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7話「第二の砦の街アルクスギア」

「うわあぁあ!スッゲェ!」


「チカ、走るとコケるぞ!」


街に着くやいなや走り出し、町中を横断する川を覗き込みに走り出したチカを、急いでリンも追いかける。


その様子をエルは微笑みを(たずさ)えながら眺め、シータは無邪気に駆け回るチカに頭を抱えた様子だった。


「やっと着きましたねぇ」


「ええそうですね、聖女様」


少し困った様子のシータと、エルは止められても(なお)キラキラとした目で走り回っているチカとそれを追いかけているリンを眺めながら、今日までの道のりを思い出していた。


そう、(つい)にリン達一行は第二の砦の街アルクスギアに着いたのだ。


長い道のりと言っても、あまり寄り道をせずに(ほとん)どまっすぐ進んできた為、思い出すのは喧嘩をしているチカとシータか道中で出た魔物のことくらいだったが、それでも初めての長旅は達成感と多少の疲労感で一応区切りが着いたのだった。


まあそんな疲労感も感じさせないぐらいに駆け回っている二人が目の前にいるのだが。


「チカさーん! リンさーん! 討伐組合に行きますから戻ってきてくださーい!」


「「はぁーい!」」


エルの声にすぐに戻ってきた二人。


荷物を御者(ぎょしゃ)に任せつつ、四人はそそくさと討伐組合のアルクスギア支部に向った。


そして着いた瞬間、チカはまた感嘆(かんたん)の声を上げる。


「おおお!デカい!」


「王都の組合の方がちょっと広いか あ、中庭が無いのか」


新天地へ来た興奮からか、チカとリンのテンションの上がり様が留まることを知らない。


大興奮な二人の様子にまたエルは微笑んでいるがふと、田舎から出てきたシータが二人と同じようにそわそわとしていないのに気づく。


「シータさんはあまり驚かないのですね…?」


「あはは、そうですね。オレは王都に来て直ぐの時にこんな風になってました」


「あらまぁ、私達に会ったのはいっぱい遊んだ後だった、ということですね」


「…そう、ですね」


エルの言葉に少し顔を赤くさせ、言葉に詰まるシータのその様子にまたエルは笑みを(こぼ)すのだった。


目的の街へと着いた達成感から普段の二倍は喋りながら、四人は通された部屋に到着する。


その部屋には一つの丸い球体が机の上に鎮座(ちんざ)しており、エル以外の三人は首を(かし)げる。


「これは...一体?」


「アレか? なんかよく路地でやってるウラナイ的なのか?」


「占いに使うのであればこれは(いささ)か大きくないか? これでは鈍器だと言われたほうがまだ納得できるが…」


ボーリング球程の大きさの球体を前にウンウンと頭を抱える三人に笑みを深めたエルは、そっとその球に触れる。


「これは大昔に天使様が初代の星の聖女へと授けた《音映(おんえい)送受信機》です。こうすると…」


そう言いエルが《音映送受信機》を撫でると光が溢れ出す。


その溢れ出した光は集まりまるでカーテンのような、一枚の大きな布のような形へと変形していく。


「わ、わぁあ!」


そして少しすると不快な音が一瞬したかと思うと、真っ白だった光は様々な色と形を織りなし始め——。


いや、この形を、この姿(・・・)をリンはよく知っている。


「い、院長?!」


そう、その光が映し出したのは、リンがいた東ラベライト孤児院の院長であるルークだった。


「あ、あー。私の声が聞こえているだろうか」


「はい、聞こえておりますよ。ルーク院長」


「それは良かった。久しいな皆」


こんな遠くの地でルークの姿が、声が、することに驚きを隠せない三人は、ルークの久しぶりだと言う言葉に返答することも出来ずに混乱している。


「ど、どうなってるんだ?」


「ダイシンカン様がここにいる、ワケじゃないもんな?!」


「この光が大神官様のお姿とお声をお届けているのか...?」


頭にはてなを浮かべた三人に、エルもルークも自分が初めてこの機械を見た日の事を思い出す。


二人も初めて音映送受信機を見た時に、どういう原理で動いているのかも分からず、混乱したのを覚えている。


実際、原理と言われても、そういう天使の扱う魔法なのだとしか伝わっていないし、言いようがないのだが。


「そちらの様子もこちらで映し出されているよ」


「な、ななな…」


「急いで髪の毛キレーにしてもあんま変わんねぇぞ?」


「チカ! お前なんてことを…」


「まあまあ、実際あんまり変わっていないので喧嘩しないでください」


「エ?」


「?」


久しぶりのエルの冷たい発言に心に傷を負ったリンと、何も言えなくなってしまったチカとシータの意識を戻したのはルークの咳払いだった。


「早速だが四人に報告がある。心して聞いてくれ」


真面目な雰囲気を纏ったルークに四人も(えり)を正す。


そうしてルークから告げられた言葉に、四人は驚愕(きょうがく)を隠せなかった。


「アルクスギアまでの道すがら《リギル村》を通ったと思う。覚えがあるな?」


「...はい」


「私も先程報告を受けたのだが、そのリギル村が壊滅した。生存者は無し」


あのリギル村が壊滅した。その言葉に四人は驚きを隠せないでいた。


それもそうだろう。最終的にいい思い出が無いとは言えども、普通の村だったのだ。


しかも自分たちが村を出て直ぐの道中は特に魔物もいなかった。


であれば盗賊の一団が村を襲ったのだろうか、とエルは思考を巡らせる。


「しかし何か盗まれた様子もなく魔物の爪跡も残っているが故、魔物の被害によるものだと考えられた」


「考えられ()、ですか?」


「ああ。光星教会の本部からの情報で恐らく村を襲撃したのは至厄舟(しあくしゅ)の一人、もしくは魔王の側近だと」


「は...?」


伝えられた情報にエルは普段の優しい顔を消し、表情を無くした顔で大きく目を見開いている。


あまりの衝撃(しょうげき)に言葉を失った四人に、ルークも目を伏せながら更に続ける。


「言っておくが、君達がしていないということは分かっているから安心してくれ」


「え、ええ。それなら良かったです」


ハッとし、直ぐに普段のような温和な表情へとどこか哀愁を感じさせながらも戻したエルに、リンは聖女はやはり人を悼むき良い人なのだと感じた。


「た、たしかにモドキってバレてなんかイヤな感じだったけど、それでも別に死んでほしいとか思わねェよ…」


「そうだな。オレも流石に驚いている…」


辛い思いをしたはずのチカも悲しそうな顔で、シータの服の裾を震える手で掴んでおり、シータもその手を振り払うこともなく自身の手を添わせている。


しかしモドキとバレた、という言葉にルークが突っ込んだ。


「モドキとバレた、と言ったがそれは…言葉の通りかな?」


「おう…あ、ホントに村のヤツらには何もしてねぇからな!」


「ああそれは分かっているよ。君達が人一人だけを丸焼きにする力なんて持っていないことは知っているからね」


乾いた笑みを浮かべるルークにチカは言葉を続ける。


「そんなの出来ねぇもん…やるなら村ごと焼いたほうが早いし…」


「あ、ああ、そうだな…?」


「もしかして、やったことあったり、とか?」


「あるわけねェだろ!?火のフシマツにはめっちゃ気を付けてるんだからな!」


「おぉ…偉いな」


確かに乾燥する時期は火事が増えるもんな、などど場違いなことを考え現実逃避に浸る。


こんな風に三人は軽口を叩き合ってみたが、実際のところショックを受けてしまい、普段より口数も少なくなってしまっている。


そんなリン達に追い打ちを掛けるようにルークは口を開いた。


「恐らく、君達四人が勇者一行として魔王討伐を目指しているのだと知られてしまったのだろう。諸々(もろもろ)を考えて盛大なパレードなどはしなかったが、人の口には戸は建てられないからな」


「そうですか…」


「ああ。だから、これからの旅路は特に注意して進んでくれ。君達の旅路に幸多(さちおお)からんことを」


そう言い残したルークが祈りのポーズをすると同時に光のカーテンは消え、ルークの姿も掻き消えた。


突然のルークからの報告は、リギル村での出来事よりも深くリン達の心へ影を残したのだった。


◇◆◇


「それでは私は教会に用がありますので、皆さんは街を観光してきてくださいね」


そう言い残し教会の方向へと消えていったエルを見送った三人は、頭を悩ませていた。


「カンコー、カンコウ、観光…観光してこいって言われたってよ、こんな感じじゃ楽しめねェぜ…」


「ああそうだな…オレ達があの村に寄らなければ、あるいはもう少し…」


「出るのが遅ければ、ですかね?」


「でも村から直ぐ出るのを決めたのは俺だから…て、え?」


三人でどうしようかと話している最中、聞き慣れた声が会話に割り込んできた。


勢いよく声のした後ろへと振り向くと、そこにいたのは——。


「バルドさん!?」


「…え!バルドお姉ちゃん!?なんでココにいるんだ!?」


「いつだって神出鬼没(しんしゅつきぼつ)なのがバルドさんなのでどこにでもいますよん」


ヒラヒラと手を振りながら現れたのは、王都にいるはずの自称吟遊詩人のバルドだった。


お久しぶりです~なんて話しながらこちらへと駆け寄ってくるバルドを制止したのは、シータだった。


じっとシータが真面目な顔でこちらを見る。


「リン様、明らかにこのバルドという人物は怪しすぎるのですが」


ひそひそと話しかけてくるシータに、思わずリンもチカも頷きかける。


はっきりって怪しすぎるからだ。例え純白であったとしても、全身をすっぽり隠すローブを纏っているのだ。


逆にこれを見て誰が怪しくないと言えようか。


「ちょっとちょっと、シータさんってば酷すぎませんか?ねぇリンさん、私そんなに怪しいですかねぇ?真っ当に吟遊詩人してるのに…」


「いや、めちゃくちゃ怪しいと思います」


「うん。アタシもそー思う」


「わーん!二人とも酷い!」


いい年した大人が地面にしゃがみ込み、泣き真似をしているのを見ると、流石のリンもついゴミを見るかのような目で見てしまう。


シータにいたっては二人を更にバルドから遠ざけようと、自分がバルドの前に立ちふさがるようにしていた。


「うわぁ、流石のバルドさんでもその目は傷ついちゃうんですけど…」


「ふぅ…安心してほしいシータ。確かになんかすっごい怪しい人だけど、なんか、こんな感じの人だけど…」


「ほ、本当ですか?,,,凄く怪しいですが」


「大丈夫だって!…たしかにヘンな人だけどよ…」


「そ、そうか…」


若干(じゃっかん)目を逸らしながらではあったが、大丈夫だと伝える二人にシータも一旦話を聞いてみることにした。


近くのバルドおすすめの店だと言うカフェに連れ込まれ、三人はバルドが何を話すのかと注文をしながら待つ。


「さてさて~観光も楽しめないって話でしたが、皆さんは今この街で開催しているお祭りを知ってますか?」


「お祭りですか?まだ来たばっかなので全然ですね」


「まあそうだと思ったので声かけたんですけど」


ケラケラと笑いながら言うバルドに一瞬殺意が沸いたが、気にしないことにする。


「今この街では過去の英雄を(しの)ぶ祭りをしているんですよ。(しの)ぶって言ったって、追悼(ついとう)の意とかよりも食い気が凄いんですけど」


「ングッ、食いモンあるのか?!」


「沢山屋台が出てますよ~。ここらへんは入口付近なんで屋台出してないですけど、中心部に行けば沢山ありますよ」


デラックス山盛りなんてろパフェなるものを口いっぱいに頬張っているチカが、食べ物の気配に食いつく。


俺より小さい体のどこにそんな山盛りのパフェが入るのだろう、と少し気になったが今はその祭りの話が重要だ。多分。


「で、なんで俺達にその祭りの話をしたんですか?」


「それはですね、大体八百年くらい前にいた太陽の英雄エレミヤ。知ってますよね?この祭りはその英雄エレミヤを追悼(ついとう)する祭りなんです」


「?…それと何の関係が…」


「で、春来祭って皆さん楽しめました?」


そのバルドの言葉にあっとチカが声を上げる。


《春来祭》。リン達が王都を出る前にやっていた祭り、なのだがリン達四人は魔王討伐の旅への準備で遊びに行くことはおろか、雰囲気を感じることすら出来なかったのだ。


そのことに三人が気づいた様子をニヤニヤと眺めるバルド。


追悼祭(ついとうさい)は王都で言う春来祭と同じくらい大事なイベントです…観光するなら持って来いだと思いませんか?」


「それは、そうですけど…」


リギル村の事を思い出し、暗い雰囲気をつい纏ってしまうリン達に、またバルドはふわりと笑みを浮かべる。


「辛いことも楽しい場所に行けば多少は和らぎますよ。(へこ)んでばっかじゃ大切なものも見逃しちゃいますよ」


ふにゃりとした優しい雰囲気を纏うバルドに、三人の心も揺れ動く。


そして決定打になったのはチカの一言だった。


「…ア、アタシ、屋台の串焼き食べて、みたい…」


「なら行こう。美味しいものいっぱい食べよう。な、シータもそれでいいかな?」


「ええ!全く問題ありません!」


「それじゃ決まりですね!いっぱい楽しんできてください」


そう言って手を振るバルドの手をチカが掴む。


そして上目遣いでバルドへと一言。


「なぁ、バルドお姉ちゃんは行かねェのか…?」


「グハッ…バルドさんはやることがあるので…ごめんね」


チカの上目遣いの威力に苦しみながらもどうにか断る。


チカと離れるのを名残惜しく感じながらも、バルドは三人と分かれることになった。


◇◆◇


「それじゃお祭りに行くぜー!」


「だから走るとコケちゃうってチカー!」


また初めのように屋台へと駆け出していくチカをリンが追いかける。


「待ってくださいリン様ー!」


そしてそれを当然のように追いかけるシータ。


「よし捕まえたぞ。チカ、流石にこう人が多いと迷子になるから!な!」


「…たしかに、そうだな?…手は繋がねェからな」


「流石に繋ぐ年でも無いだろ…」


そうやって騒ぎ合っている二人を少し離れた位置で眺めながら、シータはポツリと呟いた。


「なぜ彼女はオレの名前を知っていたのだ…?」


ただその疑問だけが頭を占める。


勇者一行として旅に出ているから?


しかし、今まで寄った村でも、組合でも、誰もシータの名前を知っているものなどいなかった。いつだって最初に名前が上がるのは、星の聖女として名を馳せているエルだからだ。


ただただ疑問と疑念が湧き上がる。


「おーい!シータ!置いてくぞー!」


少し離れた人混みからチカの声が聞こえ、シータの思考は現実へと戻った。


「今行くから動くなよ!」


とりあえず今は二人と楽しもう。気づくとなぜ、という疑問は消え去っていた。

困ったときはとりあえずバルドを出せばどうにかなるんですよ。

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