2話「鈴の音は帰る合図」
国王陛下への謁見や院長への挨拶も終えたリン達は早速と言わんばかりに王都を出て北へと向っていた。
なぜ北へ向かうのか。
それは北の地へ向かえば向かうほど強力な魔物が増える傾向にあり、そのことから北に魔族の集まる地があるのではないか?と言われているからだ。
実際シータの生まれ故郷である王都から北西にある村《リオス村》は海からも山からも強力な魔物が現れそれを討伐するために強者の集まる土地であった。
シータはそんな村に生まれ、モドキではあったが家族からも村の民からも、そして討伐を生業としている者たちからも愛されて育ってきた。
それが故に生まれ持った魔法の力もあり村でも有数の強者となり、この魔王討伐の旅でも着いてこれると信頼されエルの元へと話が入ってきていたのだ。
話は魔族が集まる土地に戻るが、そんな噂があるのであれば北の大地へと向ったことがある人物が一人くらいはいるのではないだろうか、という疑問が湧くだろう。
リンも勿論この話を聞いたときにそんな疑問が湧いた。
その疑問についてのエルの回答がこれだ。
「北の大地へと向ったことがある人物は実際数多くいますよ。太陽の英雄と呼ばれた討伐組合の創設者エレミヤがその時代の勇者に出会った場所が北の大地だったと伝承では伝わっています。
しかし現在は北の大地に向っても森の中で彷徨い、最終的には元の場所へと戻ってしまうそうです。まるで境界線があるかのように進めないのだと。
エレミヤの日記には北の大地には豊富な資源と先進的な技術の数々そしてそれぞれ太陽・月・星の魔法を持った三人の勇者が居たとあります。真実かどうかは分かりませんが……」
「勇者ってそんな沢山いたのか?」
チカの質問にリンとシータも頷いた。昔からの伝説には勇者としか書かれておらずエルと出会ってから《月の勇者》という単語も始めて聞いた程なのだ。
「それは詳しく話そうと思うと世界の誕生から語らなければいけなくなるのですが、簡単に話しますね。
世界は原初の神である《天体の神》によって作られました。その天体の神は世界をそして生命をお作りになられた後、《太陽の神》《月の神》《星の神》という三柱の神へと分かれられました。
勇者がもつ魔法のその三柱の神々の力を一部お借りして使う魔法。ですから本来であれば三種の勇者がいるはずなのです。
ですが星の神は何処に居られるのか不明、太陽の神は八百年程前に亡くなられ、現在神として存在しているのは月の神、皆さんが月の君と呼ばれている方のみ。だからこそ今いる勇者は《月の勇者》だけなのです」
聖典にはもっと難しく書いてあるんですよねぇと言いながらエルが分かりやすくしてくれた説明に三人は納得した。
元々魔法というものがよく分かってはいないが神の力を借りて使う魔法というものの異質さだけはよく分かる。
「思ったんですが、それって月の君が死んだらやばくないですか?俺が使ってる?使わせて頂いてる?月の魔法も使えなくなるってことですよね……?」
「ええそうです。だから私達は魔族を倒すのですよ。魔王は神を殺しに動きませんが、その部下である魔族は話が違いますから。特に至厄舟と呼ばれる魔王配下の四体の魔族はレベルが違うと聞きます」
至厄舟。娯楽小説とかでよくある四天王とかってやつだろうか?これはあれか?出来るかはわからないがもしその至厄舟の内の一体を倒したとして、その後に別の至厄舟に出会ったら「所詮奴は至厄舟の中でも最弱…」とかって言われるのか?
魔族だから悪いやつなのは知っているがそれとは別としてちょっと心踊る、かもしれないな。
「至厄舟の話はオレも村で聞いたことがあります!だから鈴の音が鳴ったらすぐに家に帰るようにと言われて育ちました!」
「鈴の話は初めて聞いたなぁ」
「アタシも~」
「私もですねぇ」
ピンッと手を伸ばして発言するシータ。鈴の音が鳴ったら帰宅しないといけないという話は初めて聞いたとシータ以外の三人は答えた。帰りの合図的なのなのだろうとは理解できるが村単位だと鐘を設置しているところは少ない気がする。
「そういう地域特有の話とかもあるんだな」
「アタシら三人って王都育ちって言えるしな。あ、そういえば思ったんだけどよ、リンってそのホータイで隠れた左目だけがヘビみてーな目なんだよな?」
「そうだよ、リィガとは違って左目だけだよ、他にはなんにもモドキらしい特徴もないんだよね」
リィガとはチカと共に暮らしていたモドキの子の一人でリンと同じ爬虫類の瞳孔を持っていた子だ。
「珍しいよなぁ、片目だけって。目がモドキなヤツ自体珍しいのにさ」
「そうなのか?あんまりモドキに会うこと自体が少ないからよく分からないんだがッ、う、わァッ」
そういう風に雑談を続けているといきなり馬車が止まった。少しして御者の人と女の人との話し声が聞こえ始めた。
何が起こったのか分からず混乱しつつも馬車から降りて話を聞きに行く。
降りた先では泣きそうな顔をした若い女性が御者に縋り付くようにして話している。
本当に何があったんだ!?そう思いながら二人の方へと駆け寄る。
「どうしましたか?何が…」
そう話しかけようとした瞬間、若い女性はリンの言葉を遮り焦ったようにリンに話し始めた。
「あ、あの!子どもを見ませんでしたか?!このくらいのまだ小さい女の子、あの私の娘で!居なくなってしまって、えと、あの、」
「落ち着いてください。深呼吸をして、そう、そうです」
いつのまにやら馬車から降りていたエルがその女性を落ち着かせる。
諭された女性もエルの言葉に一旦落ち着いたようだった。そして深呼吸をして目の前のエルに気がつくと素っ頓狂な声を挙げた。
「せ、せせせせ、聖女様!?、、、、ということは、もしや貴方が勇者様ですか!?」
「え”!!!!」
「はいそうですよ。先程のお話、もう一度お聞かせ願えますか?ほらリンさんも固まってないで話を聞きましょう?」
「は、はい!」
「はひぃ……」
何故か俺が勇者だと知られていることに怯えながらも若い女性が話し始めるのを待った。
そして話しだせるほどに落ち着いた若い女性、ライナさんが語ったのは最初に行っていた通り、7つになる娘レイラが外に遊びに行くと言ったきり帰ってこない。何か知らないかということだった。
狼狽しながら早く見つけないとと焦るライナにエルと共に降りてきたのであろうチカが依頼として受け取ってはどうか、と提案する。
「別にアタシらには時間はあるし、ライナの家のある村が一番近い村なんだろ?なら探そうぜ!」
「バカ狸にしては良いことを言うな。リン様、聖女様、もしよろしければオレもそのレイラを探すのを手伝いたいのです」
「おい誰がバカ狸だテメェ?」
「事実を言ったまでだが?出発前の買い出しでも数の数え間違えが酷かっただろ」
「それ言うならお前だって全然ちげェの買ってきてただろうが!?」
「はぁ?」
「ア”ァ”?」
「はいはい二人とも一回落ち着こう?ライナさん、俺達にぜひレイラちゃんを探すのを手伝わせてください」
マイペースに喧嘩を始めてしまったチカとシータを止めつつもライナからの返答を待つ。
それにしても取っ組み合いには発展しないとはいえ胸ぐら掴んでメンチ切り合うのは柄が悪すぎるからやめてくれ。切実に。
「あぁ、そんな、手伝って頂けるだなんて……本当にお優しい。こちらこそよろしくお願い致します!」
ライナは涙ぐみながらも俺たちの提案を受け入れてくれた。そうして俺たちは四人でパーティーを組んでから初めてとなる依頼を受けたのだった。
◇◆◇
人はそこまで多くはないが人海戦術で森の中を探していく。
「レイラ〜!どこだ〜!」
「レイラちゃぁ〜ん!!!居たら返事してくださぁ〜い!」
それぞれ別れた皆と他のライナが住む村の人達がレイラを探す声が森に木霊する。
まだ日が落ちきってはいないが肌寒さの残るこの季節の森の中は仄暗く、足元もよく見えないため気をつけていないと転けてしまいそうだ。
それなりな時間を森の中で探しているが全くと言っていい程にレイラは見つからない。
足跡なども見つけられず影も形もない、そんな状態だ。
さすがにこれ以上見つからないと更に生存確率が下がると思いながら少し深い場所まで移動し始めたときだった。
ガラン、ガラン、とベルの音が森中に響き渡る。
何の音だ?
不思議に思い音のする方向へと目を向ける。すると目に飛び込んできたのはそれなりに離れた場所で村の長老なのであろう老人が持ち手の付いたカウベルを片手に鳴らしている様子であった。
ガラン、ガランと鳴らす音が響き続ける。
その音に今朝シータが話していた事を俺は思い出していた。
『だから魔族を倒すのです。魔王は神を殺しに動きませんが、その部下である魔族は話が違いますから。特に至厄舟《しあくしゅ》と呼ばれる魔王配下の四体の魔族はレベルが違うと聞きます』
『至厄舟の話はオレも村で聞いたことがあります!だから鈴の音が鳴ったらすぐに家に帰るようにと言われて育ちました!』
その会話を思い出している間に「レイラが見つかったぞー!」という声が響いた。
見つかったという言葉に安心して声のする方まで走り出す。
共に森で捜索をしていた人たちが集まっている場所まで走り付いて中心を覗いてみる。
「よかった……レイラ、ほんとうによかったぁ!」
「こ”わ”かったぁ!!!ま”ま”ぁ!!!」
二人ともボロボロと涙を流しながら抱き合っている。
その周りで村の人々も見つかって良かったと胸を撫で下ろしていた。
「見つかったンだな!良かったぜ!てか途中のガラーン!って音凄かったな!」
「あれがシータさんの仰っていた鈴の音、ですか?」
「…はい!久しぶりに聞いたのでオレも少しドキドキしてしまいました……!」
「あんなに離れてても聞こえるんだな。結構音がデカくてびっくりしたよ」
そう、本当に思っていたよりも大きい音だったのだ。
音というのはどうしても距離が離れれば聞こえる大きさが小さくなっていくもの。
それなりの距離に音を響かせようと思うとベルもそれなりの大きさにしなければならない。
しかしあのベルの大きさは両手で包めそうなくらいのサイズ感だったため、ベルを視認したときは少し驚愕した。
そして俺のその疑問に応えるためかシータが口を開いた。
「あまりオレも詳しくはありませんが昔々に天使様が現れて魔物の被害に合わないよう、あの鈴を北の大地に近い村々に授けたそうです」
「ホヘー、テンシ様ってのは優しいんだなー」
「そういった話は初めて聞きましたね。民間伝承の一つでしょうか…?」
「じゃあ音がデカいのも魔法の一種ってことか?そういった魔法もあるのか…」
別段魔法について詳しいわけではないし、見たことのある魔法なんてシータとチカのものだけが故にチカと同じようにほへーと気の抜けた声を上げるしかないが天使様はそんな不思議な魔法を使えるんだなと漠然と思う。
なんかこう、魔法ってもっと人に作用する技が使えるものだと思っているところがあったので人に対して使う魔法以外もあるんだな。
そうして知らぬ間にまた喧嘩を始めているシータとチカを聖女様と二人でどうにか諌めながらライナ達の住むというリギラ村まで向かうのだった。
ネトコン14に応募しました。こういったのに応募するのは初めてなので緊張しています。
もしよろしければブックマーク、コメントなどで応援頂けると他の皆様にも見て頂けて励みになりますのでぜひお願い致します。




