10話
そんなこんなで3人は混乱の最中に居たがどうにかチカから事情を聞き出していた。
座り込んだままぽつりとチカは話し出す。
「あのハゲから財布盗んだのはアタシだよ。今は今日のメシ買いに行く途中で、それでソイツに掴まったってワケ」
「盗むのは犯罪だってのは分かってるよね?」
「そうしないと生きてけねェ」
「でも、「お前に何が分かんだよッ!」うぉ、」
リンの首元を掴み無理やり顔を寄せる。怒りと憎しみを孕んだ表情で捲し立てるようにチカは叫ぶ。
「アタシのコレを見てみろよ!人間にはねェ尻尾がついてんだ!アタシはモドキなんだよ!」
ちらりとマントの裾からお世辞にも毛艶が良いとは言えない大きい尻尾が見える。
人間にはない動物的特徴。それはモドキである証であった。
「アタシ達みてェなモドキは明日のメシどころか今日のメシにすらありつけねェんだ!こんな、盗みでもしないと、、グス。学もねェし、捨て子だから働くこともできねェ。生けてけねェんだよ、、、」
それは魂からの叫びだった。チカは涙を堪えつつリンを睨みつける。
そんな様子のチカにバルドが口を開こうとしたのをリンが手で静止した。
リンは己の左目を覆っている包帯をスルスルと外していく。
そこに現れたのは満月の色をした瞳。しかしその瞳孔は縦に細長く伸びており、まるで蛇等の爬虫類の瞳孔のようであった。
「俺の目を見ろ、爬虫類の目だ。君と同じモドキ。俺は周りの人に助けられて生きてた。モドキとしては恵まれた生活を送ってきた自覚がある。君を救えるとは言えない。だけど、明日のご飯くらいは気にしないような生活を送らせてあげることはできるかもしれない」
「は、、、?」
「俺と一緒に、魔王を倒す旅に出ないか?」
リンの言葉にチカは驚愕を隠せずに大きく目を見開いていた。その様子はリンが最初の日、エルに魔王討伐の旅に誘われたあの日のようだ。
「マオウ、トウバツ、、?いや、おまえ、なにいってんだよ?そんなだって、、」
いつものリンのように否定の言葉を吐き出しそうになるチカの様子にリンは更に畳み掛けるように言葉を紡ぐ。
「俺も聖女様に選んでもらったんだ。君のその魔法?でいいのかな。凄い力だと思うんだ。その力があったらほら、魔物とかと戦うときとか巻き込まれた一般人とかを隠せるし、それに君の足音とか気配を消して動く技術も凄かった!だから、俺と一緒に旅に、出てくれないか?」
その言葉にチカは自分の力を、技術を褒められた嬉しさと訳の分からないことへの恐怖で逃げ腰になってしまう。言いづらそうにリンたちの顔から目を逸らしたままにチカは口を開く。
「で、でも、アタシ、他のまだ小さいモドキのガキ共とも暮らしてて、そいつら置いてけないし。ア、アタシが居なくなったらあいつら生きてけない」
「それに関しては私におまかせあれってんですよ!」
今まで空気よりも薄い存在感だったバルドがピンと手を伸ばして発言し始めた。
「実は最近ですね、第一王女様の政策でモドキの子どもたち専用の孤児院を作ろうって話があるんですよ~。でもモドキの子どももそこまで表に出てる子がいるわけじゃない。わかりますよね?」
「生まれてすぐ捨てられたり、殺されたりする、から?」
チカのその言葉にバルドは満足げに頷く。
「大正解ですチカさん!それ以外にもまず人間を信用してくれてないから名乗り出てくれないのもありますね。一応第一王女様は周りの女中とかはモドキを優先的に採用してたりとかはしてますけど。ま、そんなの関係ないですよねぇ」
にぱにぱと笑いつつ、身振り手振りを入れながらチカを説得していく。
「で・す・が、そのモドキ専用の孤児院は国営として作られますし、何より他国にも話は広がっているので衣食住に関しては安心しても問題ないはずです。流石にモドキ保護を掲げてて虐待してたら話しになんないですし、教会も今までの孤児院のノウハウを教えるという体で監視もします!そこに私が保護したってことにしてその子達を連れて行くんです!どうですか?」
話す話す話す。恐ろしいくらいにバルドの口は回っていた。バルドの恐ろしさは尤もらしい事をありえないくらいに回る口で捲し立てることだとリンは思っている。その凄まじさは身を持って知っていた。
しかしチカが次に放った言葉は肯定でも否定でもない言葉だった。
「えと、、、いや、あの、お前、だれ?」
「、、、、、スゥー。全人類に愛される大天才吟遊詩人のバルドさんです!バルドお姉ちゃんって呼んでくれても構いませんよ????」
「あー、自称吟遊詩人のバルドさんだよ。凄い胡散臭いし嘘しかつかないけど、信用しても大丈夫だと思う。たぶん」
「自称って何ですか?!自称じゃないですよ!しかもたぶんって!リンさんいつも私の扱い雑ですよね!酷くないですか?」
わーわーと喚くバルドを横目にチカとリンはヒソヒソと話を続ける。
「ホントーに信用していいのか?コジインの話とか、、」
「あぁ、孤児院の話に関しては嘘じゃないよ。俺も聞いたことあるし、それにノウハウを教えるって話で行く教会の人達は俺が育った孤児院の院長なんだ。大神官も兼任してる」
「ダイシンカン、、、なんか、スゲー人なんだよな?うーん、、、、」
チカは考え込むように唸る。唸って、悩んで頭を抱えて、そしてパッとリンの方を向いた。
「コジインに行くって話はあいつらに聞いてみなきゃ分かんねェ。話はそっからだ」
「ッああ!よかった。じゃぁまずはその子どもたちのところに「いや、まずはメシから!」」
その言葉にリンはハッとした。財布の件を思い出したからだ。
「ちょ、ちょっとまってくれ。財布、盗んだ財布!返しに行かなきゃ」
「ハァ?返すってなんだよ!もうアタシんだぞ!」
「いやいやいや、盗んだもんはちゃんと返さなきゃだろ?ご飯代は俺が出すから一旦返しに行こう?」
「え~、、、、まぁ出してくれるならいいけどよ」
そんな風に話を進めている二人の会話にまた空気になっていたバルドが首を突っ込んだ。
「それって朝に市場で財布を盗まれたって言ってたハゲのオッサンのことですよね?」
「そ、そうですけどハゲのオッサンっていうの止めません?」
「いや、ハゲはハゲだろ」
「ハゲの話は置いておいてほしいんですけど、」
そして一呼吸置いてバルドは衝撃的な発言をかました。
「あの人今貨幣を偽造したってことでお縄に着いてますよ?」
「「は?」」
「とりあえずその財布の中身も偽造された貨幣じゃないか確認したほうが良いと思いますけど、」
その言葉に素早く財布を取り出したチカは中身を取り出し確認し始めた。じっくりと舐め回すように見るが首を振る。
「ぜんッぜんわかんねェ!」
「ん~、これって本物じゃないんですか?」
同じように財布に何枚か入っていた銀貨を取り出し自分が持っている銀貨とリンも比べてみるが全く違いが分からなかった。
「へへへ~ん。お二人さんに偽物の銀貨の見分け方を教えてあげましょ~!!」
チカはキラキラと瞳を輝かせてバルドの方まで駆け寄る。
「教えてくれ!え、えと、、バルド、お姉ちゃん、?」
「うぐッ、、、破壊力が高いですね。、、ゴホン、それではまず磁石を取り出します。そして近づけてみると、」
カチャリと音を立ててチカが持っていた銀貨が磁石へとくっつく。
そして次にリンが元から持っていた銀貨を借り受け磁石へと近づけるが、それはくっつくことはなかった。
「こんな風にくっつかないのが本物です。他にも熱伝導率が高かったりとか、音が響くとかの判別方法もありますけど、磁石が一番わかり易いですね。アクセとかも本物偽物が判別できるので磁石はあると便利ですよ~」
結果にチカは喜びと絶望を混ぜた表情をしていた。そして分かりやすく落ち込み始めた。
「ア、アタシのシューニューがぁ、、、、、」
「と、とりあえず警衛に持っていこうか」
しょぼくれた様子のチカとバルドお姉ちゃんと呼ばれた喜びで酔っ払いのようにふわふわとしているバルドの手を引いてリン達は警衛の詰所まで向かった。
バルドが出ると会話が弾みますね。




