12話
七千字いきました。これからはこれくらい書いていきたいと思っています。
孤児院へと入るための準備をするために朝早くから家へと戻ったチカ達を見送ったリンは星の聖女エルを待っていた。
そわそわとしつつ、いつものように孤児院の子どもたちを起こして回り朝食を食べさせながら子どもたちの相手も同時にする。
そんなこんなしていると戻ってきたチカ達をモドキの子どもたちを新設される孤児院《ロアール孤児院》へ連れて行く為の準備をしているとエルが見知らぬ男を連れ、リンたちの元へと訪れた。
「昨日ぶりですねリンさん。お怪我も無さそうでよかった、安心しました」
エルの言葉にリンはバツの悪そうな表情を浮かべながら口を開いた。
きっとエルは嫌味を言う気持ちで言っているわけではないのは今までの生活の中で分かっているのだがそれでも自分が悪いのでいたたまれない気持ちであった。
「すみません聖女様。昨日あのまま追いかけてしまって、そのままなんやかんやありまして。えっと、その、ですね、」
「ゆっくりで大丈夫ですよ、怒ったりなんかしませんから」
ね、と言いながらいつもの優しげな微笑みを浮かべたエルはリンの次の言葉をゆっくりと待つ。
その言葉に一呼吸置いてリンもまたしっかりとチカのことを話し始めた。
チカの持つ魔法のこと、モドキであること、一緒に暮らしていたモドキの子どもたちのことまで。
チカ本人には先に説明する許可は貰っていた為、後は事後説明になるがエルに仲間になることを承諾してもらうだけであった。
そしてそのチカの話を聞いたエルの返答は———。
「構いませんよ。そのチカさんが仲間になることに異論はありません。それに、私も新しいパーティーメンバーにしたい方を連れてまいりましたから」
そう言うとエルは扉の外にいる人物をリンの前に連れてきた。
目の前に現れた人物はリンよりも上背が大きく、2m近くあるのではないだろうかと思うほどの身長差がリンとはあった。
リンはあまり身長が大きい方ではないがそれにしても目の前の人物のなんと大きいことだろうか。
よく見てみると手のひらには長い間剣の鍛錬を積んできたのだろうと分かる豆や服に隠れていても分かる腕の筋肉に自分の非力さを思い出し先程の気まずさとはまた別の気まずさを覚える。
(やっぱり俺みたいな筋肉もそんな無いやつよりこの人みたいにしっかり筋肉が有って強い人の方が良いよな。いや、これでも最初より筋肉も付いたし筋トレとかもしてはいるけど、それでもやっぱりまだまだ足りないよなぁ)
自分と目の前の人物との違いに気落ちしているリンを無視しているのか気づいていないのか、エルはそのままその男の紹介を始める。
「この方はシータさん。北西の方にある村で守り人をしていらっしゃった方です。細かい説明は省きますが彼の強い希望もあって旅に同行させて頂きたいのです」
「俺が文句なんて言えるはずありませんよ!お、俺もいきなりチカのことを仲間にしたいと言いましたし、それに今の俺が旅があるのは聖女様のお陰なんですから」
へニャリと笑うリンにシータが駆け寄り手を取るとブンブンと上下に振り始めた。
「始めまして!聖女様に紹介していただきました、シータです!モドキです!あの伝説の勇者様に会えて光栄です!!」
キラキラと目を輝かせ犬耳と尻尾の幻覚が見えそうなくらいにテンションを上げてリンへと話しかけていた。そのシータの様子にリンは5,6歳くらいの孤児院の子どもを幻視してしまう。
リンには無いキラキラとした明るいオーラに目が焼けるような思いだ。
「伝説のって言われても、俺は聖女様に選んでいただいただけで伝承にある勇者様みたいになにかした訳じゃないですぅ、、、」
リンの否定の言葉をシータもいやいやいやと否定する。
「聖女様に選ばれたって時点でもう十分凄いことですよ!それにリンさんはもうモドキでも誰かを救うことが出来るって証明してるじゃないですか!」
「へ?」
「聖女様にここまで来る途中でリンさんの話を沢山聞きました!ジャイアントベアの討伐のときのこととか、ナイトミラージ討伐でお婆ちゃんを身を挺して守った話とか!」
「い、いやぁ、、、それもほら聖女様がいなきゃ出来なかったことばっかりだし、、、」
「謙遜しないでください!オレ、村に居たときに人伝で聞いたリンさんの話聞いてオレもリンさんみたいになりたいって思ったんです!オレは、オレみたいなモドキがもっと活躍できる世界を作りたいんです!」
そんなかっこいいことを考えたことすらないんだが?!とリンの頭が混乱していくのに対しシータは更に瞳を輝かせていた。
「だからオレも一緒に魔王討伐の旅に同行させてください!必ず役に立ちます!オレのこの《硬化魔法》なら必ず!」
「《硬化魔法》?」
リンは呆けたような声を上げる。
元々あまりモドキは数がいない。そしてリンは知識がないが故に魔法というものをエルに説明された分でしか知らない。
モドキが魔法を持つ場合もあるとはエルに聞いた覚えはあるが、チカのように見た目で分かる力ではないし硬化と言われてもよく分からないからこそのあの声であった。
「そのことについてはチカさんに会ってからにしましょう。チカさんが扱うという《幻覚魔法》も気になりますし」
ふわりと微笑みながら言ったエルの言葉を聞いてリンはチカを呼びに部屋を飛び出した。
◇◆◇
「アンタがあのセイジョ様ってやつ?」
少し赤く腫れた目元を氷袋で冷やしながらチカは目の前のエルを睨みつけていた。
ロアール孤児院へとモドキの子どもたちを連れて行く際に涙の別れをしてきたようで真っ赤に目元を腫らしていた為、リンが冷やさせていたのだ。
睨みつけられているというのにエルは全く気にする素振りもなく笑いながら自己紹介を始める。
「はい、ラベライト王国の《星の聖女》エル・ストロムと申します。これからよろしくお願いしますね」
「お、おう。よろし、く、、」
あまりにも気にされないことにチカは面食らってしまう。
初めてエルと会った日のリンのようにチカもエルのことを人に愛され、幸せに、不幸を知らずに生きてきた女だと勝手に思っていた。
そしてそういう生き方をしてきたやつは睨みつけでもすれば多少怯むだろうと思い込んでいた。
別になにか恨みがあるわけでは無いのだが反抗期とでも言うのだろうか、そういう思春期特有のやつで幸せそうなやつを見ると少し僻んでしまう。
そういう気持ちがあったが故に気にされなかったことに驚いていた。それでも睨むことは止めないが。
しかしチカに睨まれていることを気にしていないエルとは対称的に憤慨している者が一人。
今この場にいる四人の中で誰よりも聖女、そして勇者という存在を神聖視しているシータだ。
「君、偉大なる聖女様を睨みつけるとはどういう了見だ?」
「はぁ?いきなりなんだお前、君とかキメェ呼び方しやがってよ」
「随分と口が悪いな、、オレはシータ。聖女様と勇者様の魔王討伐の旅に同行させて頂ける名誉を受けた男だ!」
「ユーシャ??何言ってんだお前?誰が勇者なんだよ」
バッカじゃねェの?とでも言いたげな様子のチカ。
そこでリンは思い出していた。魔王討伐の話はしたが自分が勇者として聖女様と共に旅に出るという話はしていなかったことを。
そして一つはっきりと言えることだがリンの風貌は勇者と呼ばれるには暗すぎるものだ。
ラベライト王国では少し珍しい青みががった黒髪に目を隠すための包帯によって半分近く隠された顔、そして自分に自信が無いが故に猫背気味な体。
初めて討伐をしに向った村、東アルネ村でもエルが言うまで誰も勇者だとは思われていなかったものだ。
勇者と言われて想像するのはやはり輝く笑顔にしっかりとした筋肉、そして人々を安心させる笑顔。
二度も書いたが笑顔というのは大事だ。そしてリンには笑顔が足りない。最近はエルとの会話の中で笑顔を見せることも増えたがそれでも普段は緊張で顔が強張っていることのほうが多い。
チカを追いかけ勧誘したときも緊張でしかめっ面に近い状態だった。
それでよくチカも付いてきたなと思うが基本的にモドキは人に否定され、嫌われて生きているが故に自分自身を肯定する言葉に弱い。
最初エルに勧誘されたリン自身もそうだったがチョロいのだ。
「もちろん勇者様とはこちらにおわすリン様だ!」
「リン様!?」「リwンwサwマww!」
シータのリン様という呼び方に驚愕の声を上げるリンとほぼ同時に爆笑しているチカの声が響く。
そして爆笑しまくっているチカが火に油を注いだ状態にしてしまいまたシータの怒りが爆発する。
そこからはまた言葉の応酬が始まる。
「なぜ笑う!リン様は本当に素晴らしいお方なのだぞ!オレだって聖女様から聞かせていただいただけに過ぎないが、自分を顧みず人々を救う方だ!それが出来るのはモドキだろうと人間だろうと少ない!」
「いやwだってw、コイツがリン様とかって呼ばれるのwまじでおもしれェwwんだもんw救うとかw素晴らしいとかwカンケーねェww」
「お、面白いだと?!偉大な方に敬称をつけるのは当然のことだろう?!常識の通じない奴だな!」
「いや、お前のジョーシキを押し付けられても困る」
「急に冷静になられても困るが?」
傍から見ると逆に相性の良さそうな二人を横目にリンとエルは別のことを話していた。
「あの俺、様とか付けてもらういいの恥ずかしいんですが」
「あら、恥ずかしがることは何も無いと思いますよ?だって今までリンさんが人を救ってきたのは事実でしょう?」
「それはそうなんですけど、聖女様がいなければ出来ないことばっかでしたし。何より様付けされるほど自分を凄い存在だと思えないんです」
「ならば、これから凄い存在に成ればいいんですよ」
いつもとまた違った不敵な笑みを浮かべたエルが言い合いを未だに続けているチカとシータを呼びつける。
「如何なさいましたか聖女様」
「なんだよセイジョ様」
さて、と一呼吸置いたエルが話し始める。それはなぜいきなりシータを仲間にしたのか、そしてこれから行うことへの説明であった。
「なぜ私がいきなりシータさんを仲間としてお呼びしたのか、気になっていたかと思います。その疑問に対して答えましょう。それはこれから魔王討伐の旅へと出るからです」
「ン?リン達は今までも魔物の討伐とかもしてたんだろ?」
「それはリンさんの戦闘訓練も兼ねた魔物討伐ですね。さて、シータさん魔獣とはナニか、簡単な説明をお願いできますか?」
「はい!魔物とは魔族が人間を害するために差し向けている存在の総称です。動物を魔族が持つ技術で魔物としていると教わりました!」
「はいそうですね。流石ですシータさん。そしてシータさんも守り人として魔物と戦ったことがあると思います。チカさんは分かりませんが、、、」
目を伏せて言うエルにチカも『弱いのとは戦ったことはあるぜ!』と元気に返事をする。
「それは良かった。魔物は一般的に鍛えてきたものであれば対処可能なものが殆どです。個人での対処が出来ないものは軍隊や討伐組合の中でも猛者の者たちがパーティーを組んで倒す場合もあります。
それでもどうしようもない場合は、、、神の子である教皇様が討伐されます。でもこれはあり得ませんね」
瞬、何かを思案したような間があったがまた変わらず説明を続ける。
「しかし魔族は違います。魔王の配下である魔族たちは皆さんのように何かしらの《魔法》を持ち、魔物と違い知性を持ってその力を振るいます。討伐組合の猛者でも厳しいでしょう。
しかし、今のリンさん達なら時間は掛かりましょうが魔族のすべてを討伐しきる力を持っていると判断しました!しかし私とリンさんだけでは難しい、だからモドキとして《魔法》を扱うことの出来るシータさんを仲間として勧誘したのです」
「そしてチカさん」
「ン?」
「貴方の持つ《幻覚魔法》を見せて頂けますか?」
「ッおう!」
長く続く話に半分寝かったような様子だったチカが勢いよく返事をする。
そしてじわりと体の周りを魔力で覆い普段と同じ要領で魔法を使い始めた。
普段と違うのはただ一つ、周りに見せるために使うこと。いつもは誰かから逃げるために使うにで誰も己を見ていない僅かな瞬間に使う。
俗に言うミスディレクションという技法に似たものを使ったうえで魔法を行使している。
人が他のものに気を取られる一瞬というのは本当の意味で一瞬だ。だからこそその一瞬で誰にも見られないように溶け込んで消える必要がある。
「まぁ、素晴らしい、、、」
エルが不意に零す。
「見えなく、なった?」
シータも驚愕を隠せていない。
しかし一度見たとこのあるリンだけが消えたはずのチカがいる場所を凝視していた。
「素晴らしいですチカさん!まさかほんの数秒、瞬きの間程の時間で全身を魔力で覆い隠し見えなくするとは。なんという魔力のコントロールでしょう!」
「え、えへへ、そ、そんな褒められても困るぞ、、」
どこからともなくチカの声が聞こえる。
《幻覚魔法》
それはその名の通り幻覚を作り出す能力。
光学迷彩と言えば分かりやすいだろうか。概ねはそれと同じものである。
自分自身を魔力で覆い、その魔力に周囲の風景と同じ風景を投影する。
しかし欠点もある。風景の認識は魔法を使っている本人の物の為、本人が認識していない部分は投影されないのだ。
「でもやっぱり影はあるんだな」
「エ”?!うわ、マジだ、、ちょ、ちょっと待って!」
残っていたチカの影がじわじわと消えていく。
そう、初めリンに出会ったときのようにチカが把握していない部分や意識していない部分はこのように取り残されてしまうのだ。
しかしこの力は一つの可能性を示していた。
「これは、もしや、もっと使えるようになれば私達全員を覆い隠して見えないようにすることも可能なのでは?あぁ本当に素晴らしい。リンさん、素晴らしい力の持ち主を見つけてくださってありがとうございます!チカさんもよくこの旅に加わってくださいました!」
「俺が感謝を言われることなんて一切無いですよ!ね、チカ!!」
「お、おう!アタシがスッゲーからだもんな!」
「お二人共仲が良いですね、リンさんの謙虚なところとチカさんのその自信がいい感じにマッチしてますねぇ」
クスクスとエルが笑う。褒められ慣れていないチカは焦ったように『シ、シータも魔法も見せてみろよ!持ってんだろ?!』と騒ぎ立てた。
「あ、あぁ、俺の魔法だな」
チカの魔力コントロールの力に驚きを隠せず、そして密かに劣等感を感じたシータは自分の魔法を見せることに躊躇した。
しかしそれでも憧れの聖女と勇者という存在に応えるために力を使い始める。
ポケットから取り出したハンカチに魔力を込める。ハンカチほどの大きさに込めるのに十秒ほどかけ、そして魔法を行使した。
「できました、、これがオレの《硬化魔法》です」
シータから差し出されたハンカチをチカとリンが触る。
「うぉ凄い!硬い!見た目は普通のハンカチなのに!」
「硬いけど普通に動くの訳分かんねェ!」
きゃーきゃーと年相応に二人が騒ぐ。その様子にシータも照れながら破顔する。
「オレの《硬化魔法》は魔力を込めたものを硬くさせる事ができます。その物の動作を妨げることなく硬くさせられます。だからこうやって布も布としてひらひら動くけど刃物を通さなくなる。
そしてこれは、生物にも使うことが出来ます。でも生物の場合は動くようには出来ずに動作すら固めてしまいます。自分は動けるんですけど、、、」
自分の能力の欠点に対し落ち込みながら話すシータ。しかし落ち込んでいるシータとは対称的にリンとチカはキラキラとした目をしてシータを見ていた。
「凄いよシータさん!素早い魔物と戦うときいつも思ってたけどシータさんの魔法があれば動きを止められるってことだろ?!ほんとに凄いよ!」
「ナイフとかで怪我しなくなるのマジヤベー!スゲェなお前!見上げたぜ!」
「あ、ありがとう、ございます、、、!」
落ち込んでいたシータも照れの表情を見せ始める。
仲良くなってきた三人の様子にエルも嬉しそうに顔を緩める。
「よし、お互いの紹介も終わりましたしこれから討伐の旅に出ましょう!」
「「セイジョ様/リン様の《魔法》は見せて貰えねェのか?/見せて頂けませんか?」」
その言葉にリンとエルのどちらも驚いた。お互い顔を見合わせ、エルの方から説明を始める。
「私も一応モドキではありますが魔法は使えないのです。代わりに《星の奇跡》を使い皆さんを手助けすることはできますよ」
「俺は《月の魔法》っていうのが使える。身体能力が上がる能力だから手助けとかサポート?はできないんだ」
「あぁ、あの月光・韋駄天とかってお前が叫んでたダッセェやつ?」
「ダ、ダサ、、、あ、あぁそうだよ、、、やっぱりダサいよな、そうだよな。俺ネーミングセンスないもんな。ははは」
「お、お前!リン様の技名をダサいと言うとは何事だ!」
「イヤだってダッセェじゃん!?なんかカッコイイと思ってつけてそうなのがなおさらダサい!韋駄天ってめっちゃ足早いみたいな意味だろ?そのまんま過ぎねェ?」
「お、お前ぇぇぇ!!!!見てみろリン様を!あまりのショックで真っ白になっておられるではないか!」
「知らねェよそんなの!だって事実じゃん!」
「事実だと!?訂正しろ!!!」
「ヤダね!!!」
またもぎゃいぎゃいと言い合いを始めてしまった二人。
エル以外には最初からわかりきっていたことだが、今になってからエルは魔法の相性は別として性格の相性は死ぬほど悪いかもしれないと思い始めていた。
第一章《旅立ち》完走しました。ここまで付いてきて頂きありがとうございます。
次話からは第二章が始まる予定です(もしかしたらシータとチカに会う前の小話がはいる、かも?)。
第二章からは本格的に世界を広げていきますので楽しみにしていてください。
詳しいこれからの執筆予定は活動報告で書こうと思っています。




