3話「所詮■らは■■モドキ・前編」
更新が遅くなり申し訳ありません。筆が乗っているので次話は更新が早いといいなと思っております。
「それにしてもレイラさんが見つかって本当に良かったですね」
「だな!遊びに誘われて森で迷子になっちまったって、ホント子どもって目ェ離せねェよなぁ」
「ていうかなんでカウベルなんだろうな?」
「確かに普通のハンドベルでも良さそうですね…天使様のお考えは計り知れないものです」
レイラを共に探してくれたお礼にと村の宿泊所を半額で貸してもらった一行。
陽も落ちてきたので夕食にしようと食堂へと談笑しながら移動していくと美味しそうな食事の香りが四人を誘った。
無料で良いと言う宿泊所の主と全額出させてくれというリン達の攻防があったが半額ということでどうにか折り合いが着いたのは余談だ。
「うわ~!!ウマそ~!!」
「こんなご馳走、本当に頂いていいですか?」
「まあ沢山!私たち四人で食べ切れるでしょうか?」
「一緒に探したと言ってもオレ達はお手伝いした程度だというのにこんなに…」
大きなテーブルの上にはテーブルからはみ出しそうな程の様々な料理が乗せられていた。
大きいベーコンの入った具沢山のポトフにふかふかとしたパンや湯気が立っている熱々のグラタン。
他にもボウルいっぱいのサラダに塊肉のステーキ、それにワインのボトルやジュースの入った瓶などが数本。
そのテーブルには四人分の椅子しかない為この食事は四人の為のものだと分かる。
しかし四人で食べる分だと考えると十分、いや十二分過ぎるほどのもてなしであった。
あまりの量に怯える四人に食事をしに来ていた村の人々が笑う。
「いいんだよ!元々人もあんまり来ねぇ村だからな!」
「そうよ~!来てくれたお客様にはしっかりおもてなししなきゃ、ねぇ?」
快活に笑いながら宿の主人と夫人が答える。
他の席に座っている村の人達も楽しそうに笑いながら食事をしている様にリンは少し喜びを覚えた。
本当に手伝い程度しか出来ていないがそれでも村の人達が幸せそうなのが嬉しいのだ。
もしレイラが見つからなければこの笑顔もなかっただろうと”もしも”を一瞬考えたがすぐに頭を振ってそんなありえなかった話は思考から消し飛ばした。
そんな風に幸せに浸っているリンの服の裾を引く感覚。
なんだろうとふと視線を向けるとそこにはまだ幼い少年が。
「なぁなぁ!そのにくもらってもいい?」
「こら!アンタ、勇者様を困らせないの!ごめんなさいねぇうちの子が」
「ああ、大丈夫ですよ。ごめんね、これは俺たち四人で食べる分だからあげられないんだ」
そう答えるとしょんぼりとしながらも母親の叱りにリンへと謝る幼い少年。
小さい子は好きな物食べたいからこういうことするよなぁ、小さい村なら尚更。なんて思う。
孤児院の子ども達も自分の好きな物が出たらこうやって強請る子がいたなぁ。
そんなとても懐かしいような、でも最近のことのようにも思える記憶に少し浸りながらリン達はテーブルいっぱいの料理を頬張り始めた。
美味しいねなんて話しながら食べているとカウンターで酒を飲んでいたおっさんたちがもぐもぐと肉を口いっぱいに頬張っているチカへと話しかけてきた。
「なあ嬢ちゃん、そのローブは脱がねぇのか?ヒック…邪魔じゃねぇか?」
「んぐ、邪魔じゃねェけど。あ、でも見てる方が気ィ悪いか…」
「オレの故郷の食堂とかでも旅人とかはローブを着たままだったし、気にしたことはないぞ?」
「別に俺も気にしたことないけどなぁ…」
というよりチカがローブを纏っているのは生えている尻尾を、モドキとしての証を隠す為だと知っているから言うことは何も無い。リン自身、左目の瞳孔を隠す為に包帯を巻いているのだ。
まあモドキだし隠したいよなあ、くらしか思うことは無いのだ。
エルも頷き二人の考えに同意している。
「んはははっ!別に着てるのを責めてる訳じゃあねぇからそんな顔すんなよ嬢ちゃん。隠したいことの一つや二つ人間生きてりゃあるわなあ」
少し凹んだような顔をしてしまったチカの方を酒を煽りつつもしっかりと見つめて話をする酔っぱらい。
フラフラとした危うい足取りでチカのところまで来ると雑な、しかし優しい手つきでチカの頭を撫で下ろす。
「気にしてること聞いて悪かったな。あとよ…」
「?」
「いい仲間に恵まれたな嬢ちゃん」
『いい仲間』という言葉に一瞬思考が止まったが言葉の意味を理解した瞬間に目が零れてしまいそうなくらい大きく見開き嬉しそうな顔をするチカ。
「んへへ、だろ?アタシのちょーカッコイイ仲間なんだぜ!」
にぱーっと笑いながらリン達を抱きしめるチカに照れた顔のリンとシータをエルは笑いながら眺める。
しかしそんな風に少し距離感があるようにしているエルに対してチカは頬を膨らませ不満を露わにする。
「セイジョ様もカッコイイ仲間だからな!」
「あらまあ、私もよろしいんですか?」
「もッちろん!なぁ?」
「ああ、聖女様がいなきゃ俺もここに居ないからな」
「聖女様に連れてきていただいたオレがなぜ仲間でないと言えましょうか!」
「そう言って頂けてとても嬉しいです…」
間髪入れずに仲間だと肯定の言葉を告げる三人にエルは珍しく普段の笑みを崩し少し目を見開き驚きを露わにしていた。
そんな様子のエルだったがハッと驚いたようにして崩した表情もすぐに戻し、しかし頬を赤らめながら嬉しそうに返事を返した。
しかしそんな幸せそうな雰囲気を壊す声が食堂に響いた。
「うわあ、なんだこれ?!しっぽ?!へんなのー!」
ふわりとチカのマントを捲り上げたもみじのような手。
そして子どもが捲り上げたマントからはチカが隠したがっていた狸のしっぽが観衆の目に入るように見えていた。
そのチカのしっぽを食い入るように見る人々は悲鳴を噛み殺すようにしている。
「…モド、キ?」
先程まで朗らかに話していた酔っぱらいのおじさんも呟くように言った。
しかしハッとした母親がすぐに子どもを叱り飛ばす。
「あ、あんた!そうやってひ、人、?の服を勝手に触らないの!もう、本当にごめんなさいね?モ、モドキとか私たちは気にしないから…」
明らかに気まずそうにして、そして怯えるようにして子どもを自分の背に隠す母親。
「そ、そうだよ、別にモドキだからって、なぁ?」
「あ、ああ。そうだな。ゆ、ゆっくり食べてってくれよ」
そう言って絡んでくれていたおじさんたちもそそくさと食堂から出ていく。
それ以外の客も怯えたようにしてリン達の顔色を伺いながら一人、また一人と食堂から消えていった。
「あ......まっ、」
絞り出すような声と伸ばした手を途中で止めてしまうチカ。
分かってはいたことであった。
モドキは人間として扱われることは無い。
第一王女の努力により最近は王都や王都周辺の村、街でその考えも改められ初めてはいるがこの村のように田舎な場所などの王都から離れた場所ではモドキへの迫害は未だに酷い。
逆にこうやって気まずそうに出ていかれるくらいで済んだのが本当に恵まれた扱いだとチカもリンも分かっている。
罵られることも石を投げられることも暴力を振るわれることもなかった。
それはリンが勇者だと知られていたからだろうか。それとも星の聖女が居たから?
まあそれでも人から忌み嫌われる存在だということは変わらないのだ。
なぜなら所詮アタシ達は魔族モドキなのだから。
ついおじさんたちを引き留めようとして立ち上がってしまったチカだったが自分がモドキで嫌われるべき存在だということを思い出し、肩を落とした様子で座り直してまだ残っている食事をもそもそと食べ始めた。
その様子に三人は何か言おうにも何も掛ける言葉が見つからず同じように食事を食べ始めた。
その様子を窓の外から覗いている人物がいるとも知らずに。
◇◆◇
その晩リンは悩んでいた。
何を、と問われるとそれは勿論夕食でのチカのことだ。
リンもモドキとして嫌われてきた過去があるが故に今日のチカの気持ちはよく分かる。
多分あの子どもも悪意を持ってマントを捲り上げたわけでは無いことも分かっているし大人たちのあの反応も郊外の村であれば仕方のないものだとも分かっている。
それでもリンは何とも言えない気持ちの悪さに苛まれていた。
大人たちのあの気持ち悪いものを見たような顔が、怯えた表情が、なによりチカの絶望した顔が頭から離れない。
何か言えるわけでもなく、何も聞きたくないと言わんばかりに食べ終えると早々に部屋に戻ってしまったチカに無理矢理にでも引き止めて何か言うべきだったのではないかと悩む。
でもそれはモドキであるリンが言うのはただの傷の舐め合いなのではないかとも思う。
うだうだとしてしまう。
あの時どうすれば良かった。ああしていたら、こうしていたらという終わってしまったことへの後悔ばかりが募る。
「いや、うだうだして悩んでも意味ないか…」
ごろんと横になっていたベットから勢いよく立ち上がる。
だって辛いのはチカなのだ。今伝えなければ意味がない。
その思いからリンはほんの少し離れたチカとエルが借りている部屋へと向かう。
二人の部屋の扉を前にして緊張からノックしようとした手が止まってしまう。
それもそうだろう。リンは元来臆病な存在なのだから。
でも、そんな臆病な存在でも勇気を出さなければいけないときがある。
きっとリンにとっての勇気を出さなければいけないときは今日なのだろう。
手の震えを無視して扉をノックする。
「チ、チカ。リンだ。入っても大丈夫か…?」
「...…ん、大丈夫だぞー」
間を開けて返ってきた答えに中の様子を伺いながら部屋へと入る。
その部屋にはエルとチカは当然としてシータも集まっていた。
「な、なんで、シータも…いや、そうか」
シータも己と同じようにチカを慰めに来たのだとすぐに思いつく。
「んだよ、リンもアタシに会いに来たのかよ」
赤く腫れた目元をエルの力で治しつつ鼻で笑うチカ。
照れ隠しなんだろうというのが丸わかりだ。孤児院の子ども達の中にもこういう子居たな、なんてついつい思い出してしまう。
「そうだよ。チカに会いに来たんだ」
なので孤児院の子ども達にするような普段はしないふわりとした微笑みを携えてチカの頭を撫でてしまったのは不可抗力なのだ。
チカはまだ14歳の子どもだし実質孤児院の子どもたちとあんまり変わらないだろう。俺も16歳で2歳差だからあんまり変わらないけど。
「…ッオマ、なんか、キメェ!」
「エ”!?!?」
「んふっ、ふふふ」
「お、お前失礼だぞ!」
そんな風に甘い対応をしてしまったので初めて出会った日と同じようにきもいというチカの叫びが木霊した。
閑話休題。
リンが伝えたいことを感じ取っているからだろうか何処か居心地悪そうにベッドに腰掛けているチカの前に座り込む。
そしてチカの手をしっかりと握り込みまっすぐ目を見つめる。
これは孤児院で子どもたちと大切な話をするときにも良くしていたことだ。こうすることで大事な話だと直感的に分かってもらえるし逃げられずにしっかり話ができるのだ。
どう話を切り出せばいいのか一瞬迷ってしまったが、とりあえず思っていることを伝えるのが良いかとあまり深く考えすぎずに今の気持ちをまっすぐ伝える。
多分、シータも聖女様も同じ事をしただろうから。
「あのなチカ。俺はさチカが、皆が良ければ明日の朝すぐにでもこの村を出ようと思うんだ」
「はあ?!リン、オマエ何考えてんだ?!」
リンの発言にチカは勿論エルも一瞬大きく目を見開いた。しかし驚いている二人に対してシータは驚きもせず、逆に当たり前のことかのようにその意見に対して肯定し頷いている。
チカ達が驚いたのは元々寄った村や街で少しずつ困り事や討伐してほしい魔物などを依頼という形で受けようと本格的な旅を開始する前に決めていたからだった。
それは旅の旅費をできる限り自分たちで稼ぎ、国からの支給金を使わなくても良いようにしようという意図とシータがこのパーティーに加わった理由の一つである『モドキの地位向上』を目指すために人々の役に立つという二つの考えからであった。
それを始めて寄った村でしないのはチカからすれば明らかに己がモドキだと最善とは言えない形でバレてしまったからだとしか思えなかった。
「ア、アタシがモドキだってバレたからって、そんな…」
「いや、それは全く関係ないよ。俺がそうしたいから提案したんだ」
「誤魔化すなよ!だって、そうとしか思えないだろ?!」
「誤魔化してなんかないよ。だってチカだって嫌だろ?自分が自信を持って最高の仲間だって言える人が面と向かって何かを言われたわけじゃないとは言え、嫌なもの見たような顔されたらさ」
「ま、まあそうだけどよ…でもアタシは大丈夫だぞ?村の人達が嫌な顔するかもだけど何か依頼受けようぜ?」
「…分かりやすく言うよ。モドキだからってチカがあんな扱いされたのが凄く嫌だった。宿に着く前に依頼の話はしたけど特には無いって話だったし、それなら次の村に進んでも問題ないだろ?」
子どものようなことを言っているのは分かっている。大人の世界ではムカついたから嫌、というのが通用しないことも分かっている。
それでも分かった上で嫌なものは嫌なのだ。
それにまだ子どもなチカがこうやって自分を押し殺しているのを見たくない。
それすらも自分の嫌だという気持ちを正当化するための言い訳に過ぎないのかもしれない。
それでもその言葉はチカにとっては救いの言葉だった。
なぜならその言葉で自分を大切だと思ってくれているのだと感じることが出来たのだから。
「セイジョ様とそこのヤツが良いって言うなら…アタシも次のところ行きたい。なんか色々言われんの、嫌だ」
「否定するわけがないだろう?出来ることならば考え方を改めてもらえるように話し合いをするべきだとは思うが、長年の考えというのはそう簡単に変わらないものだからな」
「私も異論はありませんよ。このパーティーはリンさんがリーダーですし、ああやって遠巻きにされてしまえば依頼どころではありませんもの」
二人ともリンの意見に反対することはなかった。
二人はモドキとして生まれたが人に愛され生きてきた。今回のモドキというだけでされてしまったあの対応は殆ど人生で始めて見たようなもの。
それもまだ関わった日数は短いとは言え大切だと思える仲間に対してされたのであれば憤りを覚えるのも当然であった。
「あのさ、ありがとな…」
普段からツンデレ気味なチカの感謝の言葉に三人は笑って返すのだった。




