1話
脱字の訂正・その他(01/23)
「リンさん、私と共に勇者として魔王討伐の旅へと向かいましょう!」
絹のような美しい白金の髪。ふわりと香る金木犀の甘くて優しい香りを纏わせた少女。
リンの目の前には暖かな春の陽光に照らされているからか神々しさすら感じる《星の聖女》エルと共に慣れ親しんだ孤児院の院長であり大神官としても名を馳せているルークが居た。
朝、いつものように玄関先の掃き掃除をしていると院長にいきなり院長室に来るようにと呼び出された。一瞬なにかやらかしてしまったかと思ったが特に思い当たる節もなく、緊張しつつ部屋へと向かった。
するとこの国で知らないものはいない星の聖女という存在が待っていた上、いきなり魔王討伐などという世迷い言のような話を切り出されたのだ。
はっきり言って意味が分からず、エルの言葉に困惑の表情を浮かべるしかなかった。
なぜなら魔王討伐など勇者と魔王の伝説を聞いた幼く正義感が強い子供が大人に微笑ましいと思われながら嘯くもの。そんな伝説上のお伽噺としか思えない存在に自分が選ばれるわけがないのだ。きっと、揶揄われているのだ。そうとしか思えなかった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、柔らかな笑みを浮かべながらエルはこの手を取って、と言わんばかりに手を差し出す。
「い、いや、いやいやいや、なんかの間違いじゃないですか?俺はただの孤児院の用心棒ですよ?」
混乱と動揺が思考の八割を占める。
リンにはなぜ自分が魔王討伐に己が選ばれているのか、皆目検討もつかなかった。最近流行りの娯楽小説のように何かしらの強い魔物を倒したこともなければどこかの貴族の血が入っていて、なんてこともない。
出自は田舎から上京した村民上がりの貧しい商人夫婦が両親であるし、何だったら用心棒なんて名前だけのまだまだ遊びたい盛りの子どもたちの体力を共に遊んで奪う、そんな仕事だ。
それに———。
「俺は、《モドキ》です。|《星の聖女》様と一緒になんて居たら、石を投げられますよ」
あはは、なんて自虐的に笑う自分にルークが顔をしかめるのを見た。それはリンの自虐的な発言になのか、モドキの現状についてなのかは十三年間共に過ごした二人の仲でも読み取ることはできなかったが。
《モドキ》
それは世界中で迫害される存在。人類の敵対者である魔族に似たような特徴を持って生まれた存在を魔族モドキとして呼んでいたことから残った呼び名。
そして恐るべきところは普通の人間同士の夫婦からでもモドキが生まれることだ。
子供が生まれてからすぐ殺されたり捨てられるにであればまだ救いもあるが、母親が魔族と関係を持っているのではないかと疑われ母子ともに迫害されようものなら目も当てられない。
しかしこの国では第一王女がモドキの保護を掲げているためここ数年は捨てられる、殺されるといったことは少なくなっている。だからといって長年の迫害が消えるわけでもないのだが。
実際、モドキの犯罪は多い。窃盗に始まり暴力事件、最近では王族へのテロなんかもあった。こんな調子ではお互いの溝を埋めることは難しいだろう。
己がどんな存在なのかを再確認しながら包帯に包まれた左目に無意識に手をやる。
この”左目”の所為で嫌われ罵られ疎まれ捨てられた、思い出したくもない記憶が蘇る。今のままで十分幸せな暮らしを味あわせてもらえているという自覚がある。だが、それでも人に嫌われた過去が消えるわけではない。
また前のように捨てられてしまうことが、自分の前から人が居なくなってしまうのが恐ろしい。
その気持ちの所為か少し、手が震えてしまう。
震える手をエルはそっと取り包み込みんだ。
はっとし、気づいたら目の前にあった美しいエルの顔に惹きつけられる。
聖女と称えられるような存在は顔も良いのだなとどこか遠くで思う。人柄も良く、容姿も良い、羨ましいと思ってしまう。天は二物を与えず、等というがこの人を見ているとそんな言葉は嘘だと感じる。
形の良い桃色の唇が開き言葉を紡いだ。
「貴方でなくてはいけないのです。貴方以外では、駄目なんです」
慈愛を滲ませた目でリンを見つめるエル。その瞳の意志の強さに、美しさに思わずリンは後ずさってしまう。
【貴方以外では、駄目なんです】
人に愛され、幸せに、不幸を知らずに暮らしてきたような女が俺だけだと言う。
そんな言葉に魅了されたわけではない。された訳では無いが、気づくと纏められた荷物とそれなりな武器一式を揃えられそうな額を持たされエルと共に討伐組合へと向かっていた。
2話は12/10の0:00に投稿予定です。
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愛が重い女が好きなので愛が重い女がいっぱい出てきます。その子達が出るまでどうか待っててください。




