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11話

警衛に行った帰り道、チカは両手に食料を抱え込みながら詰所で言われた言葉を思い出していた。


偽造している証拠を見つけられたが本人が関わっているのだという証拠がなかったこと。あの財布を提出したお陰で自白させることができたのだと言われたこと。


チカのお陰なのだと、そう言ってくれた言葉を反芻(はんすう)して頬が熱くなる。


それと同時に普段は感じない罪悪感を少なからず感じてしまっていた。


その気持ちを隠すように早足で、でも後ろで同じように食料を抱えて持ってきてくれているバルドとリンから離れすぎない速度で子どもたちが待っている家へと向かった。


◇◆◇


「うわぁ~!すごい!こんなに食べていいの?」


「チカ姉おかえり!その人達だぁれ?」


「肉だ!パンだ!すげぇ!」


「もしかしてこれジュース?やっべぇ!え?!これホントに飲んでいいの!?」


チカが根城にしているという家に入るやいなや六人の子どもたちに三人は囲まれた。


リンたちが各々持つ食料たちにみな喜びを隠せないようできゃいきゃいと騒いでいる。


六人の容姿にもそれぞれ人外的特徴があった。


耳が長い子に、猫のような耳が生えている子、羽が生えている子やリンと同じように爬虫類の瞳も持つ子もいた。


「ほらお前らも手伝え!テーブルの上さっさと片しな!!」


「「「はぁーい!」」」


チカの鶴の一声で子どもたちはそそくさと机の上に散らばった物たちを片付け始めた。


薄汚れ擦り切れた人形や不格好に削られ形作られた木剣などがチカ達の生活とチカの子どもたちへの愛を感じさせる。


愛しているからこそ子どもたちが喜ぶ物を見繕(みつくろ)って、盗んできてそして与えていたのだとなんとなくだがリンはそう思った。


「んで、アンタ達もその荷物はテーブルに広げてくれ。そしたら勝手に取って食べるからさ」


「肉は大皿で良いのか?」


「ん。あ、バルドお姉ちゃんコップはあっちの棚に入ってるから」


「ゥォ”ッ。了解でーす!」


「チカ姉!もしかしてこの人も仲間になんの?」


「バルド姉?もモドキなの?」


「いや~私は、」


「みんな~はやく食べよ~!!!」


「は~い」


修繕された跡がいくつも残る椅子に座り各々が机の上に広げられた食事に手を出す。


美味しい美味しいと笑い合いながら子どもたちがパンや肉を食べる様子を眺める。


リンたちも少し摘みつつ談笑を続けた。


「あ、そういえばリンさん」


「はい、何ですか?」


「聖女様が組合に来まして、用事ができたのでまた明日いつもの場所で会いましょうって伝言していってましたよ」


「……あ」


「え、もしかして聖女様と別れた後忘れてそのまま放置してたんですか?男としても人としてもだいぶやb」


「わ、わかってます、、、、、ど、どうしよう」


「まぁ聖女様も気にしてなさそうな感じでしたし、忙しそうでしたし、お詫びの品とか用意すれば許されるんじゃないですかね?知らないですけど」


「そうですね、、、そうします」


談笑と言っても聖女のことを忘れていたのを思い出していたリンのメンタルは落ち込み気味になりはしたが楽しそうに食事の時間は過ぎていった。


食器を片付け終えたチカは子どもたちを真剣な表情で呼びつけた。


「どうしたのチカ姉?」


「なんだよはやく言えよ~」


チカは意を決したように息を飲んで口を開く。


「今、”あの"第一王女サマがコジインを作ろうとしてるらしい。しかもモドキ専用のコジインを。で、それで、」


先程バルドが話していた孤児院の内容を説明しようとするチカの目に涙が滲む。孤児院という言葉で一瞬チカに噛みつきかけた子どもたちも涙を堪えた様子で話をするチカに何も言えなくなった。


「チカ姉、だいじょーぶだよ。泣かないで」


「そーだよ!オレたちコジイン?でもやっていけるよ!」


「そ、そうだよ!チカ姉も夢があるんでしょ?パパとか、ママ、みたいに、、、」


「グス、チ、チカ姉のおかげで今日まで生きていけたんだ!だから、だから、ズビッ」


また捨てられてしまうと思った子どもたちも涙を堪えられない様子で言葉を紡ぐ。


子どもたちの考えを感じ取ったチカは目元に滲んでいた涙を乱雑に拭い、急いで説明を続ける。


「別に厄介払いとかそういうのじゃねェからな!?アタシもできる限り会いに行くし、お前らが虐められてないか教会のダイシンカンサマが見てくれるみたいだし。アタシと盗みとかして暮らしてくより、お前らにはマトモな、幸せな暮らしをしてほしいんだよ、、まだまだガキなんだから」


「ホント?チカ姉会いに来てくれる?」


「ソイツらがチカ姉に危ねぇシゴトさせようとしてるとかじゃ、ないんだよな?」


「あぁ。アタシがコイツラと一緒にいたいって思ったんだ」


そのチカの言葉に子どもたちは安心したように頬を緩める。


チカが子どもたちの将来を案じていたように子ども達もまた、チカの身を案じていたのだ。


いつも生活のために盗みをしてくれているチカが怪我無く帰ってくるようにと願い、できるだけチカの負担が少なくなるようにとできる限りの手伝いをしていた今までも、皆チカのことが大好きだから何より大切だからそうしていたのだ。


「いーよー!だいじょーぶだよ!」


「そーだ!チカ姉がそう言うなら大丈夫!」


恐らく六人の中でも特に年長なのであろう二人がそう返事をすると他の四人の子ども達も口々に肯定の言葉を出す。


そして皆の気持ちが揃ったとき、バルドが口を開いた。


「それじゃあ夜になる前にルークさんに話をしに行きましょうか」


「あ、俺が取り次ぎます!」


「え、今から行くのか?そーいうのってなんかあぽめんと?取んなきゃいけないじゃねェの?」


チカの言葉にバルドはふふん、などと言いながら胸を張る。


「実はもう話は通してあるんですよ!仕事のできるバルドさんですからね!特に問題がなさそうなら今から向かいたいんですが、大丈夫そうですか?」


「お外行くの?ちょっと待ってね!マント取ってくる!」


「俺も俺も!」


「わーい!マント出すぞ~!」


バルドの言葉に子どもたちはマントを取りに奥の部屋まで駆け出していく。


その楽しそうな様子にチカは苦笑しながらも自身も用意を始めた。


◇◆◇


外の世界への興味で瞳を輝かせる子どもたちを引率しながらリン達はリンの育った東ラベライト孤児院へと向った。


新しく入ってきたモドキの子どもたちに孤児院の子どもたちもソワソワとしながら遠目でリン達を覗き見ている。


「いらっしゃい。君たちがモドキの子どもたちだね?」


優しげな物腰の初老の男が孤児院の子どもたちの背後から現れた。


「院長!」


「ああ、リン。おかえりなさい」


それはモドキであるリンを拾いこの年まで育て上げた東ラベライト孤児院の院長であり、光星(こうせい)教会の大神官の一人でもあるルークだった。


マントを纏いモドキとしての特徴を隠している子どもたちの前で膝を折り目線を合わせたルークは自己紹介を始める。


「私はこの東ラベライト孤児院の院長のルークだ。私が君たちを責任を持って保護しよう」


「ホゴー?」


「守るってことだよ!」


「あぁそうだよ。そして、君がチカさんかな?」


突然名を呼ばれたチカは驚く。


それもそうだろう。なぜならチカは今の今までリンにもバルドにも名前を教えた覚えは無いからだ。名前も教えていないというのによくも今まで仲良くできていたとは思うものだが。


そして驚いた様子のチカを置いたままルークは頬を緩めながら話を進めていく。


「君はベイドが育てていた子だろう?よく今日まで生きていてくれたね」


優しげなルークの微笑みには反し、チカの頭は混乱で埋め尽くされ眉をひそめている。


《ベイド》


その名はチカの育ての親の名前だった。


蛇のような鱗に瞳孔、そして舌を持ち、毒を操る魔法を持ったモドキ。


分かりやすい人外的特徴を持っており、そして毒を扱うことの出来る存在だったが故にドヤ街でも嫌われ者だった。しかし本人は同じモドキであるチカに対しては誰よりも優しくてカッコよくて、生き方を教えてくれた何よりも大切な恩人だった。


そんなベイドも2年前に死んでしまったが。


「私とベイドは友人だったんだ。お互いの考えの相違や立場的な問題でここ数年はあまり会うこともなかったが、2年前に会ったときに頼まれたんだよ。『もし娘が困ってたらお前が助けてやってくれ』ってね」


ルークはその時のベイドの様子を思い出していた。恐らくベイド本人も自分の死が近いとは悟っていたのだろう。


普段は強気な表情を浮かべるベイドが珍しく眉を潜めていたのをよく覚えている。


目の前にいるチカの今の表情はベイドにそっくりであった。


「友人、ルーク、、そっか、アンタだったんだな。アタシもベイド、いや父さんに言われてたよ。何かあったらルークを頼れって」


そのルークが誰なのかを知ったのは今になってからだったが。ベイドは抜けているところがあったからなぁ、とルークも苦笑いを浮かべて頷く。


「アンタにだったらコイツラのこと任せられるよ。だってベイドの友達なんだからさ」


「あぁ、任されたよ。今から帰ったら遅いし一旦泊まっていきなさい。リン、お前もだよ。最近のリンの話が聞きたいな」


「あ、はい!」


驚きと喜びを混ぜながらリンは返事をした。


その背後では子どもたちが泊まりという言葉に興奮を隠せずまたきゃいきゃいと騒いでいる。


そしてルークの背後にいる孤児院の子どもたちもまた初めて会う子どもたちが泊まるという言葉に興奮していた。


その興奮している孤児院の子どもたちの中から一人が前へと出た。


「ね、ねぇ!あっちで遊ばない?」


羽をマントで隠したモドキの子どもが差し出された手を取り、他のモドキの子どもたちの手も取り駆け出していく。


「チカ姉~!!遊んでくるね!」


「お、おう?怪我させんなよ!」


「もっちろん!」


「いってくるね~!」


「何して遊ぶ?」


「わ~羽生えてる!かっけぇ!」


「だろ?チョーイケてんだ!」


わいわいと騒ぎながら子どもたちは駆け出している。


その様子を横目にリンはルークとともにチカたちの宿泊の準備を始めた。


夜も更け子どもたちも眠りについた頃、リンは院長室でルークとともに話をしていた。


今日までの聖女との旅のこと、戦ってきた話、そして己の《月の魔法》。


興奮した様子で話すリンをルークは嬉しそうに笑顔を浮かべて相槌を打っていた。


王都の外に出ることが多く泊まり込みの仕事もよく行っているため孤児院に帰る日も少なかったし、帰ってきても遅かったりと会話するタイミングが無かったのだ。


それが故にリンの口はよく回っていた。


どちらかと言うとリンはあまりコミュニケーションが上手いタイプでは無いのでここまで話すのは本当に珍しい方であった。


「良かったな、リン」


「え?」


「お前がそんな風に笑って話せるようになったことが私は嬉しいんだよ」


「それは、聖女様のお陰ですよ。あの人がいなかったら俺はここまで笑っていられなかったから」


その言葉にルークはそうか、とただ一言ぽつりと溢した。


「あぁ、聖女様と言えばだ、」


「聖女様が?」


「明日新しいパーティーメンバーを連れてくると言付けされていたんだ。伝えるのが遅れた。すまないな」


「い、いえいえ!謝らないでください!院長は仕事が多いのは知っているので!、、、新しい、パーティーメンバー?」


一瞬考えて、新しいパーティーメンバーという言葉にリンの頭はまた止まってしまった。


同時に止まった思考の中でそういえば何も相談もせずにチカをメンバーに入れることを決めてしまったということも思い出していた。

残り数話で一部は完結予定です。

主人公のクセにいつもリンの影が薄い気がしますが気の所為だということにしましょう。

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