8話「太陽の英雄・独白」
タグに群像劇を追加。
ログスの容姿に関する文を追加。
太陽の英雄エレミヤ。かの者が成し遂げた偉業は数知れず。
原初の魔物と呼ばれる強大な魔物達の討伐に始まり討伐組合の設立や北の大地の踏破等、様々な伝説を作り上げてきた男。
ラベライト王国のみならず全世界に名を轟かせた知らぬ者は居ないと言われる存在はこの地で没したらしい。
現在リン達はその太陽の英雄エレミヤを題材にした劇を見に来ていた。
街の中央部に作られた野外劇場の特設会場周辺には様々な屋台がひしめき合っており、その香りにつられてくる人々も多いようだった。
「ああ天使よ!どうか私にこの竜を打ち倒す力を!」
劇も終盤に差し掛かりエレミヤ役の役者が剣を振るい竜を打ち倒そうとする。
横に座っているシータとチカもどきどきとした顔で見ながら食べようといって買った串焼きにも手が付かない様子だ。
かくいう俺も内容に集中しすぎてフライドポテトを食べる手は早々に止まってしまったのだが。
「うおりゃああああ!!」
勢いの良い声と同時に竜の首を切り落とすエレミヤ。
しかし竜が死の間際に放った一撃がエレミヤを瀕死の重症へと追いやった。
倒れ伏した彼は仲間たちと最後の言葉を交わす。
そして最後に、
「天使よ…どうか…この世界に……人間に…祝福を…」
そう言い残しエレミヤは天へと旅立った。
そうして幕が降りたその瞬間に観客たちが役者たちへと拍手と歓声を浴びせる。
それにつられるようにチカ達も拍手し始め、よく見てみるとシータなんか涙ぐんですらいた。
俺自身劇を見るのは初めてだったがその迫力に、熱量に、今のシータやチカのように魅了される人々の気持ちがこの演劇で少し分かった気がした。
劇の熱量に呆けていた他の観客たちが立ち上がり移動していくのを見て俺達もその流れに沿って移動する。
「それにしても凄かったな!めっちゃカッコよかった!」
「太陽の英雄の話は村に来る伝説好きな狩猟者達が話していたが、劇で見ると更に迫力が凄まじかった…!」
「劇って王都だと貴族が見るものってイメージあったからこんな風に俺達みたいなのでも見れるとは思わなかったなぁ」
人の流れの隙間を縫いながら進みついでに屋台も物色していく。
ピザにサンドイッチにソーセージ、あと串焼き。美味しそうなものばかりが並ぶが中にはお面や木製の剣なども売っており道の端に目をやればお面を付けた子どもたちが木製の剣でチャンバラなんかをしているのが見えた。
そんな平和な様子を見ることが出来るこの幸せな空気感につい浸ってしまう。
ふと横を見ればチカもモドキの子どもたちを思い出しているようで優しそうな目で子どもたちを見ている。
「…ンだよ。なんかアタシの顔に付いてるのか?」
「いや、別に何もついてないよ」
「あっそ…うまァ」
返答が気に食わなかったのかチカは頬を膨らませながらいつの間にか買っていたピザを美味しそうに頬張っている。
…これではピザを食べているから頬が膨らんでいるのか怒っているから膨らんでいるのかわからないな。
そのまま行く先も特に考えずに進もうとすると一緒に並んで歩いていたはずのシータがいないことに気がついた。
直ぐに周囲を見渡すがいない。
まさかこんな人混みの中で迷子になったのか?そんな焦りが思考を鈍らせる。
「チカ、シータが迷子になった!さ、探しに行かなきゃ...!」
「いやアイツ迷子になるような年じゃねェと思うぞ?放って置いてもダイジョーブだろ…」
チカの発言はもっともなのだが焦ったリンには一切聞こえていないようでフラフラと周囲を見回す。
リンにとっては年下であるチカは勿論、シータのことも孤児院の子ども達と同じ様に思っているのだろう。ただ迷子というものに過剰反応しているだけな気もするが。
そしてしっかりチカと手を繋ぎながら屋台の周囲を歩き回っているとシータを視界の端に捉える。
焦って駆け寄った先のシータは先程のチャンバラをしていた子ども達に絡まれ魔物役をしているようだった。
「ふははは!人間よ、この竜を打ち倒してみよ!」
「うりゃあ!」「とりゃぁあ!」
小さい子ども達が木剣を振りかぶりシータへと斬りかかったかと思うとシータは斬られた場所を抑えうめき声を上げながら倒れ伏す。
「くくく、人間共よ。我を倒した程度で終わると思うなよ…」
「よっしゃあ!たおしたぞー!」
「りゅうなんかにまけねぇぞー!」
恨み言のようなことを言い残しながら倒れ伏すシータの周りを飛んで喜びを表す子ども達。
その様子にチカも呆れた様子でため息を付きながらも駆け寄っていく。
しかしリンとチカが近づいていることに気がついた子ども達はこちらを木剣で制す。
「なんだ?りゅうのなかまか?」
「へへん、おれたちまけねーんだからな!かかってこい!」
しかしシータもリン達の存在に気づいたようでやっちまった、みたいな表情をしているがそれを無視してチカは仕方ないと言いたげな様子で子ども達の方へと近寄る。
そして悪そうな顔をすると子ども達を脅かすように口を開いた。
「フハハハハ!人間フゼーがアタシに勝てると思ったか?!」
「きゃー!」「わー!」
そう言い放つとチカは子ども達を追いかけ回し始め、追いかけられた子ども達も楽しそうな悲鳴を上げながら逃げていく。
これは多分、ノるべきやつだ!
思ったが吉日。直ぐに子ども達の方へと走り寄り自分もできる限りの悪そうな顔でふははは、なんて笑い声を上げながら追いかける。
それを見てまた子ども達が楽しそうな顔で逃げていく。
そんな事を続けていると一人、また一人と子ども達が増えていって、結局その日は子ども達と遊んで終わってしまったのだった。
…一歩間違うと犯罪者だと思われるのではと途中で考えたが気にしないことにしておこう。
だって今日はとても楽しい一日だったのだから。
◇◇◇
真っ白なローブを纏った人物が街の外れにある墓地を歩いている。
綺麗な花束を抱えて歩くその人物の先には一つの美しく手入れされている墓があった。
刻まれている名はエレミヤ。
太陽の英雄ここに眠ると刻まれた墓にそっと花を供える。
「貴方に会いに来るのも久しぶりですね。こんなに小さい石の下に貴方が居ると思えないもんですから」
懐かしさを滲ませた声でその人物、バルドは墓へと話しかけ続ける。
「いや、別にバルドさんも会いたくなかった訳じゃないんですよ?普通に寂しさとか感じますし?」
「貴方から引き継いだ仕事が忙しすぎて最近までゆっくり出来なかったんですよ。まあ最近は別の意味で忙しくなりましたけど…」
「貴方が視たであろう勇者が現れたんです。それをしっかりサポートするのも私の仕事ですからね」
「それにしてもいつ見ても面白いんですよね、貴方を題材にしたあの劇。貴方は剣も使わないし表に出て戦うタイプでもない。基本後方サポートが得意なタイプだったのになんか熱血系なんですもん。それに…」
「それに…結局貴方はあの竜を倒せなかった。今の今まであの竜を倒した者は存在しない。できるのは…それこそ天体の勇者くらいですかね。今の月の勇者一人では無理そうです」
「あー、神の子忘れてましたねぇ。まあ、あの子なら出来なくもなさそうですけど喧嘩を売られない限り手出しはしないタイプだし?」
「うーん、色々手出ししたいですけど難しいなぁ。貴方みたいには出来ないですね、やっぱり」
「え?肩入れしすぎ?…まあ待ち望んでた勇者様ですから。あの村の惨劇も止めようと思えば止めれましたけど、止める義理はないでしょう?ふふふ、酷い女だと罵ってくださいな」
ぽたりと落ちた一滴の雫によって雨が降ったかのように墓石が濡れる。
その雫は止まることなく墓石を濡らし続ける。
「…そうやって罵ってくれたらどれほどマシだったでしょうか。貴方を殺した私を、これからも幾つもの死せる命を見殺しにする私を。視れる貴方なら知っていたでしょうに」
墓の横に座り込んだバルドは優しい手つきでそっと墓石を撫でる。
そうやってどれだけ経ったか。ふと、こちらへ近づく足音が聞こえることに気がついた。
八百年前の英雄とは言えども英雄の墓なのだから花を添えに来る人間くらい居るか、と名残惜しく思いながらも帰ろうと立ち上がった。
しかしこちらへ花束を抱え来る人物が何者なのかを認識し、離れる必要はないかと思い直す。
そして向こうもこちらが誰かを気づいた様子で話しかけてきた。
「生きていたか」
「めちゃんこ元気ですよ。まさか貴方みたいな大物が来るとは思いませんでしたよ。神の子ログスサマ?」
そう笑いながら聞くバルドの言葉に様などつけたことは殆どないだろう?と鼻で笑って返す男。
バルドに”ログス”と呼ばれた男は、ラベライト王国では殆ど見ることのない夜空色の肌を持ち、鋭い視線でバルドを見ていた。
《神の子》
光星教会教皇であり太陽の英雄エレミヤの子。
本来は討伐組合本部や光星教会本部がある神星カリオルデ国にいるはずの存在が今バルドの目の前にいた。
「討伐組合の本部を移動させたことをまだ怒っているのか、心の狭い女だな。お陰で討伐組合の組合長はいつも本部に居ないと噂されているぞ」
「別に怒ってる訳じゃないですけど、バルドさん的には本部は王都にあるアレなんですよ。本部に居なくても会議とかは音映送受信機で出来てるから問題はないはずですし?」
二人の間に火花が散る。睨み合いが数瞬続いたがどちらからともなくふっと笑みが零れ始めた。
くすくす、けらけらと笑い満足した二人は先程とは真逆の柔らかな雰囲気で話し始める。
「お父上の墓参りですか?忙しいでしょうにお疲れ様です」
「偶には来ないと拗ねるであろう?子どものような奴だからな」
「まあ…たしかに子どもみたいな人でしたけどぉ。っていうか奴、じゃなくてパパ♡とかって呼んであげ…」
「・・・」
「うっわぁキツ…みたいな顔やめません??」
たしかにキツイとは自分でも思いましたけど!と喚いているのを笑って聞いているログスに色々言っても無駄だと悟ったバルドは喚くのを止めた。
「それにしても随分と今代の勇者には肩入れしているようだな。わざわざ仲間の思考にまで介入しているとは」
「もう彼らに会ったんですか?」
「街で遠目に見た程度だがな」
「へぇ…まあちょっとヘマしまくってるだけですよ。聖女様に私の存在がバレると面倒なのでヘマのカバーで色々細工しているんです」
「気が緩んでいるのではないか?昔のお前ならばそんなことにはならなかっただろう」
「昔の話ばかりする男は嫌われるらしいですよ〜。まあ気が緩んでるのは否定しませんけどね。ずっと待ってたんですから」
普段被っているフードが風でめくれ上がる。ふわりと風に舞う髪の隙間から覗くことの出来る瞳はまるで恋する乙女のようで、どこか仄暗い執着心も覗かせていた。
その瞳にログスは呆れた様子でため息をつく。
「お前も奴も何が見えているのか分からんな」
「神の子と呼ばれる貴方でも?」
「ああ」
ぶっきらぼうとでも言える様子で言葉を返したログスは思い出したように手に持っていた花束を墓に供える。
そしてそういえば、と前置きを置き真面目な様相で話し始めた。
「至厄舟が動き始めたぞ。今こちらへと向かっているのは《将軍ヒヨドル》。あの勇者が倒せぬのであれば我が出るが、」
その言葉にバルドは間髪入れずに返す。
「問題ないですよ〜。将軍なんていいますけど基本至厄舟は単独行動しかしないのでどうせ軍隊は連れてきません。ヒヨドル一人なら勝てます」
「信用していいんだな?」
「もっちのロンです。まあその後の三人は話変わってきますけどねぇ。将軍は真面目に真っ直ぐ戦ってくれますけど《夢滅アリイム》とかは搦め手も搦め手。チートの権化ですからねぇ」
「今後に期待、という訳か」
「そーですね」
どっかで修練積んで貰いましょうかねとバルドは笑う。
一通り話したバルドはログスが来た方向へと歩き始めた。
その背中にログスが声を投げかける。
「お前は、何を考えている…?」
投げかけられた声に振り返ったバルドは少し悩んだ様子で答えた。
しかし答えている最中にもバルドの姿は揺れ動き掻き消えていく。
「人類の幸福、ですかねぇ」
そう言って手を振り風景の中に溶けて消えていく様はチカの幻覚魔法にどこか似ていた。
一人になったログスはひとり呟く。
「その人類とは新か旧か。どちらのことだろうな…」
そうしてログスも墓の前でバルドと同じように語りかけ始めるのだった。




