出会った2人
「はあ~……客こねえなぁ……」
子供の頃から呪いについてひたすら勉強し続け早10年。
念願だった自分の店<呪屋>を開いたはいいが、てんで客が来ない。魔法やスキルを使って闘う今の世の中では誰も呪いなんてものに頼ろうとはしない。やっとの思いでかき集めた店を開くための資金もそう多くはなく、ボロい外装に場所は街外れ。
こんな不気味な店に来てくれる人は当然少なく今の俺はとてつもなく財政難であった。
「マジでどうすっかなぁ……」
どうにもならない無力感に苛まれる。
また借金をしてもっといい外装にするべきか、もっと大通りに店を移すか。いやでも借金を膨らませたらもっと稼がなくてはならんぞ。そんなよくない負の連鎖を考えていたら声をかけられる。
「あの〜…すみません。」
「いらっしゃい!」
久しぶりの客だ。二十歳くらいの女性で安そうな防具をしている。駆け出しの冒険者だろうか。金はあまり持って無さそうだか今の俺には客が来るってだけで感謝だ。
……いやまて。
そんなことよりツッコまないといけないことがある。
「あんた、ここよりも先に治療所に行った方がよくないか。」
そう、何を隠そう彼女は頭から大量の血を出していたのだ。
「あ、すみません。血を拭くの忘れてました!ご心配いただきありがとうございます。でも、大丈夫です。もう治ってるので!」
え〜……とても治ってるように見えないんだが……
そして彼女は頭から流れる血を拭きながら話す。
「それよりも、私呪いに興味があるんです。」
かなり変な奴ではあるがちゃんと客ではあるらしい。
滅多に来ない客だ。ここはしっかりと呪いの良さを説明して常連客になってもらおう。そうしないと俺に明日は無いぞ。そう意気込み俺は彼女に説明を始める。
「ここは主に呪具を売っている店だ。ここにある武器はすべてにそれぞれ呪いがかかってる。」
「呪いってのはホントに凄くてな。そのほとんどは何かを代償にすることで何かを引き伸ばすことができる。」
「当人には本来発揮することが出来ない力を代償を糧にして引き出すことができるんだ。」
彼女は、ほぉ〜と興味深そうに目を輝かせている。
ふむ、とても良い気分だ。この調子でもっと呪いの良さを知ってもらおう。
「歴代人類で最強と謳われている勇者〈ゼインバルク〉は当然知っているよな。」
うん、と彼女は頷く。
「これは俺の信頼する人から聞いた話なんだが彼が装備している武器は呪具らしい。周りには聖剣と嘘を言っているが本物の聖剣はもうこの世にないらしく、世間を不安にさせないよう同等の能力を引き出せる呪具を使ってるんだとか。」
「呪いって凄いんですね!私、呪具買います!」
彼女は生き生きと言った。
俺の話を微塵も疑わず信じている。実際に本当の話ではあるが。この子詐欺とかにすぐ引っかかりそうだな...
「私、攻撃の決めてがなくていつも負けちゃうんです...」
「なので物凄い攻撃力を持ったものが欲しいんです。」
頭から大量出血していたところを見る限り防御力もなさそうと思ったが口には出さなかった。
なるほど攻撃特化か。この子はあまり戦闘センスも高くなさそうだから、この組み合わせがいいだろう。
【飛翔鎌】
刃渡り1メートル程の鎌に必中の呪いをかけたもの。
【命の小盾】
絶対防御の呪いをかけた小盾。使用者の全ての魔力を強制使用しどんな攻撃も防ぐ。1度使用すると壊れる。
「こいつらは自信作だ。まず飛翔鎌だが刃自体の切れ味を研磨により最高に仕上げてある。そして必中の呪いによって投げたら相手の喉元に必ず命中する。戦闘の技術がなくても投げる腕力さえあれば相手の首をスパッと切り落とせるわけだ。だが当然代償があって投げたら―――」
説明をしていた最中、頭上で物凄い音がした。
かなり近くで音がしたな。衝撃も凄かった。まるでうちの店が破壊されたような。まさかなー。まさかいやそんな訳ないね。恐る恐る上を見あげると俺の店にあるはずの天井が無くなっていた。
ウワーソラガキレイダナー
...じゃない、何が起きた。辺りを見るとトカゲのような見た目に両翼が着いた魔物、ワイバーンが飛んでいた。アイツか。俺の店を破壊したのは。許さん、俺になんの恨みがあるっていうんだ。絶対にぶっ倒してやる。
「お客さん、俺がなんとかするから隠れてて―――」
ってあれ、どこにいった?
「呪具屋さん、緊急事態です。この武器使わせて貰いますね。代金は後で支払います。」
そう言って彼女はいつの間にか店の外にいた。そして手には飛翔鎌を持っている。
まずい、まだ説明が終わってない。
そんな俺の焦りには目もくれず彼女はてりゃっと情けない声を上げながらワイバーンに向かって投げつける。
飛翔鎌は放物線を描くよう飛んでいきワイバーンの喉元を切り裂く。図体が大きいため首を完全に切断とはいかないものの死に至るには十分なダメージを与え、ワイバーンはその場に落下する。
さすが俺の作った呪具。
いや自画自賛している場合じゃない。問題はこの先。
さっき説明出来なかったこの武器の代償は必中効果が武器を使用した本人にも発動するというものだ。
そう、この武器は使用者の喉元にも必中してしまう。
本来この武器は投げた後に絶対防御である命の小盾を使い全力で防御に専念しなければならないのだ。
そんなことはつゆ知らず、「私、初めて魔物倒せたっ!」と1人で喜んでいる。
まずい、命の小盾を渡そうにも鎌が戻ってくるまでに間に合わない。
「おい!避けろ!その武器は自分にも攻撃が返ってくる!!」
俺は彼女に近づきそう叫んだが、次の瞬間にはザクッと鈍い音がした。
飛翔鎌は彼女の喉元を通過し地面に突き刺さる。そして、彼女の体から頭のみが地面に転げ落ちた。俺は目の前の光景に絶望し膝から崩れ落ちる。やってしまった。俺がもっと早く説明していればこんなことにはならなかった。
「ごめんなさい…俺のせいで―――」
自首を決意し彼女に懺悔したその時
「あの〜、すみません。私は大丈夫なのでもしよろしければこの頭と胴体くっつけてもらえないでしょうか。」
……え?
生首が喋った。
「私...死なないんです。」
これが、俺と彼女の出会いだった