1話「なぜ戦うのか、なぜ強さを求めるのか」
なぜ強さを求めるのか。
それは恩義に報いるためだ。
あの方にとって誇れる武人であるためだ。
例え己が如何に強い魔法を持っていたとしても、あの方が誇れる存在でなければ意味がないのだ。
そのために私は誰よりも鍛え、努力し続けよう。
貴方が誇れる私である為に。
◆◇◆
仲間が四人に増え、いよいよ旅に出ようというその日。
「それでは早速、王城へと向かいましょう!」
そう言い出したのはいつものようにエルであった。
そしてそのエルの言葉に皆驚きを隠せず驚嘆の声を上げた。
それもそうだろう。モドキという点を除けばリンやシータは元々一般人であるしチカに至っては盗賊だったのだ。
王城なんて雲の上どころか天界まで届くレベルで想像もできない場所。
そんな場所になぜいきなり行こうと言い出したのか。
それはリンたちがいよいよ本格的な魔王討伐の旅へと向かうからであった。
《星の聖女》という存在は国にとって大切な存在。
星の聖女が存在すればその特に強い《星の奇跡》の力で王族などは長寿を約束されたようなものであるし、魔物などの被害や戦争(ここ数百年は起こっていないが)などで怪我した兵の治療もコストが抑えられる。
しかし逆に言えば世界各国にそれぞれ《星の聖女》がいるとはいえ、そんな存在を外に出し連れ歩くというのは問題であったのだ。
それが故に一応の形式として王族へと話をしに向かい魔王討伐の旅へと向かいましょう、ということなのである。
エルが説明したのは概ねそういうことであった。
「あの、マナーとかぜんっぜん分からないんですが大丈夫ですか?!」
「最低限の礼節は弁えていますが王族の方々に通用するようなものは、オレの故郷のような辺境の村では習ったことがありません……」
「てかまずアタシらモドキの集まりだぞ?!許されるワケなくねェか?!?!」
三者三様の言葉、しかし思っていたことは同じであった。
「ご安心ください。皆様がモドキであることは陛下も把握していらっしゃいますし、これは形式的なもの。晩餐会などはありません!私が話している間は静かに横で佇んでいていただければ問題なしです!あ、リンさんは少し話していただく可能性はありますが……」
「エ”!俺、陛下にお目通りが叶うだけじゃなくて会話もしないといけないでんすか?」
「嫌だという気持ちが節々から見え隠れしてますねリンさん……。貴方はこの国を、いえ世界を背負って戦う《月の勇者》様なのですから当然ですよ」
「ヒィィィ……」
怯えるリンを鼻で笑うチカと困ったように笑うエル、少し離れた場所ではシータが緊張でカチコチとした動きになってしまっていた。
「ほら皆さん、馬車に乗ってください。さっさと向かいますよー!」
「意外とセイジョ様って口悪いじゃねぇけど、なんかアレだよな……」
「そ、そうだね」
「ヘイカ、、、、オウゾク、、、、オウジョ、、、ウ?」
そんな風にあたふたとしながらも四人は用意されていた馬車へと乗り込み王城へと向かうことになった。
◇◆◇
エルと初めて乗った馬車よりも更に高級そうな馬車に乗せられ王城へと着いた四人。
これまた皆それぞれの反応をしていた。
普段通りな者、馬車の座椅子の柔らかさに驚く者、初めての馬車を楽しむ者、乗り物酔いを起こしてしまった者。
まあエル以外の三人は緊張で程度に違いがあるとはいえ吐きそうにはなっているのだが。
「みなさん大丈夫そうですか?」
そう言いながら《星の奇跡》の力で三人の吐き気を軽減させていく。なんて贅沢な使い方なのであろうかと言いたくはなるが、それを言える人間はみな吐き気でダウンしていた。
そうやって集まっている四人に影がかかる。
「あら、体調悪そうですねー。いかがなさいましたかー?、って聖女様御一行様ではありませんか!」
バルドと似てはいるが違うタイプの元気な声に特徴的な伸ばした語尾。しかしその語尾も四人組の中に聖女を見つけた途端に丁寧な口調へと様変わりした。
俺たちの目の前に現れたのは顔の上半分を布で隠したメイド服姿の女だった。
「あらまぁカヨウさんじゃないですか!お久しぶりですね。今さっき到着したんですが、皆様少し調子が悪いみたいで……」
「それは困りましたね。ここは入口ですし、とりあえず控室の方までご案内いたしますね」
「ありがとうございます。みなさん移動できますか?」
「アタシは完全復活だぞ!」
「オ、オレモ、モンダイナイ、デス……」
「ウェェ、、、だいじょうぶですぅ……」
「本当に重症そうですねー。肩を失礼いたしますね」
エルにカヨウと呼ばれたメイドが肩を持ち上げられ支えられるままに城内へと入っていく。
豪華絢爛な装飾品の数々、そして厳重な警備と重装備の兵たちに慌ただしそうなメイドや執事たちを視界の端に捉えながら部屋まで運び込まれる。
「時間になりましたら私がご案内いたしますね。お水や軽食はこちらの机に準備しておりますが何かありましたら遠慮せずにお申し付けくださいね」
そう言いカヨウは軽やかに部屋から飛び出していってしまった。
「リン大丈夫か?オマエそんな弱っちかったっけ?」
「さ、さすがに緊張と不安で、ウゥ、申し訳ない……」
「メンタル的なのに対しては《星の奇跡》も気持ち程度しか効かないんですよねぇ」
「く、己の力不足でリン様に不安な思いをさせてしまっている。リン様に安心して頂けるような存在に早くなります!」
「いや多分ソーイウことじゃなくね?あとオマエいつの間にマトモに戻ったんだ?」
「オレはいつだってまともだが!?お前の方こそ先程まで『初めてバシャなんて乗ったぜ!すげェなこれ!』などと言って騒ぎまくっていただろうが!!いつのまにそんな静かになっている!」
「だって途中でオマエがうるさいだの静かにしろだのなんだのって言ってたじゃねェかよ!だから静かにしてやってんのになんで文句言ってんだ?!わけワッカんねー!マトモじゃねェーよバァーカ!!」
「なんだとお前!!!」
「ンだよ?やんのか??」
騒ぎ立てている二人を横目に先程のヨウカというメイドについてエルに聞こうと思い口を開く。
すると返ってきたのは意外な回答だった。
「ヨウカは侍女頭で第一王女専属メイドでもある凄く優秀な方なんですよ。元々はモドキの雇用を増やそうと第一王女様がメイドとして最初に雇った方だったそうです。そこからとてつもない努力で信頼を勝ち取って侍女頭にまで昇進した方なんです!本当に凄いんですよ!」
『本来は高い爵位をもつ貴族の娘がなる役職なんですから~!』と興奮した様子でエルが話すのを聞きながら道中でのヨウカの様子を思い出す。
近くにいた他のメイドにすぐに指示を出している様は凄くかっこよかったし、俺達が何者なのか気づいてからは元から丁寧だったのが更に丁寧だったし。
最初に声をかけたのも仕事の一環だったのだろうなぁ。伸ばされた語尾も安心感を感じさせるものだったし、となんとなくだが感じた。
それはそれとしてあの目元を完全に隠した布はとても怪しさ満点だったが。いや自分も左目を包帯で覆っているから言えることではないな。
そんなことを思いつつ机に準備されている軽食や水を遠慮なく頂く。それでもあまりにも場違い感にそこまで飲んだり食べたりは出来なかった。
シータとリンの喧嘩をどうにか諌めつつこれからのことをエルと雑談代わりに話しながら待っていると扉をノックする音。
「お待たせいたしました。準備が整いましたので謁見の間までお連れいたします」
現れたのはカヨウであった。
カヨウに連れられ陛下と第一王女が待つという謁見の間へと向かう。
さすがにシータとチカも王城の雰囲気に飲まれて静かに、というより半ば怯えつつな様子であった。普段から真面目な話をしているときや静かにしていて欲しいときは静かにしていてくれるから心配はしていなかったんだが、それでも結構ヒートアップしていたから不安ではあった。
考えつつも自分自身も緊張してカチコチになりながら連れられていく。
そして荘厳な装飾が施された大扉が目の前に現れた。
両脇に侍っている騎士によって開けられた扉の先へ進められるがままに歩く。
目の前で先導してくれているエルはいつものようにピンとした姿勢で歩いていくのだが、後ろでついていく俺達三人はカチコチとして右手と右足を出しながら不格好に進んでいた。
陛下の御前へと着き、頭を垂れる。
「本日はお招き頂きありがとう存じます、陛下・第一王女殿下」
「そこまで堅苦しくせんでもよい。久しいな星の聖女よ」
「お気遣い感謝いたします。陛下もお元気そうで安心いたしました」
「そなたらが心労を少しばかり減らしてくれたからな」
「もう、お父様ったら」
「あらまぁ」
クスクスと陛下と第一王女、そしてエルの笑い声が響く。星の聖女として普段から王族と関わりがあるのであろうエルが会話をすべて任されてくれているから良かったが、あまりの緊張に陛下やエルが何を話しているのかリンは理解ができなくなっていた。
そんな風に混乱している最中に陛下に話しかけられた。とても吐きそう。孤児院に帰りたい。この二つの考えが頭を駆け巡る。
「そなたが星の聖女に選ばれた《月の勇者》だな」
「は、はい。陛下」
「ふ、そこまで怯えずとも取っては食わん。さて勇者よ、近年魔族が遣わす魔物共の数が増えていることは知っているな?そなたが今日《こんにち》まで数多くの魔物を倒したお陰で派遣しなければならない兵の数も減り書類仕事が減った。礼を言おう」
「いえいえいえ!そんな、民として出来ることをしたまでですしお礼を言われる謂れはございません!」
「はっはっはっ!昔は余も魔物共を狩り殺していたのだがな、王位を継いでからはそうやって魔物を討伐するどころか外に出ることすらかなわん」
過去の思い出に浸るように窓の外を眺める陛下。陛下が昔、優秀な騎士として戦っていらっしゃった頃の偉業はリンもよく知っている。
というかその話はリンより年下の世代でも親からよく聞かされるものだろう。
これからさき百年も二百年も先まで語り継がれるであろう偉業を成し遂げた伝説の存在が今リンの目の前にいる現ラベライト王国国王グレイスト・アールダ・ラ・ベライトという人物であった。
陛下は射抜くような瞳を携えて窓の外からリンへと視線を向き直す。
「今までは魔族にはできる限り触れるようにしてきたがいよいよ魔族と戦わねばいけぬ時が来た。しかしどれだけ鍛えようとも人間の範疇に収まっている存在では戦うということすら叶わずただ塵芥のように死ぬだけだ。それが故そなたたちに任せることしか出来ぬのだ」
「、、ッはい」
「これからこの国すら飛び出してそなた達は魔王の討伐へと赴くのだろう。この国に領地を持っている貴族には勇者一行の話は通達しておいたが故、旅先での衣食住に関しては安心するが良い。
他の国に関しては、まぁ国にはよるがその国の統治者に文は送ろう。魔王を討伐しうる勇者に対してだというのに、この程度の助力しか出来ず申し訳ない」
「いえ、そこまでして頂けるだけでとても助かります。必ず魔王を討伐して国に平穏を」
「うむ、そなた達の討伐の旅が上手くいくことを《月の君》に切に祈ろう」
なんとか、どうにか、といった様子でリン達は控室まで戻っていた。
ほぼほぼ最後らへんは意識が飛んでおり変な受け答えをしてしまっていなかったかと今更な心配をしてしまう。
「うぅぅぅ、、、キンチョーしたぜ。ヘイカこわかった……」
「あ、あぁ。さすがラベライト王国最強の武人と言われたお方です。オーラがもう全く違った……」
「皆さんとても緊張していらっしゃいましたねぇ」
「そ、そりゃそうですよ聖女様。もう本当に俺も怖くて怖くて。聖女様はよく緊張せずに会話できますね…」
「私は普段から第一王女殿下にお茶会に誘って頂いておりますから、その際にご挨拶する機会も多いんですよ。慣れってやつですね」
お茶目な雰囲気で笑うエル。あまりにもいつも通りすぎるエルに少し肩の力が抜ける。
しかしそれは力を抜いた瞬間に鳴ったノックの音でまた入ってしまうことになった。
「失礼いたします。馬車の用意が出来ましたのでお連れいたします」
「びっっっくりしたぁ……ヨウカさんだった……」
「ふふふー、はいヨウカさんですよ。お忘れ物などはございませんか?」
現れたヨウカの言葉に皆がいそいそと荷物の確認を始めそれぞれが返事をする。
「それでは玄関までお送りいたしますね」
「ありがとうございます、ヨウカさん」
「いえいえー、仕事ですから」
ふにゃりとエルとヨウカが笑い合うのを眺めながら最初にヨウカに話しかけられた王城の扉の前まで連れられていく。
「それではまた来ますね。第一王女殿下にもよろしくお伝え下さい」
「もちろんですー。聖女様も風邪など召されませんようお気をつけください。皆様もお元気で」
「ありがとうございます」
エルたちが先に馬車に乗り込み、リンが最後に乗ろうというところでヨウカが呼び止めた。
「勇者様、一つだけ質問してもよろしいですか?」
「はい……?」
「勇者様はなぜ魔王を討伐なさるのですか?」
それは意外な質問であった。というより考えたこともない質問であった。
少し、悩む。
「一緒に行こうって言われたから、かな?」
「言われたから、ですかー……?」
答えてみて自分の発言の責任感のなさを感じる。
「おかしいですよね。そんな理由にすらなってない、流されるままの思いで行くんだから」
「そんなことないと思います。言われたからだとしても命をかけて戦わねばいけない戦場に出るんですよ?それは勇気が必要なこと、素晴らしいことだと思いますー」
その言葉に思わず面食らってしまう。肯定されるとは思っていなかったのだ。
驚きで少し間を空けて返事を返してしまう。
「……ありがとう、ございます」
変な間が空いたというのにヨウカはそれを気に留めるでもなく応援の言葉を返してくれた。
「いってらっしゃいませ。どうかご無事で帰ってきてくださいねー」
そうやって見送られながら来たときと同じ道を馬車で帰っていった。
一つ思ったのはやっぱりプロのメイドさんは客をもてなす専門家なんだなということだった。
新年に入りますので次回の更新は一週間程空いてしまうかもしれません、
楽しみにしていてくださる皆様には大変ご迷惑をおかけします。




