【前編】恋人の安楽死
皆さんは安楽死をどう思いますか?
私の生まれた国日本では2024年現在、人の安楽死も尊厳死も認められていません。教育でも触れられるようになるほど注目が集まってきている安楽死や尊厳死、これから世界各国も含めて、どのように変化していくのか楽しみですね。
そして、そんな中ある異世界の国では安楽死・尊厳死が認められているそうです。
今回はその国で生まれた安楽死希望者の少年の話です。
※誤字脱字がありましたら、すいません。また、良かった点・改善すべき点等がありましたら、教えてくださると幸いです。
その国では条件によっては安楽死が認められた。
安楽死の法律には大雑把に言うとこう書かれている。
一つ、安楽死は定年以上の人に認められる。
一つ、才能ある若者を死なせないこと。
一つ、老人・天才以外のものが安楽死するには以下のことを行うこと。
・子どもをパートナーとともに二人は産むこと。また、パートナーは死にたいもの同士で組ませることにする。なお、組みたい相手がいない場合は遺伝子の組み合わせの良い者同士で出産をすること。
・二年間、皆がやりたがらない下働きをすること。
などとあった。
僕も申請をしてみた。しかし、無理だった。対象外だと捉えられたからだ。
「どうして、僕は駄目なんですか?」
そう聞くと、調査官は言う。
「あなたには才能があるからです。」
「……僕には才能はありません、実際どのテストの点数も微妙だったではありませんか……!」
「いえ、あります。私たちは国民の生活を幼い頃から見守っているのですよ、間違えるわけはありません。」
「……っ!」
僕はそれでも納得がいかなかった。絶対に死なないといけないのに……、僕は彼女と一緒に死のうって約束をした、これじゃあ守れないじゃないか……。
そう思いながら彼女に会いに行く。トボトボと歩いていると彼女は僕の存在に気づき、元気よく声を掛ける。
「こんにちは、……安楽死は認められた?」
華やかな彼女を見た僕は、最初言葉を詰まらせ何も言えなかった。
「あら?まだ結果が届いていないのかしら?」
「……ち、違うんだ」
「どういうこと?」
僕は正直に彼女に打ち明けた。
「認められなかったんだ、安楽死」
すると、彼女は驚いた表情をし、悲しそうにポツリと答えた。
「……そう」
「約束守れなくってごめん……」
「……大丈夫よ」
そう首を振って答えた。
それから彼女とよく遊びに出かけた。それと同時に、僕は優秀な頭を使って研究をはじめた。彼女も働きに出して、遺伝子の一番組み合わせのいい安楽死希望者と子どもを作った。彼女は産んだ子どもを僕にも見せてくれた。可愛い赤ちゃんだった。
「安楽死希望者だけど、子どもを作るなら貴方とが良かったわ」
僕だってそうだ。無責任だけど子どもをつくるなら僕が父親が良かった。そう何処にもやれない感情を心の底に閉まった。
ある日、彼女が言った。
「私そろそろ死ぬの」
僕はどうしていいかわからない、何とも言えない感情を抑えて言った。
「そうだね……」
いつの間にか、彼女の安楽死までの期間はあと2ヶ月ほどだった。
「私死にたいわけじゃないと思うの」
僕は内心驚いた。僕は彼女に心中を頼まれたから死のうとしただけで、誘った彼女までもが死にたいわけじゃなかったことを知ったからだ。
「……そうだったのかい?」
「ええ、"死にたい"わけじゃないの、ただこの選択が一番だと思ったの」
「???」
それは結局は死にたいと同義なのでは?と思いつつ、彼女の言葉の意味をよく考える。
「フフッいつか貴方にも私の気持ちが理解できる日がくるわ、だって貴方はとっても賢いもの」
彼女は白い息を吐き、瞬きをして、髪を耳にかけると話を続ける。
「……私貴方のこと本当に愛しているわ、できるなら貴方とずっと一緒にいたかった」
僕は目を見開いた。感情がぐちゃぐちゃで、視界は歪んでいた。その時わかったのは、彼女はとても美しく、僕はそんな彼女が大好きだということだった。
「僕もだよ、僕も君ともっとずっと一緒にいたかった、……愛してるよ」
「泣かないで……、まだ時間はあるわ、それまで二人で一緒にいましょう?」
「ああ」
それからいつも通り毎日会った。沢山話したり、映画を見にったり、遊園地に行ったり、外で食事をしたり、残り少ない日程で旅行も行った。
そして、とうとう彼女の安楽死の決行日がやってきた。死が間近な彼女は朝から何一つ変わらず、おはようと言って朝食を口にした。そして、そのまま病院に向かうのであった。
「そろそろだね……」
「そうね」
「怖くないのかい?」
「望んでいたんだもの、怖くないわ」
「……僕は」
僕は怖い、そう言いかけてやめた。それを言うことは彼女にとって失礼だと思ったからだ。
「なぁに?」
「んーん、なんでもないさ」
それから彼女は数個の質問を投げかけた。
「そう、…………ねぇ、貴方は今悲しい?」
僕はゆっくり考えてから答えた。
「当たり前のこと聞くなよ、悲しいよ」
「私と過ごした時間楽しかった?」
「とっても楽しかったさ」
「私のこと愛してた?」
「愛してる」
「これからも愛してる?」
「勿論、愛してる」
「そう、なら良かったわ」
看護師から彼女の名前が出た。もう、行く時間なのだろう。
「これ手紙、私が死んでから読んで。」
そう分厚い手紙を渡し、立ち上がる彼女。本当は彼女の腕にしがみつきたかった。しかし、それは死ぬためにやったことや死ぬために捨てたものが無駄になってしまう可能性があるから、悔しいけどやめた。涙を堪えていると彼女はヒールの音をコンコンと出しながら振り返り言う。
「私も愛してるわ、さようなら」
これが最後に彼女が僕に言った言葉だった。
「……、ああさようならだ、また何処かで会えたら会おう」
彼女はそれに苦笑いで返し、そのまま僕の目の前から消えてしまった。
数分後、医師から彼女の死を告げられた。彼女の死体はまだ血色も良く、ただ眠っているように見えた。
「……」
帰って早々に僕は手紙をカッターで綺麗に開けた。
何枚も入っている紙。冒頭はこのように書かれていた。
愛しい、貴方へ
これを読む頃にはもう私は死んでいるでしょう。ここには私が貴方に思っていたこと、面と向かって伝えられなかったことなどを書こうと思います。沢山ありますが、最後まで読んでくれると嬉しいです。
最初の数十枚くらいは僕との思い出やその時思っていたこと、自分の産んだ子どものことなんかなども綴られていた。僕も一緒に思い出を振り返ると涙と笑顔どちらも出ては消えた。
そして、一時間ほど経つと最後の手紙に辿り着いた。そこには僕が知り得なかった、彼女の沢山の感情が乗っていた。
私は貴方のことを愛しています。貴方と付き合えたとき、私は本当に嬉しく、今でも鮮明にその瞬間を思い出すことができます。
私は貴方のことを愛しています。だからこそ、死にたくなりました。
貴方は私を素敵だと愛しているとよく言ってくださいました。
しかし、私は自分に自信がなく、すぐにでも気持ちが離れていってしまうかもしれない、他の方を魅力的に思ってしまうかもしれないと、毎日、毎日不安で怖かったです。
貴方がそんな人ではないことは重々承知しています。しかし、それでも怖かったのです。
そんな中で私は最悪なことを思いついてしまいました。
早く一緒に死んでしまえば一生好き合った状態で終われると。
だから、私は貴方に一緒に安楽死することを提案しました。貴方が快くこの提案を受け入れたときは、嬉しかったです。けれども、同時に小さく靄がかった得体の知れない気持ちがありました。そんな気持ちを残しつつ、安楽死の話は進みました。そうして、診断の結果が届きました。
それまで私はこれでもう一生貴方と一緒だと思いドキドキしていました。だから、貴方が不可と判断されたことを知ったときはとても動揺しました。どうしよう?このままじゃ彼と一緒に死ねないわ、安楽死をやめようかしら……って。
でも、そこで気がつきました。こんなことを考えているのは私だけで彼まで巻き込んで良かったのか?と、モヤモヤの正体はこれでした。本当は貴方には生きてほしいと、このような考えを持った私だけが消えた方がいいと。
だから、私は生きる選択肢があったにも関わらず、一人で死ぬことを選択しました。それに、こうすれば私の中では一生貴方と愛し合ったということになりますから。
貴方は私のこんな醜い感情を知らなかったでしょう?でも私はそんな人間です。自信が無くって、怖がりで、自分のために好きな人でも死に勧誘できてしまう、そんな人間です。
こんなこと言いましたが、私だって自信があったら貴方とともにもっと生きたかったです。でも、それは空に書いた偶像に過ぎず、そうなることはありません。
もし来世があるなら、私はもっと自信を持ってるようになっていて、広い世界を見れるようになりますように。
もし来世があるなら、私は次は貴方に会いませんように。
愛しているわ、さようなら。
そうして、手紙は終わった。
そうか、僕は彼女にとって大切な存在であったが故に重りになってしまっていたのか。
……僕にできたことがあったのだろうか?
「もし来世があるなら、私は次は貴方に会いませんように……か。……最後に掛ける言葉間違えちゃったね」
安楽死があることで、良くも悪くも誰もが楽に死ねるようになった。また、死ぬことが合法化された。自身が選択したら、相手の気持ちを考慮し、誰にも止められない。
僕は彼女に生きてほしかった。
愛してる、さようなら。
安楽死があることで、誰もが楽に死ねるようになった。また、死ぬことが合法化された。それが彼女の選択の幅を広げてしまったのかもしれません。
安楽死はとても素敵ですが、どうなんだろうという疑問が自分にはあるのでこの物語を通して自分も何か知れたらいいですね。