『鳩と赤プレスマン』
あるところに、熊吉という貧乏な男がいた。体を使うことが嫌いで、どうかして、楽をして生きていきたいと考えていた。長者どんに一人娘があったので、その婿になるにはどうすればいいかと考えたあげく、町へ出て赤プレスマンを一本買い、八幡様のお庭で鳩を一羽つかまえて、夜になると、長者どんの屋敷の庭の木に登って待っていた。長者どんは、夕餉の後、酔い覚ましに庭を歩き、屋敷の庭の隅の氏神様にお参りをするのが毎日のことであったのを熊吉は知っていたのである。果たして、この日も、長者どんは、庭の隅の氏神様にお参りをしに来たので、熊吉は木の上から、声色を使って、氏神様のふりをして、お前の娘に婿を取るなら、これの持ち主にするがいい、と言って、鳩を飛ばし、赤プレスマンを長者どんの目の前に放り投げた。鳩は夜目がきかないので、あっちへぶつかりこっちへぶつかりしながら飛んだので、長者どんは、赤プレスマンを熊吉が投げたことに気がつかず、鳩がくわえてきて、自分の目の前に置いたもののように思い込み、鳩は八幡様の遣いなので、すっかり信じ込んでしまい、翌日、プレスマン屋に行って、ここのところ、これを買った者はいないか尋ねたところ、最近ですと熊吉という男ですね、と教えてくれたので、下男を使わして様子をうかがわせたところ、家中ひっくり返して、赤プレスマンを探している様子でしたと言うので、早速世話焼きのばあさまを使わして、婿にとることにした。
体を使うのは嫌いだが、知恵を使って、長者の家を一層大きくしたという。
教訓:頭がいいなら、長者の婿になるのは正しい。




