員が、宿の販促をしたかと思うと、いきなり女将に頭を叩かれた。


いきなりの事に三人は驚愕してしまう。


「いやいや女将、久しぶりの外からのお客さんなんですよー?ここで宿のおすすめをしなくていつするんですー?飲食店の売上だけじゃ赤字に…」


「ならんわ!馬鹿な気を回さないで、とっとと他の客の注文取ってきな!」


「はぁーい…」


とぼとぼと肩を落として他の客の方へと店員は向っていくのをしっかり確認し、女将は持ってきていた食事を机に並べ始めた。


「本当にごめんね。久しぶりのお客さんだから、あの子もテンション上がっちゃったみたいでさ」


「お気になさらないでください」


「そうだぞ!めっちゃ、ハグ、モグ、美味いし!」


「食べ始めるの早いな…」


謝る女将をエルとチカが慰める。


女将の『それじゃ、ゆっくり食べていきなね』という言葉に、チカ以外の三人も食事へと手をつけ始めた。


食べながら思うのは、多少なりとも鍛冶町よりも活気のある繁華街のことだ。


ほとんど人がいなかった鍛冶街とは対称的に、繁華街にはそれなりに人が出歩いており、皆、楽しそうな顔をしている。


それが、リンはとても嬉しかった。


人が傷ついて暗い顔をしているのを見るのは誰だって好きではないだろう。


リンは、特に人のそういった表情に敏感だった。


だがその分、人の嬉しそうな顔や楽しそうな顔をしているのを見るのはとても好きだ。


だから、今食事をしている三人が、他の客たちが、幸せそうに食事しているのが何よりもとても嬉しい。


「リン様、なんだかとても嬉しそうですね」


「え、そうかな?」


「はい、とても」


シータに指摘され、思わず頬を抑える。


その様子に、チカとエルが笑いだし、それを見てシータも笑い、リンも釣られて笑いだしてしまう。


なんだか、今は幸せな雰囲気に浸っていたい気分であった。




◇◆◇




食事中、エルは城で倒れ伏しているリン達を見つけた時の事を思い出していた。


リン達がエルマに殴り倒される前。


エルは図書室らしき場所で《生命の秘術》や《星の使者》についての資料を探していた。


関係のありそうな本を探し、パラパラと中をめくってみるがあまり情報はない。


というか、全くと言っていい程に情報は見つけることが出来なかった。


やはりそういった重要書類は皇帝の私室にあるのだろうと思い、リン達の元へと行こうと席を立ったその瞬間だった。


「お取り込み中失礼します、聖女様」


「貴方は、」


「ロイバスにございます。お耳に入れたいことが」


手紙をリン達の元まで運び、リン達をオンロス帝国まで連れてきた使者、ロイバスが人知れず扉の前に(たたず)んでいた。


エルは一瞬悩み、言葉の先を続けるよう進める。


「…どうぞ、お話しください」


「ありがとうございます。それでは単刀直入に申します。陛下の蛮行を、どうか止めていただきたいのです」


「蛮行…ですか。それはどれの事を、でしょう?」


どれの事、というエルの言葉に思わずロイバスも一瞬動きを止める。


自身が知らない間に蛮行を幾つもしているのかとも思ったが、気を取り直して話し始める。


「どれと言われては困りますが、この国を滅ぼさんとしている事についてです」


「ああ、その件ですね。一つお聞きしますが、陛下は本気で帝国を滅ぼそうとしているのですか?仮にも王であり、指導者でもある彼が」


エルだって、ガイアが本気で国を滅ぼそうとしているのか否かくらいは声色で判断することは出来る。


しかし、問題はどれほど本気なのか、だ。


彼に何があって国を滅ぼそうとしているのか、などエルには知る由もない。


モドキだから、第二皇子であったから、などと予想することは出来るが、判断材料が少なすぎる。


その本気度の確認のためのエルの言葉に、ロイバスは心苦しそうに眉をひそめ、絞り出すように声を出す。


「そ、れは…本気、でしょうね。ピースが揃えば、揃ってしまえば、陛下は今すぐにでも国を滅ぼすでしょう」


「…陛下は妻を内戦で亡くしたと聞きました。もしかして、それによって...…」


「ええ、そうです。パンテラの第二部隊長であった奥方は、反逆者として捕まり、御子息と共に亡くなられました」


「その頃の陛下は、先代皇帝の命により事実上の軟禁状態で、奥方が亡くなられたのを知ったのは、亡くなられてから何週間も経った後でした」


その頃のロイバスは、軟禁されていたガイアの監視役をしており、死んだエルマの死体をガイアと共に確認しに行っていた。


ロイバスは今でも鮮明に思い出すことが出来る。


パンテラの第二部隊長をしていた頃のエルマはどんな時も瞳を爛々(らんらん)と輝かせていた。


しかし、死んだエルマの目はくり抜かれており、あの猫のような瞳を見ることは二度と出来なかった。


兵士として戦っていたエルマは、その一見、細い非力そうな腕で魔物共を殴り潰し、凄まじい脚力で地を蹴り、全てを蹂躙していた。


しかし、死んだエルマは腕も足も無くし、力無き様であった。


味方であるオンロス兵からしても恐ろしき、地を駆ける人の姿を借りた獣であったエルマ。


しかし、優秀な戦士であったはずのエルマは、四肢も瞳も無くし、誰かを傷付けることが出来ぬ体で、獣としての体を削ぎ落とされた状態で、ガイアの元に返って来た。


子どもにいたっては何をどうすればそうなるのか、本人とも分からぬ、肉がうっすらこびりついた骨の姿で返って来た。


他のパンテラの兵達も、掴まった者達はそんなエルマと変わらぬ様であったとも聞く。


先代皇帝の側近として皇帝側の兵であったロイバスも、例え脅威のある存在とは言えどもここまでしなくてもいいのではないか、と思ったほどに惨たらしい姿で、思わず吐き気を催したのを覚えている。


そんなエルマの遺体を安置し、保管していたガイアは、皇帝に即位してすぐ、死体へと義手義足を贈った。


死に、何も物言わぬ存在へとなったはずのエルマへと。


きっと陛下はこの時にはもう、壊れていたのだろうと、ロイバスは思う。


その後エルマが動き出したと報告を受けた時は驚愕したが。


もしかしたら、何かモドキには特有の技術があり、陛下はその技術で死体を動かしているのではないか、とロイバスは考えている。


止め方の分からぬものの事を考えていても仕方がない、とも。


「陛下は元々モドキではあれど軍略家としては、この国でも最高峰の方。国を滅ぼすためであれば他国を巻き込むことすらするでしょう」


「他国を巻き込む……まさか!」


エルの何か思いついた様子にロイバスは頷く。勇者が殺害されれば、リンの出生国であるラベライト王国だけでなく、光星教会の面々も出張ってくる話になるだろう。


そう、ロイバスの考えるている陛下の国を滅ぼす蛮行というのは、リンの殺害だ。


その可能性に思い至ったエルも、思わず声を上げる。


すぐにでもリン達の所へとエルが席を立ったその瞬間だった。


誰かが廊下を走る音がしたのとほぼ同時に、図書室の扉を慌ただしく開け、一人の兵士が中へと入ってきた。


その兵士はエルの姿を見るや否や、大急ぎで事情を話し出す。


「せ、聖女様!勇者殿とお仲間様が!」


兵が完全に事情を話しきるより前に、エルはすぐに駆け出した。


そうして、駆け出したエルにすぐに追いついた兵士に先導されるままに着いた先では、倒れ伏している三人が居た、という訳だ。


普段そこまで焦ることのないエルは、人生で最大級に焦った。


ここでもしリン達が死のうものなら、魔王を倒せない上に、国際問題にもなる。


そんな焦りを抱えたまま、エルはすぐにリン達の治療を開始したのだった。




◇◆◇




そんなことを思い出しながら、長い前髪で目元を隠した女店員を、エルは見つめていた。


どこか、見たことのあるような気のする彼女を。


その店員に思わずリンは話しかける。


どこか知っているような雰囲気を持つ彼女に。


「あの、俺達、どこかで会ったことありませんか?」


「えー、ないと思いますけどー。あ、もしかしてナンパですかー?やだー。私、心に決めた人が…」


「いや、そんなんじゃないです!違います!」


「リン、オマエ、ロリコンじゃなかったのか?」


「違うよ!?」


「ならばリン様、それは、その、男が…?」


「シータ?!違うからね!」


「やーん、ナンパとか冗談ですよー。多分、私の生き別れの兄妹とかですかねー?私、孤児なんでー!」


「え”…」


「気にしないでくださいなー。あ、キャベツの酢漬けのおかわりどうですー?」


「もらうー!めっちゃウメー!」


「えー、嬉しいですー!」


店員とまたもわちゃわちゃとし始めたリン達をエルは眺め、思案する。


一瞬、すぐにでも国を出るように説得しようかと思ったが、どうせどう説得しても皇帝の思惑を砕きたい、と言うだろうと思い直す。


ただ、今は、リン達が死ぬことのないように気を引き締めなければと思いながら、美味しい食事に舌鼓(したつづみ)を打った。

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