リアルフィクション・Xへようこそ!!!!・第二夜
■リアルフィクション・Xにログイン中……ログイン時、現実空間の人物記憶は忘却されます――……■
リアルフィクション・Xにおける忘却記憶類を復元中……――
★☆――おかえりなさい、【てんどう たつひこ】様。――☆★
リアルフィクション・Xへようこそ!
リアルフィクション・Xは、今あなたがいる場所、夢を媒体としてプレイできる、ソーシャルゲームです。
以下の項目をよくご確認のうえ、希望者は【はい】を選択してください。
*注意事項
・リアルフィクション・Xには残酷描写が含まれます。
・リアルフィクション・Xは状況により、心身に重大な負荷がかかる場合が予測されます。
・参加表明はそのことで起こり得る、如何なる危険に了承を示したものと判断されます。
・リアルフィクション・Xは、現実世界では望めない、退屈無縁の夢のようなな体験をお約束いたします!
リアルフィクション・Xに参加しますか?
【はい】
【いいえ】
▽【はい】
プレイヤーネーム【てんどう たつひこ】様、今日もリアルフィクション・Xの世界を、心ゆくまでお楽しみください!
――――【対戦playerを探しています】……
☆――対戦playerが見つかりました――☆
対戦相手――【かのう むらさきこ】
playerランク・閲覧不可
レディー――……?
リアルフィクション・X、GO!!!!!
◇
「かのう? かのう むらさきこ?」
呟いていた時には、俺は【病院】の廊下に立っていた。
総合病院だ。無人の小さな窓口、『リウマチ科はこちら』といった案内看板が掲示され、足元には順路を示すシールの案内線が引かれている。病院内は煌々と蛍光灯が照っている。
どうにも夢とは信じがたい、硬質の床の感触を踏みしめながら、慎重に歩く。廊下は単純な作りだが診察室がいくつもあり、入り組んでいる。
「『かのう むらさきこ』って……前回のplayerだよな――」
そんなことを考えていると。
コツ、コツ……と。
足音が、廊下の向こうから、響いてきた。
『CT検査室』と吊り下げ案内板で示された、その方向から……一人の女が、姿を見せる。
――俺は相対の時点で、緊張状態に、臨戦態勢に、入れなかった。
また夢見た超現実的に、未だ、戸惑いを抱いていたこと。
そして、playerネームが前回と同じであった奇妙。
そこに意識を取られて――初回に説明された絶対の定石へ、不覚、考えが至らなかったのだ。
俺は未だ『X』をコールしていなかった。
「――【|一目でこれは奇遇だと分かるでしょう?だから優れたストーリー性なんです《ダブルダブル・オーアイ・フェイトフルエンカウンター》】オン。運命の出会い、その奇跡の熱よ猛り燃え盛れ」
かのう むらさきこが声にすると、彼女の手に二振りの長剣が、そして俺の手に、いつの間にか、中心部が空洞になっている盾が握られていた。
「――――てぇーんどーぅくーん。また……あーそびぃーましょぉー――!!」
「――『X』ッッ」
【『情念の再起』――かつて存在した情念を武器の形で――――】
『X』能力の開示が終わる前に、『かのう むらさきこ』の双剣が迫る!
盾の側面でガードする――! ――が、女の剣は不器用な捌き方で、宙で停止して……双剣とも、両盾の、穴部分へ刺突してきた。
盾を離す。同時にしゃがもうとした――けれど!!
盾が――手から、離れない――ッッ!
盾の穴を通す形で双剣が刺突される。彼女からして左の剣が、手放せなかった右盾の穴を貫き、――肩上、右辺の宙を突いた。
そして逆手の剣が盾穴を通して、俺の肩を、刃先が捉えた。
「セェーッックス!! 運命邂逅、愛が導いたこの世の真実的、セッックス!!!!」
左肩から、正体不明の熱源が膨れ上がる感覚があった。
そして。
熱の可視光が輝け、俺の、体は……粉々、粒子も残さないような粉々で、……消失した――――。
◇
****残念……。****
敗北です…………。
『【|一目でこれは奇遇だと分かるでしょう?だから優れたストーリー性なんです《ダブルダブル・オーアイ・フェイトフルエンカウンター》】――自身に双剣を、相手に中央部が空洞の盾を付与する。相手の両盾穴に二つの剣を突き刺した状態で、相手の肉体に刃先が接触すると、勝利条件が発効される。出現した武器は両者とも、手放せない』
まことに残念でございました……。
さて、【てんどう たつひこ】様の勝利ポイントは現在【1】となっております。
敗北に伴い、勝利ポイントは剥奪されますが……剥奪前のセッションにおいて、ポイント数を投じて、お一つの特典を得ることも可能です。
ポイント交換を行いますか?
【はい】
【いいえ】
▽【はい】
では、取得可能なポイント数をご確認のうえ、特典をご選択ください!
【1P】
①直前対戦playerとの対戦拒否(永続権限)
【2P】
①特定ゲームの記憶を忘却する
②対戦playerランクの開示(初回のみ自動開示、永続権限、一度のみ取得可能)
③ゲームサイドへのご意見
【3P】
①直前対戦playerと次回再戦する(同playerに対し一度のみ)
②勝利ポイント交換で得られる特典を開示(一度のみ取得可能)
③直前取得した【X】能力を次回も使用
④希望された小道具を恒常装備として取得(脅威度により制限アリ)
【4P】
①playerコスチュームの創造
【5P】
①playerスキンの変更
②高ランクplayerとの優先戦闘権を取得(一度のみ取得可能)
③剥奪前セッションにおけるポイント交換特典の追加(一度のみ取得可能)
【0P】
①なにも選ばない
②退会する
【0P】
▽①なにも選ばない
――――(電子音)♪
直前対戦playerから招待が掛かりました!
リアルフィクションが創造されます――――……
◇
「――――イエーイ。V。VVVVV!」
瞼を開くと、『かのう むらさきこ』が俺の目の前で、笑顔でVサインを見せつけまくっていた。
その燦然とした笑顔は、無邪気で、なんだかイラッとはこなかった。
「Vーーー。イエーイ、超勝利!!」
病院の一室、――どこぞの診断室で、彼女は跳ね回って、喜びを露わにしていた。
部屋脇に備え付けられたベッドに座っていた俺は、動きに制限がかかっているようで、ほとんど体が動かせなかった。
「――無事、なのか……?」
「あ、特殊勝利条件の発効演出は、精神影響が無いみたいだから、そこは心配しなくていいよぉ。――フ、今日も、他に聞きたいことはある?」
「……勝利数が【3】に届いているのに、勝利報酬を交換していなかったのは……敗北シークエンスで【1ポイント】と交換できる、①直前対戦playerとの対戦拒否を使用可能にしておくためか」
「そうね、それが定石。×××××貯めておくパターンもあるけど、『基本的に1ポイントは手元に残しておく』は基本ね」
「(3ポイント以降の勝利報酬のために――か?) 一部、音が遠のいたように聞こえなかったな」
「開示前の一部情報には規制がかかってるから。――それより」
そして彼女は、またしても俺の前にVサインを付き付けまくった。
「V。VVVVVV。――今回は、私の勝ォ利ー!」
……肩を竦めると、彼女はまた跳ね回ってはしゃぎ回った。
そうしているうちに……視界が、遠のいていった。
◇
――今回はまことに残念でございました。
【てんどう たつひこ】様の、現在の【勝利数カウント】は【0】です!
さて、【てんどう たつひこ】様、次なるリアルフィクション・Xゲームもまた、心ゆくまでお楽しみくださいませ!
☆★――☆シーユーネクストタイム!☆――★☆
ログアウトにあたってのご説明。
・目覚めるにあたってplayerネーム、人物容姿の詳細部分にあたる記憶、リアルフィクション・Xの固有名詞、ゲームルールは忘却されます。
・上記はログイン時に記憶復帰されます。
・目覚めるにあたって【X】能力の内容は忘却されます。この処理は、次回以降のログイン時にも記憶復帰されません。
▽ログアウト
……――――。