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2話

《討伐組合》


神星(しんせい)カリオルデ国に本拠地を構える国際的な組織。


魔物の討伐や狩猟(しゅりょう)をして生活する一般人たちを支援するために生まれたこの組合は討伐とは銘打(めいう)ってあるが実際に支援している範囲は討伐や狩猟を行う者たちだけには留まらない。


毎月一定額を収めなければならない、という決まりはあるがそれを守っていれば兵士などの"命を落とす”可能性がある職業や農夫などの職についているものも加入することができる。


この組合に入れば狩った生き物や農作物を販売する際に援助(えんじょ)が得られたり、魔物の討伐であれば正確な情報が手に入ったりと多くの利点がある。


その中でも一番のメリットは何らかの理由で死んでしまった場合や働くことができないような怪我・病気になった場合に家族や指定した人物、組織に収めた額の8割が支払われるところだろう。


実際、一家の大黒柱が居なくなってしまえば収入は減り生活が苦しくなるのは想像に(かた)くない。


だからこそ運営費に2割ほど持っていかれるとしても(逆に世界的な組織で2割で済んでいるのはおかしいのだが)得でしかないのだ。


というか手を出している範囲が広すぎて労働組合などに名前を変更したほうがいいのでは?という声は年々増加傾向にある。


「それではリン様に何かあった場合には光星(こうせい)教会東ラベライト孤児院に保険金はお送りいたします。何か分からないことがありましたら何時(いつ)でもお聞きください」


「あ、はい。ありがとう、ございます」


受付で組合の仕組みの大まかな説明を受け終え、エルを探しにその場を離れる。


そしてそのままエルも見つからないまま迷ってしまった。


「組合広すぎるだろ。どこだここ」


組合内の案内図は玄関口にしかなかったし、俺は地図読むのは苦手だし。なんて言い訳しながら彷徨(さまよ)いついた先は噴水庭園(ふんすいていえん)とでも言うのだろうか、討伐組合なんて場所には似つかわしくない荘厳(そうごん)な庭。


色とりどりな季節の花々と美しく手入れされた噴水。この庭園の手入れだけに(いく)らかかってんだろうな、と呟きつつ噴水縁に座って休憩する。はっきり言うがこの施設広すぎる。地図をくれ。


「あれ?リンさんじゃないですか?」


「うぉあ!?、、、え、バルドさん?なんでここに?」


「そ・れ・は、もっちろん吟遊詩人(ぎんゆうしじん)として労働者の皆さんに歌を歌いに、ですよ!リンさんはお仕事はどうしたんですか?」


院のちっちゃい子達泣いちゃいますよ~?、とケラケラと笑い声を上げるバルド。


頭からすっぽり被っているローブの所為(せい)で顔も身体も性別もろくに判別つかない不審人物ではあるが、リンの幼い頃から孤児院に文化振興(ぶんかしんこう)の為に顔を出してくれていて信頼の置ける人だ。


しかしそんな信頼の置ける人でもあの聖女様に選ばれて魔王討伐の旅に出るから、なんて言ってしまって良いのだろうか。危険な薬でもヤッているのかと聞かれそうだ。


それに院長にも教会が介入していない非公式な選出なのだと聞かされているし、でも何も言わないのもそれはそれで怪しまれるだろう。


長いようで短い時間で悩んで悩んで、悩み抜いて。律儀に待ってくれているバルドをチラリと(のぞ)いてええい、(まま)よと意を決して口を開く。


「えっと、「あ、やっぱり良いです!当ててみます!」え”」


「ん~、、、そうですねぇ。クビ、は院長さんの性格的に無いだろうし、、、」


いきなり水平思考クイズ的なの始まった!?クソ、この人は昔からこうだった!信頼が置けるのと信用ができるのは話が別だと言うのを忘れていた!そんな焦りが思考を加速させる。


加速した思考でふと、逆にこれはチャンスなんじゃないかと思いつく。


バルドさんが言った理由に頷いておけばいい感じに誤魔化せるのではないか?と。


この人は変に誤魔化したほうが面倒くさいタイプだし、これは妙案(みょうあん)だ!よし、どんとこい!


あーでもない、こーでもないと悩んでいたバルドがリンが妙案を思いついたのとほぼ同時にあっと声を上げた。そしてにやにやと笑ってこちらを見る。


(あ、なんか良くないこと思いついてる気がする。。。)


こういう感じの時のバルドは大抵ろくなことを思いついていないと、リンは経験則で知っている。身体が無意識のうちに身構(みがま)えてしまった。


そしてついにバルドが口を開く。


「聖女様に選ばれて魔王討伐に行くから、とか?」


「え”」


なんで分かんだよ!!最初に思い浮かんだのはそんなことだ。誤算(ござん)すぎる。まさか当てられてしまうとは!


そしてバルドの言葉に思わず()頓狂(とんきょう)な言葉を上げてしまい、誤魔化すこともできなかったリンの様相(ようそう)にバルドもまた、驚愕(きょうがく)の声を上げた。


「もしかして、当たりなんですか?」


「、、、そんなことないです」


「いやいやいやいや!そんなことありそうじゃん!?」


「いやいやいやいや!そんなことないですって!!」


どんどん二人の言い合いはヒートアップしていく。美しい庭園には似つかない言葉の応酬(おうしゅう)が広がる。


「ほら?私吟遊詩人ですから?そういうのも分かっちゃうんですよ!」


「いや、吟遊詩人とか言ってますけど実際ただの無職ですよね?!」


「ソ、ソンナコトナイデスヨ!?歌ってみますから聞いててください!」


そう言い放ったバルドがどこからともなくリュートと呼ばれる撥弦楽器(はつげんがっき)を取り出す。そして誰もが聞いたことある詩曲(しきょく)を弾き始めた。


《太陽よ、なぜ消えるのです 


   その身の光で我らを照らして


 月よ、なぜ上らないのです


  その身で我らを包みこんで


 星よ、なぜ姿を表さないのです


  その光で我らを癒やして


 天体の神よ、なぜ死んだのです


     もう一度我らに寵愛を》


何度も孤児院で聞いた歌声に相変わらず上手いな、なんて幼児が言いそうな感想が浮かぶ。学がないからというのもあるだろうが毎年聞いていると流石に最初のような感動は薄れるものだ。


「天使の(なげ)き、ですよね?院で毎年聞いてますから上手なのは知ってますよ」


「でしょでしょ~?私上手なんですよ~!な・の・で、無職呼びはやめてくださいね?せめてフリーランスとかって呼んでください!」


「フリー、ランス、、?なんですかそれ。またいつもみたいに騙そうとしてませんか?」


今まで何度も騙された記憶がリンの頭に浮かぶ。雷が鳴ったらヘソを隠さないと取られるとか、しゃっくりを100回したら爆発するとか、つむじを押されると身長が伸びなくなるとか、星には名前があるだとか。今まで何度この人の冗談で大人たちに笑われただろう。未だに忘れてはいない。


疑いの眼でバルドを見つめる。しかしバルドはいつもからかって騙してきたときとは違い頭に手を置き(顔なんて一切見えないが)遠い目をしていた。何ならあちゃー、なんて口に出している。


「そっかぁ伝わんないかぁ、やっちゃったなぁ。よし、リンさん今のナシで!」


「はぁ?まぁ、わかりましたけど、」


理解できていないという表情で分かったと答えるリンに思わずバルドは苦笑していた。


そんなんだから何回も騙されてしまっているのにそのことに未だ気づいていないのだろうなとリンの今までの来歴をバルドは思い出していた。


三つの頃に実の両親に捨てられ孤児院に入り、そこから成人の年まであまり孤児院の外の存在と関わらずに生きてきた、まだ一六歳の青年。


だと言うのに人間不信に(おちい)ることもなく、しかし盲目的(もうもくてき)に人を信じるわけでもなく善意と悪意を見極めて善意には善意を、悪意には悪意で返す事ができる。だからこそ一応悪意は無く面白がって騙す自分の言葉に騙されてしまうのだろうが。


(リンさんの人のことをしっかり見極められるところ、少し羨ましいですね)


それは自分にはできないことだからなぁ。そんなことを思っていると遠くでリンを呼ぶ《星の聖女》の声が耳に飛び込んできた。彼から離れなければいけないことを少し惜しくも思うが、それを表に出してしまうほどバルドの人生経験は浅くない。


「リンさんの探してた人は来たみたいですし、私は帰りますね。それじゃあまた~」


「え、あ、はい。また」


あまりの展開の速さに一瞬、(ほう)けたように別れの言葉を返したリンはバルドが庭園から消えると同時にエルを探してここまで来たのだと思い出しエルの声がする方まで走り出した。


「聖女様!こっちです!」という声に気づいたエルもリンの方へと駆け出していく。


「あぁ良かった。すみません、少し離れたら受付に戻れなくなってしまって」


「いえいえ大丈夫ですよ。ここ広くて何処(どこ)にいるのか分からなくなりますよね」


くすくすと二人で笑い合う声が響く。


「手続きも終わったことですし、それでは行きましょう。魔王討伐の旅へ」


「はい、俺なんかで良ければ」


最初に出会ったときのように手を引かれて他愛もない話をしながら受付へと進む。


こうして二人の旅は始まった。これからの旅への不安と興奮が入り混じりドクドクとリンの心臓が高鳴る。この先がどうなるのかなんて分からないまま二人は歩み始めた。







「頑張ってくださいね、月の勇者さん」


別れ際に放たれたバルドの言葉がリンは頭から離れなかった。

3話は本日18:00に投稿予定です。

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